性格は概ね同意ではありますが…そんな彼女に少し共感してもらうため30秒程お時間頂戴したく。
想像してみて下さい。
「強くてニューゲームで難易度「NORMAL」選んでヌルゲー状態で無双、
余裕かましてセーブしないで進めてたらバグで突然難易度が「VERY HARD」に切り替わり、
しかも戻せない」
まぁ、彼女は気付いていないだけで実際の難易度は「NIGHTMARE」なのですが。
推奨BGM:疑念(nanoha)
【Side 高町まどか】
「ん…………」
意識が浮上する。
ぼやける視界に天井が映るが、私の部屋の天井じゃない。
一体ここは……。 私はどうして……?
その瞬間、電撃的に記憶が蘇った。
ヴィータに襲われる私となのは、駆け付けてきたフェイトとアルフ、それから新たな転生者、介入してきた聖槍十三騎士団、そしてシャマルに蒐集される私。
「……そうだ! あれからどう……!?」
ガバッと身を起こすが、その勢いのせいか視界が黒く染まって起こった眩暈に私は姿勢を保てずそのまま横に頭を倒した。横向きになった視界に映画の様に機械が飛び交う景色が映る。
何度か見たことのあるこの光景に私は自分が居る場所が時空管理局の本局であることに気付いた。
少なくとも、私は蒐集を受けて気絶して本局に運び込まれたのだろう。
残っている最後の記憶では、なのはとフェイトが私を助けようとしてルサルカの創造に捉われてしまっていた。
加えて、あの2人が行動出来ない状態と言うことはそれぞれが相手をしていたヴィータとシグナムがフリーになっていたことを意味する。
そうなると、アルフやフレイトライナー執務官はそれぞれ2人ずつを相手にしなければいけないことになる。
全滅……想像に浮かぶ最悪の状況に血の気が引く。
こうしては居られないと私は眩暈をこらえながらベッドから降りて立ち上がり、仲間達の安否を確認するために部屋を出ようとする。
が、ドアの前で自分の格好にふと気付く。
今の私の格好は入院着の様な姿で、このままで歩き回るのはあまり宜しくない格好だ。
辺りを見回すと、ベッドの横に置かれている椅子の上に私が元々着ていた洋服が畳まれて置いてあった。
部屋を出る前に着替えた方が良いか、そう思うと私は上着に手を掛けた。
「まどか! 大丈夫か!?」
シュッという音と共にドアが開き、部屋に優介が叫びながら飛び込んでくる。
「…………え?」
そして、次の瞬間固まった。
一方、私は上着を脱いだ状態で同じく固まっていた。
来ていたのは入院着の様なもので、当然下には何も着ていない。
つまり……。
「ご、ごめん!」
慌てて部屋の外に出てドアを閉める優介を尻目に私はへたり込む。
「見られた……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「え~と、さっきは……その……」
取り合えず、着替えを済ませてベッドに戻ると部屋の外に居る優介を呼び寄せた。
お互いに気拙いため、目線を合わせられない。
外見年齢は9歳のため見られたって別に構わないと頭では思うが、意識は前世の分もあるため矢張り恥ずかしいものは恥ずかしい。
「記憶から消しなさい。あなたは何も見ていない、そうよね?」
「イ、イエスマム!」
笑顔を向けながら命令すると、優介は冷や汗を流しながら敬礼を返してきた。
「と、ところで身体は大丈夫なのか?」
「ええ、さっきまで眩暈が酷かったけど、今は大丈夫よ。
元々怪我もしてないしね。
ただ、魔法はしばらく使えそうにないかな」
眩暈が無くなったのは裸を見られたショックのせいなんだけど、藪蛇になるので言わないでおく。
「そっか、無事とは言い難いけど大事にならなくて良かったよ」
「ありがと。
ところで、なのはとフェイトや他の人達がどうなったか分かる?」
先程は部屋を出て他の人の安否を確認しようとしたが、優介が報せを受けてここに居るならある程度情報を聞いているだろう。
外に出ても何処に行けば良いか分からないので、取り合えず優介から話を聞かせて貰うことにした。
「なのはとフェイトならこの部屋の隣で入院しているって聞いてる。
この後で行ってみるつもりだけど」
「そう……やっぱり2人とも蒐集を受けてしまったのね。
他の人は?」
あの2人については私に残っている記憶の時点で行動不能にされてしまっていたから、それはあり得ることだと覚悟していた。
私が捕まったせいで2人が蒐集を受けてしまったことに罪悪感が湧き起こる。
正史よりも悪い結果になってしまったことについても頭を抱えたくなる。
「クロノから聞いた話では入院しているのは3人だけって話だったけど」
つまり、アルフとフレイトライナー執務官は無事ということだろうか。
あの状況でどうやって乗り切ったか分からないが、少しほっとした。
ああ、そうだ。フレイトライナー執務官のことと聖槍十三騎士団のことを優介にも話しておかないと。
「アルフとフレイトライナー執務官は無事ってことね。
優介はフレイトライナー執務官にもう会った?」
「いや、会ってないと言うか……そもそも誰だか分からないんだけど?」
「多分、キャスターのクラスを選んだ転生者」
「なっ!? 他の転生者に会ったのか!?」
私の言葉に優介が驚愕している。
まぁ、転生者は基本的に敵同士だから無理も無い。
勝者の権利を捨てたとしても生き残ることが出来るのは2人まで、3人居ればその時点で最低1人は死が確定する。
執務官であることを考えると彼女はP・T事件の情報を見ている筈だし、私と優介が転生者であることも同盟関係であることも知っている可能性が高い。
同盟の余地が2人までである以上、3人目の彼女とは確実に敵対することになるし、向こうもそれを理解しているだろう。
先の戦闘時にはお互いに敵への対処で余裕が無かったために結局言葉も交わしていないが、今後については警戒が必要だ。
「彼女のレベルは39だったわ。
正直、私とあなたの2人掛かりでも勝てるかどうかは難しいところね。
まぁ、向こうも管理局員としての立場があるだろうから今すぐに真っ向からぶつかることは無いと思うんだけど……」
「そうか……何れは戦うことになるのか。
何とか回避出来ないかな?」
「難しいでしょうね。
そもそも『ラグナロク』のルール上、2人までしか生き残れないことになってるし。
私とあなたは2人で同盟を組んでる以上、他の転生者とは最初から敵対が決定しているわ。
向こうだって、既にそう認識していると思う」
「………………………………そうか」
何かを考え込む優介の表情に、何となく嫌な予感を感じる。
付き合いはそこまで長くないが、彼の性格は最初に会った時からすぐに把握出来ていた。
度外れたお人好し、自分よりも他人を優先するその性格、誰かに似ていると思ったが考えてみれば簡単なことだった。
彼は今生の私の双子の妹、なのはと考え方が良く似ているのだ。
しかし、比較すると彼の方が重症に思える。
「変なこと考えてないでしょうね?」
「何だよ、変なことって?」
「……自分が犠牲になれば1人の命が助かる、とか馬鹿なこと考えていないかってことよ」
「!?」
優介の表情が劇的に変わる。
私はその表情で図星を突いたことを悟ると、思わず額を抑えた。
「やめてよね。
そんなことしたって誰も喜ばないわよ」
「……………………………………でも」
「デモもストも無し。
あなたが死んだらなのはが悲しむわよ。ああ、勿論私もだけど」
「…………………………え?」
優介は口をポカンと開け、間抜けな表情を晒す。
「え?ってあなたねぇ……。
ああもう、兎に角! 自己犠牲的な考えは捨てなさい」
とことん自分の存在が低い彼にこれ以上言っても納得はしてくれそうにない。
いざとなったらなのはと2人掛かりで力尽くで止めよう。
「それともう1つ、P・T事件で襲ってきた聖槍十三騎士団の2人が今回も介入してきたわ……それもヴォルケンリッターに味方する形で。
私が蒐集を受けてしまったのもそのせいよ。
2度目である以上偶然とは思えない……少なくとも彼らの背後に転生者が居るのは確実だと思う」
「! あいつらが……。
ヴォルケンリッターの味方ってことは、背後の転生者が八神はやての身内とかなのかな?」
「ヴォルケンリッターと面識は無さそうだったからそれは無いと思うけど……」
尤も、あれが演技でない証拠はないから決め付けることは出来ない。
ただ、私の勘ではその可能性は少ない。
「前回は結局、ジュエルシードだけ集めて最後は出て来なかったから何処に行ったかと思ってたけど」
「彼らに持ってかれた分についてはリンディ提督も回収を断念したからね。
フェイトが集めた分はプレシアと一緒に虚数空間の中だし、結局管理局が回収出来たのは7個だけ。
これが今後どう影響してくるか分からないし、そもそも彼らが何のためにジュエルシードを集めていたのかも不明なままだけど」
ジュエルシードは全部で21個。
正史ではフェイトが集めた9個が虚数空間に落ち、残り12個が管理局に回収された。
しかし、この世界では管理局が7個、聖槍十三騎士団が8個、そして虚数空間に落ちたのが6個だ。
確か、管理局が回収した分は紛失してジェイル・スカリエッティの手元に渡る筈。
スカリエッティの目的は使うことではなく研究だから12個が7個に減っても影響はないと思うけど、聖槍十三騎士団に渡った8個がどうなるか全く分からない。
結局、リンディ提督から彼らの情報は得られなかったし、管理局内のデータベースでも完全に隠蔽されていて見ることは出来なかった。
管理局の公式記録ではジュエルシードは発掘された時点で13個だったことにされ、聖槍十三騎士団の回収した8個については最初から存在しなかったことにされた。
「転生者を有無を言わさず殺しに掛かるって感じでも無かったけど、殺さない様にしているって様子でもなかったな。
ジュエルシード集めがメインで、ついでだから襲ったって印象だった」
「そうね。
なのはとフェイトの決闘の時にも姿を見せなかったし、時の庭園に乗り込んだ時も出て来なかった。
彼らの目的はジュエルシードだけだったと思って間違いは無いでしょ」
「ロストロギアを集めているのかな?
そうだとすると……今回は闇の書か。
でも、主以外には使えない筈じゃなかったっけ?」
「ええ、主以外が干渉しようとすると主を取り込んで暴走して転生してしまう筈よ。
でも、もしかすると彼らはそのことを知らない可能性もあるわ。
前回のジュエルシードの時も、中途半端に知識を与えられているみたいだったし。
今回も闇の書を完成させろと命令されているだけで、彼ら自身はその目的も知らない様子だったわ」
でも、主を取り込んで暴走・転生させてもメリットなど無い筈。
あるいは、闇の書の力を手に入れる方法を持っているということだろうか。
「普通は」不可能だが、転生者ならば特典でそんな手段を持っている可能性はゼロでは無い。
「背後の転生者の狙いが闇の書に関連していることだけは確かみたいだな。
詳細は分からないけど……」
「少なくとも、強力な戦力が敵側に居ることだけは確かよ。
SSSクラスの敵が最低2人……いえ、3人。
姿は見せなかったけど、砲撃を撃ち込んできた奴が他に居る筈」
「砲撃?」
「炎属性の砲撃が私達に向かって撃ち込まれたのよ。
撃たれたのはその一撃だけで、それ以降は参戦してこなかったわ。
おそらく、私達を分散させるためだったんだと思う。
威力はそこそこだったけど範囲は狭かったしそこまで強力な攻撃じゃなかった……とその時は思っていたんだけど」
それほど離れていたわけではないヴォルケンリッターもダメージは受けていなかったし、範囲は狭かった。
威力が軽いわけではないが、ビルを破壊する程でも無かった。
だからそこまで強力な一撃ではなかったと、あの時はそう思った。
「何か気になることがあるのか?」
「撃ち込まれたのが結界の中なら見付けることが出来た筈。
でも、全く見当たらなかった。と言うことは……」
「結界の外から撃ち込んだってことか!?
そんなこと出来るのか?」
「少なくとも、私には出来ないわ。
なのはがスターライト・ブレイカ─を使ってようやく貫ける強力な結界を軽々と貫通する威力、上手く分散させる様に私達の居た中心点に撃ち込む精密さ、更にヴォルケンリッターには一切ダメージを与えない威力制御。
加えて、結界は維持されたままだったから一点集中で最小限の穴を空けたってことだと思う。
人間業じゃないわ」
砲撃に特化しているなのはでも同じことは出来ないだろう。
「それにしても炎の砲撃か……まさか!?」
「心当たりがあるの?」
「……ああ、ひょっとすると最悪かも知れない。
大隊長クラスがいる可能性がある」
大隊長……。
その言葉に以前に優介から聞いた情報を思い返す。
「前に言っていた、ヴィルヘルムより強い5人の内の1人ね。
って言うか、ヴィルヘルムでも既にSSSクラスなんだけど……。
取り合えず、そいつの特徴や能力を教えてくれる?
……いえ、この際だから全員について教えて貰えないかしら」
「ああ、分かった。
俺もそこまで詳しいわけじゃないから、正確でないところがあるかも知れないけれど……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「首領のラインハルトに副首領メルクリウス、それに3人の大隊長か。
炎の砲撃は大隊長の1人、赤騎士エレオノーレってわけね」
「ああ、確証はないけれど他に該当する奴は居ないと思うから消去法でそうなる」
「列車砲の砲撃に標的を捉えるまで広がり続ける爆心……1人で戦争が出来るわね。
まったく、ヴィルヘルムとルサルカだけでも厄介だってのに……」
本当に頭が痛い。
更にそれと同じレベルの相手が2人、加えてそれ以上の力の持ち主が2人。
平団員でもSSSクラスが数人と考えたら楽観出来る相手ではない。
正直、真っ向からぶつかったら管理局の総力でも勝てない様に思える。
「もし全員出てきたら管理局自体も危ないわね。
一部の騎士団員だけ再現する能力で全員は居ないと期待したいところだけど」
「ラインハルトとメルクリウスの力は他の者とは隔絶してる。
ヴィルヘルムであれなら、どちらも1人で管理局の全軍を相手にしてもあっさり勝てるくらいだと思う。
どちらか片方でも存在したら、もう俺達がどうにか出来るレベルの話じゃない」
「そこまでの相手なのね……。
まぁ、考えてもどうにも出来ないから居ないことを祈って、今は表に出てきている3人の対処を考えましょう」
「ああ、と言ってもその3人だけでも厳しい相手だけど。
戦力増強しないと勝ち目はないだろ」
確かに、ヴィルヘルムにルサルカ、それに赤騎士の3人だけでもかなりの戦力だ。
なのは達はヴォルケンリッターの相手があるから、私達だけで何とかしなければいけない。
フレイトライナー執務官と敵対せずに一時的な共闘関係を築けたとして、3対3。
彼女のレベルであればヴィルヘルムやルサルカと互角に戦える筈だけど、私や優介は正直厳しい。
赤騎士が出て来なければ、フレイトライナー執務官に1人相手して貰って残りの1人に2人掛かりで戦えば何とかなる。
しかし、赤騎士が出て来た瞬間に戦力は覆る。
「戦力増強と言えば、私や優介のデバイスが完成すれば状況も改善するかな。
カートリッジシステムを最初から組み込んでるから、格上にも多少は対抗出来るでしょ」
「ああ、そう言えばクロノから聞いたけど俺達のデバイスなら完成したらしいぞ。
お見舞いが済んだら受取ってくるつもりだったんだ」
「あ、ホントに?
それは朗報ね。私も一緒に行くわ」
「大丈夫なのか? 寝てなくて」
「大丈夫よ。 魔法はしばらく使えそうにないけれど体調は殆ど戻ってきたから。
まぁ、デバイスを受取っても今は起動も出来ないけど、早く見たいのよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
優介と一緒に右隣のフェイトの入院している部屋に向かったが、部屋には誰も居なかった。
首を傾げながら左隣のなのはの部屋のドアを空ける……が、即座に閉める。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「まぁ、趣味は人それぞれよね」
「そうだな」
妹が女の子と抱き合っている場面に遭遇した場合、どのような態度を取れば良いか切に教えて欲しい。
取り合えず、ここは後回しにしてデバイスを受け取ってこよう。
「にゃぁ~~~~~!!!」
「ちょ、待って! まどか、優介! 違うの、これは違うの……!」
部屋の中から悲鳴が上がり、慌てた2人が飛び出してきて私達は立ち去る前に捕まってしまった。
「落ち着いたかしら」
「う、うん……」
「何とか……」
パニックに陥った2人を何とか宥めて、落ち着かせることが出来たのはなのはの部屋に来てから10分程経ってからだった。
遅ればせながら、お互いが大きな怪我を負わなかったことを喜び合うが、矢張り先の敗北が尾を引いており雰囲気は暗い。
「取り合えず2人とも、まずは謝っておくわね。
私が捕まったせいで2人まで被害を受けてしまった。
本当にごめんなさい」
そう言いながら、私はなのはとフェイトに向かって深く頭を下げる。
「そ、そんな……お姉ちゃんのせいじゃないよ!」
「そ、そうだよ! あれは私達が不注意だっただけで!」
2人が慰めてくれるが、ルサルカの能力を知りながら捕えられた私に責任があるのは間違いない。
しかし、転生者のことを話さない前提だと、私に非があったことを説明することは難しい。
いっそ話してしまおうかとも思うし、これまでも何度か話そうと思ったことはあるのだが反応が怖くて言い出せなかった。
前世の記憶を持って、この世界の人間の腹を借りる形で生まれてくる人間。
転生者と言うのはカッコウの托卵の様なものだと思う。
家族の中に紛れ込まされている異物。
勿論、今の家族はそれでも私の事を家族だと思ってくれるとは思うが、でも、もしかしたらと思ってしまうと怖くて踏み出せない。
「ありがと……」
2人に、いやここには居ない家族に対しても騙している罪悪感を抱えながら、やっとそれだけ口にすることが出来た。
「取り合えず、2人とも魔法は使えなくても体調の方は大丈夫みたいだな。
俺達は完成したデバイスを受け取りにデバイスルームへ行くけど」
「あ、私達も行くよ」
「うん、レイジングハートの事も気になるし……」
正史とは異なり、なのはとフェイトはルサルカの創造で動きを止められて蒐集を受けてしまったが、代わりにレイジングハートやバルディッシュは損傷を負っていない。
ただ、報告のためのデータの抽出とついでに行うメンテナンスのため、デバイスルームに預けたそうだ。
……あれ? 今気付いたけど、この流れだとカートリッジシステムを搭載する理由が無い?
正史では打ち合いで破壊されたレイジングハートとバルディッシュが更なる力を望んで自らカートリッジシステムを求めた。
しかし、この世界ではルサルカの罠に嵌まっただけでデバイスは損傷すらしていないから更なる力を求める必要が無い。
「じゃあ、皆で行きましょうか」
内心で冷や汗を掻きつつ、全員でデバイスルームに向かうことにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あ、みんな!」
「ああ、気付いたのか」
デバイスルームに入ると、人間形態のアルフとクロノがそこには居た。
「アルフ、ここに居たんだ」
「クロノくん、久し振りだね」
部屋にはもう1人、白衣を着た女性が奥の方でデバイスを前にモニタを操作していた。
「優介とまどかは知っているけど、なのはは初めてだから紹介するよ。
彼女が2人のデバイスの製作やレイジングハートやバルディッシュのメンテナンスを担当して貰ったデバイスマイスターのマリエル・アテンザだ」
「マリエル・アテンザです。
なのはちゃん、よろしくね」
「あ、高町なのはです。よろしくお願いします!」
私や優介は何度かデバイスの作成のために本局を訪れていたためマリエルさんと面識があったが、なのはは初対面だ。
「丁度良かったわ。
なのはちゃんとフェイトちゃんに相談したいことがあったの」
「え?」
「私達に?」
接点が無かった筈のマリエルさんの言葉になのはが不思議そうに首を傾げる。
フェイトも心当たりが無い様で同じく首を傾げている。
「ええ、レイジングハートとバルディッシュのメンテナンスをしていたんだけど、ちょっと想定外のエラーが発生してて」
「ええ!?」
「そ、そんな!? 大丈夫なんですか!?」
「ああ、ごめんなさい。別に異常があるわけじゃないの。
ただ、2機の方から部品が足りないって主張しているの」
あれ、この流れって……カートリッジシステムの話?
破壊されたわけでもないのに、同じ流れになるの……?
好都合と言えば好都合だけど。
「部品が?」
「あの、それって大丈夫じゃないんじゃ……?」
「足りないと言うか、追加してくれって要望ね。
2機が欲しがっている部品はCVK-792……ベルカ式カートリッジシステムよ」
やっぱり。
レイジングハート達がそう考えた切っ掛けは不明だけど、これで懸念は解消された。
「ベルカ式?」
「あの、それって……?」
「ベルカ式と言うのはかつてミッドチルダ式と2分した魔法体系だよ。
遠距離戦闘をある程度度外視して近接戦闘に特化した術式で、優れた術者は「騎士」と呼ばれるんだ。
特徴的なのが今話に挙がったカートリッジシステム……魔力の込められた弾丸を消費することで、一時的に爆発的な破壊力を出すことが出来る危険で物騒な代物だ。
昨日の戦いで剣士とハンマー使いの2人が使っていたのがそれだよ」
何のことだか分からないなのはとフェイトにクロノが説明をしてくれる。
でも、管理外世界出身のなのはは兎も角、英才教育を受けてる筈のフェイトは知っててもいい気がするんだけど。
「そう言えば、銃の弾みたいなの撃ち出したら魔力が上がってた!」
「でも、どうしてバルディッシュ達がそんなもの……」
「多分、このままじゃ勝てないって思ったんじゃないかな。
それに、優介君やまどかちゃんのデバイスは要望を受けて最初からカートリッジシステムを搭載しているから、それを知って羨ましくなったとか」
うわっ!? もしかして切っ掛けは私達のせい?
しかも、そこで私達を話題に挙げないで欲しかった。
マリエルさんが余計なことを言ったせいで、部屋の全員の視線が私と優介に集中し、思わずたじろぐ。
「どういうこと、お姉ちゃん?」
「ベルカ式の事、知ってたの?」
「でなきゃ、要望なんて出せないよねぇ?」
「そもそも、管理外世界出身の君達がそんな事を知る機会は無い筈なんだが……」
当然の様に湧き上がる疑惑に、4人が睨んでくる。
「え、え~と……」
優介は何と答えていいか分からず戸惑っているが、私はカートリッジの搭載を依頼した時点でいずれは問い詰められることを予測していた。
当然ながら、切り返しについても万端だ。
「ベルカ式の事なら知ってたわよ。前にデバイスの作成でここに来た時に無限書庫で色々調べてたから。
あの時はデバイスの作成に役立つ資料がないか探してたんだけど、ベルカ式カートリッジシステムについてはすぐに出て来たわよ。
私も優介も近接戦闘がメインだから、ベルカ式と相性も良いしね」
「そう……なんだ」
「ちょっと怪しいけど……」
なのはとフェイトは一応納得した様子ではあるが、微妙にこちらを疑いの眼差しで見ていた。
ここで目を逸らすと負けなので、まっすぐに見返しておく。
「ところで、マリエルさん。
レイジングハート達がカートリッジシステムを追加して欲しいって言ってるのは分かったんだけど、相談って?」
取り合えず疑いは収めることにしたのか、なのはがマリエルさんの方に向き直って質問をする。
「そのリクエストを許可するか却下するかを決めて欲しいの。
カートリッジシステムは確かに強力だけど、本来術者が使える以上の魔力を無理矢理使うものだからデバイスにも魔導師にも負担が大きいの。
使い過ぎると身体を壊す可能性があるし、デバイスも大破してしまうかも知れない危険性があるわ。
だから、良く考えてから決めてね」
「「分かりました」」
素直に頷いているが、2人ともいざ搭載されたら躊躇なしに濫発するんだろうな。
一応、後で私からも釘を刺しておいた方がいいかも知れない。
あまり効果はなさそうだけど。
「それと、優介君、まどかちゃん。
あなた達のデバイス、完成したわ」
マリエルさんはそう言うと、部屋の奥の台に置かれていた2機のデバイスを私達に差し出してくる。
蒼い宝石型のデバイスと、紅い三角形の宝石型のデバイスだ。
「蒼い宝石の方がまどかちゃんのデバイス。
なのはちゃんのレイジングハートと色違いのデザインにしてあるわ。
紅いピック型の宝石が優介君のね。
頼まれた通りのデザインになっていると思うけど」
私は待機状態のデザインはお任せにしたが、優介は結構細かく指定したらしい。
あの紅い三角形の宝石……遠坂凛の切り札の宝石と同じデザインにしたのね。
「ありがとうございます」
「ああ、デザイン通りだ。
ありがとう、マリエルさん」
デバイスを渡されたが、残念ながら今の私は起動することが出来ない。
しかし、会話をするくらいなら待機状態のままでも可能だ。
私は渡されたデバイスに話しかけようとして、名称を知らない事に気付く。
「この子の名前はもう決まってるんですか?」
「いえ、まだ決まってないわ。
あなた達が付けてあげて」
そう言われてしばしの間悩んで名称を決めた。
「そうね、レイジングハートの姉妹機だから……『ライジングソウル』でどうかしら」
≪All right,my master. My name is "Rising Soul". Nice to meet you.≫
「こちらこそ、これから宜しくね」
新たな相棒との言葉を交わす。
隣では同じ様に優介がデバイスに話し掛けていた。
「お前の名前は『Moon Light』だ、よろしくな」
≪Yes,Sir. I'm "Moon Light". Pleased to meet you.≫
Moon Light……月の光?
何で優介がそんな名前をデバイスに付けたかは分からないけど、何か意味があるんでしょう。
「デバイスのモードについて説明しますね。
2人のデバイスは3つのモードがあります。
まずは両方のデバイスに共通しているダブルソードモード。
実体剣2本で構成される接近戦向けのモードです」
マリエルさんが空間ディスプレイを出して説明をしてくれる。
ディスプレイにはライジングソウルとムーンライトのダブルソードモードが表示されている。
「次に遠距離向けのモードですけど、まどかちゃんのライジングソウルはシューティングモード。
杖型で射撃や砲撃向けのモードです。
優介君のムーンライトはアーチャーモード。
弓の形に変形して魔力で構成した矢を撃つモードです」
ディスプレイの表示が切り替わり遠距離向けのモードが表示される。
私のライジングソウルはレイジングハートと似た形になっている。
優介のムーンライトはまんま和弓の形だ。
「最後にフルドライブ。
ライジングソウルは両手剣のバスタードモード、ムーンライトはソーサーモード。
これについても2人の要望通りに組み込まれています」
「分かりました」
「ありがとう、マリエルさん」
こうして私達は新たな力と相棒を手に入れた。
(後書き)
嗚呼、2007年版知識が蔓延していく……。