28:エーベルヴァインの娘 【本編】
金色の魔力光で形成される三角の魔法陣が浮かび上がり、ヴェヴェルスブルグ城の玉座に黄金が姿を現す。
常であれば片肘を突き気だるげな微笑みを浮かべるその男だが、今は右手の掌上に浮かべた暗黒の球体をしげしげと眺めていた。
「お帰りなさいませ、兄様」
「ああ。今戻った、イクス」
最初に迎えたのは長い栗色髪を後ろで纏めたミドルティーンの少女。
普段であれば皇帝と宰相と言う立場を明確にすることが多いイクスヴェリアだが、現在は兄と妹として話をしていた。
兄の今回の行動が国家として皇帝としてのものではなく、個人的なものであることを理解していたからだ。
「お帰りなさい、ハイドリヒ卿」
「…………………………………………」
加えて黒円卓の幹部である3人の大隊長のうちの2人が主の帰参を寿ぐ。
白騎士、ヴォルフガング・シュライバー
黒騎士、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン
「ああ、久しいな。2人とも」
しばらく経つと、謁見の間に新たな人影が現れる。
「ただ今戻りました、ハイドリヒ卿」
現れたのは赤騎士、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルク。
大隊長3人がここに揃った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ところで、それが兄様が回収されようとしていた魔力石ですか?」
「正確には、それを動力源として構築された装置だ」
そう言うと、右手を前へと差し向ける。
黒い球体は玉座の段下に並ぶ4人の後方に10メートル程の距離に浮遊すると、急激に力強く光を放ち始める。
「「「「っ!?」」」」
「さぁ、目覚めるが良い。紫天の書よ」
主の言葉を受け、闇の書の闇に隠され続けたシステムU-Dが起動を始める。
≪
黒い光がその勢いを減じさせた時、その場にはいつの間にか5人の少女の姿が現れていた。
(? 5人?)
内心で首を傾げるラインハルトの眼前で、黒き光は止まり少女達の姿がハッキリと見えるようになる。
現れたのは何れも10歳前後の少女だった。
1人目は紫色のバリアジャケットを纏っていた茶色のショートカットの少女。
2人目は赤い甲冑を纏った1人目と同じ顔立ちをしたロングヘアーの少女。
3人目はレオタードに似たバリアジャケットを纏ったツインテールの青髪の少女。
4人目は黒い羽根を3対生やした銀髪のショートカットの少女。
5人目は上下に分かれた白い衣を纏ったウェーブ状の金髪の少女。
(1人多いな……容姿からして高町まどかを元にしている様だが……)
目を凝らして情報を読み取るラインハルトの視界に映ったのは下記の文字。
陽光の殲滅者ゾーネ・ザ・デストラクター、レベル25。
正史に加えて蒐集対象となった高町まどかを元にしたマテリアルだった。
「まぁ、1人増えても別に問題はあるまい」
【Side ユーリ・エーベルヴァイン】
闇の中で眠っていた私の意識が急速に現実へと引き起こされる。
あまりの落差にパニックになった私だが、次の瞬間激しい光に目が眩んでしまう。
眩しさに目を押さえて慣れるのを待つ。
しばらくして漸く目が慣れて周囲が見えるようになる。
そこはまるで御伽噺に出てくるようなお城の様だった。
「ここは……私は一体……?」
ここが何処だか分からない。
どうして目が醒めたのか分からない。
それ以前に、何故闇の中で眠っていたのかも……そうだ、私は。
「私はシステムU-D……あらゆるものを破壊する災厄。
どうして……私は目覚めてはいけないのに……」
「ん……」
ふと近くで声が上がり、思わずそちらに目を向ける。
そこに居たのは銀髪の少女、見たことの無い姿だが私の中の何かが彼女の正体を教えてくれる。
「……ディアーチェ? ディアーチェですか?」
「? そうだが、貴様は………………なっ!?
砕け得ぬ闇だと!?」
「ええ、私はシステムU-D……。
目覚めてはいけない災厄である私が何故目覚めてしまったのか、心当たりはありますか?」
「生憎と、我も目覚めたばかりだ。
シュテル、レヴィ、ゾーネ。貴様らは何か分かるか?」
ディアーチェが周囲に居た3人の少女へと問い掛ける。
「残念ながら、私も状況を把握出来ていません」
「ん~、ボクも分かんない」
「わ、分からないですけど、あそこの人達に聞いてみたらどうですか?」
あそこの人達?
ゾーネの言葉に疑問に思い、彼女の視線の先……私から見れば後方に振り向く。
そこには4人の黒い軍服を着た人達が佇み、無言で私達を睨み付けている。
彼らの視線に怯みながら、ふと彼らの後方にもう1人居ることに気付く。
段上に据えられた玉座に座る男性。
長い金髪に黄金の眼、整った顔立ちに白い軍服と黒い外套を羽織っている。
何でしょう……この感じ……。
視線を外すことが出来ない。
初めて見る筈なのに、どこか懐かしさを感じてしまう。
彼に傅くことがあるべき姿だと私の中の何かが訴える。
彼の前にあることに心の底から安らぎを覚える。
安らぎ……?
そう言えば、不思議なことに今の私は非常に安定している。
内包する力が強過ぎて不安定になり破壊を振り撒いてしまう私が、今は暴走の気配も感じない。
力が無くなったわけではない、寧ろ嘗て封印された時以上の力を感じている。
だと言うのに、一体何故……?
理由は分からない、分からないが少なくとも玉座に座す彼が無関係ではないと直感する。
「貴方は……「何だ貴様ら!? 一体何者だ、名を名乗れ!」
ちょ!? ダメです、ディアーチェ!」
私が話し掛ける前にディアーチェが険悪な態度で叫んでしまう。
慌てて止めようとするが、私の声が届くよりも早くディアーチェ達はデバイスを構えて敵対の姿勢を取ってしまう。
私達に味方など居たことがないから仕方ないのかも知れないけれど、こんな態度を示せば相手がどう取るか。
「どうやら、まずは教育が必要な様だな」
「ええ、同感です。エレオノーレ」
「アハハハ、元気な子達だね~」
「…………………………………………」
黒い軍服を着た4人の男女はディアーチェの言葉と彼女らの態度を見て前に進み出て来た。
その手にデバイスは無いが、発言といい感じる敵意といい、戦闘態勢と言っていい状態になってしまっている。
「ま、待って下さ「ハッ、やる気の様だな。よかろう。身の程を教えてやるわ、塵芥ども!」ああぁぁぁ~……」
もう無理です。
あんなこと言ったら、友好的な対応は最早望めません。
「身の程を知るのは貴女の方です」
「ガッ!?」
「ディアーチェ!?」
茶色の髪をした少女が一瞬で近付くと、ディアーチェを蹴り飛ばす。
ディアーチェは防御も出来ずに数十メートルも吹き飛んでしまう。
少女はそんなディアーチェに対して、追撃するためか一足飛びに近付いていく。
「王!? パイロシューター!」
シュテルがディアーチェを助けるべく、追撃を仕掛ける少女に向かって10発の炎弾を放つ。
しかし、10発の炎弾は少女に届くことは無く、上空から降り注ぐ炎に相殺されてしまう。
「なっ!?」
「貴様の相手はこの私だ」
炎は赤い髪を後ろに縛った火傷顔の女性が放ったものらしく、言葉と共にシュテルに向かって更に炎が降り注ぐ。
「クッ!」
シュテルは後方に飛行し炎を回避する。
赤髪の女性はそれを追いながら更に炎を放つ。
「ん~、僕の相手は君かな?」
「む、ボクは力のマテリアルなんだ、お前なんかに負けないぞ!」
レヴィは白い髪の男の子……いや、女の子かな?
兎に角その子と戦い始めてしまう。
2人は物凄い速さで攻防を繰り返しながらこの場を離れていく。
「え、あれ? え~と……」
「………………………………」
状況に着いていけずに戸惑っていたゾーネに、黒い大きな男性が無言で拳を振り下ろす。
「きゃあああぁぁぁ~~~!」
自身の顔と同じくらいの拳が凄まじい勢いで振り下ろされることに恐怖して、ゾーネは悲鳴を上げながら逃げ出す。
しかし、男性はそれに対して追い縋りながら更に拳を放つ。
紙一重のところで転げ回る様に避けるゾーネと、無言でそれを追う男性。
4組の戦いはそれぞれこの広い広間の四方で繰り広げられている。
私はどうすれば良いか分からずに途方に暮れていた。
止めなければいけないんでしょうけど、誰からどう止めればいいのか全く分からない。
「ふむ、さっそく仲良くなれたようで微笑ましい限りだ。
そう思わないかね」
1人取り残された私に対し、玉座に座る男の人が話し掛けてくる。
言葉通りに微笑んでいるが、あれを『仲良く』と称する感覚は私には共感出来ない。
「あ、あの……ええと……」
「ああ、慌てなくてよい。
近くに寄るがいい」
「あ、はい……」
促されて私は階段を上がり玉座の前まで進み出る。
頭の中の冷静な部分がこんなことをしている場合ではなくみんなを止めなければと訴えるが、彼の言葉で命じられてしまうと逆らえない。
「あの……」
「ん? どうした」
「貴方は……誰ですか」
「ふむ……」
私の問い掛けに男性は少し考え込む。
「色々と肩書きが多いのでな、さて何と答えたものか。
卿の求める回答を推測するなら、卿の所有者で主と言ったところかな」
「所有者……ですか」
「卿の力の源である魔力石エグザミアは私が創ったもの。
私に繋がり私の力の一端を引き出す私の端末だ」
ああ……彼の言葉が私の身体に染み込んでいく。
分かる。彼の言葉に嘘は無い。
私は目の前の御方の所有物であり一部。
「マスター……と呼べばいいですか?」
「呼び方など好きにして構わんよ」
「分かりました。
それで……マスターは私をどうするつもりですか?」
「どうする、とは?」
「私を使って、破壊を振り撒くつもりですか?」
問いながらも、私の中に諦観が満ちる。
私は居るだけで破壊を齎す存在、私を起こしたのが目の前の人ならそれを使う目的は破壊以外には考えられない。
「破壊は嫌いかね?」
「……嫌いです。でも私は意志に関わらず振り撒いてしまいます」
「それは私も嘗て通った道だ。
兎角この世は繊細に過ぎる。本当は抱きしめてやりたいのに柔肌を撫でるだけで壊れてしまう。
ならば我が愛は破壊の慕情。
私は総てを愛している、故に全て壊す。それこそが私の愛の証明だ」
彼は何を言っているのだろう?
破壊が愛?
そんなの……
「……そんなの間違ってます」
「愛することは悪ではあるまい。その結果が破壊であるというならば、それもまた悪ではない」
そうなのだろうか?
でも……でも……。
「あるいは、私にもいずれは壊さずに愛せるものが見付かるかも知れん。
それを見付けるまで、私は壊し続けるのだ」
私もいつかは破壊を振り撒かずに居られる様になるのだろうか。
もし、そんな時が来るのならそれは……。
「まぁ、見付けたとしても次はそれを壊せる様になることを目指すのだがな……?」
「あの……?」
「いや、なんでもない……まぁ、結論を急ぐ必要はあるまい。
卿は誤解しているようだが、特に私が卿に望むことはない。
手放したものを見付けたから回収したまでのことだ。
卿らはこの城で好きな様に過ごすが良かろう。
いずれ何かを任せることがあるかも知れんが、当分先の話だ」
「あ……分かりました」
良かった、すぐに戦う必要はないみたい。
ディアーチェ達と話し合って、これからどうするか決めよう。
……ディアーチェ達?
「って、そうだ……みんな!?」
振り返った段下では既に四方で行われていた戦闘は終わっており、黒い軍服の4人は最初と同じ様にならんでいた。
但し、先程と異なって彼らの前には山が出来ていた、ディアーチェ達を無造作に積み重ねた山が。
「ディアーチェ!? シュテル!? レヴィ!? ゾーネ!?」
「「「「きゅ~~~」」」」
……取り合えず、生きているみたいですね。
(後書き)
……幼女ハーレム?
まぁ、彼女達の性格上あまり出番を作り難いのですが。
なお、1人増えているのは作中通りまどかの蒐集によるものですが、彼女も「理」のマテリアルで重複しています。
ベースが双子だったため、誤作動起こしています。