しばふ村より   作:Y.E.H

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第四章の投稿を開始します。
本章には長門が登場し、前作『陸奥と僕のこと改』の登場人物等に触れる部分も書く予定です。
引き続きよろしくお願いします。


第四章
【第四章・第一節】


 前回の面談から、気が付くと既に2ヶ月近くが経っていた。

彼らはその間もずっと面談申請は出していたのだが、さすがに隊内への示しもあってかそう簡単には面談許可が下りたりはせず、これ程経ってからやっと許可が下りたのだ。

 

「隼太君はいよいよコンソール係本番だね! どう? 何とか出来そう?」

「いやぁ、まだまだマニュアル無しじゃ全然駄目だよ。ちょっと手順から外れた事し様とすると頭真っ白になるなぁ」

「最初は皆そんなもんよ、とにかくひたすら繰り返して頭と身体に叩き込む事と慣れる事ね」

「大丈夫だよ、隼太君の事信じてるからね」

穂波の眼差しが何とも言えず心地良い。

大袈裟な言い方にはなるが、生きる気力が身体の奥から湧き上がって来るのを感じられるのだ。

 

「それにしても――」

白石がハァッと一つ溜息を吐いてから、堅い声音で話し始める。

「――敷島君がコンソール係をやるのはとても納得できるし頼もしく感じるわ。でも、木俣君が同じくコンソール係をやるだなんて全く理解出来ない。艦長は一体何を考えておられるのかしら?」

「雪乃ちゃんちょっと酷いよぉ~。清次君だってちゃんと真面目にやってるよね?」

「う、うす! まだまだだけど何とか取り組んでるっす」

「真面目にやるのなんて当たり前の事だわ。味方から信頼される様になる迄にどれだけ真摯に取り組まなければならないか、その欠片位は分かってるなら良いんだけど?」

 

(うはぁ~相変わらず厳しいな……)

 

この分では白石は、それこそ清次が誰かの身代わりとなって戦死でもしない限り彼に対する見方を変えないのではないかと思う程だ。

「へへ、毎度厳しいご指導を頂いて有難いぜぇ。これからもビシビシ頼むわぁ♪」

 

(まぁこれじゃ仕方ないよな……)

 

当の清次が相変わらずこの言い草では、白石の印象が変わる筈もない。

事実、この不敵な言葉を聞いた彼女はキッと清次を睨み付けると、そのままフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。

ただ昔から感じていた事ではあるのだが、これ程露骨にかつ辛辣に詰られているのに、どういう訳か彼はいつも少し嬉しそうに見えるのだ。

 

(こいつまさか、そっち系の性癖でもあるんじゃねぇだろうな――だとしたら、確かに白石さんと村越さんは好きなだけ罵ってくれるだろうけどさ♪)

 

そんな風に下らない想像を膨らませ掛けた隼太の脇がツンと突つかれる。

アッと思って顧みると、軽く頬を膨らませた穂波が上眼遣いに睨んでいる。

 

(ご、ごめんよ穂波ちゃん)

 

すぐにその意図を察した彼はひとまず目で詫びておき、改めてその場の雰囲気をフォローする。

「うん、清次もそう言ってることだし、白石さんも村越さんも一切手加減無しでこれからも扱いてやってよ♪」

「ひでぇな! そこはもう少し加減しろとか言えよ~」

「お前ぇが自分でそう言ったんだから間違いないだろ。自分の発言には責任持てよ」

隼太が間髪を入れずに突っ込むと笑いが起き、白石も表情を緩めてくれる。

 

(やれやれ♪)

 

とは言え、彼にとっては嬉しいことでもある。

あの斯波中で過ごした頃と変わりなく、穂波は隼太の内心をほぼ的確に読み取ってくれている。

5年もの間遠く離れていたのに、今も何一つ口にする事なく心が通じ合えているというその事実は、彼に例え様もない充実感をもたらしてくれる。

 

「まぁ、何時迄もおバカの話してても仕方ないし、ちょっと気に入らないんだけど聞いてあげるわ」

村越が思わせ振りに話を振っておいてから彼を一瞥する。

「えっ、何かな?」

「決まってるでしょ! あんた達、外出許可申請してるんじゃないの? 何時なのよ♪」

言葉は確かに道化て居るものの、意外に口調は辛いので思わずドキッとさせられる。

「えっと、そのぉ……」

「そうだわ、認められたら初めてのケースになる筈よ? 本当に決まったのかしら」

半ば揶揄っている村越と違って白石の物言いは真面目なので、軽く躱せる様な雰囲気ではない。

「い、一応ね、許可は出たの……」

横で穂波が俯きながら小さな声を出す。

「う、うん、付き添い有りでなんだけど――」

「そんなの当り前じゃない、これ迄ずっと交際厳禁で来たのにいきなりあんた達だけ全面解禁しちゃったら洒落にならないでしょ!」

 

(何故だろ? 滅茶苦茶緊張するなぁ……)

 

箕田や河勝らと喋っている時は全く普通だったのに、彼女達に向かい合うとまるで尋問で罪状を白状させられている様な感覚が半端ではない。

「え~何時に決まったのぉ? ねぇ教えてよぉ」

「い、いや、あのさ――」

何とか返事を絞り出そうとしたその時、横で穂波が意を決した様にごくりと唾を飲み込んだ後、やや低い声で彼の言葉に被せる。

「あのね――24日に決まったの……」

えーっ⁉

 

3人が一斉に大声を出したので、思わず椅子から飛び上がりそうになる。

 

(や、やっぱりか……)

 

「ちょっと何よ! なんでそんな事なってんの⁉ 信じられない!」

「そんなのズルい! 絶ーっ対にズルい! クリスマスデートなんて許せない!」

「幾ら何でも隊の秩序が保てないんじゃありませんか⁉ ねぇ如何なんですか⁉」

いぶきと村越は兎も角、余りこういう話題に突っ込んで来ないと思っていた白石迄も一緒になって大声でまくし立てたばかりか、立ち合いの総務課員に迄絡む始末だ。

絡まれた総務課員もさすがに困惑して、

「そ、それは課内にて付き添いの調整等を含めて案を作成し、司令のご裁可を頂いた結果であって何も問題はない」

と思わず真正面から応じてしまう。

「問題大有りですよ! どうしてそんな依怙贔屓が罷り通るんですか⁉」

「そうです贔屓です! 特別扱いですよこんなの!」

「公序良俗に反する決定ですよ⁉ 許可日程をずらすべきです!」

3人の余りの剣幕に隼太は却って少々滑稽な気分になって来たのだが、横で穂波が身の置き所もない様に小さくなっているのに気が付き、周囲から見えない様にそっと固く握りしめられたその手に自分の手を重ねると、彼女がギュッと握り返してくる。

 

(弱ったなぁ、仕方ないから再申請し直すかぁ……)

 

いささか残念ではあるが、4人の仲が気不味くなるよりは良いだろう。

そう肚を決めて口を開こうとしたその時だった。

「あの~、ちょっとで良いんで話聞いて貰えないっすか」

唐突に清次が声を上げたので、その意外性もあってかヒートアップしていた3人も一瞬静かになる。

常日頃はろくに空気というものを読まないにも関わらず、そのタイミングを巧みに捉えた彼はかなり下手に出た物言いで言葉を続ける。

「いやぁ確かにちょっと不公平だし羨ましい気もするんすけど――でも、隼太は5年間この日をひたすら待ってたんすよ。で、多分それは五十田さんも同じだろうと思うんす」

ここで一旦言葉を切った清次は、改めて徐々にテンションが下がりつつある3人の顔を見回してから言葉を締めくくる。

「だから、ここは一つさっぱりと『本当に良かったね』と言ってやって欲しいんすよ。俺もそうし様と思ってるんで――頼んます、何とか丸く収めて欲しいんす――いやマジで」

あの清次がこんなものの言い方が出来るのかという驚きが彼女達の顔にありありと表れており、室内は水を打った様に静まり返る。

一体どれ位それが続いたものかはっきりとはしないが、間もなくとばっちりで巻き込まれた立会いの総務課員がオホンと軽く咳払いをする。

「木俣海士の言う通りだ。戦友に対してはもう少し寛容であるべきと思うぞ」

言っている事は尤もらしいのだが、その声音からは明らかにホッとした雰囲気が伝わって来る。

流石にここ迄冷や水を掛けられても騒ぎ立てる程、彼女達は執念深くもなければ厚顔無恥でもなかった。

ハァッと思い切り大きな溜め息を吐いた村越が、どこか自棄気味な声をあげる。

「はぁ~あ、おバカに窘められるなんて白けるどころの話じゃないわよね! ええ、良く分かったわよ、これでもう文句は言いっこ無しにするわ」

「何だか凄く自己嫌悪……五十田さん敷島君、つい興奮しちゃって本当にごめんなさい」

「い、いやそんな――」

「う、うん、雪乃ちゃんも本当にごめんね……」

「あ~でも、やっぱりすっごく羨ましいよぉ~。ねぇ清次君、あたし達も外出申請しよ?」

「えっ、いやその、それはちょっと不味くないっすか?」

「そんな事無いよぉ~、申請するだけして見ようよぉ」

このいぶきの言葉に、当の清次は嬉しそうにする処か少々困った様に立会いの総務課員をちらりと一瞥する。

「申請したからと言って直ちに認められる訳ではないし、何より既に翌月度分の申請も締め切られている」

やっと本来の立ち位置を取戻した彼女は冷静な声でそう応じたのだが、いぶきはそう易々とはあきらめない。

「え~何かがっかりぃ~、じゃあさ、2月の申請考えようよ、バレンタインデートなんてどう?」

「いや、えっとあれじゃないすか? まずはこのメンバーとかで外出許可申請するとかから始めた方が良くないすか?」

「え~」

 

(何だよ、おかしな奴だなぁ――いぶきちゃんから誘ってくれてんだからも少し喜んでも良いんじゃねぇか?)

 

とは言うものの、たった今彼に助けられた隼太としては、何か助け舟を出してやる義務があるというものだ。

「うん、一度清次の言う通りにして見たらどうかなぁ。複数名での申請の方が通り易いですよね?」

どうせなので総務課員を利用させてもらう。

彼女としては不本意だろうが、話が話なので言質がある方が都合が良いのだ。

「一概にそうとは言えないが、原則禁止の男女1対1に比較すれば許可され易い筈だ」

「有難うございます、だからさ、一度皆で出掛けられる様に申請してみようよ。なんかそういうの昔だってやらなかったんだし良いんじゃないかな?」

隼太が勤めて明るくそう勧めてみると、白石が良い反応を返してくれる。

「わたしは、敷島君や皆と一緒に外出出来たら――多分楽しいと思うし、良い気分転換になると思うわ……」

「まぁ、あたしも別に反対って訳じゃないけどね――」

そう言い掛けて言葉を切った村越は、彼にちらりと視線を投げてから言葉を続ける。

「一緒に行くのはあんただけの方が良いのよねぇ~」

 

(げ、やっぱりそう来るのか……昔っから相性悪かったしなぁ)

 

斯波中の頃から兎に角彼女は清次と反りが合わないらしく、それは今でも変わっていない様だ。

しかし当然の事ながらいぶきが黙っていない。

「もうっ! また美空望ちゃんたらそんな酷いこと言って! 駄目だよ、絶対清次君も一緒だからね⁉」

「はいはい良く分かりました! あたしが我慢すればいいんでしょ⁉」

「ごめんね美空望ちゃん……」

「いやぁね、やめてよ。穂波が謝る事じゃないわよ」

そう言ってかぶりを振って見せた村越は、こちらに視線を合わせると苦笑して見せる。

 

(有難う、助かったよ)

 

視線でそう応じた隼太は、このまま深入りする前に話題を切り替える。

「まぁそれはそれとしてさ、最近疑問に思ってた事があるんだけど」

「なによ、聞くなら教えられる事にして欲しいわね」

「いや大した事じゃないよ。なんで『うさ』では吹輪さん、五十田さん呼びなのに、他の艦では駆逐艦叢雲や白雪呼びなのかなぁ~って思ってさ」

「それだったら簡単よ、艦長の方針だからよ」

「えっ、何か決まり事があるんじゃないの?」

「実は明確なルールがある訳じゃないらしいの。実際に五十田さんと吹輪さんも、斑駒艦長になられる以前は駆逐艦磯波、吹雪と呼ばれていたわよね」

「そうだったの?」

隼太が傍らの穂波を顧みると、彼女は頷く。

「あのね、司令と斑駒艦長は名前呼びにすべきと考えておられるみたいなの。でも、各艦でこれ迄の慣習もあるだろうからって、命令はされてないみたい」

「そいつは知らなかったなぁ、でも何が違うんだぁ?」

「これ迄艦名呼びが一般的だったのは、艦娘に対して余り慣れ親しむ様な空気を醸成しない為だと聞いてるわ。もちろん理由は説明不要ね」

「でも司令と副長はそう考えておられない――」

「そうね、そういう意味ではお二人とも以前の司令や副長とはお考えが違うみたいね」

「でも、あたしは名前で呼ばれるのも好き! これ迄ずっと『吹雪』って呼ばれてたから、自分の名前が新鮮!」

「けど、北上さんは絶対嫌だって言ってるみたいだよぉ」

「え、そうなの?」

「そうらしいわね、まぁ理由は分からないけど」

「まぁ個人的な事情ってヤツじゃねぇのかぁ」

と、ここで前回と同様に立会いの総務課員より5分前が告げられる。

が、前回と違ったのは少し続きがあったのだ。

「それと付け加えておくが、課員はあくまでも立会い者なので、必要以上に会話に巻き込むことは禁止だ。次回以降は注意する様に」

「はーい!」

「了解しました」

思わず笑いが漏れそうになるのをちょっと我慢する。

さすがに今回は巻き込まれてさぞ閉口したのだろう。

「それでは有難うございました!」

「どうも失礼します」

「清次君、隼太君! 申請頼んだよ♪」

「ま、余り気は進まないけど仕方ないわね」

「じゃあ今度ね、隼太君」

「あ~あ、やっぱり羨ましい~」

「ははは、ゴメンね……」

とは言ったものの、彼としては楽しみで仕方がなかった。

付き添いがいるとは言え、2人で話す事の出来る機会を精一杯利用しようという意気込みで満々だった。

「清次、お前本当にいぶきちゃんと外出申請しなくていいのか?」

「お前ぇじゃあるめぇし、そんな柄じゃねぇよ!」

「そっか、まぁいいけど今日は助かったぜ」

「いいって事よ♪」

 

(本当におかしな奴だよ、お前は♪)

 

心の中でそう突っ込んでおいてから、彼らはまたも好奇や羨望が入り混じった視線を浴びながら面談室を後にした。

 

 

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