魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:なし(無音)


29:ルーザー達 【閑話】

【Side 高町まどか】

 

「…………………」

『…………………』

 

 デバイス経由で通信を繋げたものの何から話していいか分からずにお互いに無言になってしまう。

 

「取り合えず、状況を整理しましょうか」

『…そうだな』

 

 いつまでも黙っていても仕方ない為、溜息を1つ付くと無理矢理話を進めることにする。

 

「結局、闇の書…いえ、夜天の魔導書とリインフォースは消滅しなかった」

『ああ、それ自体はいいことだと思うんだけど』

「そうね、でも問題は理由の方。

 正史通りの作戦で防御プログラムのコアを露出、転送させてアルカンシェルを発射…ここまでは問題なかったんだけど、問題はその後。

 突然現れた謎のローブの人物がアルカンシェルを迎撃、アースラに被害を与えて防御プログラムのコアを強奪していった」

 

 リンディ提督はその事実を私達に話すことを渋ったけれど、その時点でコアが消滅していないことをリインフォースが感知していたために誤魔化しは効かなかった。

 結局コアは僅かに時間差を置いて破壊されたらしいが、何故か防衛プログラムが再生される気配がなくリインフォースが消滅する必要はなくなった。

 本人が言うには、無限再生のための動力源が何故か停止したとの話だったが。

 

『見せて貰った映像ではローブで顔は分からなかったけど、振るってた槍には見覚えがある。

 あれは聖槍十三騎士団の首領ラインハルト・ハイドリヒの聖遺物、ロンギヌスの槍だ』

「!? じゃああれが…」

『ラインハルト・ハイドリヒなんだと思う。

 居ないことを願ってたけど、やっぱりそう甘くはないみたいだな』

 

 前に聖槍十三騎士団について優介から聞いた時にも、双首領が居たら管理局全軍でも勝てないと言う話だった。

 その時は大袈裟に感じていたけど、確かに今回見せられた力の片鱗はその言葉を証明していた。

 

「そう…。

 それにしても話には聞いていたけど、規格外にも程があるわね。

 個人の砲撃でアルカンシェルに打ち勝つなんて…」

『真っ向からやりあったら絶対に勝てないな』

「ええ、あまり積極的に参戦してこないことが唯一の救いね」

『そうか? 配下の騎士団員は2回とも介入してきてるけど』

「それでも、何が何でも転生者を殺せって感じじゃないでしょ?

 防御プログラムを倒した後も、その気になれば私や貴方を殺すことは簡単だった筈よ。

 なのに、殺されたのはフレイトライナー執務官だけ。

 積極的な参戦とは言えないんじゃない?」

『そう…だな。

 確かにあの時、俺達は殺されても不思議じゃなかった』

 

 その時の光景を思わず思い出してしまい、顔を顰める。

 優介も同じ様な表情をしている。

 

『フレイトライナー執務官、か…』

「高慢だし勝手にはやてを捕まえようとしたり正直あまり好きになれない相手だったけど、

 それでも目の前であんな殺され方をすると…ね」

『ああ…そうだな』

『管理局では今回の件、どうする方針か聞いてるか?』

「リンディ提督は言葉を濁していたけれど、追求は出来ない様子よ。

 任務中の事故死として扱われることになる様ね……」

 

 赤騎士の宣言通り、彼女は塵一つ残さず消し飛ばされた。

 命乞いをしたにも関わらず、容赦の欠片もなく…彼女らの主を侮辱した、ただそれだけのことで。

 

「転生者絡みなら、いずれ戦うことになるのね……」

『ああ、今の俺達じゃ奴等には敵わないけれど、必ず止めてみせる』

「今回も消極的だったことを考えると、恐らく大きく動くのは10年後のJ・S事件かしら」

 

 P・T事件、闇の書事件については、幾つか差異はあれど結末は概ね正史通りになった。

 ヴォルケンリッターの蒐集を容認したことになっているはやての立場が危ぶまれたが、結局は正史通り保護観察処分として管理局で働くらしい。

 リンディ提督やクロノ、グレアム提督達が庇ったらしいが、他の将官からも口添えがあったらしい。

 もしかしたら保護観察の期間が変わっているのかも知れないが、正史での期間が分からない為比較が出来ない。

 しかし、正史通りに管理局に入る以上は、彼女がいずれ機動六課を設立してJ・S事件に立ち向かうことになる可能性は高い。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ところで、今後のことについて相談したいんだけど」

『今後のこと?』

「これから起こる悲劇を私達は事前に知っている。

 それなら対処が出来ることもあるんじゃないかしら。

 なのはの撃墜、戦闘機人事件、エリオ・モンディアルが両親から引き離されること、ティーダ・ランスターの殉職、

 ヴァイス・グランセニックの妹の失明、空港火災、キャロ・ル・ルシエの追放…パッと思い付くのはこれくらいかしら。

 あとはそもそもJ・S事件の発生自体を防いだりとか」

 

 空白期と呼ばれる闇の書事件とJ・S事件の間の期間に起きたと言われている悲劇を思い付く限りで挙げてみる。

 ものによっては下手に防ぐと機動六課の戦力が下がったりする可能性があるけど…。

 

『…出来れば、防げるだけ防ぎたい』

「そう言うと思ったわ。

 まぁ、私も協力するわよ」

 

 私としてもなのはの撃墜は絶対に防ぎたいので、正史を絶対遵守と言うつもりは無かった。

 勿論、知識が役に立たなくなっても困るので基本の流れは出来るだけ変えたくない思いもあり、バランスが難しいのだが。

 

『ああ、頼む!』

「とは言え、なのはの撃墜は兎も角としても他の事件はどれも防ぐのが難しいわね。

 戦闘機人事件は管理局の秘密作戦だから手が出し難いわ。

 エリオもキャロも引き離されたり追放されたり自体は防ぎようがないから、出来るのは早目に保護してあげるくらい。

 ティーダ・ランスターとヴァイス・グランセニックの件は時期が分からないし、管理局員になって知り合えれば何とか介入可能かもってところね。

 空港火災も原因が分からないから、せいぜい近くで待機して早期救出を目指す形になるかな」

『確かに防ごうと思っても難しいことばっかりだな。

 J・S事件の発生自体を防ぐってのは?』

「ジェイル・スカリエッティを事前に捕まえるのが一番確実ね。

 それ以外だと、聖王のゆりかごとかヴィヴィオを事前に押さえるとかかしら」

『どれも難しいな…。

 それに下手をすれば管理局自体を敵に回すことになりそうだ』

「…そうね。

 J・S事件が起こるまではスカリエッティは最高評議会の手駒。

 ゆりかごがミッドチルダにあって見付からなかったのは最高評議会の手が入ってそうだし、

 搬送中のヴィヴィオを襲撃していたから生み出したのはスカリエッティではない筈だけど、聖骸布を手に入れたのがドゥーエである以上は無関係ではない筈。

 管理局の命令で聖骸布を盗み出した可能性が高いわね。

 どの方法も最高評議会と敵対する恐れが大きいか…やっぱり無理かな」

 

『事前の対処が難しい以上、事件は起こる前提で対処できる様に俺達自身が強くならないと』

「ええ。後は他の転生者探しかな。

 完全な同盟は難しくても、対聖槍十三騎士団という条件で手を組める可能性はあると思うし」

『そうだな、それで行こう』




(後書き)
 ルーザー(敗北者)と言うのは闇の書事件においてです。
 2人は状況に流されるだけで殆ど何も出来ませんでした。
 まぁ、テスラに振り回された結果とも言えますが……

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