パパ、認知して   作:九龍城砦

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ちょっと、偉大なる先人たちに引っ張られて勢いで書きあげてしまいました。
いや、2作品同時はズルい。こんなん書くしかないじゃん。


魔女の宅急便

 やってしまった。

 今世紀最大のミスを犯してしまった。

 

「あの……わたし本当に気にしてないから、もう頭を上げて、エレーナちゃん?」

「もうすこしこのままでいさせてください」

 

 死にたい。ちょっとナイアガラの滝で紐なしバンジーして死にたい。恥ずい。いやもう、何ていうか……死にたいを通り越して消えたい。

 

「二人とも、ごはん冷めちゃうよ?」

「もぐもぐ……わ、これおいしい」

 

 時刻は朝。夜凪さん宅の居間にて、私は深々と土下座をかましていた。先刻見せた醜態のせいで、頭の中がヤバい事になっている。

 夜凪さんを励ますつもりが、夜凪さんの記憶に逆に取り込まれて、動けなくなって余計に心配かけるとか、マジで何やってんだろうって感じだ。

 

「ひとまえでいきなりなきだすなんておとなしっかくですちょっとそこらへんでにゅうすいじさつしてじんせいりせっとしてきますね」

「まって、それはご近所さんの迷惑になるわ」

 

 離せー!私は自由になるんだー!肉体という檻から魂を解き放ってやるんだー!

 

「どう鎮めればいいのかしら、これ」

「ルイ、テレビで見たことある! 暴れる人の首をこう、トンってするの! そうすれば大人しくなるよ!」

「首をトン……こうかしら?」

「うきゅっ☆」

 

 い、息がっ……!?

 

「おねーちゃん! 前とうしろ逆だよ!」

「思いっきりするどい手刀が入った……」

「わ、ごめんなさい! 大丈夫、エレーナちゃん!?」

 

 う、うーむ、実を言うとちょっと危ない……この体でこんなダメージ受けたの久しぶりだわマジで。意識飛びかけたよ。

 前々から思ってたけど、夜凪さんって身体能力のスペックバカ高いよね?今の手刀で確信したわ、もう。

 

「ゲホッ、ゴホガホッ……だ、大丈夫ですよ、体は頑丈な方なので……あ、あ〜、うん、よし治りました」

「それはそれでどうなの?」

「エレーナおねーちゃん大丈夫?」

「ノープロブレムですとも!」

 

 この体は自然治癒力も凄いからね。ちょっと喉が潰れたくらいじゃ、どうってことないのだ。

 

「ほ、本当に大丈夫……?」

「大丈夫ですよ。夜凪さんって、意外と心配性なんですね」

 

 ここらへんは昔の、それこそお母さんの死が糸を引いてるのかもしれない。こればっかりはなぁ……どうにもできないし、黙っておくしかないだろう。

 

「だって……」

 

 バツが悪そうな顔をしてるところ悪いけど、そろそろお腹が減ってきたので朝食にしたいんだけどな。

 ちなみに今日の朝食は、これからお世話になるお礼ということで、全部私が作らせてもらった。母直伝、ロシアの家庭料理スペシャルだ。

 まぁ、本物の材料は無いから、夜凪家の冷蔵庫にあった野菜とか果物でそれっぽく作っただけなんだけどさ。味は保証するよ、うん。

 

(うむむ……どうしましょうか。ごはんのこと考えてたら、本格的にお腹減ってきました……)

 

 となれば、アレを試してみるか。夜凪さんの記憶を覗き見たときに、色々と見えてしまったからね。せいぜい有効活用させてもらおう。

 私は少しだけ息を吸って、目を閉じて、()に仕舞ってあった思い出を引っぱり出した。

 

「しんみりしちゃヤですよ。夜凪さんは困ってる顔より、笑ってる顔の方が何百倍も可愛いんですから」

「えっ?」

 

 記憶の中にあったニッコリスマイルを創って、夜凪さんに笑いかける。すると夜凪さんは一瞬だけキョトンとした表情をして、その直後に視線を逸して頬をほんのり朱色に染める。

 

 ッスゥ〜〜〜〜〜〜〜〜────

 

 KA★WA★I★I

 

 いつもクールで天然なのに、その反応は反則でしょうよ。今だって、普通に「そう、ありがとう」って軽く流されるのは覚悟してたんですよ。

 

 なのになんですかその反応は。

 

 惚れてまうやろ。

 

 っていうか今惚れた、惚れ直したわ。

 

「……………………………………」

 

 んで、そんな珍しいテレテレ夜凪さんの後ろで、般若みたいな形相でこっちを見てる幼女がいるんですけど。怖い怖い、レイちゃん怖いよ。ゴメンって、また下手な演技見せちゃったこと謝るからさぁ。

 しょうがなかったんだって。しょんぼり夜凪さんを元気づけるには、これぐらいしか方法が思いつかなかったんだって。まぁ、最初に元気づけられてたのは私のような気もするけど、そこは気にしない方向で。

 ほら、夜凪さん元気になったし、結果オーライってことで許してください──という意図を込め、両手を合わせて頭を下げてみる。日本に古来から伝わる、ゴメンナサイのポーズだ。

 

「…………はぁ、ぼくねんじん」

 

 なんかため息つかれた。えっ、なんで?

 

「おねーちゃん、はやく食べないとがっこう遅れちゃうよ?」

「あ、ホントだもうこんな時間!」

 

 弾かれたように立ち上がり、時計を確認して慌てる夜凪さん。いや、そんなにあわてなくても大丈夫なのでは……だって今日は。

 

「夜凪さん、夜凪さん」

「お弁当も作ってないし着替えも──」

「今日、日曜日ですよ」

「──あ」

 

 何この生物、かわいいの化身かよ。

 

 

⭐⭐⭐

 

 

「…………」

 

 黒山墨字は映画監督だ。

 常に最高の映画を撮ることだけを目的とし、人生のすべてをそれに捧げている職人(キチガイ)だ。

 そんな黒山であるが、過去に一度だけ、映画とは無関係の時間を過ごしていた時期がある。今となっては映画作成の糧となっているが、当時は無駄としか思えなかった時間が。

 

「…………」

 

 スタジオ大黒天の編集室にて、黒山は一本のビデオテープを眺めている。

 古臭く、埃を被っているそれは、たった今部屋の棚から引っ張り出してきた過去の遺物。

 

「……ハッ、大概女々しいな、俺も」

 

 ガシガシと頭を掻きながら、ビデオテープをデッキに入れる。テレビのスイッチを入れると、そこには見慣れた砂嵐が映し出された。

 

『──ん──ですか──とって──っる──』

 

 徐々に砂嵐が治まってくると、そこには一人の女性の姿が映っていた。銀色の髪に銀色の瞳、そしてこちらに向ける柔らかな陽光のような笑顔。

 その外見はエレーナと酷似していた。しかし、そっくりそのままという訳ではなく、いくばくか年老いている。

 エレーナが順当に歳を重ねればこうなるのだろう、と思わせるほどには、女性の容姿はエレーナそのものだった。

 

『ふふっ、綺麗に撮ってくださいね』

 

 その女性が、画面の中で微笑む。普通の人が見れば一発で虜になるような、老若男女別け隔てなく虜にするような、そんな神々しい──魔性の──笑顔だった。

 

「懐かしいな……アナスタシア」

 

 普段の黒山からは考えられないような、酷く弱々しい声色の呟きだった。

 眉をひそめ、口をむすび、揺れるひとみで画面の中を覗き見る。

 画面の中の女性が、こちらを見ている。しかし、画面の中の女性は黒山を見ていない。

 

『え、急にそんなこと言われても……こ、こうかしら?』

 

 華々しいドレスを着た女性が、ドレスの裾を摘んでお辞儀をする。それはとても洗練された、物語に出てくるお姫様がするような、そんな所作だった。

 

「…………」

 

 黒山は、そんな女性の姿をじっと見つめている。暗闇の中でテレビの光だけを反射するその瞳に、過去の憂いと慙愧の念がこびりついているようだった。

 

「ったく、外面が良いのは間違いなくお前譲りだよ」

 

 いつものようにガシガシと頭をかいて、いつものように悪態をつく。そのいつも通りが、かえって今の黒山の不自然さを際立たせていた。

 そうして、画面の中の女性がひとしきりお姫様らしいポーズを取ると、最後に誰かの手を取る場面で映像は終わっていた。

 止まったままになったテレビの画面を見て、黒山は何かを吐き出すように深いため息をついた。

 

「はぁー……厄介な置土産、残していきやがって」

 

 手を伸ばして、テレビの画面に触れる。もちろん、指先に伝わるのはガラスの感触。人肌の柔らかさなどでは決してない。

 だけど。それでも、今の黒山には、確かにアナスタシアの温もりが感じられた。

 

「あいつの面倒は俺が見てやるよ。まぁ、少し厳しくはなるがな」

 

 黒山は、画面の中で微笑むアナスタシアに誓う。

 

「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす──っていうだろ?」

 

 いつもとは全く違う──泣きそうな──鋭い無表情のまま。

 

 

⭐⭐⭐

 

 

 世の中の子供は、皆ごっこ遊びが好きである。いや、皆というと語弊があるかもしれないので、全体の8割ぐらいは好きであるということにしておこう。かくいう私も子供の頃はごっこ遊びが好きだった……ような気もする。覚えてないけど。

 とにかく、子供は何かを真似するのが大好きなのである。それはやはり、人間が誰かと繋がる事を本能的に求めているからなのだろう。

 

 だからこうして、子供は誰かになりきろうとする。

 

「さぁ来いウルトラ仮面! 実は私は一回殴られただけでやられるぞー!」

「出たなー、悪いかいじんめー! てやー!!」

「ぐわー! 負けたー!」

 

 どてーん、と大袈裟に畳に転がる。今しがた私に自慢のパンチを食らわせた、ウルトラ仮面ことルイくんに、倒れながらもこっそりと視線を向けた。

 

「やったー! やっつけたー!」

 

 キラキラとした笑顔で、やっつけた怪人である私を見下ろすルイくん。うーむ、可愛い。夜凪さんやレイちゃんとはまた違った愛らしさがあるよね。元気いっぱいな所がとても可愛らしい。

 そんなルイくんの笑顔に応えるために、私は倒れた姿勢から、勢いよくバク転してそのままの勢いで立ち上がる。

 

「ふっふっふ……貴様を倒すために地獄から蘇ってきたぞ、ウルトラ仮面! さぁ、覚悟せよ!」

「…………」

「って、あら?」

 

 なにやらポケーっとした表情のまま、ルイくんは私の顔を見つめている。なんだろう、今のシチュエーションとセリフはイマイチだっただろうか。

 そんなふうに思っていると、ルイくんはとたんに目を輝かせてはしゃぎ始めた。

 

「うわーすごい! エレーナおねぇちゃん、スタントマンみたい!」

「え、そ、そうですか? えへへ……」

 

 子供の純粋な尊敬の視線を前にして、私は柄にもなく頬を緩ませてしまっていた。

 いやだって、普通に嬉しいでしょう、ストレートにこんなこと言われたら。

 

「もっと色んなことできる!?」

「もちろんです。あ、じゃあ今からお外に遊びに行きましょう。良いところに連れて行ってあげますよ」

「いいところ?」

 

 私が人差し指を立てて提案すれば、ルイくんは興味津々といった様子でこちらを覗き込む。

 あー、まぁ、いいところとは言ったけど、私にとってのいいところなので、ルイくんにとってはどうかなぁ。

 

「夜凪さーん、ちょっとルイくんと出かけてきますねー」

「はーい。夜ご飯までには帰ってきてねー」

 

 家の中を掃除中の夜凪さんとレイちゃんに断りを入れて、私はルイくんを連れて外へと飛び出す。

 とりあえず連れてってみるか。ダメだったら、お菓子でも買って帰ることにしよう。

 

「ねぇねぇ、エレーナおねぇちゃん、どこ行くの?」

「ふふ、いい景色が見えるところですよ」

 

 今はちょうど夕方だし、絶好の時間帯だ。あそこから見る夕日は絶対気にいると思うんだよね。

 

「ときにルイくん、ジェットコースターはお好きですか?」

「うん! 大好き!」

「それは良かった」

 

 なら、こっちの移動方法で良いだろう。時短にもなるし、スリリングでワンダフルだし、良いことづくめだ。

 確認も取ったので、私はルイくんを背負い上げて、しっかりと抱き締める。

 

「わわっ、何するの、エレーナおねぇちゃん?」

「楽しいことですよ」

 

 絶叫マシーンが大丈夫なら、これも大丈だろう。もちろんスピードは抑えるし、むしろ絶叫マシーンよりは緩い感じだし。

 

「行きますよ──とぅっ!」

 

 私は助走をつけて、目の前の家の屋根までジャンプした。

 二階建ての日本家屋その屋根の上に、私はルイくんを抱えたままジャンプしたのだ。

 

「うわぁ〜! あはははは!」

「大丈夫ですか、ルイくん」

「うん、平気! もっとやって、もっとやって!」

「それはよかった」

 

 着地して、感想をルイくんに訊ねる。どうやら好評だったようだ。

 ならば、もう憂いは無い。一気にあの場所まで駆け抜けてしまおう。

 

「わぁ~! はやいはやーい!」

「こらこら、はしゃぐと落ちますよ」

 

 まぁ、万が一──いや、億が一に落ちても絶対に怪我なく受け止めて見せるけどね。というか、そもそも落とさないし。

 と、そんな風にはしゃぐルイくんをたしなめ、屋根の上を跳び移るNARUTOごっこをしていると、徐々に目的地が見え始めてきた。

 

「そろそろ着きますよ──って、あれは……」

 

 目的地である建物の屋上に、一つの人影が見えた。夕日を見つめて微動だにしないその人影には、見覚えがあった。というか、見覚えしかないシルエットだった。

 

「はいっ──っと、到着で〜す」

「面白かった!」

「それは何よりですね」

「……おいおい」

 

 そのまま屋上に着地した私とルイくんを見て、その人影が呆れたように頭をかいている。

 お邪魔しちゃっただろうか。一人で夕日を見てるとか、センチメンタルな気分だったんだろうか。

 

「なんだってシスターが空から降ってくるんだよ。空から降りてくるのは神様だろうが」

「神様だったりして」

「ぬかせ」

 

 まぁ、そんなセンチメンタルなんて感じさせないんですけどね。せいぜい雰囲気ぶち壊してやりますよ、ええ。

 

「あ、ふしんしゃ!」

「誰が不審者だ、俺は映画監督だっつの」

「まず目つきを改善すべきですね。あと、髭を剃ってファッションにも気を配るべきです」

「うっせぇ。お前は俺のお袋か」

 

 相変わらずの切り返し。呆れたように、見透かしたように、この男は私を見つめている。

 

「で、こんなところに何の用だ」

「ちょっとこの子に、キレイな景色を見せてあげようと思いまして」

 

 これは本当のこと。でも、わざわざ説明すると建前っぽくなってしまうから。

 私はルイくんを連れて、父の前に出る。地平線に沈みかけている夕日が、一面の景色を茜色に染め上げている。レイちゃんと見た夕日もキレイだったけど、やっぱり高いところから見る夕日は格別だ。

 特に、この街は夕日がキレイに見える気がするから、よけいに。

 

「わぁ〜!」

「綺麗ですね」

「…………」

 

 はしゃぐルイくんと、静かに夕日を見つめる親子二人。いや、美女と野獣って表現したほうがいいだろうか。

 まぁその野獣さんは、絶賛センチメンタルな感じになってるみたいだけど。

 

「何かありました?」

「何もねーよ。()の事情をいちいち詮索すんな」

 

 ん?

 

「いやいや、気になるでしょう。いつも自信満々なのに、今日は元気なさげですので」

()()が心配することじゃねぇっつーの」

 

 んん?

 

「あの……」

「いい加減しつこいなお前も。そういうところは()()()そっくりだぜ」

 

 ああ、そういう。さっきからちょいちょい、言葉の端々に気になる単語があったから、何かと思えば。

 

「ふふっ」

「あん?」

 

 今は、気づいても言わないほうがいいだろう。本人が気づいていないのだから、他人が指摘するのは野暮ってものだ。

 

「いえ──夕日が綺麗だなと思いまして」

「……そうか」

 

 それだけ言って、私たちの会話は終わった。これ以上は、言葉を重ねても無粋になるだけだ。

 

(ホント、不器用なんですから)

 

 屋上ではしゃぐルイくんを見つめながら、私はぼんやりとそんな事を考えていた。

 

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