魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:L∴D∴O(dies irae)


03:準備転生

【side ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ】

 

 あの時の少女──いや、外なる神と呼ぶべきか──によって転生させられてから10年が経った。

 現在は西暦1914年。先日オーストリアの皇太子がサラエボで暗殺、それを引き金に第一次世界大戦が勃発した。

 

 そう、今私が居るのは20世紀のドイツ帝国。

 リリカルなのはの世界の古代ベルカに生まれる筈だった私は、西暦1904年のドイツ帝国プロイセン王国に誕生したのだ。

 記憶を持った転生故か母親の胎内ですら自我を持っていた私は、外界から聴こえてくる言葉からここが予想していた世界と異なることに気付いた。

 想定外のことに生まれる後まで混乱していたが、耳に入ってきた自身に名付けられた名前によって事態を把握した。

 

  ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ

 

 そう、私が特典に選んだ人物の名だ。

 この名を聞いて、原因を推測することが出来た。

 確かに、特典を与えるとは言われたものの、『与え方』については聞いていない。

 おそらくは『これ』が特典の与え方なのだろう。

 機会は与えるから自力で習得しろ、といったところか。

 

 騙されたと怒っても良い場面かとも思ったが、不思議と怒りが湧いてこなかったのは、全てに鬱屈しているラインハルト・ハイドリヒの精神性もあるが、一番の理由は納得してしまったことだろう。

 私が選んだ特典は『dies iraeのラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの能力、才能、容姿、魂』。

 そう『魂』だ。

 それを抜きにしても、能力であるエイヴィヒカイトはその人物の魂と渇望に密接に関わっている。

 別の人物にその能力だけを植え付けようとしても、不可能だろう。

 例えば『無限の剣製』を収得しようとすれば、エミヤシロウと同じ心象風景を描いている必要がある。

 そう言えば、此度の『ラグナロク』においても『無限の剣製』を望んだ転生者が居る可能性が高いのだったな。

 私の予測が当たっていれば、今頃エミヤシロウの人生をトレースさせられている頃だろう。

 ご都合主義の働かない現実において精神や魂に関する能力を手に入れようと思えば、その者と同じものを見、同じものを聞き、同じものを感じて、それでも得られるかどうかは分からない。それくらいの不可能事だ。

 道理だ。全くもって道理に忠実で文句の付けどころがない。説明くらいはあっても良かった気もするが。

 

 しかし、考えようによっては好都合とも言える。

 いきなり能力を植え付けられて使いこなせと言うよりは、こちらの方が有難い。

 修行のための猶予期間を与えられたと思えばいい。

 この世界において万全な準備を整えて『ラグナロク』に臨めるなら優位性も上がる。

 などと考えてしまうのも、ラインハルト・ハイドリヒの魂の影響か。

 この世界に転生する前の『私』は生き残るための安全策を採り漁夫の利を狙うつもりでいた筈だが、今の私は勝利のため『ラグナロク』に積極的に参戦する方に気持ちが流れている。

 

 今の私はラインハルト・ハイドリヒの魂と転生者としての『私』の魂が融合した、そんな状態だ。

 その証拠に、あらゆる事柄に既知感を感じる。だが同時に未知も感じる。前者はラインハルトの魂が、後者は転生者としての『私』の魂が感じているものだとすれば理屈に合う。

 既知感故に何をしても達成感を感じず、またその能力故に全力を出せない鬱屈が溜まる生。原作のラインハルトが人外への歩みを進めたのも頷ける。

 しかし、転生者としての『私』の魂が混じっているせいか、はたまた未知を感じることが出来るせいか、多少なりとも苛烈さや冷酷さは緩和されているようだ。

 

 いずれにしても、この世界でエイヴィヒカイトを身に付け、メルクリウスと最低でも五分の戦いが出来るようにならなければならない。

 転機は1939年。アドルフ・ヒトラーの暗殺事件後、ゲシュタポの牢内で出会うであろうメルクリウスとの邂逅。

 そこを目指し、まずは6年後に右翼義勇軍に参加するか。

 

 

 

 

 

 

 そうして私は海軍で順調に出世し、提督として第二次世界大戦の最中に艦と運命を共にした。

 

 

 

 

 

 

【side ラインハルト(2周目)】

 

「……?」

 

 暗い、しかし不思議と温かみを感じる世界で意識を取り戻す。

 どこかで覚えがある感覚に、記憶を思い巡らす。

 ああ、そうか。この世界に送り込まれた最初にも同じ感触を感じていた。

 ここは母親の胎内か。

 

 思考以外にすることがないので、これまでの経緯を思い返す。

 外界から薄らと聴こえる声から判断する限り、前回と同様に20世紀のドイツに誕生したらしい。

 つまり、『やり直し』のようだ。

 『dies iraeのラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの最終決戦時の能力、才能、容姿、魂』、それを得られなかったため振り出しに戻ったのだろう。

 どうやら、成功するまでループすることが運命付けられているらしい。

 先の長い話になりそうで嘆息する。呼吸が出来ないので心の中でだが。

 

 そこまで考えて思う。

 何故、失敗した?

 メルクリウスと互角どころか、出会いさえしなかった。そもそもゲシュタポに所属すらしていない。

 原作のラインハルト・ハイドリヒと同じスペックの筈なのに、何故だ?

 

 

 ああ、そうか。

 スペックが同じなのだから、同じにならない原因は『私』の精神と魂以外にあり得ない。

 思えば、ラインハルト・ハイドリヒがゲシュタポ長官に任命されたのはその有能さもあるが、職務に私情を交えない精神が為すところが大きい。

 『私』が混ざったが故に、その非情さが薄れたのがゲシュタポに呼ばれなかった原因だろう。

 実際、海軍において私情を交えることが無かったかと言われると自信が無い。

 

 成功に至るためには、よりラインハルトに近しくならなければならない。

 より非情に、より効率良く、自らを振り返らずただただ職務を推し進めるのだ。

 

 

 

 結局、2周目もゲシュタポ入りすることなく生涯を終えた。

 

 

【side ラインハルト(3周目)】

 

 3度目にして漸くゲシュタポの長官になり、牢内でメルクリウスと邂逅した。

 どうやら、メルクリウスは自身の自滅因子である私の変化に特段の違和感は抱いていないようだ。

 クリスマスイヴに黒円卓の黎明の刻を迎える。

 

 そして、ヒムラーからの暗殺を防げず死亡した。

 

 

【side ラインハルト(4周目)】

 

 いつ、どの様に狙われるか知っていたため、暗殺は問題なく回避した。

 初めてエイヴィヒカイトを習得したが、本来のラインハルトとは異なる創造になってしまった。

 どうやら、渇望に差があるらしい。

 

 

【side ラインハルト(30周目)】

 

 繰り返す中で未知は次第に失われ、既知によって精神が摩耗していくのを感じる。

 そのせいか、周回を増すごとに自身の精神と魂がよりラインハルト・ハイドリヒに近くなっていることを……感じない。

 これまでは感じていたが、それはつまり『私』と『ラインハルト・ハイドリヒ』が別の存在であると心の何処かで思っていたことの証明。

 それを今や感じない。

 いつの間にか、『私』=『ラインハルト・ハイドリヒ』と受け入れていた様だ。

 

 それが功を成したか、正史と同じ創造を会得した。

 

 しかし、ベルリン崩壊においてシュライバーが暴走。

 連合国軍を先に壊滅させてしまい、スワスチカの完成が不可能になった。

 

 

【side ラインハルト(43周目)】

 

 ベルリン崩壊においては私と3人の大隊長、そして『城』を永劫回帰のはざまに飛ばすためにスワスチカを完成させる必要がある。

 ベルリンの要所8か所を戦場と化し、大量の魂を散華させることでスワスチカは成る。

 それらの場所を戦場とするため、連合国軍は殺し過ぎても殺さな過ぎてもいけない。

 調整に手間取り何度も繰り返すことになったが何とかスワスチカを完成し、『城』ごと永劫回帰のはざまに飛んだ。

 

 61年後、極東のシャンバラにおいて儀式が行われるが、ツァラトゥストラの完成度が低く興味を惹かれなかった。

 クリストフが何やら企んでいたようだが、ツァラトゥストラに斃されたらしい。

 

 

【side ラインハルト(56周目)】

 

 ツァラトゥストラの完成度がこれまでより高く、多少は興味を惹かれたためクリストフに任せず言葉を交わす。

 スワスチカも7つまで完成し、『城』と共に現世に舞い戻る。

 しかし、ツァラトゥストラは第5位の空席を埋めた娘を選び、カールの女神の加護を失う。

 とんだ興醒めに一度は落胆したが、その後の思わぬ奮闘には少し興味を惹かれた。

 結局、ツァラトゥストラとその仲間はカールの悪戯もあり城から逃走、

 スワスチカをカールが握り潰したため、『城』ごと永劫回帰のはざまに戻った。

 ツァラトゥストラとの再戦を心待ちにしていたが、期限が到来したのか意識が途絶えた。

 

 

【side ラインハルト(78周目)】

 

 ツァラトゥストラがカールの女神と縁を深め、流出位階へと到達する。

 全力での攻撃を防がれ、思わず笑い声を上げてしまった。

 全力を行使しても容易ならざる事態、望んでいたその瞬間に歓喜する。

 シュライバーとマキナの創造を用いての不可避かつ絶対死の一撃すら、世界の開闢という規格外の力で防がれた。

 私とツァラトゥストラの激突は次元に穴を開け、黄昏の海岸に落ちる。

 

 最後の激突は私の敗北に終わったものの悔いはない。

 ツァラトゥストラの勝利を称え、虚空に消えた。

 

 

【side ラインハルト(79周目)】

 

 前回の闘争が忘れられない。

 あの歓喜をもう一度。

 

 

【side ラインハルト(80周目)】

 

 もう一度。もう一度だ。

 

 

【side ラインハルト(92周目)】

 

 ツァラトゥストラとその友が共に過ごしたであろう学び舎の屋上で殴り合う。

 その様を見て胸が躍ると共に大切なことを思い出す。

 そうだ。繰り返しの中で忘れ掛けていた。

 私の相手は代替ではない。あれを相手にしても意味がない。

 

 100回近い繰り返しの中、初めてカールに挑んだ。

 

 超新星爆発によって焼き尽くされる。

 

 

【side ラインハルト(307周目)】

 

 200回以上挑み、初めて超新星爆発を凌ぎ切った。

 

 そして、グレート・アトラクターによって総軍ごと潰された。

 

 

【side ラインハルト(???周目)】

 

 周回も3桁の後半辺りから面倒になり、数えることを止めた。

 繰り返し繰り返し、ひたすらカールに挑む。

 物量差に押し潰されることを繰り返しながらも、僅かずつではあるが差が縮まってきた。

 『やり直し』には蓄えた魂は持ち越せない。戻るのは私自身の魂のみだ。聖遺物も初期化されている。

 故に、差が縮まってきたのは魂の量ではなく、質の問題。

 集める魂の質と量は頭打ちでこれ以上は望めないが、私自身の魂の質は繰り返しの度にその因果の全てを重ね増していく。

 

 

【side ラインハルト(????周目)】

 

 

 そうして、数多の繰り返しの果て、私はカールを打倒した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 光のない世界で目を覚ます。

 予想通り、目の前には私を転生させた少女が立っていた。

 以前に会った時には何の力も無かったため気付かなかったが、こうして力を手に入れて改めて見ると相手の化物振りが良く分かった。

 今や数十億の魂を内包する私やカールだが、目の前の少女は我らを遥かに凌ぐ力を持っている。

 

「おめでとうございます。時間は掛かりましたが、見事特典を習得出来たようですね。

 まさか、水銀を相手に相討ちではなく打倒し、かつ取り込んでしまうとは思いませんでしたが」

「祝辞、感謝しよう。

 時間が掛かったのは、まぁ仕方あるまい。

 何度繰り返したのか、そしてどれだけの時を過ごしたのか、私自身すら忘れてしまったが」

「こことあそこでは時間の流れが違いますので、私の主観では3時間程です」

「ほう」

 

 世界が異なれば時間の流れが異なってもおかしくはないが、あちらの世界の万を超えるであろう年月が此方の世界ではたったの数時間とは少々驚いた。

 

「ところで、1つ尋ねても良いかな?」

「何ですか?」

「他の者も私と同じように特典を手に入れるための転生を経験しているのかね?」

「他にも居ますが、全員ではありません。

 『準備転生』が必要なのは、戦場となる世界に存在しない能力などを特典に選んだ場合のみです。

 また、準備転生を経験した転生者の中でも、貴方は飛び抜けて多くの時間を費やしています。

 他の転生者達はループなどしていませんから」

 

 他の転生者も同じように長い時を過ごしていたのなら此方の優位も無いかと思ったが、そうでもないらしい。

 

「成程、他の世界の能力は単純に与えることは出来ないということか。

 能力というものは魂と密接に関わるためと考えているが、相違無いか?」

「はい。魂というものは神の領域の力を有していても自由には出来ないものです。

 グラスに入った液体をイメージして貰えれば理解し易いと思います。

 中身を抜き出すことも別の器に移すことも他の液体と混ぜることも出来ますが、

 ジュースを牛乳にすることは出来ません」

「操作は出来るが加工は出来ない。

 故に魂に左右される能力はそうなるような環境に生まれさせることで習得する以外にないわけか。

 能力だけを都合良く切り貼りは出来ない、と」

「その通りです」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「他に質問がなければそろそろ転生して頂きます。

 勿論、今度は戦場となるリリカル世界への旅立ちになります」

「ああ、構わんよ」

 

 前回と同様、少女が片手を此方に向けながら言う。

 

「それでは、今度こそご武運を」

 

 その言葉と共に、自分の身体が光の粒子となって拡散していく。

 

「ああ、楽しみにしているといい」

 

 我が愛は破壊の慕情。数千数万の繰り返しの中、壊せぬものを見つけるまで壊し続けた。

 結局繰り返しの中では見い出せなかったが何のことはない、壊せぬものなら繰り返す以前に既に見付けていたのだ。

 目の前の少女の姿をした神──私やカールの様な世界の内側の管理者ではなく、外なる神とでも呼ぶべき存在。

 今の私よりも遥かに大きな力を有している、壊し得ぬ存在。

 

 壊せぬものは見付けた。ならば次にすることは壊せるようになるまで自身を高めることだ。

 まずは、此度の戦場で力を蓄えるとしよう。




(後書き)

 少女はしばらく光の粒子となって消失した男の居た場所を見つめていたが、しばらくして踵を返すと扉を開けて隣の部屋に足を踏み入れる。
 その部屋は大きな円卓が置かれており、7つの椅子のうち6つに様々な姿をした『存在』が腰を下している。
 6柱は最後の一人である少女の方に視線を向けた。

「随分と遅かったな」

 6柱の内の1柱が彼女に話しかける。
 唯一つ空いている席に歩みを向けながら、少女は答える。

「ええ、準備転生に手間取りました」
「ほう? 余程難易度が高い特典を選んだみたいだな。
 早く見せてくれよ」
「今、入力します」

 席に座り、中空に浮かぶモニタに指を向ける。
 一瞬光が灯ったかと思うと、席に着いていた6柱の前にモニタが出現し、少女の入力した内容が表示される。

「「「「「「ぶは…ッ!?」」」」」」

 そして、次の瞬間、6柱は揃って噴き出した。

「「「「「「ちょっと待て!!」」」」」」


<準備転生のループ条件>
 下記の何れかに該当した場合、ループします。
 但し、①ないし②の場合、特典内容を満たしていればループ終了。
  ①本人の死亡
  ②原作時期の終了(例外あり)
  ③望んだ特典を得られないことが確定

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