49:集結、機動六課
【Side ティアナ・ランスター】
「錚々たる面子ね」
演台の上で茶色のショートカットの小柄な女性が演説をするのを直立して聞きながら、その周囲に並ぶ面々を見て呟いた。
小さな声だったので、周りの人には聞こえることは無かっただろう。
ここは第一管理世界ミッドチルダの首都クラナガンの外れにある古代遺物管理部機動六課のオフィス。
恐ろしいことに、今回の試験部隊のために建物自体を新たに建てたらしく、どうみても新築の輝きを放っている。
一年限りの試験部隊の筈なのに、解散後この建物どうするつもりなんだろう?
部隊の勧誘を受けて相談した時に聞いた姉さんの言葉が現実味を帯びてきて、私は思わず身震いする。
『ミッドチルダにロストロギア対策部隊?
陸の管轄内に海の部隊を作るってことじゃないですか、それ。
完全に喧嘩売ってますね。
クーデターでも始めるつもりなんですか、その人』
実際、SSランク魔導師でもある部隊長の八神はやて三佐を筆頭に侵略を始める為の先遣部隊と言っても良い程の戦力が揃っている。
エースオブエースと名高い教導隊の高町なのは二等空尉。
執務官の中でも若手の筆頭と言われているハラオウン執務官。
大怪我を負いながら復帰し活躍している不屈のエース高町まどか二等空尉。
凄腕のスナイパーでありながら接近戦までこなす陸の救世主松田三等陸尉。
高町まどか二尉と松田三尉は本局ではなく地上部隊の所属らしいが、隊長陣は皆幼馴染らしいのでいざと言う時の抑止力としての効果は期待出来そうにない。
と言うか、見事なまでに身内で固められた部隊だ。
試験部隊と言う話だったが、こんな特異な例で何を試せるのだろう。
とは言え、執務官になると言う私の夢を考えれば、ロストロギア対策部隊に所属すると言うのは有益である。
教導隊でも有名な高町なのは二尉の教導も受けられると言う話だし、取り合えずは頑張ってみよう。
兄さんの夢を代わりに叶える為に、姉さんの期待に応える為に。
【Side 高町まどか】
「う~ん……」
「どうしたんだ?」
私はモニタを睨みながら悩んでいると、横から声が掛けられる。
振り向くと、そこには茶色の制服を着た赤髪の青年が居た。
「機動六課のメンバー表を見ていたのよ」
赤髪の青年──優介に答えながら、先程まで見ていたモニタを彼にも見える様に拡大する。
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古代遺物管理部機動六課
部隊長:八神はやて
<ロングアーチ>
隊長 :八神はやて(兼)
副隊長:リインフォース
隊員 :グリフィス・ロウラン
シャリオ・フィニーノ
アルト・クラエッタ
ルキノ・リリエ
シャマル
<スターズ分隊>
隊長 :高町なのは
副隊長:ヴィータ
隊員 :ギンガ・ナカジマ
ティアナ・ランスター
<ライトニング分隊>
隊長 :フェイト・テスタロッサ・ハラオウン
副隊長:シグナム
隊員 :エリオ・モンディアル
ルーテシア・アルピーノ
<ブレード分隊>
隊長 :高町まどか
副隊長:松田優介
隊員 :リジェ・オペル
<バックヤード>
:
:
■───────────────────────■
「矢張り、細部に色々と差が出ているな。
……スターズ分隊はまぁ、仕方ないけど」
気まずそうに述べる優介に私も「そうね」と返すしかなかった。
4年前の空港火災で帰らぬ人となったスバル・ナカジマ……本来だったらスターズ分隊の一員としてこのメンバー表に名前が載っていた筈だった。
代わりに載っているのが彼女の姉に当たるギンガ・ナカジマ陸曹。
どういう交渉が為されたのかは不明だが、はやてが陸士108部隊から引っ張ってきた。
「ライトニング分隊は……皮肉としか言いようがないわね」
隊長副隊長とエリオについては良い……が最後の1人が大問題だ。
正史を考えると最早皮肉でしかない。
「結局、キャロについては?」
「調べてみたけれど、そもそも生まれていない……と言うのが正解みたい。
ル・ルシエの里がある筈のアルザスは無人世界になっていた。
少なくとも、100年以上の間、人が居住したという記録は無いわ」
「100年以上前。
あり得るとしたらガレア帝国か?
真竜の力を警戒してとか……いや、そんな奴らじゃないか」
「そうね……。
まぁ、原因の追及よりも今の現実を考えることを優先しましょう
代わりに入ったのがルーテシア」
正史ではスカリエッティ側でレリック・ウェポンにされていたルーテシアが機動六課に所属。
ゼスト隊の全滅後、最高評議会の手が回る前に何とか保護出来た彼女は正史のキャロの様にフェイトが保護者になっている。
本当は優介か私が育てる筈だったんだけれど、あれよあれよと言う間にフェイトが引き取ってしまった。
何を言っているのか分からないと思うけど、私達も何をされたのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ。
「でも、彼女にはガリューと白天王が居ないから、あまり無理も出来ないわね」
「多分、正史では母親の召喚蟲を受け継いだんだろうな」
「おそらくね」
正史と異なり、彼女が召喚出来るのはインゼクトと地雷王のみだ。
そもそも、レリック・ウェポンではないので魔力量にも限界がある。
「それから……ブレード分隊」
「俺達の分隊だな」
「ええ、正史には存在しない対『転生者』そして対『ラグナロク』の分隊……の筈なんだけど」
事情を知るはやてに頼んで、自由に動ける様に私と優介を独立した分隊にして貰った。
「この子か」
「そうなの、流石に分隊として独立させる以上は隊員ゼロってわけにもいかないって言われてね。
専任教導の試験部隊でもあるから、若手を最低1人は所属させる必要があるのよ。
まぁ、教導についてはライトニングも含めて基本的になのはが見てくれる筈だし、
任務行動も分隊での行動よりフォワードでチームを組んで行動することが多いから、そこまで問題はないと思うわ」
「そうか……って、だったら分隊にする意味ってないんじゃないか?」
「……私に言わないでよ」
実際、正史でも任務時の動き方を見ると隊長陣はフォワードとは別行動を取っていることが殆どだ。
その事実と機動六課の部隊構成を見れば、はやての目的は高ランク魔導師である隊長陣が自由に動ける環境を作るためであることが透けて見える。
フォワード陣の将来性に期待していないわけではないのだろうが、少なくとも現時点では人数合わせの意味合いが強い。
まぁ尤も、私はそれを非難するつもりはない。
多少魔導師至上主義に毒されている感はあるが現状打破のための施策の1つと思えばそこまで突飛ではないし、独自行動を取らなければいけない私達としても好都合だ。
「リジェ・オペル……聖王教会からの出向だったか?」
「ええ、あっちの騎士団の中でも若手のホープらしいわ。
一応、はやてが配慮してくれた結果みたいよ。
幾ら別行動と言っても報告書とかの処理はしなきゃいけないんだけど、聖王教会からの出向なら私達が取り纏める分は最小限になるから」
「成程」
まぁ、報告義務がある管理局より聖王教会の方がいざと言う時にどうにかなるって意味もあると思うけど。
そんな事を考えながら、私はモニタを立ち上げて通信を始める。
僅かな時間の後、双子の妹の姿が映し出された。
『どうしたの、お姉ちゃん?』
「そっちの様子が気になってね。
訓練の様子、こっちにも送ってくれない?」
『あ、うん。分かった。
丁度ガジェット相手の模擬戦を始めたところだよ』
なのはがモニタを操作すると、訓練用のヴァーチャル施設が映し出された。
フォワード陣5人が30機のガジェットドローンを相手に模擬戦を行っているらしい。
……って、30機!?
ガジェットの特徴であるAMF──アンチマギリングフィールドの体験だろうけど、最初にしてはちょっと数が多くない?
ギンガは流石に現役捜査官としてガジェットの情報を知っていたのか、AMFで消される可能性があるウィングロードを封印してシューティングアーツだけで次々に撃破している。
ティアナは……拳銃と剣!?
左手に持った拳銃から多重弾殻射撃を連射して一発毎に一機ずつ撃破している上に、ガンナーでありながら自ら近付き剣を振るう。
時折ガジェットからビームを撃たれるが、そのビームを右手の剣で斬り払うと言う離れ業を見せている。
エリオは正史通り槍の突撃と電気の魔力変換資質……まぁ、彼についてはAMFはあまり関係が無い。
ルーテシアはインゼクトを敵であるガジェットに取り付かせて同士撃ちをさせている。
そう言えば、正史でもアグスタで操ってたっけ。
その時は自陣営だったけど、敵でも操作出来るんだ、あれ……。
そして最後の1人、ティアナと同世代の赤いショートカットの髪の少女──リジェはトンファー使いの様だ、
シャッハに習っていたりするのだろうか?
普通、トンファーと言う武器はどちらかと言えば防御を主体とする筈なんだけど、彼女は積極的に敵に打ち掛かっていくタイプの様だ。
ビームやワイヤーを真っ向から掻い潜りながら左右のトンファーで強打し撃墜していく。
「なんか……教導とか要らない様にも見えるんだけど」
「エリオとルーテシアは流石にまだまだ未熟な部分があるけど……他の3人はそうね。
ギンガは既に一人前の捜査官だから良いとしても……ティアナとリジェは予想外だわ。
そもそも、何でティアナが接近戦してるのよ……」
「ひょっとして、スバルが居ない影響か?
正史だと前衛のスバルが居たけど、相棒が居ないからその役目も自分で何とかしようとした結果とか」
確かに、正史のティアナのスタイルは前衛であるスバルが居ることを前提としている部分があるため、筋は通っている。
しかし、技術としての完成度で言えば、射撃よりも剣の方が上に見える。
拘りなのか射撃を主体においているが、むしろ剣で戦った方が強いんじゃないだろうか。
「リジェの方は……これまた凄いわね」
「ああ、あの中に突撃するなんて中々出来ることじゃない」
ビームやワイヤーの合間を縫う様に突撃する……口で言えば簡単だけど、技術的にも度胸的にも並大抵で出来ることではない。
「下手をすると、私達より強くない?」
「中距離・遠距離も入れれば負けることは無いと思うけど、近距離に限定すると危ないかもな」
「そうね……機動六課のメンバーで転生者の可能性があるとすると彼女くらいだけど、どう思う?」
他のメンバーは立ち位置が異なっていても正史に居た者達だ。
彼女だけが正史には居なかった者となる。
「レベルを見ても異様な強さだからな、限りなく黒に近いと思うけど……。
でも、聖王教会から派遣されたと言っても、別に立候補を募ったじゃないんだろ?」
「そうなのよね、そこだけが障害なのよ。
聖王教会からの出向だから、確証がないままに下手な真似は出来ないし……。
取り合えず、警戒だけは怠らないようにしましょう」
「そうだな」
【Side 松田優介】
まどかと別れ、機動六課の隊舎を歩く。
誰かを救わなければと思い続けて19年間、いつの間にかこんなところまで来ていたことについて、真新しい隊舎を見ながら少し感傷に耽ってしまう。
以前の世界では俺自身が聖杯から溢れ出す「この世全ての悪」の出現を防止しなければならないと言う明確な指針があったが、この世界は本来であれば最後には「俺以外の手で」救われることが約束されている世界。
ならば俺の役目はそれが無事に為される様にサポートすることと、途中過程でこぼれ落ちる人達を1人でも救いあげることだと信じて、まどかと一緒に歩んできた。彼女は彼女で別の想いがあったみたいだが。
万全だったとはとても言えない、救えた人も居れば救えなかった人も居る。でも俺には迷うことは許されなかった。
これより、このミッドチルダを舞台にJ・S事件が幕を開ける。『ラグナロク』のリミットが機動六課の解散日である以上、これが最終局面になる筈だ。これまで姿を見せなかった残りの転生者もこの地に集ってくるだろう。
J・S事件もスカリエッティが勝ってしまえば管理世界中に被害を齎す見過ごせない事件だ。だから、事件を対処しながらそこに介入してくるであろう転生者達も倒す……難しいけれどやらなくちゃならない。
10年前、自分を犠牲にして他の人間を生かすことは考えるなとまどかに言われた。言っている意味も意図も理解出来るけれど、それでもその言葉を受け入れられているかと言うと否と言わざるを得ない。ただ、そう言ってくれたことには感謝しているし、言ってくれた彼女には死んで欲しくないと思った。
残りの転生者の中には聖槍十三騎士団の背後に居る転生者が居る。
もしも予想が正しくて、ラインハルト・ハイドリヒと同等の力を持っているのなら、それは既に人にどうこう出来るレベルの相手じゃない。
もし仮に、その転生者と俺とまどかの3人が残ったとしたら、俺は……いや、止めておこう。
それ以前にまだ3人も居る筈だし、今そんなことを考えても皮算用でしかない。
それに、その転生者が単独優勝を狙っているとしたら、俺が自害しても意味は無いのだから。
(後書き)
原作から比べるとスバルとキャロが居ない代わりにギンガとルーテシアが入り、
それに加えて分隊が1つ増えています。
ギンガとリジェは出向なので別ですが、転生者2人の分だけ保有制限ではやてのリミッターが凄いことに……。
あとリインフォースもアインスです。