副題:金の恋シリーズ第4話「金の苦悩」
「命の創造は神のみに許された行為、人の身で為すことではない」
その言葉に心臓が止まる程の衝撃を受けた。
【Side フェイト・テスタロッサ・ハラオウン】
ラインハルトさんに執務官試験の合格を祝って貰った後にも、何度か食事に連れて行って貰った。
流石に毎回最初の時の様な対応をされてしまうと心臓に悪いので、2回目からは必死に頼み込んで何とか軽い内容にして貰った。
それでも2~3ヶ月に1度はあのレストランでの食事だったけど……。
時折腰が引けてしまうことはあるけれど、まるで恋人としてデートしているようなその時間は私にとってかけがえのない幸せな刻だった。
本当は分かってる。
私とラインハルトさんは恋人なんかじゃないし、今後そんな関係になれる可能性も皆無に等しい。
ラインハルトさんは私に恋愛感情なんて無くて、ただ親しくなった子供の相手をしているだけ。
それに、私とあの人が結ばれる為には幾つもの障害を乗り越えなければならない。
あの人は大人だけど、私はまだ子供。
あの人は資産家だけど、私は大した身分も持ってない。
あの人は管理外世界の住人だけど、私は管理局員でいずれは移住する。
ただ、そんなことよりも一番の障害は……私の出自。
数年前のなのはと初めて会ったあの事件で私は自分がどうやって生まれたのかを知ってしまった。
アリシア・テスタロッサのクローン、人造魔導師。
なのはやまどか達は、私が普通の人間じゃないって知っても友達で居てくれた。
リンディ母さんは私を引き取って娘にしてくれたし、クロノも良くしてくれている。
それでも、やっぱりそんな人達ばかりじゃないことをこの数年間で思い知った。
陰口を叩かれているのは知っているし、軽蔑する様な視線で見られることもよくある。
もっと直接的に、汚らわしいとかお前の様な奴が何故ここに居るとか罵られたこともあった。
辛くて泣いたことも何度もあるけれど、それでもそんな事を気にせずに仲良くしてくれる人がいることを励みに歩んできた。
必死に歩いてきたけれど、最近はどうしても不安と疑念が頭を離れてくれない。
もしもラインハルトさんが私の出自を知ったら、あの人はどう思うのだろうか。
勿論、管理外世界の住人であるラインハルトさんに私の出自それ自体を話すことは出来ない。
ただ、どうしても聞かずにはいれなかったんだ。
「その……クローンってどう思いますか?」
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金槌で頭を殴られた様な衝撃だった。
胸が痛むのを必死に抑え、表情に出ない様に努める。
「そう……ですよね」
何とかそう相槌を打つことが出来たが、涙声になってしまうことは止められなかった。
ラインハルトさんに気付かれてしまっただろうか。
嗚呼、やっぱり受け入れて貰えないんだ。
苦い諦めが浸透していく。
ラインハルトさんが言ってることは正しいし、私もそう思う。
ただ、それでも彼にだけは受け入れて欲しかった。
悲しいし、とても悔しい。
自分の生まれ方と言う、努力ではどうにもできない部分で決まってしまうことが。
今は子供でも何れは大人になれる。
頭が良くないといけないなら、頑張って勉強する。
容姿だって生まれつきな部分もあるけれど、綺麗になれるように努力する余地はある。
家柄とかは無理だけど、地位とか身分とかを得られれば覆せるかも知れない。
でも、生まれ方を変えることは出来ない。
真っ暗になる視界を堪えながら食事を続ける。
味は全然分からなかったし、その後の会話も覚えていない。
何処か別の場所から自分自身を見ているかのように現実感が無く、ちゃんと受け答え出来たかどうかも怪しい。
気が付いたらマンションの前に送り届けられていて、部屋にフラフラと入る。
リンディ母さんやアルフが声を掛けてくれたけど、耳に入らなかった。
ドレスが皺になるのも構わずベッドに突っ伏して漸く今日の出来事が夢ではなくて現実であることを実感してきた。
枕に顔を押し付けて声を押し殺しながら私は涙を流した。
翌日、私はどうしても動く気力が起きなくて、学校を休んだ。
リンディ母さんもアルフも心配してくれて何があったか聞いてきたけれど、言えなかった。
なのは達から電話が掛かってきたけれど、まともに話せる気がしなくて受信しなかった。
(後書き)
彼女を語る上ではどうしても避けては通れない出生の秘密。
獣殿「
それにしても、前話からの落差が半端ない。
上げて落とす意図は無いです……多分。