試合は両者膠着状態に入ったまま、中盤を終えて終盤に入ろうとしていた。5回を互いに無得点で終え、両チームともに継投策に入る。6回の表、二死ながらツーベースヒットと進塁打でランナーを得点圏に置き、迎えるはこの日七番に入った一原。今日の成績はホームラン一本に四球、盗塁が一つとチームに貢献する打棒を発揮している。対する投手は育成選手ながら今年のキャンプ中からもずっと一軍に帯同している
セットポジションから入った初球、インコースにツーシームを投げ込み1ストライク。続く2球目はアウトコースギリギリへと入ってくるスライダーも審判が手を上げず1-1。3球目、糸を引くようなストレートにバットが振り遅れてこれがファールとなり1-2。追い込まれながらも一原の頭は普段通りに回っていた。心は熱く、頭は冷静に。頭の中で繰り返し念じて意識を集中させる。4球目に投げ込まれたストレートをカットしてファールで逃れる。5球目、低めにワンバウンドするスライダーを見送り、カウントは2-2とイーブンになる。そして勝負の6球目、長い間を取った後ようやく投球フォームに入った。
(来た!ど真ん中への失投!!)
一瞬ふわりと浮いたボールは力なく真ん中へ入っていく。それに合わせるようにバットを滑り込ませる。しかし予想と反してボールは緩やかな軌道を描いて低めへと落ちていく。ワンバウンドする球にバットは止めることができず、中途半端なスイングで三振となった。振り逃げを狙ったものの、キャッチャーが落ち着いて一塁に送球しあえなくスリーアウト、チェンジ。ベアーズは千載一遇のチャンスを逃すこととなってしまった。
(今のはフォーク…いや、パームか…?)
空を仰ぎながら一原は先ほど投じられた一球について考えていた。独特の軌道を描いたあの変化球には見覚えがある。高校時代、後輩が新しい変化球を覚えたと大はしゃぎしながら投げていた球と変化の仕方が酷似していたからだ。その時は三球目で見切ってホームランにしてやったが、今回の球はそれと違って非常にブレーキがかかったボールだった。
次は必ず打つ。ベンチでバッティンググローブを外して、頭の中で打つイメージを固めて闘志を燃やす。…片手にバナナを持ちながら。タイタンズで投手をしていた頃もよく食べていたが、沖縄で食べるバナナはやはり別格だ。袋の裏にはフィリピン産と書かれていたが、そんな事は重要ではない。食べ物とはどこで採れたかよりもどこで食べるかが大事なのだ。それはそうとバナナうまし。
「おい、お――い守備の時間だぞ。さっさと用意しろー」
「モグモグ…何ですか二葉さん。バナナならあげませんよ」
「いや、だからこれから守備だって」
「…モグモグ、ゴクン。今集中してるんで…」
「守備だっつってんだろ!バナナ食っとる場合かい!」
後ろから二葉に肩を揺すられ、現実に引き戻される。3アウトになっていたのを忘れていた。急いで残りのバナナを口の中に入れてグローブを取り出し、グラウンドへと駆け出した。
◇
ベアーズは6回裏に五十村を投入。その五十村は、首脳陣の期待に応えてホワイトソックス打線を三人とも内野ゴロできっちり抑えてみせた。七回は両セットアッパーが走者を出しながらも結果として0でしめる。均衡が破れたのは8回の裏。この回、抑え候補の2年目助っ人投手・ハンドが登板したものの、先頭打者に早速粘られる。最終的にハンドが折れ四球で出塁を許すと、続く打者に対してはストライクが一球も入らずストレートの四球。ランナーがたまったところでとどめの二点タイムリーツーベースヒットであっさりと勝ち越し打を浴びてしまう。
そして9回表、二死。ランナーなしで一原が打席に入る。ホワイトソックスは2年前から抑えを務める台湾の英雄・
燕がロジンバッグへと手をやり、白い粉が辺りへと舞い散る。おもむろにロジンバッグを投げ捨て、セットポジションから投球モーションに入る。左腕から繰り出されたストレートはうなりをあげながら勢いよくキャッチャーミットへと吸い込まれ、球審が右手を上げてストライクを宣告する。球場のスコアボードには151キロと表示されていたが、体感ではそれよりももう2,3キロほど早く感じた。矢継ぎ早に投じられた二球目はインコースいっぱいにカットボールが決まり一気に2つ目のストライクを奪う。そして追い込んでから投げられた3球目。
(…え、は?消えた?)
月並みな表現だが、本当に「消えた」としか言い表せない変化だった。アウトコースへのカットボールかと思われたそのボールは、一原の視界から逃げるように手元で大きく変化した。高速スライダーよりもさらに球速は速く曲がりは大きい。燕投手の名前を取って俗に「ツバメスライダー」とファンから称されるその変化球は左打者殺しの魔球だった。
「クソッ!全く変化が見えなかった…!」
スパイクで地面を蹴ってベンチへと引き下がっていく。先ほど対戦して三振に終わった青海とは全く違う感覚。手も足もでないとはまさにこの事だろう。この投手からははっきり言って打てるビジョンがわかなかった。終わり良ければ全て良しという言葉があるが、今回はそれと真逆の状態だ。気色の悪い感覚が頭にまとわりついて離れない。引きずらずに次の試合に向かわなければならないのに、最後に空振りしたあの球はこの先も脳裏について回るような嫌な感じがした。
「そんなに死にそうな顔すんなよ。二打席連続三振なんてよくある事だぞ」
「そうそう、九重先輩の言う通り!お前の場合深く考え込みすぎなんだよ」
「…俺、今そんなに怖い顔してますか」
ベンチに戻ると一原の表情をみかねたのか、九重と二葉が声をかける。二人から指摘されてようやく一原は自分が酷い顔になっていた事を自覚した。心配ないと無理に笑みを作ろうとするが、普段の表情筋が固いせいか中々上手くいかない。手で口角を無理矢理上げようとしたが途中であきらめた。そんな事をしたところて何の意味もないと気づいたからだ。
「まぁ気にするな!今日はホームランも打ってるし、初戦としては上々だろ!」
「…そうっスね」
九重の言葉に、一原は中途半端な返事を呟くほかなかった。
◇◇◇
【実況スレ】北海道ベアーズVS埼玉ホワイトソックス Part5
200:野球好きの名無し ID:Gsk2ge3Da
最後は三者連続三振で勝利!
お疲れ様でしたー
201:野球好きの名無し ID:da52DlDiL
マケタデー
切り替えて明日や明日
203:野球好きの名無し ID:SLde49DJk
サンキュー燕 フォーエバー燕
今年もよろしく頼むわ
204:野球好きの名無し ID:LE7r1kgar
う――ん一原三振か
燕の球に全然タイミングあってなかったな
206:野球好きの名無し ID:Le2ea8Dwk
キングスもグリーンも燕も最高や!
ずっとホワイトソックスにいてくれよな~
207:野球好きの名無し ID:Id34ALcc6
去年と課題は相変わらずだな
点が入るのは大体ホームランでタイムリーが出ない
チャンスに弱いのかそもそもチャンス自体を作れないのか
209:野球好きの名無し ID:wDig9a7ad
今日は良い選手と悪い選手がはっきり分かれてたな
一原と五島はナイスホームラン
細田とハンドは反省な
212:野球好きの名無し ID:Kde1i7gal
ワイの推しの五島きゅんが活躍したから満足や
今年こそはレギュラーに定着してくると信じてる
216:野球好きの名無し ID:ND18Kidea
キングスの一発で目が覚めたわ
っぱ野球は長打よ
217:野球好きの名無し ID:1DldAnc70
すまん、純粋な疑問なんやが
一原って長距離砲タイプなんか?
220:野球好きの名無し ID:Yk9wod2aw
>>217
高校通算本塁打30本以上でセンバツでもホームラン打ってるし長打力はある方だと思う。
長距離砲かどうかは知らね
221:野球好きの名無し ID:Dka38wond
ホワイトソックス打線強すぎて草生える
今年は日本一やね
222:野球好きの名無し ID:Fj63Enaiq
ハンドは相変わらずやね
四球四球で自滅じゃ守る方もどうにもならんよ
225:野球好きの名無し ID:4Cqo0gead
紫堂もいい当たりあったし若手が順調に育ってきてますわ
ホワイトソックス最高や!
228:野球好きの名無し ID:aor4SEs6T
>>225
当たりは良かっただけに運が無かったな。
にしてもあれで1塁ランナーアウトにしてくるとは思わんかったわ
一原お前ほんまに内野初めて1年目か?
233:野球好きの名無し ID:he61KKstr
>>228
あの守備+ホームランだからな。
三振二つは気になるけどこのままいけば野木のポジション奪えそう
五島と並んで貴重なホームラン打てる打者だし大事に育ててほしいわ
236:野球好きの名無し ID:v9Bw48hQi
ところで6回の守備につく時に一原が何か口をもごもごしてたけど何かあったんか?
240:野球好きの名無し ID:Opd10tYOu
>>236
現地観戦民たけどバナナ食ってたみたいやで
ベンチにいる内に食べきれなくて残りを一気に口に入れてたのが見えた
244:野球好きの名無し ID:v9Bw48hQi
>>240
サンキュー
にしても涼しい顔してバナナ食ってんの草生えるわ
選手名鑑①
一原 数人
身体能力の高さが目立つ大型内野手。元投手だけあって肩の強さは一級品である。芯に当たれば一発長打も秘めている厄介な打者である。性格は冷静かつストイックで、常に自分のバッティングについて貪欲に探究している。ちなみにフルーツが好物で、特にバナナを試合中にベンチで食べている場面がよく見られている。