しばふ村より   作:Y.E.H

18 / 59
【第二章・第十節】

 それからの一週間は、まるで時の流れを早送りにしたかのように過ぎていった。

 

 早朝に目覚めた隼太は、長い時間自室の窓からずっと外を眺めていた。

それから制服に着替えると、特にそう意識したわけではないが無言で家族と朝食を囲む。

母や兄、義姉は彼の心中を慮って他愛のない話をしてくれていたが、浪江だけは何度となく彼の顔をちらちらとみては何か言いたげにしながらも、結局は最後まで何も言い出さずに黙っていた。

そしていよいよ出かけようというその時、玄関口で靴に足を通した彼の前に父と母が現れる。

「隼太、気ぃ付げてげ」

「うん」

母の言葉に頷いた彼にさらに父が声を掛ける。

「えが、うるでで困らねぁよに伝えねばなんねごどは用意しどげ、わがったな」

「うん」

もちろん彼は何を言うべきなのかずっと考え続けていたが、正直に言ってまだ言葉に纏める事が出来ずにいた。

何が本当に最善のことなのか迷い続けていたのだ。

父の言葉を反芻しながら自転車に跨ろうとした彼のもとに、浪江が駆け寄ってくる。

「あんちゃん!」

「どした浪江」

「あんちゃんは穂波見送りにぐのが?」

「んだ」

「穂波に――穂波になんで言う?」

 

浪江の目は妙に真剣だった。

少し穏やかな気持ちになった隼太は、とても正直な応えを返す。

 

「まだはっきり決めでね、迷ってる」

「そか――そか――んだったら、何言っだか教えでけろ!」

「わがった、教えでやる」

そう言って彼女の頭を撫でると、サッとペダルに足をかけて勢いよく漕ぎ始める。

 

「約束だぞ!」

背中を追いかけてくる浪江の声は、なぜか湿っている様な気がした。

 

 駅に着くまでの間、彼の頭の中はぐるぐると回り続けていた。

彼にできることは何か、そしてその中で穂波のために最善の選択は何なのか。

彼女ははっきりこうして欲しいという希望を言ったわけではないが、それでも彼には何となく穂波が望んでいることは感じ取れた。

穂波の希望とは、隼太がこの村に止まって彼女の帰りを何時までも待っていてくれる事なのだろう。

しかし、それは彼が望む最善の選択とはとても言えそうにない。

ただ何もせずに穂波を待ち続けることは出来そうになかったし、彼女の支えや助けになる事が何か出来るはずだという強い気持ちがあった。

穂波の望まないことまで無理矢理にする気はないが、それでも隼太に負担を掛けたくないと思う余りに、言い出すことが出来ない本当の望みがありそうに思えてならない。

 

(俺は――俺は、俺に出来るベストな事がしたいんだ――穂波ちゃんの支えになれる事が……)

 

にもかかわらず、結局明確な結論が出る前に彼は駅前にたどり着いてしまう。

指定の時間にはまだ間があったせいか、駐輪場は満杯にはなっていなかった。

鉄道会社の計らいにより斯波中の生徒達は無料で駅構内に入れて貰えるとのことで、彼も生徒証を提示して改札内に入る。

穂波ら4人とその両親、既に到着していた生徒達、教員の他に見慣れないスーツ姿もちらほら見えるが、その集団から更に少し離れたところには、黒の制服に白い制帽をきちんと身につけた数名の男女が威儀を正して立っていた。

 

(わざわざ迎えに来たんだ――やっぱり特別なんだな)

 

彼らの姿を見て我知らず武者震いの様な衝動が湧いてきた隼太は、何とかそれをぐっと抑え込んで、4人に挨拶をしなければと彼女達に目を戻す。

既にいぶきの周囲には男子達が集まっていたが、笑顔の彼女とは裏腹に両親は何やらやつれた様子で硬い表情だ。

穂波から話し合いの様子を聞いているだけにその心労も頷けると思った彼は、まず最初にいぶきの所に行くことにした。

「こんにちは、敷島隼太です!」

スタスタと両親に近づいてさっと礼をすると、彼らはやはり疲れた様な困った様な態で、

「敷島さん、お見送りありがとうございます」

と言葉少なに応じてくれるので、彼も出来るだけあっさりと、

「吹輪さんのご活躍とご無事をお祈り致します」

とだけ言って再度礼をする。

すると両親が答礼してくれたのはともかく、横で男子達に囲まれていたいぶきが近づいて来て、

「隼太君! 見送りに来てくれたのね、どうもありがとう」

と朗らかに話しかけてくる。

それは何時も学校で見かける姿と全く変わりはないのだが、それでもあの日の彼女の氷の様な表情を鮮明に覚えている彼にとっては、素直に受け入れ難いもののはずだった。

「うん、吹輪さんも健康に気を付けて頑張ってね」

 

(あれっ、俺普通に話してる……)

 

「もうっ! 隼太君⁈ いぶきでいいって言ったでしょ!」

「あ、ごめんねいぶきちゃん、活躍出来るように祈ってるからね!」

「ありがとう! 隼太君も元気でね」

そう言った彼女は自ら隼太の手をとり、ギュッと握りしめてにっこり笑う。

 

(なんでだろう、なんでこんなに何事も無かったみたいに……)

 

やはり彼女は、自身の中の葛藤に答えを求めていただけなのだろうか?

彼のことを本気で横取りしようなどとは全く考えていなかったのではないのか……。

そんな迷路に再び迷い込み掛けたのだが、居並ぶ男子達から投げ掛けられる『なんでお前はそんなにフレンドリーにして貰えるんだ?』と言わんばかりの視線に気付く。

いつまでも躊躇っている場合でもないので、とにかく一通り挨拶していかなければと思いなおして一礼し、その横にいた白石の許に近づくと、彼が両親に挨拶をする前に白石が自ら近づいてきてくれる。

「敷島君、お見送り有難う!」

明るい笑顔でそう言った後、彼女はすっと笑いをおさめると如何にも済まなげな表情になる。

「でも、本当にごめんなさい。敷島君にはとっても辛い結果になってしまって――」

「待ってよ白石さん」

頭を下げる彼女を思わず遮る。

「白石さんのせいでもないし誰かのせいでもないよ。だってこれは話し合って決めた事なんだから」

「――有難う――敷島君はやっぱり優しいのね――わたしに出来ることがあったら言ってね? 出来るだけの事する積もりだから」

「そんなのダメだよ、白石さんはこれから命がけの戦場に行くんだからその事に集中して頑張ってよ、応援してるからね」

そう言って右手を差し出すと、彼女は少しはにかんだ様などことなく恨めし気な様な複雑な表情になり、そっと握手するとほとんど聞き取れない程の小さな声を出す。

「正直言って羨ましい……」

「えっ?」

「ううん、何でもない! 敷島君本当に有難う、わたし精一杯頑張るからね!」

そう明るい声を出す白石を挟み込むように、彼女の両親が前に出てくる。

「敷島隼太さんね? お名前はいつも聞いてます」

と声を掛けてきたのは彼女の母親だ。

「あ、こちらこそ白石さんにはいつも勉強とか教えて貰ってました!」

「ええ、娘がいつも貴方を誉めてましたよ♪」

「ちょっとお父さん⁈」

「でも、本当のことよね♪」

「もう、お母さんまで――」

「あの、応援する位しか出来ないですけど、白石さんのご無事とご活躍、心からお祈りします」

彼がそう言って礼をすると、優し気な両親と顔を赤らめた白石が揃って答礼してくれる。

なんだか妙にホッとした隼太は、隣でスーツ姿の男性と立ち話をしている村越の両親と美空望のもとへと足を運ぶ。

彼が近づくのを見て、両親は立ち話を中断してこちらに笑顔を向けてくれるが、当の村越はそっぽを向いていた。

「ご無沙汰してます。敷島隼太です」

「いいえ、ちゃんと先週も見に来てくれてたのにご無沙汰だなんて」

村の鎮守の神職でもある村越の両親は村内に知己も多く、特に小学校時代の同級生でもある隼太は、村越の母親とは何度も面識がある。

「隼太君、見送り本当にありがとう」

村越の父親は温厚そうな人物であり、祈祷の時に朗々と祝詞を唱える様子と普段の会話に随分ギャップを感じる。

「いえ、応援する位のことしか出来ませんけど、村越さんのご無事をお祈りしてます」

隼太がそう言って頭を下げると、彼は深々と答礼してくれた後、顔を上げて苦笑しながら娘の方に顔を向ける。

「こら、せっかく見送りに来て下さったのにいい加減にしなさい」

そう窘められた村越は、いかにも渋々と言った体で(両親に背中を押されて)隼太の前に出てくる。

「わ、わざわざ来てくれて――ありがと」

「そんな事ないよ、村越さんこそこれから大変だと思うけど頑張ってね、応援してるよ」

「まぁ、程々に頑張るわ」

「うん、それがいいよ、本当に頑張るのは自分達の命を守る時でいいんじゃないかな」

「そうね、そうする事にするわ……」

 

「――あのさ」

「なによ」

「その――神楽、凄く綺麗だったよ……」

「バ、バカ! 何言い出すのよいきなり!」

そう言った村越は、慌てふためく様にくるりと背を向けると両親の間を通り抜けてホームのフェンス際で顔を覆ってしまう。

「あっ、ご、ごめん――その、済みません……」

「いいのよ、本当にありがとうね」

「あ、はい――」

村越の態度とは全く反対に、両親はにこにこしながら礼をしてくれるので、少々きまりの悪さを感じながらも礼を返す。

そして最後に穂波のもとに行こうと向き直ると、ちょうど彼女と話をしていたクラスの女子二人がちらりとこちらを見て、笑顔で場所をあけてくれる。

彼女達に笑顔を返した隼太は改めて穂波とその両親に向かい、まずは型通りの挨拶をする。

「敷島隼太です。父と母からも言付かって参りましたが、穂波さんのご無事を心からお祈り致します」

そう言って頭を下げた彼が顔を上げると穂波の両親と目が合うが、彼女の母親は心なしか瞳を潤ませている様だ。

「隼太君、色々とお気遣いありがとう。こういう結果にはなったけど、これからも娘のことを応援してもらえたら有難いです」

穂波の父はやや線が細く落ち着いた印象の男性で、控えめな物言いながら言葉に誠実さを感じる。

「あ、いえ、もちろんその積もりですし、自分に出来ることはどんなことでもする積もりです」

何をするとはっきり言いきれないのがもどかしいが、それでも今の気持ちを素直にそう口にすると、穂波の母が涙を浮かべて思わず口許を押さえるので、横にいた穂波が

「お母さん――」

と言いかけてその肩に手を伸ばす。

「穂波、いいから隼太君と二人で話をしてきなさい」

穂波の父がそう言って二人を促すので、彼も両親に頭を下げて少し離れて穂波と向き合う。

「穂波ちゃん――」

「お見送り――ありがとうね」

「ううん、でも、お父さんお母さんも心配だね」

「そうなの、昨日からお母さんなんかちょっと……」

「だって、穂波ちゃんが戦争に行っちゃうんだからね――お母さんもしんどいだろうなって思うよ」

「やっぱり、隼太君の言う通りにしておけば良かったのかな……自分の気持ちに正直じゃなかったのかな……」

 

そう言って穂波は俯いてしまうので、彼は思わず手を伸ばして穂波の手を両手で握りしめる。

「穂波ちゃん、もしもたった今間違いに気が付いた、だから訂正したいって思うんだったらね、俺も一緒に言ってあげるよ」

「隼太君――」

「この間も言ったけど、絶対に間違えない事なんてあり得ないよ、だから直したいときは何時でも声を出していいと思うんだ。俺も手伝うからね」

きっぱりとそう言い切った隼太は、まだお互いに特別な存在になる前の姿に戻ってしまった彼女の瞳をひたと見つめる。

しかしそれもほんの僅かな間だけのことで、見る見るうちにその瞳に輝きが戻り始め、握った彼女の手に力が戻り彼の手を握り返してくる。

「ありがとう隼太君、でもやっぱり今はいいの、自分で決めた事だしもう少しだけ頑張ってみるから」

「うん、前にも言ったけど、穂波ちゃんのこと24時間いつでも応援してるからね」

「うん♪」

あのにじみ出る様な笑顔――隼太の大好きなその笑顔を浮かべた穂波の顔が輝いて見える。

 

(俺は支えになれているんだ――穂波ちゃんの支えに――)

 

その時教頭の声が響き、4人とその家族を呼び集めている。

どうやら見送り希望者の集合時間が迫ってきたらしい。

「隼太君、また後でね」

「うん」

軽く手を振って両親のもとにもどる彼女を見送る隼太の背中に、聞きなれない声がかかる。

 

「ねえ、あなた――」

「はい?」

振り返ると、そこに立っていたのは黒の制服に白い制帽姿の女性だった。

言うまでもなく、先程から片隅に控えていた海軍からの迎えと思われる一団の中の一人であり、遠目には若く見えていたが、すぐ近くで見ると少々年齢を感じさせる深みのある瞳が印象的だ。

「あなたは五十田穂波さんの同級生かしら?」

「はい、そうです」

何事だろうかと訝しく思いながらも素直に返事を返すと、その女性は意味ありげにフッと笑みを漏らし、

「ふふ、ごめんなさい、ただの同級生じゃないわよね――彼氏よね」

と言いなおす。

「あ――いえ、その……」

「どうしたの、違うのかしら?」

「いえっ! そうじゃないんですけど――」

「だったら堂々と言った方が良いわ♪ 女の子はね、男の子にそうはっきりと言って欲しいって思ってるものよ?」

「そ、そうなんですか?」

「そうよ、もっとも、あなたの様にちゃんと気遣い出来る様な人ほど、そういう事を躊躇っちゃうみたいだけど」

そう口にして一瞬遠くを見る様な素振りをした女性は、少し容を改めると再び口を開く。

 

「あなたや、ご家族の方々には苦しい決断をして頂くことになってしまって申し訳ないと思ってるわ。でも、私達には一人でも多くの戦う仲間が必要なのも事実なの。だからね、手前勝手なことを言う様だけど、あなたにはどんな形であってもいいから五十田さんやそのお友達の支えになってあげて欲しいの。これから暫くは直接話すこともメッセージの遣り取りも出来なくなるから、無茶なお願いなのは重々承知してるんだけど――」

 

「その積もりです」

 

「――えっ?」

 

「彼女の支えになる積もりです」

 

なぜだろうか、先程までどうするのが最善なのかと迷い続けていた筈なのに、この女性と言葉を交わしていたその僅かな間に胸の中の曇りがスッキリと晴れていた。

その気持ちのままにきっぱりと言い切った隼太を改めて見つめたその女性は、とても優しげな笑顔を浮かべる。

「ありがとう、とっても嬉しいわ。それに――ひょっとしてあたしの言った事をすぐに実行してくれるのかしら?」

「あ、はい、どうする積もりなのか、後ではっきり伝え様と思います」

「そう――そうなのね……ねえ、あなたの名前を教えてくれないかしら?」

「敷島隼太です」

「あたしは横須賀教育隊教育部の斑駒よ、――もしかすると、あなたとは何時かもう一度会う事になるのかも知れないわね」

そう言った斑駒は改めて笑顔になると、彼に対してサッと挙手の礼をしてくれる。

それに応えて一礼した隼太は、踵を返して穂波らのもとへと馳せ戻った。

 

 斯波中の生徒達はほぼ全員が集まっているらしく、この駅のホームにこれほどの人が集まるのを見るのはおそらく初めてだろう。

例によって穂波ら4人とその両親が並んだその横で、校長が激励の弁を振るっているところだった。

それが一頻り終わると今度は校長がスーツ姿の見慣れない男性(老人と言った方が良かったかも知れない)らを次々に紹介するが、それで初めて隼太は自分の村の助役と村議会議長、及び教育長の顔を知ることになった。

もっとも、すぐに忘れてしまったのだが……。

そして彼らの挨拶の後、最後に海軍の代表に挨拶が振られ、それに応じてマイクを握ったのはなんと先程言葉を交わした斑駒だった。

彼女の話の内容はつい今しがた隼太に話してくれた事と基本的に同じだったが、改めて耳にすると校長や助役らの言葉に比べて随分歯切れがよくきびきびとしていることに気が付く。

 

(やっぱり、これが軍隊なんだな)

 

そう思うと、やはり穂波のことが少し心配になってくる。

果たして彼女は、この軍隊の一員となって戦場に出ることが出来るのだろうか?

 

(心配したって仕方がないか、俺が支えるって決めたんだしな!)

 

そう改めて己の決心を確認しなおした隼太は、一通りの挨拶が終わって見送りの生徒達からもみくちゃにされている4人のもとへ近づくべくその人波に割って入る。

いぶき派の男子達が一人ずつ彼女に握手してもらっているのを横目に見ながら穂波に話しかけようとするが、まだ他の女子達が彼女を取り囲んでいるので少しタイミングを計っていると、いぶきとの握手を終えた清次がよせばいいのにまた白石に絡んでいる。

「いよいよお国のために働けるなぁ、でも、なんだかんだ言って弾が飛んで来たら怖くて逃げて帰ってきちまうんじゃねえのかぁ」

「木俣君と話す事なんて何も無いから、放っといてくれるかしら⁈」

「いい加減にしなさいよ、このバカ清次! 少しくらい時と場所を弁えなさいよ!」

先程は思わぬリアクションをして彼を戸惑わせた村越が、すっかり何時もの調子に戻ってまくし立てると、周囲の生徒達からもそうだそうだと声が上がる。

ところがどういう訳か、いつも通りニヤニヤして受け流すと思った隼太の予想を裏切って、彼はニコリともせずにしつこく食い下がる。

「強がってばかりいねえで、怖いときは怖いって言った方がいいぜぇ、だって戦争なんだからよぉ」

とは言っても今更白石がそんな言葉に耳を傾けるはずもなく、何事も無かった様に無視されてしまう。

それでもなお口を開こうとした清次を遮る様に駅のアナウンスが響き渡り、間もなく列車がやって来ることを告げる。

 

「ごめん、話がしたいんだ」

穂波を囲んで別れを惜しんでいる女子達に思い切って声を掛けると、振り返った彼女達はすぐに場所を譲ってくれる。

「それじゃ穂波、元気でね!」

「頑張って!」

口々に別れを告げる彼女達に笑顔を返した穂波だったが、隼太に向き直るとその目にたちまち涙が滲む。

「隼太君……」

 

「穂波ちゃん、どうしても言わなきゃいけない事があるんだ」

「なあに?」

 

すぐに言おうとしたのだが、一瞬言葉に詰まってしまう。

そこで一度深呼吸をして周囲の目も気にせず彼女の手をしっかり握ると、落ち着きが戻って来て再び喋れる様になる。

 

「あのね――俺も一緒に戦うよ」

「えっ⁈」

「高校出てからになるから、何年も先の事になっちゃうけど――でも、俺、海軍にはいるから」

「隼太君――」

 

その時再びアナウンスが入り列車の到着を告げるが、構わず話を続ける。

なにがあろうが、言わなければならない事は今全部伝えるしかない。

 

「海軍に入って、穂波ちゃんと一緒に戦うから――だから、先に行って待ってて欲しいんだ」

 

「――待ってる――待ってるよわたし!」

 

列車がホームに滑り込んでくる。

 

「俺、絶対に穂波ちゃんの許へ行くから、同じ戦場に立って一緒に戦うから!」

 

穂波を除く3人とその両親達が一斉に動き始める。

 

「隼太君が来てくれるの待ってるから! 何時までも待ってるから!」

 

彼女の両親が、気を利かせて荷物だけを先に列車に載せてくれる。

 

「何時までも待たせたりしないよ! 高校出たらすぐに行くから!」

 

列車の扉口に立って頬を紅潮させた穂波が彼を見つめ返す。

 

「約束だよ! 絶対に来てね!」

 

ベルが鳴り響き、シューッと音を立てて扉が閉まる。

 

「約束するから! 絶対に、絶対に行くから!」

 

扉に顔を押し付けた穂波の瞳から涙が零れていた。

 

動き始めた列車を追いかける隼太は、もう一度力一杯に叫ぶ。

 

 

「必ず行くよ! 俺の、俺の命に懸けて誓う!」

 

 

速度を上げた列車が遠ざかっていき、

見送りに集まった生徒達の喧騒が、スーッと引潮の様におさまっていく。

 

にもかかわらず、彼の胸の中には沸き立つ入道雲の如く決意と闘志が漲っていた。

「そっかぁ、そうだよなぁ――やっぱそれしかねえよなぁ……」

 

いつの間にかすぐ背後に立っていた清次が、気のせいか少々嬉しそうに呟く。

 

「そうだよ、それしかねえよ」

思わず両手をぐっと握りしめる。

 

レールのカタンカタンと言う響きが、何時果てるともなく続いていた。

 




第二章はこれで完結です。
次回からは、少し時間をいただきますが第三章を投稿する予定です。
よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。