しばふ村より   作:Y.E.H

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【第三章・第四節】

 そして、待ちに待ったその日がついにやって来た。

 配属が決まると同時に、隼太と清次は隊の総務課を通じて穂波ら4人に面会を申し込んでいた。

彼ら一般兵と艦娘及びその候補生達の生活空間は厳格に区別されており、任務以外では余程の偶然でもない限り接触しない様に管理されていたため、こうする以外に確実な方法が無かったからだ。

そして配属後最初の週末に、総務課員立ち合いの上で隊内の厚生棟内に設けられた面会室での面談が許可されたのだった。

 

「なんか緊張するなぁ」

そう何気なく清次に声を掛けた積もりだったが、何の返事も返って来なかったので振り返ってみると、今にも窒息して倒れるのではないかと心配になる程ガチガチの顔がそこにあったので、さすがに驚いて立ち止まる。

「おい、幾らなんでも緊張し過ぎだろ?」

「そっ、そっ、そんな事――ねぇよ」

そう言うだけでも必死の形相を浮かべている彼を見て、隼太は突っ込むのをやめた。

 

(やっぱり分かんねぇヤツだな――お前、そんなにいぶきちゃんのこと好きだったのか?)

 

とは言え、一杯一杯になっているその姿を見た事で落ち着きを取り戻せたのは有難かった。

横須賀にやって来てからの数ヶ月も含めると、実に約5年振りに穂波に会えるこの機会を緊張して無駄に過ごしてしまっては泣くに泣けない。

何様ここまで厳しく管理されているのでは、この先も碌に会えるかどうかすら保証がないのだから。

厚生棟に入って面会室の方へ向かうと、居合わせた他の兵や下士官達の視線がちらちらと降ってくるのを感じる。

言う迄もないが彼らも艦娘に対して一方ならず関心はあるものの、だからと言って闇雲に面会申請をしたところで問答無用で却下されてお終いなのだ。

そんな訳で、一体どんな連中が面談を許可されたのかとばかりに注目の的になってしまっているらしい。

 

(参ったな……)

 

好奇の視線が刺さってくるのをグッと堪えて先に進むと、面会室の前に総務課の名札を付けた女性の下士官が立っているのでその前に進み出る。

一瞬躊躇したが、これを言わなければ始まらないので敬礼して口を開く。

「面会を申請しました敷島1等海士、木俣1等海士です」

名乗りながら身分証を提示する(多少手が震えていたものの清次も一緒にだ)と、その女性は素早くそれを手に取って確認した後、

「よろしい、では入りなさい」

と事務的に言うと横の扉を指し示す。

「失礼します」

そう言って扉を開けた隼太の耳に、斯波中時代と何ら変わりない声が響く。

 

「隼太君! 、清次君!」

そう叫んで満面の笑みを浮かべながら立ち上がったのは、5年前のあの日とほとんど変わらない姿をしたいぶきだった。

「え、本当に吹――いや、いぶきちゃんなの?」

「す、すげぇ、本当にあの頃のまんまだ……」

「うふふ、そうだよ! でも、隼太君と清次君はすっかり大人になっちゃったね――それに――ちょっと格好良くなったよ♪」

そう言って笑う彼女がもし軍服ではなく斯波中の制服を着ていたならば、まるであの頃に戻ったのかと錯覚しそうだ。

 

(それにしても――まさかここまでなんてな……)

 

実のところ、彼らは教育期間にちゃんと教えられていた。

艤装(あくまでも通称であって正式には36式特殊戦闘装備などと言う名称だ)を装着し続けると、その副作用が色々と着用者に発現する事が知られており、その最も顕著なモノの一つに老化(成長と言うべきか)の大幅な遅延があった。

しかし座学で習っただけのその副作用も、こうして目の当たりにする迄は全く実感出来なかったのだが、今彼らの目の前にいるいぶきは最後に見たあの日の姿とほとんど変わりがなかった。

そしてそれは、もちろん彼女だけではないのだ。

 

「敷島君、本当にお久し振りね。来てくれて凄く嬉しいわ♪」

そう言って立ち上がりながら右手を差し出した白石もまた別れたあの日そのままの笑顔であり、相変わらずいぶきとタメを張るほど可愛かった。

「有難う、白石さんも元気そうだし――それになんだか落ち着きっていうのか、歴戦のオーラ感じるよ」

「えっ! いやだ敷島君たら――」

そう言って赤面しかけた彼女に、約5年振りだというのに全く空気を読まない清次が突っ掛かる様な事を言う。

「へへへ、そうだよなぁ、なんか如何にも古参兵って感じだぜ」

途端に今迄の笑顔をスッと引っ込めて真顔になった白石が、隼太に対するのとは全く違う固い声を出す。

「木俣君がどんな進路を選ぼうがそれは自由だけど、私達が居るのは戦場なんだからね。それがちゃんと分かってるんならいいんだけど⁈」

「こりゃまた厳しいお言葉だなぁ、有難く頂いとくぜぇ」

 

(なんだかなぁこいつは……)

 

さっきまであれ程ガチガチだったというのに、もう既にあの頃のままの太々しい清次に戻ってしまっていた。

「なんなのよその言い草! ――全く、あんた、なんでこんなバカを軍に迄連れて来ちゃうのよ! ちゃんと辞めさせるのがあんたの役目じゃないの⁈」

その言葉の響きも全くあの頃のままであり、相変わらずの『あんた』呼ばわりもそのままだった。

しかし、村越の容姿は到底あの日のままとは言えない。

そう、まさかこんな事が彼女の身に起こるとは……。

 

「む、村越さん、どうしたのその髪……」

彼女の長い髪は別かれたあの日そのままではあったが、艶のある美しい黒髪は、僅かに青味を帯びた銀色に変わってしまっていた。

「ど、どうもこうもないわよ、副作用でこうなっちゃったんだから仕方無いでしょ! 教育期間に習ってるわよね⁈」

そう、確かにそれはその通りだ。

先程も言った様に艤装の連続装着の副作用は色々あるが、その一つに着用者の髪や肌などに色素異常が起きる例が報告されてはいる。

とは言うものの、幾ら何でもこんなコスプレの様な髪色をした村越は、余りにもイメージが違い過ぎた。

 

(でも――こうなってもやっぱり美人なんだな)

 

イメージが変わってしまったのは間違いないものの、彼女の美しさはあの頃のままであり、この新しい髪色も相まってファンタジー系のヒロインの様な趣があった。

特に、4人の中でも一番上背があるだけに、その派手な長い髪が良く映える。

4人の中でも――

 

4人の――――

 

突然彼の視界がグーッと狭まり、

村越や白石、いぶきも清次も、

そして部屋の隅でしかつめらしい顔つきで座っている監視役の総務課の女性隊員も、

それら全てを含めた周囲の光景が遠くなっていく。

 

四角く愛想のない面会室の内部は

不自然に歪んだような奇妙な形に変化していき、

彼を取り巻く世界全体は

靄が懸かった様なおぼろげで頼りない眺めに塗り潰されていったが、

彼の目の前の僅かな空間だけは色を失うことなく――

もう少し正確に言うなら、まるで古い映画の様な

どことなく温かみのある懐かしい色合いに変化していた。

 

「隼太君……」

 

それはとても小さな声だった筈なのだが、

一瞬その言葉が大きく広がって全身を包み込んだ様な錯覚に陥る。

目鼻耳口はもちろん、体中の毛穴からその声が浸み込んでくる感覚に支配された隼太の体は、

頭で考えるよりも先に口が動いて言葉を形作っていた。

 

「穂波ちゃん……」

 

口にした途端に胸の奥から感情が溢れ出し、

熱いものが頬を伝って流れ落ちる。

そして穂波もまた、

キラキラと輝く真珠の粒を幾つも零しながら、

彼の瞳をひたと見詰めてくる。

二人はまるで磁石が互いに引きあう様に歩み寄ると、

ぎこちなく両手を差し出ししっかりと握りしめる。

 

(同じだ――あの日と――あの時の君の手と同じだ……)

 

温かい筈なのに何故かしらひんやりと心地よい、

柔らかく繊細なその手は紛れもなく穂波のものだった。

 

(俺は来たんだ――やっと――やっと君のもとへ辿り着いたんだ――長い長い歳月を超えて――やっと……)

 

見詰める彼女の瞳が、不意に金色の輝きを帯びる。

それは忘れもしないあの日、穂波を包み込んでいた稲穂の輝きそのものだ。

その瞳に吸い込まれる様な錯覚に陥った隼太の心は、

時空を飛び越えてあの日の村へと舞い戻っていた。

 

二人は固く手を取り合って、

そよ風に吹かれてさやさやと鳴る金色の稲穂に囲まれていた。

朝日とも夕日ともつかない煌めく太陽は、

あの日、必死に繋ぎ止めなければ永遠に飛び去ってしまいそうだった穂波を、

紛れもない一人の人間の少女として照らし出している。

 

(そうだ、俺は――

俺は――君をこの地上に――

この村の大地に繋ぎ止めておきたかったんだ……

だから――だから俺は、

いつの日か必ず――君を連れて帰る――

俺達の故郷に連れて帰るんだ、必ず……)

 

そのままどれくらい時が経ったのだろうか。

言葉もなく只々互いの手を握って涙を流す彼らにとって、既に時間は意味の無いものになりかけていたが、やがて立会いの総務課員が目頭を拭いながらも聞こえよがしに咳払いをして見せる。

 

「あ……」

「あ……」

 

期せずして全く同じ声をあげて我に返った二人は周囲を顧みる。

が、涙を滲ませていたのは当の総務課員だけでなく、その場にいた全員(なんと清次までも)だったので思わず赤面してしまう。

改めて顔を見合わせた彼らに、立会の総務課員が意識的に感情を抑えた低い声で告げる。

「原則として面談に限って許可しています。以後は注意する様に」

「は、はい!」

「済みません、気を付けます」

彼女の配慮に感謝しながらも二人がそう返答すると、涙を拭いながらいぶきが明るい声を出す。

「本当にもうっ! な~んかやられっ放しで妬けちゃうよね、ね清次君♪」

「う、うす! でも、隼太には昔からずっとやられ続けなんでもう慣れっこっす♪」

どういう訳か、清次は昔からいぶきと話すときの語尾は『っす』なのだった。

「でも――無事に再会出来て本当に良かったわ――敷島君も五十田さんも」

「まぁ~そーよね、あんまり要領良くない同士だから、随分余計な心配させられたわね♪」

白石と村越がそう言って顔を見合わせると、砕けた雰囲気が戻ってくる。

 

「みんなごめん――それに有難う。正直に言うけど、ここ迄本当に長かったよ。随分遠く迄来たんだなぁって今思ってる」

隼太がそう言うと、いぶきがあの頃そのままに明るく応じる。

「そうだよ! あたし達も隼太君と清次君もこんなに遠く迄来たんだよ、これからまだまだずっと遠く迄行くんだからね!」

彼女の屈託のない笑顔を見た隼太は、内心ホッとしていた。

やはりいぶきにはこの朗らかな笑顔が良く似合う。

5年の月日が彼らの関係を再びあの日以前に戻してくれた事に心の底から感謝していた。

「吹輪さんはそうなのかも知れないけど、私はやっぱり故郷があってこそ今の私達があると思ってるわ。だからね、何時かは必ず村に戻る積もりよ、敷島君と五十田さんもそうじゃないの?」

白石がそう話を振ってきたので彼はチラッと傍らの穂波に視線を投げ掛けるが、その眼差しに改めて言葉は不要だった。

「うん、その積もりだよ」

「え~、やっぱりそうなんだ、ひょっとして美空望ちゃんもそうなの?」

「あたしはまぁ、どっちでもいいかな――でも、バカが居なくなって少しは静かになったんだろうから、何時かは戻るのもいいかもね♪」

村越が皮肉を込めてそう言うと、どうやら自覚があるのか清次が声を上げる。

「へいへい、それにしてもこの4年位はよぉ、口煩い誰かがいなくなったんで村は静かで快適だったぜぇ♪」

「その代わりにここが快適じゃ無くなっちゃったけどね⁈ ったく~、あんたって本当にお人好しよね! 何が嬉しくてこんなバカの面倒見てやるんだか気が知れないわ⁈」

彼女の口の悪さは相変わらずだが、隼太に向かって投げ掛けられた視線に棘はなく、どこか懐かしさを帯びた柔らかいものだった。

「そうよね、木俣君、言っとくけど私達ちゃんと聞いてるからね? いきなり司令に注意された事も敷島君に迷惑掛けた事とかもね。もし同じことを戦場でやったら多くの人が死ぬんだってこと、肝に命じておいてくれるかしら⁈」

白石の口調の厳しさは格別だった。

隼太がもしこんな調子で叱られたら立ち直れないかも知れない。

「さすがベテランの言うことは違うなぁ、俺の上官になって貰いたいぐらいだぜぇ」

 

(こいつの心臓だけは大したもんだよ本当に)

 

「まぁ、こいつの世話代はそのうちまとめて請求して、皆に還元するからさ」

清次を放っておくと白石や村越の機嫌が悪くなりそうなので、程々に話題を収め様とすると穂波が上手く違う話題を振ってくれる。

「ねぇ、正式な配属は何時になるの?」

「うん、来週中には配属だって聞いてるけど」

「今回の新規配属は他にあと2人なのよね、やっぱり各艦1人ずつになるのかしら」

「多分そうよね! あたし達の艦に隼太君と清次君が配属されるといいなぁ」

「浪江と綾瀬さんはどこで研修してるの?」

「そっか、あんた達にはそれも知らされて無いのね~」

「あのね、浪江ちゃんは『かすが』で真奈美ちゃんは『うさ』だよ」

「へ~、ちゃんと一緒にしてくれてんだなぁ」

「渡来司令と斑駒副長がね、配慮して下さってるみたいなの。だからと言って、敷島君と木俣君が同じ様に扱って貰えるとは限らないから、まだ何とも言えないわね」

「少なくとも、特別な事情が無かったら隼太君と浪江ちゃんは一緒にならないと思う。だから『かすが』の配属にはならないんじゃない?」

おそらくは穂波の言う通りだろう。

箕田も言っていた事だが軍は同郷者には寛容でしばしば意図的に同郷者を集めることもあるが、血縁者に対してはナーバスである事が多い。

「敷島君も心配だと思うけど、私達に任せておいてね。立派な艦娘になれる様にちゃんと鍛えてあげるから。でも、最後は本人の頑張り次第なんだけど」

「まぁ、本人が希望してた事なんだから、頑張らなかったら嘘だろうね」

「哨戒実習はまだ始まったばかりだから、これからなんだけどねぇ」

「でも実習って言ってるけど、敵と遭遇したら当然即実戦になるんだよね?」

「勿論よ、海の上には線なんて引かれて無いから、ここから向こうが戦場だなんて境界線も無いわ」

「へへ、綾瀬のヤツがなんて言ってんのか聞いてみたいぜ♪」

清次がそう言って隼太に視線を投げ掛けると、意外な事にそれにはいぶきが反応する。

「それってもう聞いちゃったかもね♪」

「え、本当に?」

「真奈美ちゃん言ってたよぉ『話が違います』って」

「じゃあちゃんと指導してやったのかぁ、そんな都合のいい話はねえってよぉ♪」

「そんな事言わなくても分かってたよ! 『でも、よく考えたら当たり前のことですよね』って自己完結してた♪」

「へ~、辞めるとか言い出さなかったんだ」

「うん、なんか切り替え早くて凄い子だなぁって思っちゃった♪」

「浪江の奴は大丈夫なのかな~、少なくとも皆の足を引っ張らない様にはなって欲しいな……」

「そんな事言ってると、そっくりそのまま自分に跳ね返って来るわよ」

昔は村越の辛辣な言い草にいちいち反論せずにはいられなかったのだが、今こうして聞いていても不思議にそんな気分にはならなかった。

「いや、そうだよな。自分がそうならない様に気をつけるよ」

「やっぱり敷島君ね♪ その心掛け、とっても大切よ」

にっこり笑った白石があの頃そのままに彼を褒めてくれるが、話を振った村越はどういう訳か少々残念そうな顔だ。

刹那、隼太の胸の奥で5年前の記憶が呼び起こされる。

あの夜、彼を見つめたその瞳は何を訴え様としていたのだろうか。

 

(美空望よ!)

 

声なき声が脳裡に木霊し、彼女の言葉に出来なかった想いを伝え様とするが、やはり今の彼にはそれが理解できなかった。

「まぁ、2人共すぐに実戦経験するから、そしたら色んな事が分かるようになるよ!」

「吹輪さんの言いたい事は分かるけど、それはちょっと楽観的過ぎるんじゃないかしら? 私達、最初の実戦が唯一の経験になった人も見て来たのに、敷島君と木俣君がそうはならない前提で話は出来ないわ」

 

白石の言葉はこれといった躊躇いもなくスラスラと発せられた為にそのまま聞き流してしまいそうになるが、実はとんでもなく重たいことを言っていた。

その証拠に(先程注意されたにも関わらず)穂波が思わずといった様子で隼太の腕をギュッと掴み、それからまた慌てて離すと小さな声を出す。

「雪乃ちゃん――あんまり怖いこと言わないで……」

「ごめんなさい、五十田さんのこと脅かしたい訳じゃないけど、それでも1分でも1秒でも長く生き残って貰う為には実戦がどれだけ苛酷なものか知っておいて貰う方がいいと思ってるの。だって、私達だってそうでしょ? こうして4人揃って敷島君達と再会出来た事だって、幸運に恵まれたからだわ」

「確かに雪乃の言う通りだけど――本当に容赦が無いわね♪ でも、多分今言って聞かせてもまともに頭には入らないんじゃないの? 実際に配属になって、日頃あたし達が海の上で何をやってるか経験してからじゃないと……」

「私が心配し過ぎなのかしら? でも、何度考えても同じ結論になっちゃうのよ。海の上には隠れる所も無いし自分で身を守る術もないんだから、生き残る為には一秒でも早く敵を見つけて先に叩くしか無いわ。しかも、私達と違って敷島君達は自分で敵を見つけることも反撃することも出来ないんだしね」

「あのさ、どんな風に敵の姿や弾が見えたりとかするの?」

「座学で習ってるんじゃないの? あたし達の特殊な能力の時間ってあるでしょ?」

「いや、けど、全然実感わかねぇっすよ」

「私達の感覚と座学で教えられる事じゃ確かに全然違うでしょうね。座学では『脳内にイメージが浮かぶ』みたいに言われるのよね?」

「そうだね、本当にそのフレーズで教わったよ」

「でも、あたし達にとってはそれが実際に『見える』としか言い様がないのよ。潜水艦の航行音や雷走音なら実際に『聞こえる』の。技官や医官からはそうじゃ無いって説明されても、あたし達の感覚はその説明とは違ってるのよ」

村越の言葉に、穂波を顧みた隼太に向かって彼女は自分の言葉で説明してくれる。

「弾が飛んでくる時にね、頭の奥でパチッて火花が弾けるみたいな感じがするの。それと一緒に方向が分かって、そっちを見たらユラユラした陽炎みたいなものが飛んでくるのが見えるんだよ」

「そうそう! 魚雷の時もパチッていうの、でもその時見えるのは白い雷跡だけどね」

「それで――そんな風に見えるから避けられるの? 魚雷はまだ分かるけど――」

「そうだぜ、弾なんて音速の倍位の勢いで飛んでくんだろぉ、幾ら見えたってよぉ、そんなもん避け様がねぇんじゃねえのかぁ?」

「でも、それが出来てしまうの。私達には実感出来ないけど、近くで見ていると突然私達の姿がぼやけて見えるらしいわ――それを間近でしっかり観察して報告できた人はほとんどいないんだけど……」

またしても白石が途轍もなく重たい事を言うので、一瞬その場がシンとしてしまう。

 

「雪乃、あんまりやると穂波に恨まれるわよ♪」

苦笑した村越が突っ込むと、どうやら本当に意識していなかったらしい白石はハッとした様に隼太の顔を見ると、

「ご、ごめんなさい、敷島君と五十田さんのこと脅かす積もりは本当に無かったのよ? つい口に出ちゃって……」

と言いながら赤面する。

しかし、毎度の事ながら止せばいいのにこういうタイミングを何故か外さない清次が、またも彼女の神経を逆なでする様に口を挟む。

「へへ、そいつはいいや。だったらよぉ、俺がそのちゃんと見届けて報告する奴にまだなれるんだよなぁ?」

 

(何考えてんだよこいつは!)

 

心の中でそう突っ込んだ隼太の案の定、白石が真冬の軒端に垂れ下がる氷柱の様な冷たく尖った声を出す。

「可能性が零じゃないだけの話だわ。第一、そんな風に実戦を舐め切ってる様な人にはそんな機会なんて巡って来たりしないから」

「いいじゃない雪乃、もしあたし達の艦にこのおバカが配属されたら思う存分扱き倒してやればいいのよ」

「それもそうね、精々思い知って貰いましょ」

「おお怖えぇ怖えぇ♪ お手柔らかに頼むぜえ」

「もうっ! 清次君もいい加減にしときなよぉ」

さすがにいぶきに窘められるとスッと大人しくなるものの、多分その態度が白石と村越には余計に気に障るんだろうなと思った隼太が何かフォローしておこうと口を開き掛けると、幸か不幸か立会いの総務課員が立ち上がって面談終了5分前を告げる。

「5分前となったので、これにて面談を終了します。参加者全員は、退室後本面談の内容についての守秘義務を厳守のこと」

「はい!」

全員が異口同音に応じると、彼女は満足した様子で隼太と清次に向き直る。

「では、退室しなさい」

「隼太君、清次君、配属楽しみにしてるからね!」

「さっき言った通り、厳しく扱いてあげるから覚悟しときなさいよ♪」

「それじゃあ、またね……」

 

彼女達の言葉に送られながら面会室を出て扉を閉めると思わず大きな溜息が出てしまうが、ちょっと驚いたのは、傍らの清次が溜息ばかりか膝に手までついて肩で息をしていたことだ。

「おい、大丈夫か?」

「な、何でもねぇよ」

例によって空元気で返した彼に向かって突っ込んでやろうかと仕掛けた矢先、またしても好奇の視線に晒されていることに気付いた彼らは、そそくさとその場を後にした。

 

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