ナンバーズ!!   作:通りすがりの猫好き

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お久しぶりです…。書くモチベ失ったりしてるうちにこんなに間隔が空いてしまいました。


歓迎会

 「おら、もう一本行くぞ!!」

 

 「す、少し休憩は……」

 

 「んなもんあるか!お前は人一倍練習しなきゃな!」

 

 春キャンプ。息も絶え絶えになりながら一原はひたすらノックを受けていた。

 

 「先ほども言ったように、君は内野手として起用するつもりだ。だから最低限守れるよう、みっちり練習してもらうぞ」

 

 漆原監督が予告していたように、待っていたのは守備練習だらけの日々だった。

朝に早出してはマンツーマンでの特別指導、午前は他の野手に混ざって守備練習。

午後の打撃練習を挟んで走塁練習、そして最後におまけとばかりに鬼のようなノックが入る。今は最後の鬼ノックを受けている所だ。

 

 流れる汗が頬を伝う。ここまで徹底的に練習したのは一原にとって初めての経験だ。

一時期は本当に練習のし過ぎで倒れるんじゃないのかと思ったほどだった。体勢から送球まで教わった動きをとにかく体へと刷り込ませる。いつかはここで教わった事を感謝する日が来るのだろう。……多分、きっと来るはずだ。

 

 

 (ふん、中々筋はあるみたいだな)

 

 北海道ベアーズの守備走塁コーチを務める北方謙二は中途半端に伸びたあごひげをさすりながら感心していた。一原は練習漬けで今にも死にそうな顔をしているが、動きは格段に良くなっていた。守備はまだまだ改善の余地あり。送球も偶に一塁手の頭をとうに超えるような暴投もする。それでも所々に光るものを北方は感じとっていた。

 

 (そんで何より、漆原の言う通り地肩がいい)

 

 北方が特に目を見張ったのは肩の強さだ。多少体勢を崩されようともノ―バウンドで届くのは充分な武器たりえるだろう。後は基礎を固めるだけか。ちらりと時計を見やると、短針は六時を過ぎていた。本当はもう少し練習を続けたいところだが、今日は先約がある。

 

 「よし、今日の練習は終わりだ!荷物を片付けて早いとこ行くぞ」

 

 「……?行くって、どこにですか?」

 

 「何だお前、聞いてないのか?……歓迎会だよ。お前らのな」

 

 

 「ッシャ―――、飲んでるかオメ―ら!!」

 

 北方の車で宴会場に着くと、既に何人かは出来上がっているようだった。

入った瞬間、視線が一気に一原の元へと集中する。

 

 「お、主役が来たみてーだな!ほれほれ、こっちに来いよ!ルーキーも含めて自己紹介してもらうぞ――!」

 

 先ほど先頭でマイクを持って盛り上げていた男の声で、一原は強制的に前へと押し出される。

横を見れば、ルーキーらしい数人が隣に歩いてきていた。

 

 「よーしじゃあ名前とポジション!後は今後の目標について話してもらおうか!まず一原からな!」

 

 そう言ってマイクを手渡される。

いきなりの事態に言葉が詰まる。

―――こういう時、一体何を話せばいいのだろうか。

学生の頃からこういった空気は苦手だった。

 

 「え――、タイタンズから移籍してきました一原数人です。ポジションは…今のところサード。目標としては、……その、3割30本塁打30盗塁を目指しています」

 

 拍手といいぞーという歓声があがる。どうやら下手な事は言わずに済んだようだ。ほっと安堵してマイクを隣の大男に手渡す。

 

 「大学からドラフト一位で入団した五十村(いそむら)裕也です。ポジションは投手。目標は相手打者のバットを十本以上折る事です」

 

再び大きな歓声が上がる。―――いやおかしいだろ。バットに恨みでもあるのかコイツは。なんて思っている間にもマイクは左へと流れていく。そして一人ずつ目標を話して、左端までマイクが渡ったあと、再び選手達は酒を片手に騒ぎ始めた。

一原達も適当に割り当てられた席に座らされた。

 

 「よっす一原!随分お疲れみたいだけど大丈夫か?ほれ、水」

 

 自分を呼ぶ声に思わず振り返る。見上げてみれば最初にマイクを持っていた男だった。

 

 「あ、どうもありがとうございます。…えっと」

 

 「二葉だ。二葉昴(ふたば すばる)。年はお前の二個上だ。ポジションは外野。よろしくな」

 

 「……あぁ、二葉先輩ってあの」

 

 名前を聞いて思い出した。彼は一原が一年の頃に甲子園を沸かせた選手の一人だ。

中でも準々決勝で見せたレーザービームは今も高校野球ファンの間では語り草になっている。プロに入ってからは目立った噂もなく、対戦した記憶も無かった。

 

 「お―――知ってんのかオレの事!そうかそうか!嬉しいな――!!」

 

 二葉は声を上げて笑いながら無遠慮に背中を叩いてくる。正直背中が痛い。

この人もこの人で面倒くさそうだ。

 

 「痛いっす」

 

 「おっとわりぃわりぃ。酒のせいでついテンションが上がっちゃってな」

 

 「でもまぁ、俺らの世代じゃ知らない奴はいないと思いますよ」

 

 その一言に、二葉は分かりやすく顔を輝かせた。

一原の肩に両手を当て、大きく体を揺すってくる。

 

 「そっか――!そっかそっか――!!困っちゃうなぁ有名人で!!何せ今年こそレギュラー奪えそうだしな――!!」

 

 「お前にレギュラーなんざ百年はえーわ」

 

 二人の会話に割り込んできたのは、一原の隣に座る大柄の男だった。

筋肉質な体型は野球選手にしては線の細い二葉とは対照的だ。強面で、何とも言えない近寄りがたさがある。

 

 「あぁ?何か言ったか十九川(とくがわ)ぁ?」

 

 「打率二割前後の奴がレギュラーを取れるほどここの外野陣は甘くねーよ」

 

 「ほーお?言ってくれんじゃん一軍に来る度炎上する三流投手が」

 

 「お?やるか!?」

 

 「あぁん?」

 

 一触即発とはまさにこの事だ。とりあえず俺を挟んで言い争うのは勘弁してほしい。飯に集中できない。一原は火花を散らす二人から逃げ出すように間をすり抜け隣の席へと移動し、対面に座る浅黒い肌をした男に助けを求める。

 

 「あの、二人が喧嘩始めちゃったんですけど……止めてくれません?」

 

 対面に座る男はにらみ合う二人を一瞥すると、僅かにジョッキに残ったレモンサワーを飲み干す。

からん、とジョッキの中の氷が響く。そうして一呼吸置いた後、ようやく怠そうに口を開いた。

 

 「あぁ、あの二人なら大丈夫だよ。あれで通常運転だし」

 

 「え、でもここから殴り合いに発展なんてしたら……」

 

 男は少し吹き出し、手を横に振る。

 

 「ないない、あいつらそういう一線は絶対超えないから!むしろ十九川が投げる時の二葉なんて気合がすごいからな。同期としてお互いに切磋琢磨するライバルみたいなもんよ」

 

 「ちょっとノエさん!そういう事言わないってお約束!!」

 

 ……ライバルか。そんな奴、タイタンズ時代にはいなかったな。

同期は年上ばかりであまり自分からも関わろうともしなかったし。

 

 「……少し、羨ましいっすね」

 

 自然とそんな言葉が喉を突いてでた。

ハッとして顔を上げれば、ノエさんと呼ばれた男が穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 「ま、ライバルなんて勝手にできるもんよ。そう気にするもんじゃねぇから安心しな。それにサードなんてうちじゃかなり争いが厳しいぞ?ちょっと数えてみただけでも五人はいるからな、お前含めて」

 

 「そうですか。何かそれを聞いて安心しました」

 

 「そういや自己紹介がまだだったな。俺は九重優(ここのえ ゆう)。ポジションは捕手だ。お前、投手やってたんだって?」

 

 「はい。といっても、成績はからっきしでしたけどね」

 

 「そりゃ来て早々打者転向させられるくらいだ、よっぽど投手として酷かったか、野手としてのポテンシャルの高さに惹かれたかのどっちかだろうな。ま、今度慣らしがてらにキャッチボールでもしようぜ、お前がどれほどの投手だったか俺が見てやるよ」

 

 そう言って九重はケラケラと笑う。酒の影響か九重の人柄かは分からないが、不思議といつもより話が弾んだ。さすがプロの捕手というべきか、言い知れない包容力がある。

 

 「ついでだ。お前のライバルになる奴を教えてやるよ。まず…あぁいた。おーい五島(ごしま)!」

 

 「あっ、はい!何でしょうか九重先輩!!」

 

 呼ばれて飛んできたのは体格の大きな優男だった。気弱さを感じさせる雰囲気こそあるが、細い眉に大きな瞳など整った顔立ちでいかにも女性受けしそうだ。

…この人も甲子園で確か話題になっていたような気がする。何て愛称で呼ばれていたっけ。ええと…

 

 「…『甲子園の貴公子』」

 

 その言葉に五島は分かりやすく顔を歪ませた。

 

 「うわぁ。その呼ばれ方、正直からかわれるから苦手なんだけどな」

 

 一原の一つ上の彼は甘いルックスとその顔に似合わぬ怪力で甲子園を沸かせていた。

特に女性人気が強く熱狂的なファンも多かった。ドラフトも2球団競合の末の1位だったはずだ。

 

 「あれ、でも五島さんってポジション捕手ですよね」

 

 「色んなポジションについてんだよ。うちが今求めているのは本塁打を打てる打者だからな。キャッチャーはまぁ、油断できないけど俺がいるし」

 

 九重は親指で自分の胸をつついてみせる。

 

 「で、お前確か三塁を守ってなかったか?」

 

 「それでも僕はキャッチャーとしてノエさんに勝ちたいですけどね。まぁ三塁もやらされるし、君のライバルってことになるのかな?僕は五島遙太(ごしま ようた)。まぁ仲良くしていこうよ」

 

 照れくさそうな笑顔から差し出された手に、生半可な返事をしながらその手を握る。

なるほど相当バットを振っているらしい。端正な顔に反して手は豆だらけだった。

 

 「でも一番のライバルは僕じゃなくて野木さんじゃないですか?僕は外野や一塁を守る事も多いですし」

 

 その一言に九重はポン、と手をつく。

 

 「あぁそうな。サードのレギュラーが欲しけりゃ一原もお前もまず野木さんを超える事だな」

 

 聞き覚えのある名前だった。野木一成(のぎ かずなり)。数年前までは不動の2番ショートとして活躍していた。現在は守備の負担を避けるために三塁手へとコンバート。打線も下位に下げられたものの、広角へ打ち分けられる打撃は健在だ。何よりの武器は守備力である。キャンプ中に彼の守備を観察していたが、とにかく無駄が無い。チームの中でも明らかに頭一つ抜けていた。

 

 「よぉ、俺の事を呼んだか?」

  

 振り返るとそこには笑顔の野木がいた。カーキ色のパーカーにジーパンを穿いている。五島と九重も直前まで気づいていなかったらしく、勢いよくむせていた。 

 

 「ゲホッゴホッ…の、野木さん、いつの間にここに」

 

 絞り出すような声で九重が呟いた。

 

 「なに、ちょっと挨拶に来ただけだ。それにしても…うん、中々いい顔してるじゃないか」

 

 「……ッス」

 

 じろじろと顔を観察してくる野木に対して、俺はほとんど言葉にならない返事しか出来なかった。

 

 「ま、俺からレギュラーを取るのは何年後になるかな。何にしてもレギュラー争い、楽しみにしてるよ」

 

 そう言って野木は背を向ける。その時何かのスイッチが入ったような音が頭の中で響いた。

何を思ったのか、気づけば口を開いていた。

 

 「……あ、あの!!」

 

 野木が振り返る。

 

 「ん、どうした?」

 

 「負けませんから。何年後とかの話じゃなくて、今年も来年以降も、俺は野木さんに勝つつもりでいます」

 

 そこまで言ってハッとした。何を言っているんだ俺は。大先輩に向かって。下手すればボッコボコにされるぞ。しかし、予想に反して野木は顔をほころばせた。

 

 「へぇ?そーかそーか、そりゃあ負けてられねーな!」

 

 そう言って今度こそ野木は自分のいた席へと戻っていった。みんな一安心したというように一つ大きく息をついた。……とんでもない事を言ってしまった気がする。というか言ってしまった。

 

 「いやー言っちゃったなぁ一原!」

 

 「すごいよ一原君、先輩相手にあんなに強気に出るなんて」

 

 「……それ以上言わないで下さい。今反省してますんで」

 

 その後は落ち込む俺を二人がひたすら励ます会になった事くらいしか覚えていない。

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、オープン戦へ!
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