魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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(お知らせ)
貫咲賢希様よりイラストを頂きました。
後書きに載せてありますので、是非ご覧下さい。

推奨BGM:Fate(EVANNGELION)


37:殿堂入りは容易くない 【本編】 ■挿絵あり■

【Side 鈴木亮】

 

 神なんて嫌いだ。

 

 唐突に何だと言われそうだが、こう思ったのにはちゃんと理由がある。

 

 

 

 俺は神を名乗る男に唐突に死んだと言われ、白い世界でこの世界への転生と『ラグナロク』への参加を選ばされた。

 特典は7枚のカードからクラスを選んで、そのカードに因んだものを貰えると言う話だったが、俺の時には既に1枚しか残っていなかった。

 ライダー(戦車兵)のカード、残り物には福があると言うけれどあれは嘘だ。

 有利なものから選ばれていくんだから、残り物は不利なものでないわけがない。

 しかし、選ぶ余地が無い以上はこのカードで何とかしなければならないと俺は必死に考えた。

 Fateの第四次ライダーは征服王イスカンダル、その能力は雷撃を放つ戦車と固有結界。戦車は使い所が難しいし、王の軍勢は臣下との絆が宝具になったもの、全くの別人が能力だけ手に入れて使えるか……どう考えても無理だろう。

 第五次のメドゥーサは石化の魔眼に溶解結界、あとはペガサスか。

 どれも結構強力な能力だけど、あっさり負けているイメージが強いから却下だな。

 あとライダーで思い付くのは仮面ライダーか?

 しかし、どう考えても空を飛び砲撃を撃ち合う世界では不利だ。

 

 いや、あくまで因んだものや能力であればいいのだから騎乗するようなもの全てに拡大解釈出来る筈だ。

 しかし、乗り物や生き物を貰っても果たして乗りこなせるのだろうか?

 考えるだけで動いてくれる様なものなら良いかも知れな………………ん?

 それだ!

 思考制御で動かせる乗り物!

 攻撃は強力で防御力は最高峰!

 原理は分からないけれど何故か飛べる!

 あれを付けて貰えばエネルギーの問題もない!

 

 こ れ し か な い!

 

 そうして俺は、S2機関付きのエヴァンゲリオン初号機を転生特典として貰った。

 P・T事件時点で14歳になるように誕生年も設定。

 生まれる国は日本で、初号機は13歳の時に手に入れられる様に頼んだ。

 

 そして時は訪れ、洞窟の奥に隠されていた初号機に意気揚々と乗り込んだ。

 ATフィールドがあれば攻撃を喰らうことはないし、S2機関があるからエネルギー切れもない。

 どうやっても負けようがない、完璧な布陣だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、初号機は起動しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 あまりの事に呆然となり、エントリープラグの中で固まってしまう。

 よく見るとシンクロ率が0だった。

 何故?

 

 しばらく悩んで、ハッと気付く。

 

「ああああああーーーーー!!!」

 

 そう、EVAは人間が愛情を抱くときに使うとされるA10神経を介した神経接続によるコントロールシステム、動かせるのは母親の魂がEVAのコアにインストールされている14歳前後の子供だけ。

 俺が特典で頼んだのは「S2機関付きのエヴァンゲリオン初号機」……コアについては何も触れてない。

 ってことは、この初号機のコアにインストールされているのは碇ユイのままということか?

 コアのインストールの方法なんて俺は知らないし、この世界の母親にそんなことをするのも気が引ける。

 ついでに言えば、転生者である俺は果たしてこの世界の母親がコアにインストールされていてもシンクロ出来るかは微妙。

 それ以前に搭乗者の条件に14歳前後であることが入っているのは思春期のエディプス・コンプレックスがシンクロに必要だからだが、俺は肉体年齢は兎も角としても精神的には30歳前後。

 つまり、どうやっても初号機を動かすことは出来ない。

 

「……終わった」

 

 俺の『ラグナロク』は始まる前に終わった。

 って言うか、動かせるようにサービスくらいしてくれてもいいじゃないか、神様。

 11年後に機動六課が解散するまでに残り人数が2人より多ければ結界に閉じ込められて最後の1人になるまで殺し合い。

 転生させた神の言うことを信じればAランク相当の魔法の才能はある筈だが、それは他の転生者も同じ。

 加えてそれぞれが強力な転生特典を持っている筈。

 結論……絶対に勝てません。

 

 しかし、それは最後のバトルロイヤルだけでなくそれ以前の戦いでも同じことだ。

 首を突っ込めば、あっさりと負けて殺される。

 

 ん?

 良く考えたらどのみちEVAを動かせるのは1~2年じゃないか、『ラグナロク』が10年後まで続くならどうせ途中で乗れなくなってたのか。

 何でこんな特典選んだんだ、俺……。

 

 かくなる上は、11年後に残り人数が2人まで減っていることを祈りながらこっそりと隠れるのみ。

 俺が生き残る為にはこ れ し か な い!

 初号機を洞窟に隠したままにして原作に介入しなければ俺が転生者であることを知る術は無い。

 案外、この方法で結構勝ち残れそうな気がしてきた。

 

 

 

 

 そうやって隠れ続けて約2年。

 幸いにして一度も見付かることなく生き延びている。

 ニュースを見たが街中に出没した大樹やら震源地不明の地震やら、原作イベントは順調に消化されているらしい。

 この世界のキャラクターに興味は大いにあったが、命あっての物種。

 関わらないのが賢い選択だ。

 

 

 そんなことを考えていた俺はいつの間にか1人になっていた。

 別に孤独とかハブられているとか言う意味ではなく、本当に突然物理的に1人になったのだ。

 さっきまで道を行き交っていた人達が跡形も無く居なくなっている。

 加えて心成しか世界の色がモノトーンに見えるような……!?

 

 ……まさか、これって封時結界?

 

 マズイマズイマズイマズイ。

 これがもし俺をピンポイントに狙って閉じ込めたのだとしたら、犯人は転生者の可能性が高い。

 それにしても、何でだ?

 何でバレたんだ?

 

 混乱する俺に時間は与えられず、正面から金髪に金の眼をした長身の男が白い軍服に黒い外套を羽織って歩いてくる。

 その男の姿が視界に入った時点で心臓が収縮し、喉がカラカラに乾き全身から冷や汗が流れる。

 ヤバい、この男はヤバ過ぎる。

 

 数秒固まった俺だが、ハッと気付くとその男から離れるように一目散に逃げ出した。

 男はこちらが走りだしても同じペースで歩いている。

 追い掛けられるかと思ったがこれなら逃げ切れる…………そんな風に思った俺が馬鹿だった。

 男はゆったりと歩いてくる。

 それなのに、いくら走っても振り向くと同じくらいの位置に居る。

 俺は恐怖と疲労に息を切らせながら街中を走り回った。

 

 そうして気が付けば、俺は初号機を隠した洞窟の前に居た。

 藁にも縋る思いで洞窟の入り口を隠した偽装を掻き分け、初号機の安置されている空間へと走った。

 そうして、初号機を安置した広間に辿り着いた俺を待っていたのは、初号機の前に立って見上げている金髪の男の姿だった。

 

「……来たようだな。

 卿の選んだ特典はこれか。

 おそらくはライダーのカードを選んだ転生者、か」

 

 目の前の光景が信じられず、呆然とする俺に男は振り返り話し掛けてくる。

 どうやって先回りしたのか分からないが、先程俺を追い掛けてきていた男に間違いなかった。

 

「え…………・・?」

 

 ふと、男の顔と格好に既視感を感じた。

 何処かで見た様な……………………!?

 

「え……あ…………ラインハルト……ハイドリヒ?」

「ふむ、私を知っているか。

 まぁ、転生者であれば不思議ではないな」

 

 莫迦な莫迦な莫迦な莫迦な莫迦な!?

 何でだ、何でこんな化け物が居るんだ!

 こいつも転生者なのか?

 こんなの、最初から勝つなんて無理じゃないか。

 星を軽く破壊する様な相手にどうしろって言うんだよ。

 思わず後ずさりしようとしたが、踵が地面の出っ張りに引っ掛かり後ろに倒れて尻もちをついてしまう。

 

「な、なんで……?」

「ふむ?」

 

 何をどうして良いか分からずに反射的に思っていたことを口に出した俺に男は首を傾げる。

 どうやら耳を傾けてはくれるらしい。

 だったら……どうしても理解出来なかったことがある。

 

「なんで、俺が転生者だって分かったんだ……?

 原作にも介入してないし海鳴市に近付いてすらいないのに……」

 

 そうだ、俺は転生者だと分かる様な行動をしてはいない。

 だと言うのに、この男は俺を殺しに来た。

 一体どうして?

 

「別段難しいことではない、条件を付けて絞り込んだだけのことだ」

「条件?」

「まず転生者である以上はAランク相当の魔力を持っている筈だ。

 故にこの国でAランク以上の魔力を持っている者を特定した」

「う、嘘だろ!?

 日本には1億人以上居るんだぞ、不可能だ!」

「学校や企業などで行われる健康診断に介入し魔力検査を紛れ込ませた。

 確かに全ての人間を網羅したわけではないが、殆どの人間は調査は出来ただろう。

 転生者はおそらく高町なのはの誕生と10年前後の範囲を指定する者が多いであろうからな」

 

 そう言えば、学校で受ける健康診断は例年まで保健室で簡易的に測定するだけだったのが、今年は専用車が来て受ける本格的なものだった。

 まさかあれが……?

 そうだとすると、目の前のこいつは日本中に学校や企業にそんなことを強制できるような立場に居るってのか?

 

「で、でも……幾ら魔導文明の無い世界だからってAランク以上の魔力持ちが俺一人ってことはないだろ!?」

「確かに、数十人は居たな。

 その数十人について成績や幼少時の行動を調べた結果、卿を転生者であると断定したのだよ」

 

 成績!?

 確かに前世の記憶がある分、学校のテストなんかはかなり楽勝でトップクラスの成績を維持出来ていた。

 幼少時も良く子供らしくないと言われていた。

 

「あ、あはははは……」

 

 絶望に思わず乾いた笑いがこぼれる……。

 

「納得したかね、それでは幕を引くとしよう」

 

 そう言うとラインハルトはこちらに向かって……腕を振り上げようとして何かに気付いた様に後ろに視線をやった。

 

「──ああ、アレに乗るのなら待とうではないか」

「っ!? く……」

 

 俺はその言葉に、弾かれた様に立ち上がると初号機の方へと走った。

 初号機の力ならアイツを倒せるか?

 いや、絶対無理だ。

 でも、勝つことは出来なくても、もしかしたら逃げるだけなら出来るかも知れない。

 

 しかしそれも動かす事が出来れば、だ。

 

 俺は必死に初号機の脚を駆け上がる様にして背中へと飛び付き、エントリープラグを射出させる。

 そして、脇目も振らずに飛び込んだ。

 シートに座って操縦桿を握って、必死に祈る。

 

「動け動け動け動け動け動け動け動け、お願いだから動いてくれ!」

 

 

 

 

 現実は非常だった。

 

「………………………………?」

 

 初号機の正面に立ったラインハルトが不思議そうに首を傾げている。

 いつまで経っても初号機が立ち上がりすらしないので、不審に思った様だ。

 

「まさか、動かせんのか?」

 

 ああ、その通りだよ!

 悪いか!?

 

「……興醒めさせてくれる」

 

 ラインハルトの右手に強烈な神気を放つ槍が顕現する。

 

形成(Yetzirah)

 

 奴はそのまま槍を振りかぶり、そして投擲してきた。

 

聖約・運命の神槍(Longinuslanze Testament)

 

 そして、俺の意識は消えた。




(後書き)
 え~、賛否両論と言うか「否」しかないと思いますが、ライダー転生者でした。
 「まさかのEVA!?」「貴重なライダー枠が勿体無ぇ!」と言う皆様の声が聞こえてきそうです。
 なお、当初からの予定ですので感想欄に応えたわけではないです。

 いえ、7人も居れば1人くらいは選び間違える人物が居ても不思議ではないと思うのです。
 一応、これまで登場した彼以外の転生者は強さの差はあれど願ったことは叶ってますが、彼は頼み方を失敗した例です。

 ちなみにですが、彼はAmantes amentesまで網羅している(まどか、優介や原作陣にとって)貴重な情報源になり得る存在でした。
 なれませんでしたが。
 加えて言えば、正しく動かせれば流石に獣殿には勝てなくても2位は十分狙えたと思います。
 また、諦めてからの方針も実は他の転生者にとっては一番厄介な戦法でした。
 獣殿は権力による力技で突き止めましたが、そうでもしなければ絶対に見付からなかったでしょう。

 なお、作中では語っていませんが今回の殊勲賞はシュピーネさんではなく神父さんです。

貫咲賢希様よりイラストを頂きました。
<鈴木亮>

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