魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:金の閃光(nanoha)
      【side 月村忍】"Lohengrin"(dies irae)


14:運命の少女、そして黄金の代行

「フェイト・テスタロッサの周囲に転生者の姿は見当らないか」

 

 ゲルマニア第二支部ビル地下の玉座の間で空間ディスプレイに表示された3人の少女を眺めながら黄金の獣が呟く。

 画面中央に映っているのは何処かの森の中、周囲の樹よりも大きい猫とその上に立つ白いバリアジャケットの少女の姿だった。

 更に巨大仔猫の前には庇う様に立つ少女が居り、それに相対する様に黒いレオタードの様なバリアジャケットの少女が木の上に立っていた。

 

「まぁ、失踪して行方を眩ませているプレシア・テスタロッサに接触するのは容易ではないから、居なくて当然かも知れんな」

 

 真面目に分析している様に見えて、ラインハルトの視線は巨大仔猫にのみ注がれ3人の少女は殆ど視界に入っていなかった。

 黄金の獣が巨大仔猫に集中している間に、3人の少女は戦闘を開始していた。

 

『バルディッシュ! フォトンランサー!』

≪Photon Lancer.≫

 

 黒い鎌型デバイスを持った金髪の少女、フェイトがフォトンランサーを巨大仔猫となのはに向けて撃つが、なのはのワイドエリアプロテクションに防がれる。

 

『ハッ!』

 

 その隙にもう一人の少女、高町まどかが伸縮式の特殊警棒を伸ばして身体強化魔法を駆使して樹上のフェイトの高さまで一足跳びに跳び上がり、斬り掛かる。

 跳び上がって斬り掛かってきたことにフェイトが一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに冷静になってソニックムーブで回避する。

 まどかは一瞬前までフェイトが立っていた枝の上に立つと振り返り、警棒を構える。

 そこに、バルディッシュでフェイトが斬り込むが警棒と鍔迫り合いになる。

 しかし、飛行魔法で推進力を得ているフェイトと足場があるものの樹上で安定しないまどかでは拮抗せず、徐々にフェイトが押し込んでいく。

 

『ぐ、くぅ……。』

『…………………………。』

 

 更に力を籠めるフェイトだが、背後に魔力の高まりを感じて直感的に鍔迫り合いを止めて回避する。

 次の瞬間先程までフェイトが居た位置に桃色の弾丸が幾つも通過する。

 思わず冷や汗を流しながら射撃魔法の飛んできた先を見ると、なのはがシューティングモードに変形したレイジングハートを構えていた。

 

『ディバイーーン、バスターーーー!!!』

≪Divine Buster.≫

 

 放たれようとしている砲撃魔法にフェイトは一瞬で様々な思考を巡らした。

 ディフェンサーで防御……却下。防ぎ切れるか自信が無い。

 上下左右に回避……却下。避けることは出来るだろうが、もう一人の少女に隙を見せることになる。

 後に回避……却下。そもそも後に下がっても避けたことにならない。

 前に移動……採用。

 

 マルチタスクを駆使して方針を瞬時に決めると、フェイトは飛行魔法でなのはに向けて空中を疾走した。

 途中、放たれた砲撃を身を捩ることでギリギリのところで交わそうと試みる。

 僅かに掠ったせいで右肩のマントが破けるが、ほぼ無傷で交わすことに成功する。

 無理な機動のせいで内臓を圧迫され骨が軋む様な痛みが走るが、フェイトは構わずに前に進む。

 そのまま砲撃魔法を撃った態勢のままで硬直しているなのは目掛けてバルディッシュを振り下ろす。

 

≪Protection.≫

 

 レイジングハートがオートで防御魔法を発動させるが、フェイトは構わずに鎌を振り下ろした。

 砲撃の直後で十分な魔力が籠められていなかったせいか、一瞬の拮抗の後にプロテクションは粉々に砕け散り、魔力刃はそのままなのはに叩き付けられる。

 直撃を受けたなのはは猫の上から地面に叩き落とされて意識を失ってしまった。

 

『なのは……!?』

 

 砲撃魔法に向かっていくと言うフェイトの行動に呆気に取られて動けなかったまどかはその結果に驚愕し、妹の名を叫ぶ。

 しかし、そんなまどかに返されたのは妹の返事ではなく、金の閃光だった。

 

『フォトンランサー・フルオートファイア』

≪Photon Lancer Full Auto≫

 

 フェイトの周囲に現れた4つのスフィアから直射型の射撃魔法が放たれる。

 それは最初になのはに向かって撃たれたものと同じだったが、その時は単発だったのにたいし今回は連射だった。

 最初の4発を樹上から飛び降りることで交わすまどかだが、飛び降りた直後に先読みされたように後発のランサーが降り掛かる。

 着地直後で咄嗟に動けないまどかは右手に持つ警棒で斬り払おうとする。

 

『あぐ!?』

 

 しかし、最初の1発を斬り払った瞬間、走った激痛に硬直してしまう。

 フェイトの電気変換資質によって放たれたランサーは電気を帯びており、警棒で射撃魔法自体は斬り払ったが電撃は金属製の警棒を伝わりまどかを襲ったのだった。

 硬直してしまって無防備なまどかに残ったランサーが降り注ぐ。

 交わすことも出来ずに計7発のランサーをその身に受け、まどかは地面に倒れ伏して意識を失った。

 

『……ごめんね。』

 

 唇を噛締めてそう呟くと、振り切る様にバルディッシュをシーリングモードに切り替えて巨大仔猫に向き直る。

 

『ジュエルシード、封印!!』

 

 バルディッシュから金色の帯が幾条も伸び、巨大仔猫を拘束する。

 

『ミギャアアァァァーーー!?』

 

 電気変換資質のせいで通常の封印と異なり電撃を浴びる苦痛を味わう羽目になった仔猫が悲鳴を上げる。

 

「む……」

 

 しかし、フェイトは罪悪感に目を逸らしながらも手を止めることなく封印のフェイズを進める。

 やがて、巨大仔猫は本来の大きさに戻り、その上空には蒼い宝石が出現する。

 ジュエルシードは封印したフェイトの元に引き寄せられ、バルディッシュの格納領域に収容された。

 

『ふぅ…………うぐぅ!?』

 

 ジュエルシードを無事封印し安堵の溜息をついたフェイトだが、次の瞬間何かに後頭部を強打され悲鳴を上げる。

 あまりの激痛に頭を押さえて蹲るフェイトの眼前に、頭に当たった犯人──拳大の石──が落下する。

 慌てて立ち上がり周囲を見渡すが、気絶している2人の少女以外に人の姿はない。

 

『???』

 

 しばらく警戒していたフェイトだが、やがて諦めたのか首を傾げながらもその場を後にした。

 

 涙目になりながら後頭部に出来てしまったこぶをさするフェイトだが、もしもこの時もっと冷静であれば重要なことに気付けたかも知れない……すなわち、バルディッシュの自動防御を超えて石がぶつかったという異常に。

 高機能なインテリジェントデバイスの探知を一切気付かれない様にジャミングしながら、遠隔発動の転移魔法で地面に落ちていた石をフェイトの頭部に落下する様な位置に転送、そんな神業的な方法で攻撃されたと知れば今の様に通常の速度で飛ばずに全速力で離脱していたことだろう。

 何せもう少し大きな石を転送したり、あるいは刃物などや爆発物などを用いていれば容易く殺されていたということなのだから。

 尤もそのことを知ったとしても、それだけの技術を使用しながらこぶが出来る程度の石を当てるだけで済ませた実行者の意図を図るのは極めて困難だったろう。

 まさか、仔猫を虐めたことが傍観者の気に障ったとは夢にも思うまい。

 

「ふむ」

 

 年齢一桁の幼女の後頭部に石をぶつけると言う暴挙に出た張本人は、一応の溜飲は下げたのかそれ以上に干渉することは無かった。

 

「それにしても、ユーノ・スクライアが居ないことの弊害がここで出たか」

 

 戦闘の様子を写していたサーチャーは特別な処置など施していない一般的なものだったが、支障なく戦闘の様子を見ることが出来ていた。

 それはつまり、彼女達が結界を張ることなく戦っていたということに他ならない。

 高町なのはは……そもそも結界魔法が使えなかった。

 正史でもその方面については完全にユーノあるいは酷い場合は敵にすら頼りきりだった彼女は、それらの魔法を習得していない。

 双子の姉妹である高町まどかも魔法の適正としては似たようなものである上、そもそもデバイスが無い為にそこまで高度な魔法の行使は不可能だ。

 フェイト・テスタロッサは結界魔法が使えるが、未熟とは言えAAAランクの魔力を持っている魔導師2人相手に戦うためには結界に手を割くわけにはいかなかったようだ。

 

 結果として、屋敷の敷地内で体長数メートルの仔猫が闊歩し3人の少女が空を飛び光弾や光線を撃ち合う姿は、監視カメラ越しに屋敷の住人や訪れていた高町恭也にしっかりと目撃された。

 幸いと言うべきか、年上の兄弟達の配慮により月村すずかとアリサ・バニングスの2人は戦闘音が聞こえた時点で奥まった部屋に避難させられたため、起こったことは知らずにただ高町姉妹のことを心配するだけに終わった。

 

「月村家と高町家についてはフォローさせておくか」

 

 呟くと、黄金の獣は何処かへと通信を始めた。

 

 

 

【Side 月村忍】

 

 ピンポーン!

 

 恭也と昼過ぎに庭で起こっていた出来事について頭を悩ませていた所、来客のチャイムが鳴った。

 はて? 今日は恭也達以外に来客は無い筈なんだけど……?

 ノエルが応対に向かうのを確認し、先程までの思考の続きに戻る。

 

「あれって、どう見ても魔法としか言いようがないわよね」

 

 通常であれば戯言としか思えない単語だが、監視カメラ越しとは言えこの目で見てしまった以上は否定出来ない。

 月村家は元々その事情柄故に裏の世界に通じている家系だし、HGSやら妖怪なんて言う存在も知っている以上は魔法が存在してもおかしくは無いのかも知れないが、映っていた光景はそう思おうとしても容易に受け入れられない程ファンタジーだった。

 周囲の樹よりも大きくなった仔猫に、ファンシーなコスチュームを着ながら空を飛び光線を撃ち合う3人の少女達。

 そう言う意味ではファンタジーの世界の住人3名の内2人の実の兄である恭也の方が深刻で、現実が受け入れられないのか先程から固まってしまって一言も発さない。

 

「お嬢様。先程の御来客ですが……」

 

 戻ってきたノエルが何処か困惑しながら訪れた客について報告に来て私に耳打ちする。

 

「はぁ?」

 

 

 数分後、応接室に恭也と二人で客を迎えることになった。

 本来恭也は月村家の客人を迎えられる立場にはない筈だが、相手が同席を要望してきた。

 この時点でかなり不自然だ。

 そもそも、今日恭也がうちに来ていることを把握してなければ、そんな要望を出すことは出来ないだろうし。

 

「初めまして。私、海鳴教会の神父を務めておりますヴァレリア・トリファと申します」

 

 190cm以上の長身だが、人懐こい穏やかな雰囲気の神父はそう名乗った。

 

「初めまして。月村家当主の月村忍、こちらは私の婚約者の高町恭也です。

 裏に関わる重要なお話があるということでしたが……」

「ええ、少々信じられない話になるかと思いますが、まずは最後までお聞き下さい。

 私の所属する海鳴教会は裏の世界において世界統一魔術教会の日本支部と言う顔も持っており、分不相応ながら私はその支部長という肩書も持っています」

 

 そこまで聞いた時点で思わず制止して叫びたくなるのを必死に抑える。

 私が知らない裏の組織が存在することとそんな組織の支部が月村家が裏を管理する海鳴市にいつの間にか作られていたこと、許容し難いが取り合えず話を最後まで聞くこととする。

 

「世界統一魔術協会と言う組織は地球連合の直属であり、その任務は地球全土における魔導技術の管理と秘匿です」

「な!?」

「う、うそ!?」

 

 地球連合直属!?

 想像以上に大きな話に流石に黙っていられない程驚愕する。

 裏の世界に関わるものとはいえ、それは最早国家レベルを超える組織と言うことを意味する。

 

「そして、こちらを訪問させて頂いたのは、先刻こちらの敷地内で大きな魔力を感知した為です」

 

 大きな魔力……心当たりのあり過ぎる事実に内心で頭を抱える。

 なのはちゃん達が使っていた魔法としか形容の仕様が無いものと魔力、関連性があり過ぎる。

 

「どうやらお心当たりがおありの様ですね。

 何があったか、教えて頂けますか?」

 

 こちらの表情から推測したのか、トリファ神父はそう言ってくる。

 しかし、正直に話して良いものか。

 まどかちゃんやなのはちゃんのことを話した時に、この神父や背後の組織が2人にどう関与してくるかが分からない以上、気軽に情報を与えることは出来ない。

 

「仮にその魔導技術と言うものを使っている人間が居たとして、あんた達はその人間をどうするつもりなんだ?」

 

 私と同じ懸念を持ったのか、恭也が神父に対して警戒心を露わにしながら問い掛ける。

 

「魔導技術を用いて犯罪行為を行っているなら兎も角、そうでなければ私達がその人に何かすることはありませんよ。

 せいぜいが管理対象として登録して頂き、魔導技術を秘匿するためのレクチャーを受けて頂く程度です」

 

 魔導技術の管理と秘匿が主任務と言っていたし、それくらいは当然か。

 恭也とアイコンタクトを交わし頷き合う。

 

「分かりました、お話します……。

 と言っても、私達にも正直何が起こっていたのか分からない部分が多いので、監視カメラの映像を見て頂けますか」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ふむ、成程……」

 

 ビデオを一通り確認したトリファ神父は一言呟くと何かを考え込み始めた。

 

「あの……」

「ああ、これは失礼。少し考え事をしておりました。

 しかし、これは少々厄介なことになりましたね……」

 

 え? 厄介?

 どういうことかしら。

 

「世界統一魔術協会は魔導技術を管理・秘匿する組織ですが、一口に魔導技術と言っても西洋のウィッチクラフトからこの国の陰陽術まで多岐に渡ります。

 しかし、彼女達3人が映像の中で用いていたのはそのどれにも該当しないものです」

 

 該当しない?

 新しい、未知の技術と言うことだろうか。

 

「どういうことですか?」

「これは更に信じられない話になるかも知れませんが、彼女らの用いている魔導技術はミッドチルダ式魔法と言い、異世界の技術なのです」

 

 は? 異世界?

 

「異世界ですって? そんなものが本当にあるのですか?」

「それに、どうしてまどかやなのはがそんな異世界の技術なんか……」

 

 異世界なんて突然言われても信じ難いけど……神父の様子からして冗談を言っている気配は無い。

 魔法なんてものを家族も知らない内に覚えていただけじゃなくて、異世界と繋がりがあるとか……あの子たちは一体何をしているの!?

 

「異世界の存在自体は既に確認済で、行き来をする方法も確立されています。

 しかし、基本的にそれらについては一部の者だけが知ることであり、一般には一切公開されていません。

 そのため、妹さん達がどうやってミッドチルダ式魔法を覚えたのかは分かりかねますが、

 これでは当初の予定通り管理登録や秘匿についての説明で済ませる訳にはいかなくなってしまいました」

「そ、そんな!?」

「どういうことですか!?」

 

 突然の掌返しに思わず非難するような声を上げてしまった。

 しかし、2人に害はないと言ったから映像を見せたのに、これでは話が違う。

 

「ああ、落ち着いて下さい。

 別にお2人に何か危害を加えるとか拘束するわけではありません。

 ただ、世界統一魔術協会や地球の魔導技術の存在をお2人に教えるわけにはいかなくなったのです」

 

 取り合えず、即座に問題があるわけではなさそうなので、興奮を抑えて呼吸を整える。

 

「取り乱してすみませんでした」

 

 軽く頭を下げると、隣に座る恭也もそれに倣う。

 

「いえいえ、ご家族のことですから当然の事かと。

 私も言葉が足りず不安にさせてしまって申し訳ございません」

「それで、何故異世界の魔法を使っていると貴方の組織のことを話せないのですか?」

 

 魔導技術の管理と秘匿を旨としているなら、それはかなり不自然なことだろう。

 

「端的に言ってしまうと、異世界の人間に地球の魔導技術や我々の協会のことを知られたくないのですよ。

 ミッドチルダ式の魔法を使っていることからお2人は何らかの形で異世界の人間とコンタクトを取った、あるいは取っていることは確実です。

 彼女達が地球の魔導技術や我々の協会のことを知れば、そこから異世界の人間に伝わってしまうかも知れない。

 私は、いえ私達協会はそれを懸念しているのです」

「何故、そこまで異世界の人間に知られることを警戒するのですか?」

 

 疚しいことがあるのではないか、そんな疑念を言葉に載せないように気を付けながら問い掛ける。

 

「異世界、特に彼女達が接触したと思われるミッドチルダを始めとする幾つかの世界は厄介な思想を持ってましてね。

 曰く、魔導技術を持つ世界は我々が管理し導いてやらなければならない、だそうです。

 恐らく、彼らがこの世界の真実を知れば傘下に加わるよう要求してくるでしょう。

 しかし、彼らの魔法至上主義に基づく支配体制はこの世界に当て嵌めることは難しく、地球にその要求を受け入れる余地はありません。

 そうなれば、最悪の場合には世界間での戦争が勃発することもあり得ます」

「な……っ!?」

「嘘でしょう!?」

 

 せ、戦争……!?

 いきなり大きな、かつ物騒な話に繋がって驚愕してしまう。

 そもそも、その世界は何でそんなに上から目線なの?

 神様にでもなったつもりなのかしら。

 

「そうならない様に、情報漏洩については細心の注意を払う必要があります。

 これは彼女達のためでもあるんですよ。

 彼女達が情報を渡してしまったせいで戦争が勃発、なんてことになったら大変でしょう?

 ちなみに、この国の刑法では外患誘致は死刑以外の刑罰がない最大の犯罪です。

 勿論、年齢的な問題や異世界・魔導技術と言う事情から表の刑法で罰せられることにはならないでしょうが、

 裏においてはそんな言い訳は通りません」

 

 確かに2人の情報によって戦争が始まってしまったら、そういうことになるのかも知れない。

 けど、だからって2人はまだ10歳にもならない子供なのに、死刑だなんて酷過ぎる。

 

「そんなこと、させてたまるか!」

 

 恭也が立ち上がり神父を睨みながら叫ぶ。

 しかし、神父は顔色一つ変えない。

 

「落ち着いて下さい。

 あくまで私達が彼女達と接触したらそうなるかも知れない、というだけの事です。

 私達とてそのようなことになることは望んでおりませんので、そうならない様にすれば良いのです」

 

 穏やかに諭されて落ち着きを取り戻したのか、恭也が気まずそうに腰を下ろす。

 

「そうならない様にするためには、どうすれば良いですか?」

 

 私の質問に、トリファ神父は少し考えた後に話し始めた。

 

「そうですねぇ……先程お話したとおり私達の協会からは接触しない様にすることは確定として、

 少しでも可能性を減らすためには貴方がたも魔法のことを知ったことを彼女達に知られない様にした方が良いと思います。

 貴方達から協会のことが彼女達や異世界の者に知られてしまったら、接触を避けた意味が無いですからね」

 

 彼が言っていることは分からなくは無い。

 情報漏洩を防ぐならば出来る限り情報を知るものを少なくするのが鉄則だ。

 しかし、その場合大きな問題がある。

 

「でもそうすると、2人が危険なことをしているのを止められないことになりませんか?」

「そ、そうだ。あんな危険なことを続けさせるわけには!」

 

 私の質問に恭也もそのことに気付いたのか、追随する。

 

「残念ながら、彼女達を止めることは難しいでしょう。

 実はここ最近、この街で何件か似たような事件が起こっており、私達もその調査や後始末に奔走しておりました。

 記憶に新しい所で言えば先日街中に出現した大樹などがそうですが、おそらく先程の映像で出てきた蒼い石が原因なのでしょう。

 金髪の少女が迷いなく対処していることから、あの蒼い石は彼女達の世界から持ち込まれた厄介事と思われます。

 つまりは、対処法を知っているのは彼女達だけ、ということです」

「しかし!」

「私達は表に出るわけにはいかなくなりましたので、止める場合は貴方がたが彼女達の代わりに対処することになりますが、実際問題として貴方がたに何が出来ます?

 高町恭也さん、貴方の剣士としての腕前は相当なものとお聞きしますが、貴方の剣であの蒼い石を封印することが出来ますか?」

「そ、それは……」

 

 役立たずと言わんばかりの辛辣な言葉だが、言っていることは至極真っ当なため恭也も反論できずに押し黙る。

 確かに、マフィアや強盗と違って剣を振りまわしてどうにかなる問題ではないことは否定出来ない。

 

「暴言を許して頂きたい。しかし、どうか我々協会を信じて下さい。

 先程申し上げた通り表に出ることは出来ませんが、妹さん達が大怪我をしたりしない様に陰ながら動くことは出来ます」

「………………………………」

「………………………………」

 

 真っ直ぐにこちらを見詰めてくる神父の碧眼を黙って見返す恭也。

 数秒、あるいは数分か、経過する時間が分からなくなる程に重苦しい空気が流れた後に恭也が頭を下げた。

 

「…………分かりました。2人のこと、よろしくお願いします」

 

 神父の言い分を受け入れて妹2人を任せた恭也だが、血が出そうな程に拳を握り締めており、その悔しさが全身から滲み出ていた。

 

「ええ、承りました。

 陰ながらではありますが、全力でサポートさせて頂きます」




(後書き)
口八丁で煙に巻くならこの人の出番です。
高町家と月村家の介入を口先1つで回避してのけました。
……介入があった所で別に黒円卓陣営が困るわけではありませんが。
なお、世界統一魔術協会は存在しません。

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