魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:重圧(nanoha)


30:知略の矛先 【閑話】

『海の英雄、管理外世界でロストロギアを不正使用!?』

 

 先日、解決が報道された第一級捜索指定ロストロギア「闇の書」にまつわる事件において、管理局高官がその存在を知りながら隠匿していたことが本誌の調査で明らかとなった。

 問題となる行動を行っていたのは英雄とすら称される時空管理局顧問官のギル・グレアム提督。

 彼は闇の書の主である少女の保護責任者となり、その存在を知りながら管理局に報告せずに密かに監視していた。

 闇の書が起動した後も、守護騎士プログラムが管理局員を襲っていること等について全てを知りながら黙認していたとの話である。

 また、彼の使い魔であるリーゼロッテ、リーゼアリアの2名に命じ、捜査を行っていた管理局員に対して襲撃やハッキングなど様々な妨害行為を行っていたとの情報もある。

 これが事実であれば管理局に対する明確な反逆行為であり、彼が闇の書の力に傾倒しその力を得ようとしていたことは明白である。

 

 なお、今回の闇の書事件を担当した次元航行艦アースラの艦長、リンディ・ハラオウン提督はギル・グレアム提督の行為を知りながら管理局への報告を行わずに隠匿しようとした。

 ギル・グレアム提督の行為は重大な次元犯罪であり数百年の封印刑に相当する重罪だが、彼は現在まで罰されることなく引退を表明している。

 これは許されるべきではない背信行為である。

 

 ギル・グレアム提督は11年前の前回の闇の書事件において、部下である故クラウド・ハラオウン提督を次元航行艦エスティアごとアルカンシェルで攻撃し死亡させている。

 故クライド・ハラオウン提督と今回情報を隠匿しようとしたリンディ・ハラオウン提督は夫婦の関係であり、リンディ・ハラオウン提督にとってギル・グレアム提督は夫の仇と呼ぶことも出来る関係だが、事件後も非常に親密であったと言う。

 本誌では、ギル・グレアム提督とリンディ・ハラオウン提督の間には事件当時から不倫の関係があったのではないかと見ている。

 また、11年前の故クライド・ハラオウン提督の死亡の原因となった闇の書の暴走にもギル・グレアム提督が何らかの形で関与(*)していたのではいかと推測し、調査中である。

 

(*)11年前の闇の書事件において、闇の書は封印した筈にも関わらず何故か搬送中の次元航行艦エスティア内において暴走した。

  当時の事件を知る者の間では何者かが封印を解除した疑いがあると噂されている。

 

(第1管理世界ミッドチルダ報道誌より)

 

 

 

【Side クロノ・ハラオウン】

 

 ベキッと言う破壊音に思わず目を向ける。

 見ると、母さんが持っていた筈の湯呑みが砕け残骸となり、中身の緑白色の液体が飛び散っている。

 

「か、母さん!?」

 

 慌てて駆け寄ろうとするが、ふと母さんの様子がおかしいことに気付く。

 手を拭うでもなく、表示した空間ディスプレイを睨み続けている。

 しかも、かなり鬼気迫る表情である。

 気になって、横から母さんが凝視しているディスプレイを覗き込む。

 

「な、何だこれは!?」

 

 そこに表示されていたのはミッドチルダのありふれた報道誌だったが、内容が到底看過しえないものだった。

 慌てて自身のデバイスで同じ記事を探し表示して改めて読み込む。

 そこに記されていたのは今回の闇の書事件でグレアム提督が行った背信行為と母さんの隠蔽に対する告発記事だった。

 今回の事件についての記述は限りなく事実に近いが、前回の闇の書事件については半ば以上捏造であり悪意に満ちている。

 しかし、なまじ今回の事件について確信を突いているだけに過去の事件についてもそれなりの信憑性を持ってしまうだろう内容になっている。

 勿論、グレアム提督の背信行為は私情が含まれているとは言え闇の書の悲劇を終わらせるためであったわけだが、封印について未遂で終わった以上その証拠は無い。

 行為だけを客観的に見れば、闇の書の力を得る為だと言われても反論は難しい。

 守護騎士に加担し蒐集を手伝った理由など、通常それ以外に説明が付かないのだから。

 

「エイミィ!」

 

 通信回線を開いてエイミィを呼び出す。

 

『ク、クロノ君!? 突然どうしたの?』

「大変なんだ、大至急この記事について調べてくれ!」

 

 依頼すると同時に、デバイスから該当の記事を転送する。

 

『こ、これって!?』

 

 通信の向こうで記事を読んだのかエイミィが驚愕している声が聞こえてくる。

 

『分かった、すぐに調べるから。』

「ああ、頼む」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「完全に作為的な情報漏洩だね、これ。

 主要な管理世界の殆どで似た様な記事が同時に掲載されているよ。

 何処の報道も匿名で証拠映像付きの告発文書が送られてきたって言ってる」

 

 1時間後、エイミィから調べた内容の報告を受ける。

 しかし、その発言には聞き捨てならない単語がふくまれていた。

 

「証拠映像?」

 

 今回の闇の書事件の証拠映像など、保持しているのはアースラくらいの筈なのに……。

 

「グレアム提督の執務室の映像で、リーゼ達に指示している場面やクロノ君の告発も映っていたって。

 告発の方はグレアム提督が事件後に拘束されてないから、隠蔽があった証拠として扱われたみたい」

「なんでそんな映像が……?

 グレアム提督の対立派閥が仕掛けたのか?」

 

 管理局も一枚岩ではなく、内部では幾つかの派閥が出来て対立している。

 陸と海の関係もそうだが、海の中でも同じことが言える。

 大きなところでは穏健派と強硬派がそうだ。

 穏健派は各世界の自主性を重んじることを主張する派閥で、非魔導師や管理外世界出身者、または管理世界でも辺境の世界出身の者達が多く所属している。

 グレアム提督は穏健派の中心人物であり、僕や母さんもここに属している。

 一方、強硬派は管理局の管理があって世界の秩序や平和が保たれるという信念で行動する派閥であり、管理世界の拡充を主張している。

 魔法至上主義が強いのもこの派閥だ。

 

「そこまでは分からないけど……。

 でも、どうするの?

 ここまで広い範囲で報道されていると、今更情報統制も効かないし」

「分かってる。

 ここまで大事になったら本局も動かざるを得ないだろう。

 今は指示を待つしかないな」

「でも、この内容じゃグレアム提督だけじゃなくて艦長も……」

 

 確かに、記事には母さんの隠蔽行為も告発対象として上がっている。

 大事になってしまっている以上、無罪放免とは行かず何らかの処分は間違いない。

 

「流石に無事とは行かないだろうな。

 刑罰とまでは行かないだろうけど、提督資格の剥奪くらいはあり得る」

「それにしても、一体誰がこんなこと……」

「グレアム提督も艦長も穏健派に所属しているから強硬派からは敵視されているけど、

 あんな記事が広まったことは穏健派と言うより管理局そのものの権威に関わる。

 強硬派の連中も流石にそんなことは望んでいないと思うんだが……」

 

 管理局の力を下げてでもグレアム提督を追い落としたかった?

 しかし、そもそもグレアム提督は引退を表明していたのだから、放っておけば影響力は薄くなった筈だ。

 勿論、告発された方が穏健派としては大打撃だが、そこまでするほどのメリットが強硬派に生じるとは思えない。

 

「じゃあ、反管理局の世界とか組織とか?」

 

 管理局の威信を失墜させると言う意味ではそれも考えた。

 しかし、それは別の理由で考え難い。

 

「それも無いだろう。

 そんな連中が本局のグレアム提督の執務室に盗撮など仕掛けられるとは思えない」

「そっか、そうだよね」

 

 管理局の内部の人間でなければ手に入れられない証拠だが、内部の人間には告発のメリットが無い。

 

「お手上げだよ。誰が何のためにやったのか、まるで分からない」

「取り合えず、私はもうちょっと調べてみるね」

「そうだな、頼む」

 

 

【Side out】

 

 

「何故、わざわざあんなことをしたのかね。獣殿」

「いや、少々予定があってな。

 まさか、リンディ・ハラオウンが左遷されるとは思わなかったがな」

「想像出来た結果だと思うがね……しかし、よろしいのか?」

「何がだ、カール?」

「後見人が居なくなっては、機動六課とやらが設立されなくなるのではないかな?」

「……………………………………」

「……………………………………」

「……………………戻せないか?」

「………………いや、無理だろう」




(後書き)
 原作においては穏便に引退しているギル・グレアムですが、あれは裁判を受けた上での話なのでしょうか。
 如何に功績があっても、やらかしたことを考えればとてもそれで済むとは思えませんので、隠蔽された結果なのかなと思っています。

 原作でなのはが有名人ならば、リンディさんも同じかそれ以上に有名でもおかしくないと思います。容姿、役職、家柄的に。
 それだけにスキャンダルの的にもなり易い。

 まぁ、重要なのは原因や過程ではなく結果の方なのですが……。

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