【Side ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン】
「総ての片が着いた後、尋常に勝負といこうではないかミハエルよ。
卿の求めた死はその先にある。
なに、私はアレと違って約束を違えん。
──故に今一度だ、これを最後の蘇りとして、真のヴァルハラに行くがいい 」
その言葉と共に、俺の意識は蘇った。
戦友と決着を着け終焉を迎えた筈だったところを呼び戻され不本意であったし、そもそもハイドリヒとの勝負を求めていたわけではないのだが、しかし、相手がメルクリウスであるならば色々と思う所があったのも事実なので応じることにした。
予想外だったのはその後だ。
異世界などというところに連れて来られてしまうとは、全く予想していなかった。
自失している間に、気が付けば新たな世界で黒円卓のⅦの席に座っていた。
「さて、マキナ。
先の約束通り、勝負を望むなら応じよう。
解放を望むなら解放しよう。
言った通り、私は約束を違えん。
望むところを言うがいい。」
この世界に連れて来られてから告げられた言葉には少し迷った。
元より解放され終焉を迎えることを望んでいた。
そういう意味では迷う必要は無い筈だが……。
「条件を飲むならば、この戦いに最後まで付き合ってもいい」
「ふむ?」
懸念があった。
ここで俺が解放されたとして、この男は、そしてメルクリウスはどうするのか。
欠けた穴を埋めようとするのではないか、と。
「卿が参加してくれるのならば私に否やはないが、どう言う風の吹き回しかね?
終焉を望んでいた筈ではなかったか」
「俺の望みに変わりは無い
ただ、俺が解放された後に貴様らがその穴をどうするのかが気に掛かっただけだ」
「卿の抜けた穴を、か。
ふむ……特に考えていなかったが、条件と言うのがそれに関係するのかね?」
俺はハイドリヒに頷くと、条件を口にする。
「そうだ、条件は……この世界の俺と奴を巻き込まないことだ」
「この世界の……?
ふむ、確かにこの世界にも同じ地球が存在する以上は生まれてきても不思議ではないが、確実に居るとも限らんが?
それに、仮に居たとしてもそれは卿とは名前や姿が酷似しているだけの別人だ」
「構わん」
「……まぁ、良かろう。 約束しよう。
無論、カールにも手出しはせん様に言っておく」
「ああ」
かつて俺と奴が迎える筈だった終焉。
目の前の男とメルクリウスによって奪われたあり得た筈の結末を見届けるためならば、今一度戦奴になることも厭いはしない。
1944年8月8日、4両のティーガー戦車が敵軍の対戦車砲によって攻撃され撃破された。
俺はそれを遠くから見届け、そして立ち去った。
(後書き)
黒騎士回。
彼は終焉を望んでいましたが、本当に望んでいたことは「終わりたい」ではなく「あの時戦友と共に終わりたかった」なのだと思っています。
ならばこそ、人によっては無意味と断じるかも知れませんが、自身ではないとは言えあり得た筈の1つの結末を見届けることは彼にとって何よりも意義のあることだと思います。
カイン、螢、イザーク、マキナ、リザ、シュライバー、メルクリウスが終了。
聖餐杯とベイ、ベアトリス、マレウス、ザミエルは第3章までに出番ありましたので、これで出番補完回はコンプリートですね。
獣殿を入れて13人。うん、ちゃんと合ってますね。