魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:【side 松田優介】消えない想い(Fate)
      【side 高町まどか】溢れるパワー・無敵の勇気(nanoha)


12:魔法少女と正義の味方

 I am the bone of my sword.

 身体は剣で出来ている

 

 Steel is my body, and fire is my blood.

 血潮は鉄で 心は硝子

 

 I have created over a thousand blades.

 幾度の戦場を越えてなお 不敗

 

 Unknown to Death.

 ただ一度の敗走もなく

 

 Nor known to Life.

 ただの一度も理解はされない

 

 Have withstood pain to create many weapons.

 その男は一人剣の丘で勝利に酔う

 

 Yet, those hands will never hold anything.

 故にその生涯に意味はなく

 

 So as I pray, unlimited blade works.

 その身体はきっと無限の剣で出来ていた

 

 

 

 

【side 松田優介】

 

 俺の名前は松田優介。前世の名前は衛宮士郎。その前の名前は忘れてしまった。

 転生者同士の戦争『ラグナロク』のコマに選ばれ、アーチャーのカードを選んで「無限の剣製」を特典として望んだ。

 チートな能力と原作知識を駆使してリリカルなのはの世界でハーレムを……そんなことを思って浮かれていた。

 どうせこの世界の人間はアニメのキャラクターなんだからオリ主の俺は好きにする権利がある……そう思っていた。

 

 ……第四次聖杯戦争で冬木の大火災に巻き込まれるまでは。

 

 同じ日本だから気付いていなかったが、俺が転生した世界はリリカルなのはの世界ではなくFateの世界だった。

 後から知ったが、特典に選んだ「無限の剣製」を習得するために準備転生として送り込まれたのだ。

 自分の住んでいる町が冬木市であることも、名字は違えど名前が士郎であることも、選んだ特典に合わせて与えられたサービスみたいなものだと思っていた。

 日本地図に海鳴市が見付からなかったのも、単なる見落としだと思っていた。

 

 Fateの世界とリリカルなのはの世界、どちらの世界も元の世界から見ればフィクションの世界だ。

 でも、例えフィクションの世界であっても、そこに生きている人達は確固とした人間だ。

 そんな当たり前のことを、目の前で多くの人が焼け死ぬまで気付けなかった。

 猛火に焙られ、呻きや断末魔を聞き、肉の焦げる嫌な臭いを嗅ぎ、声を挙げることも出来ずに呆然と立ち尽くして、漸く気付いた。

 

 俺は……馬鹿だった。

 生きる価値なんてない大馬鹿野郎だ。

 人を人と思わぬ下衆なのに、そんな俺だけが生き残ってしまった。

 

 正史通り衛宮切継に助けられ、命を繋いだ。

 本来の衛宮士郎はその時の安堵した切継の顔に憧れ、自分もそうなりたいと願ったから正義の味方になることを目指した。

 しかし、俺はそんな風には思えなかった。

 俺みたいな屑を助けるくらいならその分他の人を助ければいいのに……そう思った。

 

 それでも俺は正義の味方を目指した。

 助かるべきではない俺が助かり、他の助かるべき人達が死んでしまった。

 ならばこの命は誰かを助ける為に使わなければならない、そうだろう?

 俺は正義の味方になりたいわけではない、正義の味方にならなければ許されないだけだ。

 

 

 第五次聖杯戦争では最初からセイバーを召喚した。

 魔術回路は決して多くは無いが、最初から自覚して全ての回路を使用出来るし、正規の手段で召喚を行ったためにパスもきちんと繋がっている。

 学校の校庭でアーチャーとランサーが戦闘しているところを横からエクスカリバーで薙ぎ払わせた。

 セイバーはかなり不満そうではあったが、これは決闘ではなく戦争だと言って何とか納得させた。

 バーサーカーは真っ向勝負で倒すのは難しいため、セイバーに足止めさせた上でイリヤスフィールを投影したゲイボルグで狙い撃ちした。真名解放こそしなかったため心臓には当たらなかったものの、彼女の命を奪うには十分だった。

 ライダーは間桐邸ごとエクスカリバーで吹き飛ばし、アサシンも柳洞寺の山門と運命を共にして貰った。

 キャスターはセイバーの抗魔力があれば敵ではない。

 イリヤスフィールや間桐桜の命を奪うのは心が痛んだが、彼女らは聖杯となり得る器でありこの世総ての悪が生み出す可能性を考えれば他に選択肢は無かった。

 

 イリヤスフィールの心臓が聖杯と化し、孔が開き始める。

 そんな光景を背に、黄金の英雄王が降臨する。

 バーサーカー以上に真っ向勝負で倒すのが難しい相手だが、セイバーと俺が揃っている状態であれば話は別だ。

 セイバーに守りに徹しさせて時間を稼いでいる間に詠唱を終え、令呪1画をサーヴァントへの命令ではなく純粋魔力に変えて「無限の剣製」を解放する。

 ゲートオブバビロンによる宝具の雨を贋作で迎え撃つ間にセイバーを吶喊させる。

 乖離剣を抜かせる間など当然与えはしない。

 接近戦になれば英雄王はアーチャー程には戦えないため、10合もしない内に決着が着いた。

 

「無限の剣製」が砕け、元の空間に戻る。

 孔から溢れ始めていたこの世総ての悪をセイバーに令呪2画を用いて聖杯ごとエクスカリバーで吹き飛ばさせる。

 説明をしていなかったため、怨嗟の声を上げながらセイバーは消滅した。

 

 第五次聖杯戦争は最小限の被害でその幕を下ろしたのだ。

 

 

 その直後、俺は背後から刺された。

 

「lasst!」

 

 続けて放たれたその言葉で左胸を刺した剣から魔力が放出され、俺は心臓を抉り取られた。

 地面にうつ伏せに倒れ伏す俺の視界に俺を刺した遠坂が入る。

 アーチャーとランサーは倒した時には巻き込まない様にさせたため、生きていたことには驚かない。

 しかし何故俺を……そう思ったが、よくよく考えれば当然か。

 聖杯を確実に破壊するためだったとは言え、間桐桜を殺した俺は彼女にとっては妹の仇に当たるわけだ。

 

 俺は既に心臓を失っているため、あと1分も持たずに死ぬだろう。

 本来であれば10年前に死ぬべきだったのだから、別に悔いは無い。

 ただ、妹の仇を取った筈なのに泣きそうな顔をしている遠坂のことが気になった。

 

「気に……するな」

 

 俺の言葉に遠坂はハッとなるとこちらを睨み、叫ぶ。

 

「何で、何であんたは!」

 

 何で、か。

 そうしなければならなかったからなんだが、それを説明している時間も無さそうだ。

 

 そうして俺は、そのまま何も話せずに息絶えた。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 俺を転生させた神様と邂逅し、再度転生する。

 こんどはリリカル世界で間違いなく、隣の県に海鳴市も存在した。

 以前の俺なら歓喜しているところだが、今の俺に感動は無い。

 こうして生まれた以上、俺は正義の味方として人を助けなければならない。

 幸いにして、魔術回路の機能に不備は無い。

 

 この世界には災厄や悲劇が多い。

 全てを救えるなどと思い上がってはいないが、俺の命が続く限り1人でも多くの人を救おう。

『ラグナロク』の件もあるが、そちらは後回しだ。

 元より、俺に誰かを殺してまで生き延びるだけの価値は無い。

 

 

 

 ジュエルシードが海鳴市に落ちる正確な日付を知らないため、頃合いを見計らって何度も往復することになった。

 今の俺は9歳児なので、隣の県まで出向くのは簡単ではない。

 物心が付いてから貯めたなけなしのお年玉を削って交通費としているが、一ヶ月往復したら無くなってしまう程度しか余裕はない。

 最初の2回は空振りだったが、3回目の往復で帰る途中にユーノの念話を受信することが出来た。

 正史ではなのはが夢で見る形になっていたが、起きていたら今の俺と同じ様に念話として聞けていたのだろう。

 何れにしても、この念話が発された以上は明晩に動物病院が暴走体に襲われる筈だ。

 確か槙原動物病院と言う名前だったから事前に調べて待機しよう。

 なのはとユーノを手伝って、少しでも被害が小さくなるようにしよう。そして、今後の協力も約束すればいい。

 そう思って終電間際まで待機していたが、一向にジュエルシードの暴走体は現れなかった。

 

「……なんでさ」

 

 仕方なく諦めて家に帰ることにした。

 家に帰ってから何気なしに親父の新聞を見ると、海鳴市での猟奇殺人事件が記事に書かれていた。

 民族衣装を着た10歳前後の少年が頭を潰されて公園で死亡していたとされている。

 

「……………………は?」

 

 民族衣装? 10歳前後の少年? 海鳴市の公園?

 あらゆる特徴が符合する、どう考えても殺されたのはユーノとしか思えない。

 理解出来ない。何でユーノが殺されているんだ。

 それに一体誰が……まさか、他の転生者の仕業か?

 

「それしか考えられないな」

 

 この世界の人間ですらないユーノ・スクライアに殺されなければならないような利害関係は無い筈だ。

 ジュエルシードの暴走体との戦闘で死亡した可能性も無くはないが、獣の様な暴走体に殺されたのなら「殺人事件」として扱われる様な状態になるとは思えない。

 

 それにしても、これからどうしたものか。

 ユーノが死んでしまったとしたら、なのはは魔法の力に覚醒しない。

 そうしたら、海鳴市に落ちたジュエルシードはどうなる?

 しばらくしたらフェイトが海鳴市に来て集め始めるだろうが、それまでにどれだけの被害が齎されることか。

 それに、フェイトが手に入れると言うことは最終的にプレシアの手に渡ることを意味する。

 地球への被害など考えずに次元断層を生み出そうとするプレシアに、そんな危険物を渡すわけにはいかない。

 

「やっぱり、俺が集めないと……」

 

 交通費が少々厳しいが、放課後や休日は海鳴市に行きジュエルシードを探そう。

 少しでも被害を減らすために、俺がやらないと……。

 

 

 

【side 高町まどか】

 

 

「ど、どうしたの? 2人とも……」

 

 レイジングハートからユーノに起きた悲劇を見せられた翌日、登校する私となのはに対してアリサからそんな言葉が投げ掛けられた。

 その隣ですずかも呆然としている。

 まぁ、2人とも顔に幾つも絆創膏を貼っているから無理もない。

 2人して顔を傷だらけにしている理由は、昨日のジュエルシード探しに関わりたいなのはと関わらせたくない私の押し問答が取っ組み合いの喧嘩に発展したからだ。

 最終的に頑固ななのはに根負けする形で一緒にジュエルシード探しをすることになってしまったが。

 ちなみに、喧嘩したことは当然の様に家族にもバレてしまったけど、理由を話せなかったので適当に誤魔化すしかなかった。

 

「ちょっと意見の食い違いで喧嘩しただけよ」

「あ、うん。そうなの」

 

 苦笑しながらアリサとすずかにも同じように誤魔化すことにする。

 

「ふ~ん、普段べったりのあんたたちが喧嘩するなんてね」

「確かに、珍しいよね」

 

 確かに、なのはは私にべったりの状態だったので、今まで喧嘩らしい喧嘩はしたことがない。

 アリサやすずかが珍しいと感じるのも無理はない。

 

「で、喧嘩の理由は何なの?」

 

 う、やっぱり聞かれるわよね、それ。

 

「プライベートなことなので黙秘します」

「も、もくひします」

「………………………………」

「………………………………」

 

 黙秘権を行使する私に、ひらがなっぽい口調でなのはが続く。絶対意味分からないまま言ってるわね、あれ。

 2人からジト目で見られて、私もなのはも冷や汗を掻きながら明後日の方向を向く。

 

「はぁ、まあいいわよ。聞かなきゃいいんでしょ。

 それで、もう喧嘩は収まったってことでいいのよね」

 

 良かった、諦めてくれた。

 隠し事をされることを嫌がるアリサだが、面と向かって言いたくないと言ったことを無理に聞き出そうとする娘じゃない。

 

「ええ、頑固ななのはに私が折れた形だけど」

「お、お姉ちゃん!?」

「事実でしょうが」

 

 昨日のなのはは本当にしつこかった。

 何度ダメだと言っても、私も手伝うの一点張り。

 ちなみに、喧嘩も手を出してきたのはなのはの方。

 いきなり引っ叩かれたので、私もついついムキになってやり返してしまった。

 勿論、御神流を2年程とは言え学んでいる私が本気でやり合えばなのはに大怪我をさせてしまいかねないため、当然ながらかなり手加減をしなければならなかった。

 しかし、こっちは下手に傷付けないように苦労しているのに、なのはの方は何の遠慮もなく本気で叩いてくるものだから結果的に互角になってしまった。

 

 なお、喧嘩の後に私となのはは父さんや母さん、兄さん、姉さん……つまり家族全員から怒られたが、御神流を学んでいる私はなのはが解放されてからも父さんや兄さんからお説教の延長戦が待っていた。

 理不尽だ。

 

「あはは、なのはは頑固だもんね」

「ふふふ」

「ひ、ひどいよ~」

 

 笑う2人になのはが涙目になって抗議するその姿を横目に、私は今後のことを考える。

 正史通りであれば、数日中に神社で子犬を取り込んだジュエルシードの暴走体が出現する筈。

 ユーノが初っ端から死亡しており正史通りの展開など既に期待が出来ないが、少なくともジュエルシードに関してはユーノが殺される前に落下しているから影響は無いだろう。

 気になるのはユーノを殺した2人組だが、何も情報が無い以上は避けようが無いし、遭遇しない様に気を付けながらジュエルシード探しを進める他ないだろう。

 彼らもジュエルシードを探している以上はいずれ接触は避けられないが、だからこそ場所の分かっているジュエルシードは確実に押さえておきたい。

 何せ、本来なのはが手にしていた筈の2個が既に彼らの手に落ちているのだから、これ以上奪われることは何としても避けたい。

 

 取り合えず、今日の放課後はなのはを誘って神社に行こう。

 ジュエルシードがあれば良し、無ければ無いで神社の境内で魔法の練習をしよう。

 あまり人が居ない場所だったと思うから、丁度いい。

 なのははレイジングハートがあるからある程度はプロテクションで防げる。

 一方私はデバイスも無ければバリアジャケットも展開出来ないので下手をすれば暴走体の突進だけで死にかねない。

 最低限、身体強化魔法と防御魔法を使いこなせなければまともに戦えない。

 一応、レイジングハートに登録されていた術式は幾つか見せて貰ったが、なのはと同等の演算能力のためか一度で覚えられたし、使用も問題なさそうだと思う。

 しかし、見ただけで一度も使っていないため流石にぶっつけ本番は避けたい。

 

 

 

「……と思ってたこともありました」

 

 神社の境内へ向かう階段を駆け上がりながら、呟く。

 神社に向かう途中で何かが弾ける様なそんな感覚がしたため、ジュエルシードの暴走が始まったと確信する。

 正確な場所は分からないが、向かっていた方向のためおそらく神社のジュエルシードで間違い無いだろう。

 ちなみに、なのはに走るペースを合わせなければならないため、私からすると結構余裕のあるスピードだったりする。

 

 階段の頂点が近付いてきたところで、なのはに指示をだす。

 

「なのは! レイジングハートを起動して、バリアジャケットを展開して!」

「えぇ!? 起動ってどうやるの?」

 

 そんな言葉を返してくるなのは。

 そう言えば、動物病院の件が無かったため、これが初起動になるんだった。

 

「『レイジングハート、セットアップ』とか言えば、後はレイジングハートがやってくれるでしょ。

 レイジングハート、起動パスワード無しでも大丈夫よね?」

 

 我、使命を受けし者なり……なんてやってる暇はないので、そうでないと困る。

 そもそも、暗記なんてしてないので、必要だと言われた時点でアウトだ。

 まぁ、起動パスワードなんて他のデバイスは誰もいちいち言っていなかったと思うので、本来は不要なのではないか。

 レイジングハートだって必要なのは初回だけだった筈だし。

 

≪…………No problem.≫

 

 微妙に回答までに時間があったのが気になるが、大丈夫なようだ。

 

「じゃ、じゃあ……レイジングハート、セットアップ!」

≪Stand by Ready……Set Up.≫

 

 なのはの掛け声と共に掲げられたレイジングハートが光を発し、同時になのはから桃色の強い光が立ち昇る。

 やはり、なのはの才能は本物だ。AAAランクの魔力量に、改めてそう感じる。

 双子だから私も魔力量としては同じだったりするけど。

 

 ……て、ちょっと待った。

 光が立ち昇るだけで一向にセットアップが始まらないんですけど。

 もしかして、初回起動だから杖とバリアジャケットのデザインを設定しないといけないの!?

 

 当然、そんな目立つことをしているなのはに暴走体が気付かない筈もなく、巨大な狼の様な姿をした暴走体がこちらを睨んで唸り声を上げながら、こちらに突進してくる。

 

「Gaaahhhーーーーー!!!」

 

 く、ダメだ。間に合わない。

 変身中は攻撃しないのがお約束でしょうが!と思うが、アニメの中なら兎も角現実ではそんな都合は汲んでくれない。

 ぶっつけ本番は避けたかったが仕方が無い、か。

 

 脇にある藪から木刀代わりに使えそうなサイズの木の枝を拾って正眼に構える。

 精神を集中し、昨日レイジングハートに見せて貰った身体強化魔法を発動させる。

 発動は成功し、身体が軽くなった様に感じる。

 

「なのは! 時間を稼ぐからその間にセットアップを済ませて!」

「そんな!? 危ないよ、お姉ちゃん!

 それに、セットアップってどうすればいいの!?」

 

 答える前に突進してくる暴走体に向かってこちらも吶喊する。

 鋭い牙で噛み付きを仕掛けてくるが、強化した脚力で直前で横に跳びながら手にした簡易木刀で横薙ぎに胴体を打ちすえる。

 数百kgはありそうな巨体だが、予想以上に威力があったらしく横に吹き飛ばすことに成功する。

 しかし、同時に私が持っていた木の枝も木端微塵に砕け散ってしまう。

 

 暴走体は大したダメージもなく身を起こすが、こちらを睨みながら警戒して唸っている。

 出来ればこのまま警戒して動かないでいて欲しい。

 木刀代わりの枝が無くなってしまったため、もう一度突進を受けると防げる保証が無い。

 新しい枝を拾ってくる程のヒマも与えては貰えないだろう。

 来るなよ~と内心思って睨みあいながら、なのはに追加のアドバイスを送る。

 

「魔法を制御する杖と身を守る防御服をイメージするのよ!」

「そ、そんな……急に言われても……えーと、えーと……取り合えずこれで!」

 

 気の抜ける台詞だがイメージは正しく出来たらしく、レイジングハートが杖に形に変形し、なのはの服が聖祥の制服に似たバリアジャケットへと変わる。

 が、同時に暴走体が本能的に脅威を感じたのか矛先をなのはに変えて襲いかかる。

 

「Guahhhーーーーー!!!」

「ひ!?」

 

 突然襲いかかってきた暴走体に、なのはは恐怖でその場に立ち尽くす。

 意表を突かれたせいで私も咄嗟に動くことが出来ずに、出遅れてしまう。

 

「なのはーーーっ!?」

 

 

 

 

 

「────投影、開始(トレース、オン)

 

 そんな言葉と共に、へたり込むなのはの前に現れた赤毛の少年が黒と白の双剣を交差させて暴走体の突進を防いだ。

 私達と同じくらいの年齢に見えるその少年は、暴走体の勢いに圧されながらも何とか突進を止め、力を籠めて私が居るのと逆の方向に跳ね飛ばした。

 あの呪文、それにあの双剣は干将と莫耶……この世界には存在しない筈の能力、間違いなく転生者だ。

 咄嗟に目を凝らして情報を読み取る。

 松田優介……レベルは31!? Sランク並みじゃない!

 

 転生者と言う時点で敵対する可能性が非常に高いが、少なくとも彼はなのはを庇ったので私は兎も角としてなのはとは敵対する気が無いことは間違いない。

 ならば、なのはの姉妹である私もいきなり敵対される可能性は低い……と思いたい。

 どのみち、今はジュエルシードが優先だ。

 

 私は彼の横に並びながら話しかける。

 

「悪いけど、私にも剣を作ってくれないかしら。 出来れば日本刀で」

 

 彼はいきなり隣に並んだ私に、と言うか私の顔に驚いた様子で問い掛けてくる。

 

「君は……!? な、なのはが2人?

 ええと、刀だよな……投影、開始(トレース、オン)

「ありがとう」

 

 お礼を言いながら、投影された刀を受け取る。

 ってこれ、教科書で見たことあるんですけど。

 確か童子切安綱……天下五剣の一本で国宝じゃない!?

 ま、まぁ良い刀である分には害はないからいいけど。

 

「なのは、早く立ちなさい。

 私と彼がアイツを抑えるからその間に封印魔法を使ってジュエルシードを封印して」

「ええ!? 封印魔法って、そんな突然言われても!」

「心を澄まして、浮かんでくる呪文を唱えなさい。

 大丈夫、あなたなら出来る筈だから」

「お姉ちゃん……分かった、やってみる」

 

 覚悟を決めたなのはに微笑みながら、アーチャー(仮)に話掛ける。

 

「そう言うわけだから、抑え役一緒にやってくれる?」

「ああ、分かった」

 

 勝手に決めるな、とか言われるかとも思ったけど、あっさり了解されて拍子抜けする。

 

「1、2の3で同時に行くわよ! 1、2の」

「「3!!!」」」

 

 2人で声を合わせながら、暴走体に向かって左右から走り込む。

 全く同時に飛び掛かった私達に、暴走体は虚を突かれたのか動きを止める。

 その隙に彼は右から、私は左から、それぞれ暴走体に斬り付ける。

 

「Gyaahhhーーーーー!!!」

 

 傷付けられた痛みに暴走体が怯み、叫びを上げながら後ろに下がろうとする。

 

「今よ、なのは!」「今だ!」

 

 私と転生者の彼は左右に分かれて道を開けながら、なのはに合図を送る。

 なのははレイジングハートを突き出し、封印魔法を発動させる。

 

「リリカルマジカル! ジュエルシード……シリアル16、封印!」

 

≪Sealing.≫

 

 レイジングハートからピンク色の紐状の光が幾つも伸び、暴走体を包み込む。

 暴走体の額にジュエルシードのシリアル番号が浮き出て、そして光と共に暴走体は姿を消した。

 後に残っていたのは宙に浮かぶ蒼い宝石と倒れ伏す小さな子犬が一匹のみ。

 

「なのは、レイジングハートでジュエルシードに触れて」

 

「分かったの」

 

 なのはがかざしたレイジングハートのコア部分に封印されたジュエルシードが格納される。

 

「ほっ……」「にゃ~……」「ふぅ……」

 ひと段落着き三者三様の溜息を漏らす。

 しかし、これからもう1つこなさなければいけない……目の前の転生者である彼との話し合いだ。

 

「さて、自己紹介とか聞きたいこと話したいことと色々あるけど……取り合えずまずは場所を変えない?

 ここは危険だから」

「危険ってどういうことさ。

 取り合えず、俺はこの街の事はあまり良く知らないから場所はそっちで決めてくれ」

「分かったわ。近くに公園があるから、そこに移動しましょう」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「え~と、高町なのはです。私立聖祥大付属小学校の3年生です」

「同じく高町まどか。見て分かると思うけど、なのはの双子の姉よ」

「松田優介だ。隣の県に住んでるけど、君たちと同じ3年生だ」

 

 公園へと場所を移し、まずはそれぞれ自己紹介を行う。

 

「って、隣の県からわざわざ来たの?」

「ああ、助けてって言う念話を受信したから、放課後にこの街に来て色々探し回ってたんだ」

 

 正史のことを抜きに話そうとするとそう言う理由になるのは分かるが、彼の調子だと仮にそれが無くても頼まれたら同じことをしそうだ。

 

「それだけで?」

「それだけって……助けてって頼まれたら助けるだろ?」

 

 至極当然の様に返されて思わず絶句してしまう。

 

「俺は正義の味方を目指しているから」

「正義の味方……」

 

 なのはが感動した様に目をキラキラさせている。

 それにしても正義の味方……本気で言っているのかしら。

 それとも、Fateの衛宮士郎に成り切っている?

 でも、彼の雰囲気は演技している様にはとても見えないけど……少し試してみようかな。

 

「正義の味方、ね。

 なら、私達が助けてって言ったら助けてくれるの?」

「ああ、勿論助けるさ」

 

 またもや至極当然の様に即答されて再度絶句してしまう。

 純心な2人に挟まれていると、自分の心が酷く汚れたように感じてしまう。

 打算的な女でごめんなさい。

 取り合えず、彼ともう少し踏み込んだ話をしたい。

 転生者や『ラグナロク』のことはなのはには話せないから、先に帰って貰うしかないな。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……ふう、疲れた」

 

 30分後、ごねるなのはを何とか宥めすかし、半分脅しも混ぜながら帰らせることに成功した私はため息を1つ付く。

 それにしても、何であんなに強硬に反発したんだろ。

 

「良かったのか? なんか半泣きになってたけど」

「あまり良くないけど、仕方ないでしょ。

 転生者のことを話すわけにはいかないんだから」

 

 そう言うと、彼の目が真剣なものになり、こちらを真っ直ぐに見据えてくる。

 しかし、そこには敵意の様なものは感じられなかった。

 

「そういうからにはやっぱり君は……」

「お察しの通り、転生者よ。まぁ、正史に居なかったなのはの双子の姉妹が居たら丸分かりよね。

 で、あなたも転生者なんでしょ?」

 

 そう、私の存在自体が見る者が見れば転生者だと丸分かりの環境だ。

 それ自体には隠すだけの価値がない。

 

「ああ、俺も転生者だよ」

 

 彼も隠すつもりは無かったらしく、あっさりと肯定する。

 まぁ、彼の場合はその能力が有名過ぎて矢張り隠す意味があまり無いから当然か。

 さて、正念場はここからだ。

 

「それで……単刀直入に聞きたいんだけど、あなたと私の間に敵対しない道を選ぶ余地はあるかしら?」

 

『ラグナロク』はバトルロワイヤル、普通に考えれば他の転生者は全て敵だ。

 しかし、報酬を諦めれば2人までは生き残る余地があるから、単独優勝を狙っていない相手であれば同盟を結べる可能性はゼロではない。

 

「敵対って……何でだよ?

 俺は最初から高町と戦う気なんて無いぞ」

「………………………………」

 

 あたま痛い。

 道理やら理屈やらを無視した回答に頭痛がした。

 ま、まぁ敵対する意志が無いならそれでいい……のかな。

 

「そ、そう……それならいいんだけど。

 それで、あなたは何処まで状況を把握しているの?」

「ユーノ・スクライアが殺されたってのは新聞で見た。

 それで高町なのはが魔法の力に目覚めないと思ったから、俺がジュエルシードを集めなければいけないと海鳴市に来たらさっきの状況だった」

 

 そう言えば、ユーノの事件は全国紙にも載っていたようね。

 被害者が身元不明と言うのと、殺され方が特殊だから注目されたみたい。

 

「成程ね。私はユーノが殺された公園で探し回ってレイジングハートを何とか見付けたの。

 なのはに渡すかどうかは迷ったんだけど、迷っている間にレイジングハートが空間ディスプレイを写しているところを見られちゃって。

 仕方なく魔法とジュエルシードの事を話したら私も手伝うの一点張り……喧嘩した上で最終的にこっちが折れて一緒に探すことになったわ」

 

 説明しているうちにここ数日の苦労を思い出して、思わずため息が出てしまう。

 

「ユーノを殺したのは誰なんだ?」

「レイジングハートに映像があったから顔は分かるけど、何者かは分からないわ。

 殺した理由はジュエルシード目当てだったみたい。

 正史で起きていないことが起きている以上、転生者の可能性が高いんだけど……」

 

 そこまで言って言い淀んでしまう。

 

「何か気になることがあるのか?」

 

 そう、言い淀んだのは違和感を感じていたからだ。

 

「奴らがレイジングハートを放置していたのが気になってて。

 転生者で正史の事を知っていれば、レイジングハートが重要な意味を持っていることは誰でも分かるでしょう?」

 

 そう、正史の知識があればどんなスタンスであれレイジングハートを放置したりしない筈だ。

 正史通りになることを望むのであればなのはに渡そうとするだろうし、逆に敵対するのであれば破壊するのが自然だ。

 まぁ、正史通りになることを望むのであればユーノを殺したりなんかしない筈だから前者はあり得ないけど。

 いずれにしても、彼らは転生者でないか転生者であっても正史の知識を持っていない可能性が考えられる。

 

「確かに……」

「まぁ、現時点では情報が少な過ぎて良く分からないし、取り得る手段もあまりないわ。

 奴らもジュエルシードを集めている以上いずれ接触は避けられないと思うけど、なるべく遭遇しない様に警戒しながらジュエルシード探しをするしかないわね」

「そうだな、俺もそれに賛成だ」

「取り合えず、これからよろしくね。

 ああ、そうそう。 高町だとなのはと被るし、仲間になるんだからまどかでいいわよ」

 

 手を差しのべながらそう言うと、彼も笑いながら手を差し出してきた。

 

「分かった、俺も優介でいい。 これからよろしく」

 

 そう言うと、私達は固く握手をした。

 

 

【Side 高町なのは】

 

「お姉ちゃん達、何話してるんだろう……」

 

 お姉ちゃんに追い返されて、私はトボトボと家に向かって歩いていた。

 危ない所を助けてくれた男の子ともっとお話したかったのに……。

 あの男の子とお姉ちゃんがどんな話をしているか、何故だか凄く気になった。

 

「正義の味方、かぁ」

 

 彼は正義の味方を目指しているって言っていた。

 その言葉の響きに、凄く心を惹かれる。

 きっと困っている人や弱い人を助けたり、悪い人を懲らしめたりするんだろう。

 

 誰かの役に立つことにずっと憧れていた。

 少し前までは私には出来ることなんてないと思ってたけど、今の私には魔法の力がある。

 この力があれば、誰かの役に立つことが出来る筈だ。




(後書き)
 みんな大好き踏み台オレ主。
 チートな能力と原作知識で原作キャラハーレムを……あれ?

 読めてた展開かも知れませんが、人格改造済で登場でした。
 なお、彼の使う投影宝具は聖杯戦争中に戦った相手の持つもの以外はギル様の財宝を見てコピーした原典ベースのため、本家アーチャーとは細部が異なる可能性があります。

 <彼の固有結界の中身>
 ・カリバーン…セイバーとのパスによる夢の中で視認
 ・干将、莫耶…ランサーと戦闘中のアーチャーが使用しているところを視認
 ・ローアイアス…ランサーと戦闘中のアーチャーが使用しているところを視認
 ・ゲイボルグ…アーチャーと戦闘中のランサーが使用しているところを視認
 ・ヘラクレスの斧剣…バーサーカー戦で視認
 ・ルールブレイカ―…キャスター戦で視認
 ・カラドボルグ(偽)…転生後に原典ベースでこつこつ改造
 ・原典宝具(色々)…ギル様からのお恵み

 関係ありませんが、ふと気付くと黒円卓勢が出て来ない話は最初の説明回以来初めてですね。
 暫くは平和にリリカルする筈。

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