魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:【Side テスラ・フレイトライナー】重圧(nanoha)
      【Side クロノ・ハラオウン】運命(nanoha)
      【Side シグナム】夜天の主(nanoha)


24:変革

【Side テスラ・フレイトライナー】

 

「ここは……?」

 

 ぼやける視界の中、私は身を起こし周囲を見回した。

 見覚えの無い部屋だが、窓の外の光景に本局の中であることは分かった。

 また、部屋に置かれている調度品から病室であることも見て取れた。

 

「私は……どうして……」

 

 そこまで呟いた時、意識を失う直前の光景がフラッシュバックする。

 それは地獄の様な業火に覆い尽くされる悪夢の様な光景だった。

 

「いやあああぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 

 記憶の中に刻み付けられた炎の熱さと自分の身体が焦げる臭いが蘇り、私はパニックに陥った。

 私の悲鳴を聞き付けたのか、医者が駆け付け無針注射器を私の首筋に打ち込んだ。

 鎮静剤が効いたのか薄れていく意識の中で私は自身が生きていたことを自覚し、安堵した。

 

 

 数時間後、再度目が覚めた時は既に状況が分かっていた為にパニックに陥らずに済んだ。

 今度は身を起こすことなく天井を見ながら思考にふける。

 時間的に既に昨晩になるが、ベイと呼ばれていた男と対峙していた際に挑発して情報を引き出そうとした直後に身の凍るような気配を感じたかと思ったら、次の瞬間には業火に焼かれていた。

 何故トドメを刺されなかったのかは分からないが、相手が殺す気だったら確実に死んでいたと思い返しながら身震いする。

 

 この世界に転生してから今まで、私は誰にも負けたことがなかった。

 SSSランクの魔導師の才能を貰って生まれて来たのだから当然と言えば当然だ。

 物心着いた時から自分の上には誰も存在せず、全ての人間は私より劣っていた。

 戦えば負けないし全て私の思い通りになる……そんな私の自信をあの焔の砲撃は完璧に打ち砕いた。

 

 怖い。

 もしも次に狙われたら死ぬかも知れない。

 いや、あの焔の砲撃は確実に私だけを狙い撃ちしていた。

「狙われたら」ではなく、間違いなく「狙われる」。

 撃ってきたのは高町まどかが言っていた「もう1人」だと思うが、私が挑発のために奴等の主を侮辱したことが狙われた理由だろう。

 戦場に出ればまた奴等と遭遇することになるかも知れない……いや、高確率でなるだろう。

 出撃しないで済めば命を狙われずに済むが、最高戦力である私が理由もなしに出撃したくないと言っても通るとは思えない。

 

「何とか……何とかしないと……」

 

 ヴォルケンリッターを支援していることから奴等の目的が闇の書の完成であることは間違いないだろう。

 ヴォルケンリッターとの戦闘が発生すれば出撃しないわけにはいかなくなるのだから、出撃をしないで済むようにするためには戦闘が発生しないようにしなければならない。

 ヴォルケンリッターを戦闘なしで抑え込む方法……困難に思えるが1つだけ手段がある。

 

 この方法を採れば、高町まどか、松田優介の2人との一時的な同盟も恐らく破棄されることになる。

 しかし、昨晩の戦闘の状況を見ても、あの2人が味方の立ち位置であっても戦力としては奴等に勝てない。

 であるなら、同盟に固執するよりも戦闘回避を優先すべきだ。

 

 私は戦闘回避の方法を実行すべく、通信を開いた。

 

「ハラオウン執務官、今良いですか?」

『フレイトライナー執務官!? 目が覚めたのですか?』

 

 モニタの向こうで黒髪黒服の少年が驚いて問い掛けて来た。

 

「ええ、心配掛けてすみません。

 それより、今回の事件について1つ頼みがあるのですが……」

『何でしょう?』

「昨日の戦闘、撃墜されてしまいましたがヴォルケンリッターの1人にサーチャーを付けることに成功しました。

 オートになっていたため、私が落とされた後も追跡は継続されています」

『な!本当ですか!?

 それなら……』

 

 勿論、嘘だ。

 サーチャーは確かに放ったが、昨夜にヴォルケンリッターに付けたわけではなく、第97管理外世界に着いてすぐに闇の書の主である八神はやてを探すために放ったものだ。

 住んでいる街、一戸建てであること、名字が分かっていたので見つけ出すことは難しくはなかった。

 提督でなく執務官に直接連絡をしたのは経験豊富な提督と直接話すと嘘がバレる恐れがあったためだ。

 

「ええ、彼らの本拠を捉えましたので、座標を転送します。

 私はまだ動けないので、貴方が武装隊員を指揮して彼らと主、そして闇の書を確保して下さい」

 

『! 了解しました!』

 

 クロノの表情が決意に染まる。

 彼からすれば父親の仇である因縁のあるロストロギア、意気軒昂も当然だろう。

 

「時間を掛ければまた邪魔が入ってしまうでしょうし、一度取り逃がしたら再度捕捉するのは難しくなるでしょう。

 電撃作戦を心掛けて下さい」

『ハッ、了解しました!』

 

 そう言って敬礼すると、通信は切断された。

 上手くすればこれで八神はやてを押さえることが出来る。

 彼女を手中に収めればヴォルケンリッターは下手に敵対は出来なくなる。

 闇の書完成前に彼女を捕まえると原作通りの展開は見込めず、八神はやては死に、闇の書は呪われたまま転生することになるだろう。

 しかし、問題はない。

 重要なのは私が生き延びることと私の名声に傷が付かないことだ。

 その為であれば原作キャラが死のうが、知ったことではない。

 

 

 

【Side クロノ・ハラオウン】

 

「ここか……」

 

 海鳴市の拠点でフレイトライナー執務官から送られてきた座標にサーチャーを飛ばして空間ディスプレイに表示する。

 映し出されているのは普通の一軒家だが、魔導師としてすぐに異常に気付いた。

 

「これは……防御結界が張られている?

 どうやら本当に奴等の拠点みたいだな」

 

 追跡を撒く為だけの場所であればわざわざ結界など張らないだろう。

 既にこの世界で2度交戦してその度に別の次元世界へと逃走していたが、あれは追手を撒くためであり幾つかの次元世界を経由して戻って来ていたのだろう。

 

「エイミィ、まどか達は連絡が付きそうか?」

「連絡は付くと思うけど、みんなまだ学校の筈だからすぐに合流するのは無理じゃないかな」

「そうか……仕方ない。僕らだけで突入しよう。

 武装隊員を集めてくれ」

「了解。でも大丈夫なの?」

「仕方ない。時間を掛ければ掛ける程に彼らの妨害が入る可能性が高くなる。

 サーチャーに気付かれたら逃げられる可能性もあるし、ここは時間を最優先に行動すべきだ」

 

 

 数分後、集められた30名の武装隊員の前で指示を出す。

 

「今回の目標は第一級捜索指定ロストロギア『闇の書』とその主の確保だ。

 守護騎士による抵抗が想定されるが、彼らについては撃破よりも足止めを優先とする。

 10名ずつの3チームに分かれ、1チームが結界の展開と維持、もう1チームが守護騎士の足止め。

 最後のチームは僕と一緒に『闇の書』と主を確保する!」

 

 長年に渡って次元世界を脅かしてきた悪名高いロストロギアの名に武装隊員達も無言ながら目が鋭くなり気勢が高まっているのを感じる。

 

「もう1つ、今回の事件には既に2度に渡って妨害が入っている。

 今回も時間を掛ければ同じことが起こる可能性がある。

 可能な限り迅速に目標を確保し、妨害が入る前に撤退することを心掛けてくれ」

「「「了解!」」」

「さぁ、作戦開始だ!」

 

 そうして僕達は標的の上空へと転送された。

 

 転送の直後に結界チームが標的の家の周囲に半径100メートル程の結界を展開する。

 残った2チームは結界の中で標的の家を見詰めて待機する。

 予想通り、結界展開から10秒程で2つの人影が飛び出してきた。

 剣を持った桃髪の女性とハンマーを持った赤髪の少女、守護騎士ヴォルケンリッターの前衛2人だ。

 残りの2人はおそらく主の傍に付いているのだろう。

 全員出て来てくれれば最良だったが、仕方がない。

 

「頼む」

 

 対守護騎士チームに後を任せて10名の武装隊員を率いて家へと突撃する。

 

「な!?」

「ま、待ちやがれ!」

 

 守護騎士2人が慌てて僕らを止めようとするが、対守護騎士チームがそれを妨害する。

 1対1では圧倒的に守護騎士の方が上手だが、流石に1人に対して5人で対応すればそう簡単に抜かれはしない。

 

「スティンガーブレイド!」

 

 僕は武装隊員と一気に標的に家へと近付き、射撃魔法を放つ。

 放たれた10本ほどの魔力の剣がリビングルームに繋がっているであろうガラス戸を粉々に砕く。

 暴挙ではあるが、魔導師襲撃事件の黒幕逮捕なのだからやむを得ない。

 それに、封時結界内であるから結界を解除すれば元通りに戻る。

 

 砕かれたガラス戸を通ってリビングルームに土足で踏み込んだ僕達を待っていたのは、守護騎士の残り2人と車椅子に乗ったまどかやフェイト達と同じくらいの栗色髪の少女だった。

 予想外の正体だが、守護騎士達に守られている様子からして彼女が闇の書の主なのだろう。

 

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ!

 君には第一級捜索指定ロストロギアの不法所持、および連続魔導師襲撃事件の犯人の容疑が掛かっている。

 抵抗を止めて大人しく投降すれば危害は加えない」

「は? え、あの……?」

 

 突然やってきた僕達に闇の書の主と思しき少女は見るからにパニックになっており、まともに受け答えが出来そうにない。

 しかし、守護騎士の方は焦ってはいても状況を正確に把握しているらしく取り乱す様子は無い。

 

「く、矢張り管理局か」

「シグナムとヴィータちゃんも外で足止めされててこっちには来れそうにないみたい!」

「シャマル?ザフィーラ?

 どういうことなん!?」

 

 守護騎士達が状況に対応出来ていることから、事情を知ってそうだと悟ったらしく問い詰める少女。

 この様子だと、彼女は闇の書の主であっても守護騎士達に蒐集を命じていないのか?

 しかし、彼女が闇の書の主である以上はどちらであっても確保はしなくてはならない。

 

「さあ、大人しく……うわ!?」

 

 更に投降を呼び掛けようとした次の瞬間、横から放たれた蹴撃に何とか対応する。

 前回も同じことがあり、その時は対応出来ずにまともに喰らい吹き飛ばされてしまった。

 今回は2度目だから対処が出来たが、予想以上に早い妨害に焦りを感じる。

 

 闇の書の主と守護騎士達も視界に収めるように気を付けながら、妨害者達に視線を向ける。

 そこには、予想と異なり白い仮面を着けた男が2人立っていた。

 

 2人の仮面の男はこれまで姿を見せた妨害者の軍服とは似ても似つかない格好だ。

 聖槍十三騎士団じゃない?

 僕を攻撃した男ではない方の仮面の男がカードをかざすと魔法を放つ。

 反射的に放ったバリアで僕は防ぐことに成功したが、僕以外の武装隊員達は全員がリングバインドによって拘束されてしまう。

 

「撤退しろ」

 

 仮面の男から僕達ではなく、守護騎士達に対して命令が投げ掛けられる。

 

「な、させるか!」

 

 その発言に止めようと射撃魔法を放とうとするが、最初に攻撃してきた方の仮面の男が拳を打ち付けてきたためにキャンセルし、何とかデバイスで捌く。

 

「さっさと引け」

 

 困惑し動こうとしない守護騎士達に苛立ったのか更に仮面の男が急かす。

 

「く、引くぞシャマル!」

「分かったわ!」

「主、失礼します」

 

 ザフィーラと呼ばれた使い魔が闇の書の主が乗った車椅子ごと抱え上げる。

 

「ちょ、ザフィーラ……ってキャアァァーー!?」

 

 いきなり宙に持ち上げられたことに堪らず悲鳴を上げる少女。

 

「しっかりと掴まっていて下さい」

「先に言ってぇな!

 ああもう、何がどうなっとんのか後でちゃんと説明してもらうで!」

「ハッ!」

「はやてちゃん。

 ちゃんと説明しますから、今は一緒に逃げて下さい!」

 

 そう言うとはやてと呼ばれた少女を抱え、守護騎士達2人は砕かれているガラス戸を通って外へと飛び出そうとする。

 

「待て!!」

 

 僕は止めようとするが、仮面の男が間に割り込みそれを妨害する。

 その間に3人は外へと飛び出し、一目散に逃げてしまう。

 

「くっ!? エイミィ、闇の書の主と守護騎士が外に逃げた!

 逃がさない様に捕捉してくれ!!

 ……エイミィ?

 おい、エイミィ!?

 どうしたんだ、応答してくれ!!」

 

 追撃を掛けられるように探知システムで捕捉するようにバックアップのエイミィに連絡するが、何故か応答が無い。

 このままでは逃がしてしまうが、対処が出来ない。

 ならばせめて、目の前の2人の仮面の男を確保しなくては。

 

「く、闇の書の主と守護騎士への幇助の罪で君達を逮捕する。

 大人しく投降しろ!」

 

 呼び掛けるが、返答は拳と射撃魔法だった。

 只でさえ格上の相手に2対1では対処がし切れず、何とか攻撃を交わすのが精一杯になってしまう。

 数分後、魔力と体力の消費でデバイスを地面に突き立てて荒い息を立てる僕を尻目に、彼らは転移で逃げていった。

 元々、闇の書の主達が撤退するための足止めだったらしく、そこには何の迷いもなかった。

 

「くそぅ……っ!」

 

 結局、アースラに所属する武装隊員の全員を注ぎ込んだ闇の書捕獲作戦は、対守護騎士チームから重傷2人、軽傷5人の被害を出しつつも成果無しに終わった。

 自身の無力さと悔しさに僕は涙をこぼした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「やっぱり追跡は出来なかったか」

「ごめん、クロノ君。

 クロノ君達が出撃してすぐにこの拠点にハッキングが仕掛けられたの。

 アースラ並みの防壁構えてたのにあっという間に突破されかけて何とかシャットダウンしてシステムを掌握されることは防いだんだけど、探知も通信も出来なくなっちゃって……」

 

 デバイスから吸い出した映像を表示させていた手を止め、俯きながら謝るエイミィ。

 

「いや、エイミィには非は無いよ。

 そもそも、妨害が入らなければ追跡するまでもなく闇の書の主を確保できた筈なんだ。

 あんなに早く妨害が入ったのが想定外だったよ」

「そうだよね。

 妨害が入らない様にするための電撃作戦だったのに……。

 これじゃまるで……」

 

 エイミィが言い憚る様に言葉を濁す。

 どうやら彼女も僕と同じ想像をした様だ。

 

「まるで、管理局内に内通者が居るみたいだ……かな」

「クロノ君!?」

「僕も同じことを考えていた。

 今回の仮面の男達の対応は早過ぎる……まるで僕達の襲撃を事前に察していたように。

 勿論、あの家を見張っていたと言う可能性もあるけれど、彼らの出現と前後して仕掛けられたハッキングが偶然とは思えない」

「そうだよね……。

 それに、管理局のシステムの防壁を簡単に突破出来たのも、内通者が居れば説明は付くよ」

「ああ、断定は出来ないけれど注意しておくべきだろう。

 母さ……提督にも伝えておこう」

 

 

 

【Side シグナム】

 

「で、説明してくれるんやろうな、みんな」

 

 管理局員の襲撃から何とか撤退した私達は次元転送で無人世界へと転移していた。

 この世界は今でこそ無人世界となっているが元々人が住んでいた世界の様で、廃墟ではあるが建物が存在している。

 目に付く範囲で一番形を保っているビルの中に主を連れて入る。

 大分埃が酷いが、背に腹は代えられない。

 シャマルが結界を張り一息ついた所で、主が恐れていた質問を投げ掛けて来た。

 

 いや、どちらにせよ闇の書が完成したら発覚していたことだ。

 ならば、多少早くなっただけで必然だったのだろう。

 

 この質問には守護騎士の将であり蒐集しないと騎士として誓った私が答えなくてはならない。

 私は主の前に跪き、頭を上げながら謝罪の言葉を口にする。

 

「申し訳ありません、主はやて。

 私達は騎士の誓いを破り、蒐集を行ってました」

「!? …………っ!」

 

 薄々は察していたのか、私の言葉に主は涙を浮かべて何かを叫ぼうとして、その直前で言葉を飲み込んだ。

 おそらくだが、私達が理由もなく誓いを破ったりしないと信じてくれ、非難の言葉を止めたのだろう。

 

「なんでなん?

 蒐集はせんって、人に迷惑は掛けないって言うたやんか……」

 

 涙声で問い掛ける主の声に胸が締め付けられる。

 おそらく、他の騎士達も同じ様に感じているだろう。

 しかし、私は……いや私達はこの選択を悔いてはいない。

 

「私達は今まで戦場ばかりを渡り歩いてきました。

 血と硝煙に塗れた、そんな戦場ばかりを……」

 

 問い掛けに対して一見関係無いことを話し始めた私だが、主はジッと此方を見据えて聞き入った。

 

「歴代の主達は私達を道具として扱い、私達もそれを当然と考えていました。

 そんな中、主は私達を家族として扱い、これまで一度として存在しなかった『普通』の暮らしを与えて下さった。

 最初は戸惑うことも多くありましたが、いつしか私達もこの平穏が続くことを心の底から願っていました」

「シグナム……」

 

 主が穏やかな微笑みを浮かべて私を見る。

 いつかの誓いを立てた日の様な微笑みを。

 

「だから主が蒐集を止めた時、蒐集を行い闇の書を完成させるために存在する私達ですが、それを受け入れ誓いを立てました。

 その時の気持ちに嘘はありません」

「ほんならどうして……?」

「その後、主の病状が悪化した時に私達は気付いてしまいました。

 主の身体を蝕んでいるのは病気ではなく……闇の書による浸食です。

 あの世界の病院で原因が特定出来ないのも当然でした」

「な!? ホンマなん?」

「ええ……闇の書の主として真の覚醒を迎えていない主に対して闇の書の負荷は重すぎるのです。

 このままでは……長くは持たないでしょう」

「そんな……」

 

 主に対して死の宣告に等しい言葉を放つのは心苦しい。

 しかし、この状況になってしまった以上は隠し通すことは出来ない。

 

「蒐集を行い闇の書を完成させれば、主は真の覚醒を迎え浸食は止まる筈。

 私は……私達は貴方を失いたくないのです!

 そのために例え騎士の誓いを破ることに、誇りを捨てることになろうと構わないと決めた!」

「そうだよ、はやて!

 はやてが死んじゃうなんて、絶対嫌だ!」

「主……!」

「はやてちゃん!」

 

 私の言葉に、背後に居た騎士達も主へと訴えかける。

 

「以上が私達が蒐集を行った理由です。

 理由は兎も角、誓いを破ったことに違いはありません。

 何なりと処罰はお受け致します」

「ずるいで、シグナム。

 そんなん聞いたら叱れないやんか……」

「主はやて……」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ほんで、これからどうするん?」

 

 しばらくお互いに涙を流していた私達だが、落ち着いたところで改めて主が問い掛けて来た。

 

「闇の書の蒐集については、これまでどおり周辺世界の魔法生物を標的として続けます。

 問題はその間の主の居場所ですが……」

 

 そこまで言うが口籠ってしまった。

 この様な廃墟では衛生上の問題もあり主を置いてはおけない。

 これについては無人世界はどこも大差はないだろう、寧ろここはマシな方だ。

 かと言って、管理世界では管理局に発見される可能性が高くこれも採用し得ない。

 残るは、管理外世界だが……主の病状を考えると医療機関の発達した世界であることが必要になる。

 勿論、闇の書の浸食を管理外世界の医療機関でどうこうすることは出来ないが、対症療法は可能だし必要だ。

 医療が発展しているのは管理世界に多く、魔導技術がない管理外世界ではあまり望めない。

 その点において第97管理外世界は希少な、そして我々にとって非常に都合が良い世界であったと言えよう。

 果たして同等以上の条件の世界をこれから見付けることが出来るだろうか。

 

「秘密裏に第97管理外世界『地球』へと戻り潜伏するのが最善だと思われます」

「でも、シグナム……あの世界は管理局に監視されてるんじゃないかしら?」

 

 私の提案にシャマルから疑問の声が挙げられる。

 確かに、既に3度に渡って発見され戦闘に至っているのだから当然の疑問だろう。

 

「確かに注視されているようだが、管理世界と異なり世界の全てを網羅出来ているわけではなく、あの街周辺のみの局所的な監視の筈だ。

 ならば敢えて同じ世界に潜むことによって、逆に心理的に見付かり難くすることが可能だろう。

 主の体調面からしてもあの世界と同等以上の医療技術が望まれる、総合的に判断すればこれがベストだ」

「成程……そうね。

 はやてちゃんの身体のことも考えれば、設備の整った病院が近くにないとね」

 

 先程私が候補として考えた様なことをシャマルも思ったのだろう。

 設備の整った病院が存在する管理外世界をこれから探すのは困難だし、そんな世界は大抵において戸籍等もしっかりと管理されていて潜伏は難しい。

 

「ああ。

 流石に海鳴大学病院だと発覚する恐れが高過ぎる為、転院する必要はあるが……」

「分かった、シグナム達がそれが一番や言うなら、信じるわ。

 石田先生とお別れになってまうのが残念やけど……」

「すみません、主はやて」

 

 馴染みの医師であり気に掛けてくれる相手と一時的とは言え離れなければならないことに主が寂しそうな顔をする。

 

「ううん、ええんよ。

 細かいことは説明出来んけど、きっと石田先生も分かってくれるわ」

「闇の書が完成すれば、管理局の目を気にすることも無くなり潜伏する必要もなくなります。

 主には不自由をお掛けしますが、それまでの辛抱です」

 

「私は大丈夫や。

 だからみんなも怪我とかせぇへんように気を付けてな」

「はい、主はやて」




(後書き)
 テスラさん、恐怖のあまり暴走。
 結果八神家にとばっちりが……。
 いや、管理局員としては闇の書の主の所在を突き止めたら捕縛するのが正しい姿なのですが。
 その意味においては、何も悪いことはしてません。

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