魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Amantes amentes(dies irae)

副題:金の恋シリーズ第5話「金の告白」


46:べストカップル? 【金の恋】

【Side フェイト・テスタロッサ・ハラオウン】

 

 

 ラインハルトさんに否定されてから約2年、私とラインハルトさんの食事会は大分頻度を落としながらも続いていた。

 本当はもう会わない方がいいと思ったけど、暫く会えないとどうしても気になって連絡してしまうといったことを何度も繰り返した。

 本当に未練がましいと思うけど……やっぱり私はラインハルトさんのことが好きで好きで仕方がないみたいだ。

 中学校に通う3年間で何度か男の子に告白されたけれど、その度にラインハルトさんの顔が頭に浮かんで断ってしまった。

 

 でも、それも今日で終わりにしなければいけない。

 ズルズルと引き摺ってしまったけれど、もうすぐ私は本格的に管理局で働くようになる。

 住む場所もより本局に近いミッドチルダに移住することになっているから、これまでの様に頻繁に会うことは出来なくなる。

 勿論この世界に来ることが出来ないわけではないけれど、渡航許可を取ったりしなければいけなくなるので、せいぜい月に1回くらいしか無理だと思う。

 

 気持ちを断ち切る為、今日は覚悟を決めてきた。

 散々悩んだけれど、やっぱりラインハルトさんに私の出自のことを話そうと思う。

 魔法のことは話せないけれど、クローン技術自体はこの世界にも未発達とは言え存在するので、少し誤魔化せば多分大丈夫。

 

 命の創造は人が行ってはいけないと言っていたラインハルトさんだから……多分嫌われてしまうと思う。

 罵倒されるかもしれない。

 想像するだけで胸が張り裂けそうになるけれど、それでもこのまま本当の事を言わないまま離れ離れになってしまったら私はこの先1歩も前に進めないと思う。

 だから、恐いけれど勇気を出して本当の事を告げよう。

 

 お話したいことがあると連絡を取って、久し振りにディナーに連れてきて貰った。

 ゲルマニアグループのビルではなく、駅前のホテルの高層階にあるレストラン。

 ここは以前、まどかが撃墜事件で怪我をした時にラインハルトさんにつれてきてもらった場所だ。

 何も出来ないと落ち込んでいた私はラインハルトさんにアドバイスを貰ってなのはを諦めずに励まして立ち直らせることが出来た。

 あの後、まどかも奇跡的な快復を遂げた。

 ラインハルトさんに惹かれたのは最初に会った時からだったけど、本当の意味で好きになってしまったのはあの時なんだと思う。

 

 話したいことがあると言って来て貰ったけれど、私の出自は周りに人がいるこの場所では話し難い。

 それに、多分話したら食事をする雰囲気じゃなくなってしまう。

 最後になるんだから、思い出に残す為にもせめて食事は最後まで落ち着いたままで続けたかった。

 そう告げると、ラインハルトさんは支配人の人を呼び立てて何かを頼み始めた。

 

「あの……今のは?」

「ああ、このホテルに部屋を取らせた。

 ここで話し難い内容ならば、食事後にその部屋で聞くとしよう」

 

 ごめんなさい、最初から周りに人が居ない場所ってお願いしておくべきだった。

 手間を取らせてしまって申し訳ないと思いながらも、配慮してくれたことにお礼を告げる。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 食事を終えて、支配人さんに告げられた部屋へと場所を移す。

 少し想像していたけれど、目の前に広がる部屋の広さと家具の豪華さに顔が引き攣る。

 これ、もしかしてロイヤルスイートとかなのでは?

 話をするだけなのにこんな部屋を取らせてしまった事に俯いてしまうが、次の瞬間に状況に気が付いて硬直する。

 部屋を取って泊まらずに帰るのも変だから、今日はここに泊まる流れになると思う。

 それはつまり、ラインハルトさんと2人きりで同じ部屋に寝るってこと。

 え~と、もしかして……そういう展開なんだろうか。

 緊張しているけど、それが「嫌」とか「怖い」でない辺り、重症だと自分でも思う。

 

 そこまで考えて、いやいやと首を振って思い直す。

 今日は訣別のために来たんだから、そんな期待をしてはだめだ。

 

 ソファに向かい合って座ると、ラインハルトさんが手ずから紅茶を淹れてくれた。

 紅茶を一口含み、話を始めようとする。

 しかし、いざ話そうと思うと身が竦んでしまって言葉が出て来なかった。

 やっぱりイヤだ、怖い、嫌われたくない。

 

 黙りこくる私をラインハルトさんは何も言わずにただ待ってくれた。

 

「私は……」

 

 何時間にも感じたけれど実際には数分だった沈黙の時間の後、私はポツリと言葉に出した。

 

「私は、クローンです」

 

 言ってしまった、と思った。

 もう取り返しがつかない。

 後悔の念が沸き上がる中、それまでの沈黙を覆す様に私は一斉に話しだした。

 それは多分、ラインハルトさんの反応が怖くて言葉を途切れさせないようにしたかったのだと思う。

 

 私の母さんが科学者だったこと。

 アリシアが事故に遭って死んでしまったこと。

 母さんがアリシアを取り戻す為にクローンとしての私を作ったこと。

 結局、アリシアになり切れずに失敗作だと言われたこと。

 母さんはアリシアを生き返らせようとして、そして死んでしまったこと。

 

 魔法の事に触れずに話せる全てを一気に話した。

 そうして、話せることが無くなって怖くなって俯いた。

 

「……そうか」

 

 一言だけ発するラインハルトさん。

 よくも騙したなと罵倒されるのだろうか。

 それとも、二度と近付くなと拒絶されるのだろうか。

 あるいは、汚らわしいと軽蔑されるのだろうか。

 

 嫌な想像ばかりが膨らむが反応はない。

 沈黙に耐え切れずに、俯いていた視線を上げて彼の方を見ると、ラインハルトさんは紅茶を飲んでいた。

 

「あの……それだけですか?」

 

 反応の無さが気になって問い掛ける。

 

「それだけ、とは?」

「その……汚らわしいとか思わないのかって」

 

 実際彼に言われたら耐えられないと思うけど、以前聞いた言葉からそう言われることも覚悟していた。

 

「汚らわしい? 何故かね?」

 

 ……あれ?

 

「だ、だって……前に人間が命を創造するのはいけないことだって……」

 

 そう、私が絶望の淵に追い詰められた言葉だ。

 もしかして、彼にとっては大した思いもない軽い言葉だったのだろうか。

 だとしたら、幾らラインハルトさんでもちょっと許せない。

 あの時はしばらく食事が喉を通らなくて、みんなに散々心配を掛けてしまったのだから。

 

「ふむ、確かに言った記憶がある」

「だったら、クローンとして生まれた私も罪深い禁忌の存在ってことに……」

「何故かね?」

 

 あれ?

 おかしい、どうも話が噛み合わない。

 

「確かに、私はクローン技術の様な命の創造は神の役目であり人が為すことではないと言った」

「はい……」

「卿の母親がクローン技術で卿を生み出したのなら、卿の母親は禁忌を犯したことになる」

「……………………………………」

 

 その言葉に何も言えなくて、私は黙り込んだ。

 否定したいけれど、母さんのやったことは犯罪だし倫理にも反すると分かっている。

 目の前で他の人がそれを行っていたら、私だって止めるだろう。

 でも、母さんの行為を否定してしまったら私の存在自体を否定することになる。

 

「だが、それで何故卿が『罪深い禁忌の存在』になる?」

「え……?」

 

 思わぬ言葉に信じられずにポカンと口を開けて固まってしまった。

 

「昔、とある者が生まれた際に私はこう言ったことがある。

 『それは最初から生まれてきてはならぬものだ』と」

 

 ラインハルトさんの言葉にまるで自分がそう言われたかのように感じ、ビクッと身を竦める。

 

「しかし、友はこう私に諭した。

 『ですがこうして生まれた以上、彼を止める権利など誰にもない』と」

「あ……」

 

 その言葉に何か温かいものが私の胸の中を満たした。

 

「この言葉を是とするか非とするかは自由だが、私は正しいと受け取った。

 いかなる者であろうと生まれた以上は否定する権利は誰にも無い。

 例え卿が禁忌の術で生み出されたのだとしても、卿自身に罪は無い……少なくとも私はそう断じている」

「………………………………っ!」

 

 言葉が出なかった。

 肯定してくれた……その事実に歓喜と昂揚が湧き上がり、感情が止められなかった。

 溢れる涙を抑え切れずに恥も外聞も無く泣きじゃくった。

 

 30分程経って涙が落ち着いて冷静になると、今度は好きな人の前で大号泣した事実に今更ながらに赤面してしまう。

 恥ずかしくて彼の顔をまともに見られない……。

 でも、私がそれだけ感情を抑えられなかったのも、彼の事が好きだからだ。

 受け入れて貰えないと思って訣別のために出自を話したけれど、彼は肯定してくれた。

 ならば言ってしまおう、この胸にある想いの丈を全て。

 

「その、もう1つお話したいことがあるんです」

「ふむ、何かね?」

「私、ラインハルトさんのことが……」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 翌日、目を醒ますと既にラインハルトさんはベッドに居なかった。

 昨日の記憶が戻ってきて顔が熱くなり、転げ回りたくなるのを必死に堪える。

 しばらくして漸く顔から血が引いたのでベッドから起き上がり、近くの椅子に畳まれていた服を着る。

 どうやら、ラインハルトさんが整えておいてくれたらしい。

 姿が見えないけれど、シャワーの音が聞こえるのでバスルームに居るのだろう。

 

「そう言えば、今何時だろう?」

 

 話の邪魔にならない様に着信音を消していた携帯がテーブルの上にあったので、時間を確認するために手に取る。

 しかし、そこに表示された別の文字が目に止まり硬直した。

 

 着信件数 47件

 

 サーッと血の気が引いていくのを感じる。

 履歴を見ると大半がリンディ母さんでクロノやエイミィ、なのはやまどかの番号もある。

 そう言えば、話に夢中でその後も色々あったので泊まることを伝えるのを完全に忘れていた。

 おそらく、帰ってこないことを心配したリンディ母さんがなのはやまどかにも確認したのだろう。

 ど、どうすればいいんだろう……。

 

 結局、ラインハルトさんがシャワーを浴び終えて出て来るまで、私はただ立ち尽くしたまま呆然としていた。




(後書き)
 空白期における 【金の恋】シリーズはこれで完です。

 獣殿が友に言われた言葉は「Die Morgendammerung」より。
 しかし、何故でしょう、意味合いは殆ど一緒なのに印象が全然違うのは……。

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