魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

17 / 80
推奨BGM:【アースラ艦内】Mein kampf(dies irae)
      【海上】Deus Vult(dies irae)


17:戦力増強、そして海上

 アースラの訓練室で2人の魔導師が対峙していた。

 年若く10歳前後に見えるが張り詰めた気迫はとても子供の放つものとは思えず、モニタ越しに見学する者達も思わず呼吸を忘れて見詰めていた。

 

 1人は蒼いドレスに甲冑を合わせた様なバリアジャケットを纏った栗色の髪の少女で、杖状のデバイスを2本それぞれの手に持っていた。

 もう1人は紅いバリアジャケットを纏った赤茶髪の少年、こちらも2本の杖型デバイスを持っている。

 

 しばらく無言で睨み合っていた2人は、しかしその場に居たもう一人の少女が息を飲む音を切っ掛けに飛び出し、互いに両手に持った杖を叩き付けた。

 

 

【Side クロノ・ハラオウン】

 

 目の前の光景に、思わず目を奪われた。

 高町まどか、そして松田優介の2人に武装隊で標準として使用しているデバイスを貸し出し、その試しと彼らのデータ測定を兼ねて訓練室で模擬戦を行うことになったのだが、2人の力は僕の想像を超えていた。

 2本のデバイスを互いに打ち込み合い、止まることの無い剣戟が始まった。

 まさか2人とも2本ずつデバイスを使用するとは思わなかったが、元々双剣を想定した鍛錬をしていたらしい。

 これが専用デバイスであれば1つのデバイスの変形で2本の剣とすることも出来るが、標準デバイスにモードチェンジ機能など付いていないため、この様な手段しかなかった。

 

 繰り返される剣戟は全く互角であり、地上での衝突から始まったそれは飛行魔法を駆使して3次元のものへと推移していく。

 とても彼らが僕より5つも年下とは信じられない。

 勿論、1対1で模擬戦をすれば彼らに負けるつもりはないが、接近戦に限定すれば正直勝ち目は薄いと思う。

 

 何十合か切り合った彼女達は鍔迫り合いから弾かれる様に距離を取った。

 

『ディバインシューター!』

 

 まどかが左手に持ったデバイスを待機状態に戻して、右手のデバイスを優介に向けて6発の射撃魔法を放つ。

 優介はソニックムーブで回避するが、誘導性能を持ったまどかのシューターは回避した優介に向けて方向転換し襲い掛かる。

 

『ハッ! セイ!』

 

 気合を籠めた声と共に、両手に持ったデバイスでシューターを撃ち落とす。

 しかし、まどかは既にシューターの制御から手を離し、次の手の為に動き始めていた。

 飛行魔法を解除し地面に降り立ち、スフィアを発生させながらデバイスを両手で持ち頭上に大きく振り被る。

 

『げ!? まさか……。』

『セイバーって言ったらやっぱりこれでしょ?

 本家よりは大分見劣りするかも知れないけどね。』

 

 そう言うと、凄まじい魔力を集中させる。

 剣を振り被るような動作をしているが、その様はまるで砲撃魔法を放とうとしている様に見えた。

 そこまで考えて自分の思い違いに気付く。

『まるで』じゃない、あれは砲撃だ。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ーー!!!』

 

 振り下ろすと同時にデバイスから砲撃が放たれ、斬撃の形で優介の方へと向かっていく。

 砲撃魔法を振り回すとか非常識な!?

 高出力のために慎重な運用が求められる砲撃をあんな使い方する人間は初めて見たよ。

 しかし、攻撃の効果としては想像以上に高い。

 弧を描く形での砲撃は回避するのが非常に難しいだろう。

 

『く……っ!』

 

 優介も回避が間に合わないことに気付いたのか、苦しげな声を上げる。

 そうすると、デバイスの片方を待機状態に戻した。

 一体何故?

 

『I am the bone of my sword.』

 

 優介が不思議な詠唱を行うと、右腕を迫りくる斬撃へと伸ばした。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!』

 

 優介の右腕を中心に花弁の様な障壁が展開される。

 何だ、あれは?

 ミッドチルダ式の術式じゃないし、そもそもスフィアすら出ていない。

 

 まどかの斬撃は花弁を2枚消滅させたところで勢いを無くし消滅した。

 

『ちょっと、それは反則でしょ!?

 デバイスのテストにならないじゃない!!』

 

 まどかが優介に抗議している。

 デバイスのテストにならない、と言うことはあれは優介がデバイスなしで発生させたということか?

 この世界の固有魔法?

 いやでも、この世界は管理外世界だから固有の魔法なんて無い筈だ。

 だったら、レアスキルか?

 

『し、仕方ないだろ。

 お前があんな非常識で凶悪な攻撃魔法使うから、反射的に使っちゃったんだよ!』

『きょ、凶悪って失礼な!』

『誰が見ても凶悪だろ!

 砲撃魔法振り回すとか、普通やらないぞ!』

 

 全面的に同意するよ、優介。

 

『ぐす……。』

 

 そう思ったが、次の瞬間目に映った光景に呆然とする。

 てっきり言い返すと思ったまどかは目元に涙を浮かべると、顔を両手で覆ってしまう。

 な、泣いてる!?

 怒鳴るような形ではあったが、でもあれだけのことで?

 

 僕以上に焦ったのは言葉を投げ掛けた優介で慌てて空中から降りてまどかに近寄ろうとする。

 

『え、あ、ちょ……何も泣かなくても!』

 

 が、泣いていたと思っていたまどかは手を降ろすと、晴れ晴れとした笑顔を向けた。

 その笑顔がどうしようもなく黒いものに見えたのは僕の気のせいだろうか。

 

『……なんてね。』

『へ?』

 

 次の瞬間、糸状の魔力が優介を縛り上げ、蓑虫状態にする。

 さっきの砲撃でばら撒いた魔力か!

 弧を描く砲撃など無駄な魔力を使い過ぎる方法だと思っていたら、こんなことを!

 

『なぁ!?』

 

 優介が一変した事態に驚愕するが、もう遅かった。

 まどかの右手に持つデバイスが真っ直ぐに優介へと向けられる。

 

『振り回すのがお気に召さないなら、真っ直ぐのをあげるわよ。』

 

 イイ笑顔のまま、先程と同等の魔力がデバイスの先端に集まりスフィアが形成される。

 

『ちょ、待った……!』

『問答無用♪』

 

 真っ青になる優介が痛ましく、見ていられずに僕は目を閉じて顔を背けた。

 

『ぎゃあああぁぁぁっ!!!』

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ねぇ、いい加減機嫌直してよ」

 

 模擬戦終了後、訓練室に隣接するモニタールームに戻ってきたまどかと優介だが、優介の方はぶすっとしてあからさまに不機嫌な表情をしている。

 まぁ、無理もないと思うけど。

 

「俺には『デバイスのテストにならない』とか言っておきながら、泣き真似で油断させて罠に掛けるとかどうなんだよ」

「いや、ごめんごめん。まさかあそこまで簡単に引っ掛かると思わなくて」

「単純で悪かったな」

 

 まどかの発言にますますぶすっとする優介。

 て言うか、まどか。それはフォローどころか追い打ちにしかなってないぞ。

 

「……………………れ以上……影を…………局の前…………せな………………良………………思った…………ある…………けど…………」

 

 まどかが優介に近付き何かを耳打ちするが小声だったため殆ど聞き取れなかった。

 優介はまどかの耳打ちにハッとなると、黙り込む。

 良く分からないが、どうやら機嫌は直ったらしい。

 

「優介、1つ聞いてもいいか」

 

 2人の間で和解が為された様なので、僕は模擬戦中に気になったことを聞いてみることにする。

 モニタに、まどかの非常識砲撃を優介が防いだ時の映像を表示する。

 

「この防御魔法、ミッドチルダ式魔法とは違うみたいだけど、これは君のレアスキルか?」

「ええと……熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)と言って元々使えた魔術なんだけど、これってレアスキルになるのか?

 レアスキルの定義が良く分からないんだけど」

「魔術? この世界の固有魔法か?」

 

 管理外世界なのに固有魔法があるのか?

 いや、でも管理局で把握出来ていないだけの可能性もあるか。

 

「いや、俺がそう呼んでるだけで、この世界に他に使える人は居ないと思うけど」

 

 成程、やはりこの世界の固有魔法ではなく優介個人のみが使える能力の様だ。

 正式には聖王教会で認定を受けないと駄目だが、レアスキルに分類して良いのだろう。

 

「君にしか使えないならレアスキルと言って良さそうだな。

 ただ、そう名乗るのなら認定を受ける必要があるが」

「そうなのか、まぁ考えておくよ」

「そうしてくれ」

 

 

 

「さて、次はなのはの能力測定だが……なのは?」

 

「…………………………………………」

 

 しかし、なのはからは返答がなく俯いて黙り込んでいる。

 どうしたんだ?

 

「なのは?」

 

「ふぇ!? あ、ご、ごめんクロノ君。何かな?」

 

 少し強めに呼び掛けるとハッと気付くと慌てて問い掛けてくる。

 

「いや、次は君の能力測定のために模擬戦をしたいんだが、大丈夫か?調子が悪いなら時間を置いても……」

「だ、大丈夫! 元気だよ!」

「そうか、それならいいんだが」

 

 先程の反応が少し気になるが、本人が大丈夫と言うのならまぁ良いだろう。

 実際、体調が悪いわけではなさそうだ。

 

「じゃあ、隣に行って始めようか」

 

 

 なお、この後行われた模擬戦については弾幕と凶悪な砲撃魔法に冷や汗をかきながらも、バインドとシールドを駆使して何とか体面を保つことが出来たとだけ言っておく。

 この姉妹の砲撃適性は色々と理不尽だと痛感したのは言うまでもない。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 僕達管理局と金色の魔導師と聖槍十三騎士団が接触したあの日から幾つかのジュエルシードが発見された。

 こちらが対応する前に金色の魔導師──フェイト・テスタロッサに奪われたものもあれば、対処中に聖槍十三騎士団の2人がやってきて横から掻っ攫われたものもあった。

 ジュエルシードの探索が残り6個を残して停滞していた時、それは起こった。

 

「な、なんてことしてんの、あの子達!?」

 

 そう叫んだのは僕の補佐官をしてくれているエイミィだ。

 モニタに映っているのはフェイト・テスタロッサ。

 海上で大規模な儀式魔法で海に電撃魔法を撃ち込もうとしている。

 確かに、地上のジュエルシードはあれから見付かる気配がない。

 電撃魔法を撃ち込んでジュエルシードを励起させて見付けると言う意図は分からなくはない。

 しかし、これは……。

 

「何とも呆れた無茶をする子だわ」

「無謀ですね、間違いなく自滅します。

 あれは個人が出せる魔力の限界を超えている」

 

 艦長の言葉に感想を告げる。

 そう、彼女は年齢を考えれば破格と言っていい魔力量だが、それでもあれは無理だ。

 

「フェイトちゃん!?」

 

 扉が開き、艦橋になのはが掛け込んでくる。

 その後ろにはまどかと優介も続いていた。

 

「あの、私急いで現場に……」

 

 艦長席へと続く階段を昇りながら、なのはが艦長へと話し掛ける。

 

「その必要はないよ。

 放っておけばあの子は自滅する」

 

 そんななのはに僕は努めて表情を出さないようにして言葉を挟む。

 

「仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所で叩けばいい」

 

 今あの場に言っても暴走するジュエルシードの対処とフェイト・テスタロッサへの対応を同時に行わなければならない。

 僕達の任務遂行のために出来る最善は決着を待ってから彼女を捕えてジュエルシードを対処することだ。

 

「でも……」

「今の内に捕獲の準備を……」

「了解!」

 

 泣きそうな声を上げるなのはに心が少々痛むが、無視して武装隊へと指示を出す。

 

 

「私達は常に最善の選択をしないといけないわ。

 残酷に見えるかも知れないけど、これが現実……」

 

 艦長の言葉になのはが更に悲しげな表情をする。

 

「でも……」

「拒否権を発動します」

「え?」

 

 そこへ割り込んだ声に、艦橋中の人間の視線が集まる。

 声を上げたのはなのはの姉であるまどかだった。

 なのはの後に立って、艦長を真っ直ぐに見据えている。

 

「契約に基づき、待機命令に対して拒否権を発動。

 高町なのは、高町まどか、松田優介の3人を速やかに現場に転送して下さい。

 万が一これを拒否する場合、拉致監禁として扱います」

「何ですって!?」

 

 まどかのあまりの言葉に、艦長が立ち上がって振り返る。

 

「『私達自身や家族・友人、この街やこの世界、それらに被害を齎す命令に関しては拒否権を有する』……最初の約束通りですよね」

「被害を出す命令なんて……!?」

 

 そこまで言い募ってハッと艦長はモニタを振り返る。

 そうか、そう言うことか……。

 

「6個のジュエルシードの暴走という放置すれば次元震や次元断層で世界が滅びかねない事態、だと言うのに何もせずに傍観し出される待機命令。この世界に被害を齎す命令であるのは疑い様の無い事実ですよね」

「……………………………………………………」

「『最善の選択』でしたっけ?

 管理外世界の安全より容疑者の捕縛の方が優先度高いなら、そうかも知れませんね」

 

 痛烈な皮肉に艦長は言葉も出ない。

 確かに、この世界のことを考えれば一刻も早くジュエルシードを対処するのが当然だ。

 管理外世界だからって見下すような人間も管理局や管理世界には居るが、僕はそんなことは良くないと思っていたし自分でもそんな考えはしていないつもりだった。

 だが、心の何処かでそんな意識があったのかも知れない。

 これが仮にミッドチルダで起きたことであれば、艦長も僕も即座に部隊を派遣して次元震の発生阻止を優先させた筈だ。

 拳を握りしめ唇を噛み締める。

 自分の情けなさに嗚咽が漏れてしまいそうだったからだ。

 

「さて、現場に行くわよ。2人とも」

「あ、ああ……」

「う、うん……」

 

 まどかが残りの2人に声を掛けるが、2人は引き攣った顔をして生返事を返す。

 若干、腰が引けている様に見えるのは現場に行くのが恐ろしいからではなく、まどかの言動に引いているからなんだろうな。

 

「待て、3人とも」

 

 そんな3人に僕は声を掛ける。

 これが正しいことかは分からない。

 しかし、正しいと信じたいことではある。

 

「何? これ以上問答している時間が惜しいんだけど」

「僕も行く」

 

 冷たい言葉を投げ掛けてくるまどかに、こちらの要望を端的に告げる。

 まどかは一瞬驚いた表情をした後、輝くような笑顔になる。

 その笑顔に思わず見惚れそうになったが、それを誤魔化す様に僕は艦長に向かって言葉を投げる。

 

「艦長、前言を撤回します。

 第97管理外世界の安全のため、速やかにジュエルシードの対処を行います。

 出撃許可を」

「……許可します。

 但し、彼等(・・)が出てきた場合は速やかに撤退することを心掛けて下さい」

 

 僕達4人は転送でアースラから嵐となっている結界内へと跳んだ。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 結界内で飛び掛ってきた使い魔──アルフをいなすと、フェイト・テスタロッサになのはが協力を持ち掛ける。

 フェイトは混乱していたが、なのはに魔力を分け与えられて一時休戦を受け入れる。

 さて、どう対処するか。

 暴走しているジュエルシードは6つで、こちらは6人。

 ならば1人1つずつ対処……といきたいところだが、6人の内で砲撃が撃てるのは4人。

 動植物なら優介やアルフも対処出来たかも知れないが、水竜巻では砲撃魔法で散らさないと難しいだろう。

 2人には砲撃を放つ僕らをシールドで守って貰うとして、残り2つをどうすべきか……。

 

 そう思っていると、水竜巻の内2つに数百に及ぶ無色の射撃とピンク色の射撃が撃ち込まれる。

 飛んできた元に目を遣ると、これまでも何度か見かけた黒い軍服、聖槍十三騎士団の2人が居た。

 まずい、彼らが来たら撤退しろと艦長から厳命されている。

 しかし、そうなると6個ものジュエルシードを持っていかれてしまうことになる。

 悔しいが奴らの戦闘能力は非常に高い。

 何の躊躇いもなくジュエルシードに向かっていったことから、おそらく対処出来る自信があるのだろう。

 幸いにして、まだお互いに声を掛けていない。

 ならば、気付かなかったことにしてジュエルシードを処理、可能な限り確保して撤退するしかない。

 

「まどか、なのは、そしてフェイト・テスタロッサ。1人1つずつ、ジュエルシードを封印してくれ。

 優介はシールド、アルフはバインドを頼む」

 

 他の5人も聖槍十三騎士団の2人に気付いていたが、それを無視するかのようなこちらの指示に怪訝そうにしながらも、今はジュエルシードの対処が優先と指示に従ってくれた。

 

「I am the bone of my sword……熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

 

 優介の右腕からピンク色の花弁が広がり僕達6人を包み込み、周囲の嵐や雷撃から防御する。

 あの時のまどかの砲撃を防いでいたところを見た時にも思ったけど、このシールドは本当に凄い。

 おそらくオーバーSランクの砲撃魔法でも防げるんじゃないか。

 

 僕とまどか、なのはとフェイトの4人は砲撃の態勢を整える。

 

「チェーンバインド!」

 

 アルフの足元からオレンジ色の鎖が4本の竜巻を縛り上げる。

 

「あまり長くは抑えてられないよ!」

「ああ、いくぞ! 3人とも!」

 

 僕の合図で、優介のシールドが消えるのと同時に4つの砲撃が同時に発射される。

 

「ブレイズキャノン!!!」

「ディバインバスターー!!!」

「サンダーーーレイジ!!!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ーー!!!」

 

 ……って、まどか。

 それは止めろって言ったのに!

 まぁ、今は非常時だからいいか。

 

 4つの砲撃はそれぞれのジュエルシードに当たり、それぞれを封印する。

 聖槍十三騎士団の2人が対処していた2つもほぼ同時に封印され、嵐は唐突に止んだ。

 光が差し込んでくる中でなのはとフェイトの2人は向かい合い見詰め合っている。

 なのはが何かを言っている様だが、僕には聞こえなかった。

 

 そこに突然、紫色の雷が海に落ちる。

 まさか、次元跳躍魔法!?

 SSランクの魔法だぞ!?

 

 フェイトが呆然と雷が落ちてきた空を見上げる。

 

「母さん……?」

 

 続く雷は棒立ちとなっているフェイトの頭上に落ちてきた。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

 

 優介がフェイトを庇う位置に立ち、先程と同じくシールドを展開する。

 雷撃は止まず、何度も打ち付けられる。

 花弁が次々と破裂する様に消え、4枚のうち3枚があっという間に破壊される。

 

「ぐ……あああああぁぁぁぁ!!」

 

 裂帛の気合と共に、何とか優介は雷撃を凌ぎ切った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 空中を睨みながら荒い息を上げる優介、呆然と立ち竦んでいるフェイト。

 なのはは雷撃と優介のシールドが衝突する衝撃に吹き飛ばされそうになった所をまどかに支えられている。

 

 全員の意識が突然襲い掛かってきた次元跳躍魔法に向けられていたその瞬間、アルフが動いた。

 人型に変身すると、フェイトを抱え、皆の意識から外れていたジュエルシードへと手を……させるか!

 僕は飛行魔法でアルフの進路を塞ぐ位置に飛ぶと、その手をデバイスで止める。

 同時に左手で後ろ手にジュエルシードを確保しようとする。

 

「邪魔……するなーー!」

「うわあああぁぁーー!」

 

 ジュエルシードに気を取られていたせいで、アルフの手から発せられた魔力を防げず吹き飛ばされてしまう。

 何とか海の上で魔力で滑る様に態勢を整え、沈まない様にする。

 

「2つしかない!?」

 

 アルフの声に、何とか過半数を確保出来たかと手の中のジュエルシードを確認しようとするが……感触からして随分少ないような?

 

「って、こっちも2つしかない!?」

 

 馬鹿な!?

 ジュエルシードは6つあった筈、残りの2つは何処に行った?

 

「お探しものはこれかしら~?」

 

 辺りを見回して残り2つのジュエルシードを探す僕達の耳に、そんなからかう様な言葉が入ってくる。

 声が聞こえた方を見ると、そこにはピンク色の髪をした少女──聖槍十三騎士団のルサルカが空中に三角のスフィアを展開して立ち2つのジュエルシードを弄んでいた。

 一体どうやって!?

 

「私達が封印したのは2つだから、取り分としては間違ってないわよね」

「取り分としてはそうでも、その後に奪い合うのは別だよなぁ?」

 

 もう1人の白髪の青年──ヴィルヘルムがルサルカの展開したスフィアに降り立ち、凶悪な笑みを浮かべながら殺気を振り撒く。

 拙い、早く撤退しないと!

 

「ああああぁぁぁーーー!!!」

 

 同じ様に感じたのか、アルフが魔力弾を海に放ち水飛沫を上げる。

 今だ!

 

「エイミィ! 転送を!」

『了解!』

 

 そうして、僕達4人は何とかアースラへと撤退した。

 

 

【Side リンディ・ハラオウン】

 

 撤退するクロノ達の姿を見届けて、私は内心で大きく安堵の溜息をついた。

 フェイト・テスタロッサは確保出来ず、ジュエルシードも3分の1しか確保出来ていない状況だが、最悪を考えれば遥かに良い結果だ。

 聖槍十三騎士団と戦闘に入り掛けた時は本当に焦った。

 

「無事に済んだから良かったものの、クロノにはお説教が必要ね」

「艦長?」

「なんでもないわ、エイミィ」

 

 現地住民の3人だけなら兎も角自分まで出撃したところ、それと聖槍十三騎士団が姿を見せた時の命令違反。

 内部不和を引き起こしかねなかったため黙認せざるを得なかったが、今後はしっかりと自重させなくてはいけない。

 若さから来る正義感も大事ではあるけれど、何れ私やあの人の後を継いで提督を目指すならばそれだけでは駄目だ。

 

「あんな派手な事をしていれば彼等に嗅ぎ付けられるのは当然だと言うのに……。

 介入を躊躇った理由を完全に履き違えていた様ね」

 

 あの子もまだまだ甘い、そう評価せざるを得ないだろう。

 それについては、現地住民の3人についても同じだ。

 

「こんなことになるなら拒否権なんて認めるべきじゃなかったわね」

 

 課された条件からまさか行使されるとは思っていなかった拒否権、それについての後始末も頭が痛い。

 管理局に個人が拒否権を発動したなんて、公の記録に残せる筈もない。

 報告については誤魔化す方向で進めるしかないだろう。

 

 それにしても、あの子は交渉時点からこうなることを見越していたと言うのだろうか。

 そうでなければ、あの条件を提示したのは不自然だ。

 しかし彼女は歳不相応に頭は回るものの、何もかも見通す様な策略家という感じでもない。

 実際、彼女の立場に立ったとしても、今回は様子を見る方に回って必要なタイミングで一瞬だけ介入した方が良かった筈だ。

 ガレア帝国と対峙するリスクを正確には把握してはいないだろうが、表に出てきた2人だけでも危険であることは肌で感じている筈。

 どうにも印象がチグハグだ……情報が足りていない。

 

「さて……兎に角彼女達とは話をしなければいけないわね。

 エイミィ、あの子達が戻ってきたら会議室に来る様に伝えて頂戴」

「あ、はい。 了解しました、艦長」




(後書き)
 双剣スタイルを得意とするまどかと優介ですが、専用デバイスが無いので汎用杖型デバイス二刀流。
 無茶するな……。
 なお、約束された勝利の剣(エクスカリバー)は名前を真似しているだけの、ただの砲撃魔法です。
 威力はディバインバスターと同程度。

 後半の海上における管理局勢の対応については、原作で疑問に思ったところです。
 最善の選択……これはいいです、組織として当たり前。
 フェイトを見捨てる……これもいいです、彼等は別に彼女を助けに来たわけではないですし。
 暴走するジュエルシード放置……ここが分かりません。ロストロギア対策は管理局において優先事項では……地球の被害は管理外世界だから置いておくとしても、臨界超えて他の世界にまで影響出たらどうするのでしょう。
 まぁ、今回は黒円卓との衝突を懸念したと言う理由があるので、様子見の方が正解だったのですが……クロノが逸りました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。