パパ、認知して   作:九龍城砦

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ロシアより愛を込めて

「念願の日本に〜……キター!!!」

 

 羽田空港のロビーに降り立った私は、両腕を高々と上げて歓喜の雄叫びを上げる。周囲の人々から奇異の視線を感じるが、そんな事は気にならないくらい今の私は舞い上がっていた。

 ああ、懐かしき羽田空港。都会の香り、人の波、それら全てが今の私の目にはとても輝かしく映っている。故郷の山と草原しかないド田舎と比べれば、その人口密度は天と地ほどの差がある。

 

「いやー、テーマパークに来たみたいですねー! テンション上がるなぁー!」

 

 母親譲りの銀色の髪を振り乱し、私は空港を飛び出して懐かしき東京の街へと足を踏み出した。見渡す限りの人、人、人。まさしく人の洪水と称して問題ないレベルの賑わい方だ。

 

「わ、キレー」

「コスプレか?」

「シスター服だ……」

「なんでシスター?」

「かわええ」

 

 ワイワイ、ガヤガヤ。まるで常からお祭りをやっているかの如き賑わい。いや、故郷の村ではお祭りだって言ってもここまで人は集まんなかったけど。全員集まって100人行くか行かないかの限界集落だったしなぁ。

 と、昔を懐かしむより、私がここに来た目的を果たさなければ。シスタークラーラから貰ったお手製の旅行カバンから、一枚の地図とメモ用紙を取り出す。

 

「えーっと、このメモによれば……きゃっ!?」

「おわっ!? チッ、オイコラ! どこ見て歩いとんねん!」

「す、すみません!」

 

 しまった、やってしまった。こんなに人が多いというのに、ながら歩きなんてするんじゃなかった。故郷でもよく牛とか馬にぶつかってたんだから、こういう所でこそ気をつけなくちゃいけなかったのに、私のバカバカ。

 っていうか、今ぶつかった人ってヤクザじゃない? なんか黒いスーツ着て、グラサンかけて、如何にもカタギじゃないって雰囲気醸し出してるけど。

 

「んー? 嬢ちゃん、外国人か?」

「あ、はい。ロシアから父を訪ねて少々」

「ほー、まだ若いのに大したもんやなぁ」

 

 褒められてしまった、テレテレ。

 

「せやかて子供一人でこんなトコまで来よったら、路銀も心許ないやろ」

「あー……そうですね、飛行機のチケット高かったです」

 

 なんで最下位のエコノミークラスですらあんなに高いのだろうか。おかげで向こうにいた頃コツコツ貯めてた貯金が半分ほど消し飛んでしまった。まぁ、その分乗り心地は最高だったんですけど。やっぱり日本の技術すごいよ、うん。

 

「せやったら、ラクに大金稼げる美味し〜い仕事があるねんけどな。どや、お嬢ちゃん一発やってみぃひんか?」

 

 目の前のヤクザさんが、心底愉快そうに顔を歪める。何とも悪そうなイイ笑顔だ。

 

「ラクに大金!? やる、やります!」

 

 とかいう、生娘みたいな反応を期待してるんだろうなぁ……そしてそれを忠実に再現して見せてあげる私なのであった。

 リップサービスですよ、リップサービス。

 

「ヘヘ、よしじゃあ早速────」

 

 ワキワキと動く邪な両手が、ゆっくりと私の紺色の修道服に伸ばされる。私はそれを笑顔で待ち構え。

 

「君、こっち! 付いてきて!」

「わ」

 

 急に人混みから出てきた手に腕を掴まれ、そのまま人混みの中へと引きずり込まれた。

 

 

⭐⭐⭐

 

 

 唐突ですが転生したようです。

 

 あぁ、おっしゃらないで、分かってます。またテンプレかよって思ったでしょう。そうです、テンプレ通りに現代で死んで転生したタイプの転生者ですよ。死因は覚えてないけども。前世は男だったなーって、ぼんやりしか覚えてないけども。

 

(うーむ、どうしてこうなったやら)

 

 この自意識が芽生え始めたのは、この体がこの世界に生まれ落ちてから5年が過ぎた頃。ほんとに唐突に、なんの前触れもなく、心地よい眠りから覚めるように、私はこの体の主導権を手にした。

 じゃあこの体の元の持ち主はどうしたって言うと、どうやら最初から居ないみたいだった。事実、私が目覚めるまでこの体は日がな一日ぼーっとしているだけだったらしい。話しかけても、体を揺すっても何も反応がなく、まるで糸の切れた人形のような有り様だったとか。

 

 今までがそんな感じだったからか、私のお世話係をしていたメイドさんは大層びっくりしたそうだ。まぁ、今まで人形みたいにうんともすんとも言わなかった女の子が急に「腹減った」とか言ったらそりゃびっくりするよな。二重の意味で。

 とまぁ、そんな感じで私の第二の人生は幕を開けたわけだが……今回の人生、かなりの勝ち組で転生してしまったらしい。

 

 まず第一に、この体はめちゃくちゃ運動神経がいい。

 

 イメージした通りに体が動くし、どれだけ走っても息切れすら起こさない。前世の頃の平凡だった肉体とは雲泥の差である。そのハイスペックさが楽し過ぎて、お世話がかりのメイドさんと追いかけっこをしていたら先にメイドさんの方がバテる始末である。5歳の子供に負けるとか恥ずかしくないんですか?(煽り)

 

 そして第二に、この家はとてもお金持ちだ。

 

 どこまで続いてるんだと言いたくなるほどの荘園と、前世だったらお目にかかることすらなかった程の大きなお屋敷。ぶっちゃけこれだけでもう十分すぎるほどに勝ち組だと思う。まぁ、住人は私と母親とメイドさん二人しかいないという、宝の持ち腐れ状態なんだけどね。

 

 そして最後に、この体はとても美少女だ。

 

 肩まで伸びたクセの無い艶やかな銀髪、くりくりとした可愛らしい銀色の瞳、そしてシミひとつ無い白磁のような肌。成長したら確実に美人になることが約束されているような、超がつくほどの美少女だった。ぶっちゃけ、前世の自分が見たら一目惚れしてしまうような美少女だと思う。

 もうね、鏡を見たら目の前に絶世の美少女がいてびっくりしたよ。思わずその場で鏡に向かって「結婚してください!」とか言っちゃったもんね。そのコントみたいな光景を見ていたお世話係のメイドさんは若干引いていたが。死にたい。

 

 という感じで、なんの不満もない今世なのだが、一つだけ気がかりになっていることがある。

 

「エレーナ」

「あ、お母様!」

 

 私がメイドさんと屋敷の中庭で追いかけっこをしていると、メイドさんに押され、車椅子に座った母がやって来た。そう、私が唯一気になっているのがこの母の事である。

 母は私と同じく銀色の髪に銀色の瞳をしている美しい女性なのだが、私と違って体がかなり弱い。それはもう、風邪とか引いただけで命の危険があるレベルだ。だから普段は病院にいて、滅多に家に帰ってくることはないのだが────今日はどうやら調子がいいらしい。

 

「お帰りなさい! お母様、今日はなんだかとっても顔色が良さそうだわ!」

「ふふ、そうね。お医者様にもお墨付きをもらってしまったの」

 

 私は一直線に母の下へと駆けて行って、そのまま母の胸に飛び込んだ。もちろん、母の体に負担を掛けないよう、細心の注意を払いながらだが。あぁ〜、ふかふかなんじゃぁ〜。

 

「今回はどのくらいお家に居られるの!? 一週間、一ヶ月、それとも一年かしら!?」

「あらあら、この子ったらよくばりさんね。大丈夫、もう病院には戻らなくていいと言われたの。だから、これからはずっと一緒よ、エレーナ」

「本当!?」

 

 まさしく花の咲いたような笑顔を浮かべ、私は母にぎゅーっと抱きつく。いやぁ、よかったよかった。生まれてこの方それだけが心配だったから、その唯一の心配が解消されて何よりだ。

 自慢じゃないが、私は重度のマザコンなのだ。そりゃもう、自他共に認めるレベルというか、母以外の女性を好きになるとかあり得ないというか。とにかく、それくらい私は母のことが大好きなのである。

 

「ぜー、はー……お、お嬢様、少しお待ちを……う゛ぇっほ、げっほ!!」

「ライサ、はしたない」

「はぁ、はぁ……んなこと言ったって、しょうがないでしょゾーヤ……お嬢様に付いてくのがどれだけ難しいと思ってんの……げほっ」

 

 私に少し遅れて、お世話がかりのメイドさん、ライサが息を切らしてこちらへやってきた。その様子を、もう一人のメイドであるゾーヤは冷ややかな目で見つめていた。

 ライサは私のお世話係をしてくれているメイドさんで、ゾーヤは母のお世話係をしているメイドである。基本的に二人ともすごく優秀で、炊事・洗濯・掃除なんでもござれで、もう出来ないことは無いレベルで器用なメイドさん達なのだ。

 

「ライサ、いつもありがとう。エレーナを任せきりにしてしまってごめんなさいね」

「いっ、いえいえ、そんな滅相もない! お嬢様と過ごす時間はとても楽しくてこれ以上ないくらいの幸福でありますとも! むしろこちらからお願いしたいくらいと言いますか! というかもうお嬢様のことは全て私にお任せください! この命にかけて完璧に職務を全うしてみせます!」

「うふふ、そう言ってくれるとありがたいわ」

「…………」

 

 薄々思ってたけど、こいつロリコンだよな……しかも結構重度の。おふろに一緒に入ってる時とか、私を見る目がヤバいもん。私がハイスペックボディの持ち主じゃなかったらとっくに襲われてるところだ。

 

「粛清」

「あだぁー!? い、いきなり何すんのゾーヤ!!」

「お嬢様を(よこしま)な目で見た。だから殴った、それだけ」

「見てないっつーの! 変な言いがかりやめてくれますぅー!?」

 

 暴走しかかっていたライサの頭を、ゾーヤが音速の拳で殴りつけた。ロリコンというわかりやすい欠点があるライサと違い、ゾーヤは正真正銘完璧なメイドさんだ。まるで機械のように冷静に、完璧に仕事をこなすパーフェクトメイドさんなのだ。

 

「さぁ、お嬢様こちらへ。私が悪の変態ロリコンメイドから守って差し上げます」

「だーれが悪じゃコラァー!」

 

 あ、ロリコンって部分は否定しないんだ。じゃあもう確定ですね、うん。

 

「あーもー! 今日こそはお前をぶっ倒してお嬢様をいただいてやるわ、ゾーヤ!」

「ふっ……できるものならやってみなさい、ライサ」

「うふふ、ライサとゾーヤは今日も賑やかで楽しいわね」

「お母様……」

 

 そして母は超がつくほどの天然さんだ。いや、別に全然構わないんですけどね。むしろそんなところが一番の魅力っていうか。でも、娘の貞操がかかってるような会話を賑やかの一言で済ませるのはどうかと思う。

 

「さぁ、お屋敷に入りましょうエレーナ。今日はあなたの大好きなヴァトルーシカを焼いてあげるわ」

「本当!? やったー!」

 

 自慢じゃないが、母の作るお菓子はこの世のものとは思えないくらい絶品なのだ。体の問題が無かったら、文句なしでパティシエになれていたと思うくらいの腕前である。

 

「ライサ、ゾーヤ。あなた達も手伝ってくれるかしら?」

「ぐるるる……ハッ! は、はい! もちろんですとも!」

「……右に同じく。全身全霊でお手伝い致します」

 

 さっきまで鬼の形相でいがみ合っていた二人だったが、母が一声かけるとすぐさま元の完璧メイドに元通り。うん、マジでこういうところは凄いと思う。一瞬で清楚なメイドに早変わりだもん、マジ凄いと思うわ。

 

「お母様、お手を」

「あらまぁ。ふふ、ありがとうエレーナ」

 

 私は母の隣に立ち、その手を取る。

 

「おかえり、お母様!」

 

 車椅子から立ち上がって、母は私のエスコートで屋敷の玄関まで歩いて行く。こうして手を繋いで歩いていると、まるで普通の親子になったように思えて────私は自然と笑顔になってしまうのだった。

 

 

⭐️⭐️⭐️

 

 

「はぁ、はぁ……ここまで来れば、大丈夫でしょ……!」

 

 先程の大通りとは対照的な程に静かな、薄暗い路地裏にて。私をあの場から助け出してくれた人は、ゼーゼーと肩で息をしながら壁に背を預けていた。

 くすんだ金髪を後ろ手に一つで纏め、動きやすいラフな服装をした女の人だった。歳は……20とかそこら辺かな。お肌のハリ的に。

 

「あ、ごめんね、いきなり引っ張ってきちゃって……なんか如何にもピンチって感じだったから、ほっとけなくて」

「Спасибо」

「え、あ……ど、どういたしまして。あれ、日本語喋れるよね?」

「喋れますよー」

「だよねビビったー! わたし、ロシア語は基本的な単語しか分かんないからさー!」

 

 目の前の女性は大げさな仕草で胸を撫で下ろす。賑やかな人だな、なんて思いながら私は微笑みを浮かべた。

 

「これも神のお導きでしょうか……お名前をお伺いしても?」

「あ、うん──わたしは柊雪って言います。好きなように呼んでね」

「では、柊さまと」

「さ、さま!? いやいや、それは流石に大仰だってー!」

 

 私がそう呼ぶと、柊さんは照れくさそうにはにかんだ。うーむ、なんだこの人かわいいな。なんていうか、普段そんなに笑わない人っぽい。その証拠になんだか笑顔がぎこちないように見える。

 でも、だからこそ笑った時の破壊力は抜群と言える。そういうのは恋人にするものですよ、絶対勘違いする人が出てくるからね。

 

「それにしても、どうしてあんなところでヤクザなんかに捕まってたの?」

「はい、私なにぶんドジなもので。地図を見ながら歩いていたところ、先程のおじさま方にぶつかってしまったのです」

「地図……失礼だけど、スマホは?」

「申し訳ありません。幼き頃から修道院暮らしのこの身、あのような高価なものに触れる機会などある筈も無く……」

「持ってないってことねー」

 

 柊さんはガシガシと頭をかいて、困ったように宙を仰いだ。

 

「えっと、日本に来た理由は観光……って雰囲気じゃないよね。もしかして人探しとかだったり?」

「まぁ、さすがは柊さま、なんでもお見通しですのね。お察しの通り、私はとある人を探してロシアからはるばるやってきたのです」

「いやぁ、ははは……(当てずっぽうだったんだけどなぁ)」

 

 当てずっぽうだったんだろうなぁ。目がそう言ってるもん。

 

「でも、そういうことならわたしも力になるよ。これも何かの縁ってやつで!」

「よいのですか?」

「もっちろん! こんな中途半端で投げ出したら、スタジオ大黒天の名が泣くってものだよ!」

 

 どん、と柊さんは自分の薄い胸を叩いて、自信げに口角を上げた。ふむ、じゃあせっかくだしお願いしてみようかな。ハッキリ言って、なんのコネもない状態でこの日本という広い国からたった一人を探し出すっていうのも、結構現実的じゃない道程だったもんね。ご好意には存分に甘えさせてもらおう、うん。

 

「じゃあ、まずはその探してる人の名前を教えて? 有名な人だったらスマホで簡単に出てくるかも知んないし!」

「はい、それではお言葉に甘えて。私の探している人の名前は────」

 

 私は口を開いて、探し人の名前を告げる。

 

「黒山墨字」

「んん!?」

 

 私が、幼い頃から殺したいほど逢いたいと思っていた肉親の名前を。

 

「私の、父です」

 

 

「ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!?????」

 

 

 目の前で、目玉が飛び出さんばかりに驚いている柊さんに告げた。

 




【エレーナ・黒山・ノヴィコフ】

年齢:16歳
誕生日:12月24日
身長:173cm
血液型:A型
職業:修道女
好物:母の作ったお菓子、母の作った料理
趣味:お祈り、お昼寝、お説教
好きな映画:「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「となりのトトロ」「黒山墨字の映画」
『ジブリ大好きっ子。修道院の自室で、よく他のシスターと共に見ていたようだ』

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