この世界には天才と呼ばれる者が存在する。生まれ持った才能、努力で勝ち取った能力などなど天才と呼ばれる者たちの力はそれぞれ。
そしてこれを語っているオレも世間では『天才』と呼ばれている。
個人的には自分が天才だとは思えない。ただオレを育ててくれた人間たちのお陰だ。ただ環境が良かっただけでそれ以上でもそれ以下でもない。あの環境に陥れば誰であろうとも『天才』になれるのではないだろうか。それほどまでに育てられた環境が良かったのだ。
オレについて少し説明しますか。オレの両親はオレが物心を付くよりも前にオレを置いて逃げた。後々、分かった事だけど、どうやら両親は借金をかなり背負っていたようだ。そしてまあ一般的に言う、夜逃げというやつ。
そして置いて行かれたオレは約24時間の間一人で部屋にいたらしい。そのまま誰も訪れる事が無ければオレは今ここにいることはなかった。あそこで死に絶えていただろうから。
じゃあ今のオレが普通に生きているのかと言うとそれは……借金を取りに来た者に拾われたから。取り立てに来たら家の中はものけのからだったのでさすがに驚いたらしいが奥から子供の声が聞こえてオレを発見したらしい。
普通の借金取りであれば取り立てている相手の息子を人質にして親に借金を払わせるのが当たり前。だが拾ってくれた借金取りは何を血迷ったのか、オレを憐れに思ったのか育ててくれた。
その借金取りというのが…赤神家。
もっと普通の借金取りに借りればいいのにと今のオレは思ったりもする。よりにも寄って赤神家に借金をするなんて。
どうやらオレの家は数十年前までは赤神家と比べても引けを取らない程度の家だったらしい。だがある事件を境にどんどん力は弱まっていき、今では借金をするところまで落ちぶれた。
まあ、そんな感じでオレは赤神家に育てられた。
だが未だに何で赤神家の者たちがオレを育ててくれたのかは分からない。
そして今、オレが立っている場所はある小島の中にある館の一部屋。こんなところまで足を運んだのはある人から来て欲しいという手紙が届いたから。仕事の方も忙しいが恩人である人の娘さんの誘いを断る事は出来ない。それにオレは人の頼みを断る事が出来ないような性分なのでそこら辺も考慮に入れてお嬢様はオレに手紙を出してきたのではないだろうか。
「お迎えに上がりました。凛久様」
扉から入って来たのはこの館のメイド長を務めている人物…班田玲さん。会うのはもう五年振りとかになって来るので顔とか性格もうろ覚え。
「お久し振りですね、班田さん」
その言葉を聞いた瞬間に班田さんの顔がうれしそうな顔をしたかと思うと…その数秒後に落ち込んでいるような感じの顔をしている。オレが忘れているだけかもしれないけど班田さんってこんなに感情豊かな人だったかな。もっと寡黙な人だったと記憶しているんだけど。
「…忘れてしまったんですか~私はあなたにとってその程度の人間だったんですか。かなり落ち込みますね」
急にさっきの丁寧な口調から砕けた感じの口調に変わった。そしてこの話し方にオレは聞き覚えがあった。
「……イリヤ様ですか?」
「そうですよ。一目見た瞬間にあなたなら気付いてくれると思っていたのでかなり落ち込んでいます。五年振りとはいえ、私とあなたは一心同体と言っても良いほどだと思っていましたのに」
久し振りに聞く、イリヤ様は昔と変わっていない口調だった。オデット様が生きておられた頃と変わらない。
「…一目で気付けと言うのはかなり無理な話な気がしますよ。うろ覚えですが見た目などに関しては違和感ない感じですし…まあ、何より五年は長すぎますから」
それにしても何でイリヤ様は班田さんになりきっているのだろうか。正直、昔からイリヤ様のやる事を完全に理解するのは骨が折れる。よく一緒に過ごしてきたからこそ彼女と過ごす機は彼女の妹の赤神オデット様に次いで多いと自負している。まあ年も近いという事もあったからかな。
「確かに五年という歳月は長かったですね。何よりもあなたに会う事が出来なかったのがもっとも苦痛でした。あなたが赤神家に来てからずっと私はあなたと一緒に生活してきました。離れる事をしてこなかった。そんな私があなたと初めて離れてそれも五年という長い期間も……狂ってしまいそうになってしまっても仕方のない事です」
イリヤ様の言い方だと語弊を生んでしまう。オレとイリヤ様は決してずっと一緒に居たわけでない。お風呂の時はさすがに違う。イリヤ様は「別に家族なんだから良いじゃないですか?」と言っていたけどそこだけはさすがに断った。だが寝るときは同じベッドだった。
顔や衣装は班田さんのまんまでイリヤ様は少しずつオレとの距離を縮めてきた。一歩、一歩と…それに反対にオレは一歩、一歩と後ずさっている。だってイリヤ様の顔が獲物を見つけた時のハンターと同じ顔をしている。少し顔を赤らめながら優越に浸っているような顔をしているところが怖い。
「…これからは絶対に離しませんし、どこにも行かせません」
「いや…それはさすがに…「離さない、私を舐めないくださいよ。あなたは私を理解しているようで理解していないですね。私は絶対に欲しいものは側に置いておく。幼い頃の私は大切さに気付いておらず無知にも離れてしまった。その失敗を繰り返すつもりはありません」
もう完全に狂ってしまっている。
そうだ…イリヤ様はこんなお方だった。