Caution! キャラ崩壊中尉……間違えました、注意
【Side 高町まどか】
先日のフォワード陣の休日中に起こった市街地での遭遇戦。
ヘリを狙った砲撃は優介が防いでくれたし、大量に襲撃してきたガジェットも全て殲滅出来た。
しかし、クアットロとディエチの確保は寸での所でトーレに妨害されて果たせず、地下に行かせたフォワード陣も新手に襲われレリックを奪われてしまった。
クアットロとディエチの確保は上手く行けば儲け物くらいの話だったので問題ないが、地下の方は予想外だった。
幸いにしてフォワード陣は軽傷で済んだし、レリックを奪われてしまったがそれについてもまだいい。
いや、良くは無いが……それ以上に問題として奪っていった黒髪の女性の存在が挙げられる。
ティアナ達のデバイスに映っていたその容姿を見て、優介が間違いないと断言した。
聖槍十三騎士団黒円卓第五位 櫻井螢=レオンハルト・アウグスト
姿を見せなかった彼の集団がここでその姿を見せた。
ヴィヴィオの方には目もくれずにレリックを狙ってきたことを考えると、10年前もジュエルシードや闇の書を狙ってきた様に今度もロストロギア狙いなのか、それともスカリエッティと何らかの繋がりがあるのか。
意図の読めない彼らの行動は対策を取るのも非常に難しい。
しかし、そんな彼らの行動を事前に知ることが出来るかもしれない機会がやってきた。
はやてから聖王教会への訪問を指示されたのだ。
正史でもあった、機動六課設立の意図についての説明の場……カリムの預言について説明される場だ。
正史ではスカリエッティによる管理局への攻撃が預言されていたが、この世界でも同じ結果が出ているのだろうか。
『ラグナロク』の舞台であり、スカリエッティ以上の脅威が一年以内に牙を剥くことが確定している以上、預言についてもそちらが優先されていても不思議ではない。
優介にヴィヴィオの見張りをお願いしつつ、私はなのはやフェイトと共に聖王教会へと向かった。
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旧い結晶と無限の欲望が交わる地
鉤の十字に導かれ、墓の城は虚空より顕現す
死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち
それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる
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聖王教会でカリムに見せられた詩文はそんな文章だった。
概ね正史通りの内容に見えるが、問題は第二節。
正史では「死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る」という文章であった筈だが、置き換わってしまっている。
元の文章では「死せる王」は聖王オリヴィエのクローンであるヴィヴィオ、「彼の翼」は聖王のゆりかごを意味している為、聖王のクローンであるヴィヴィオによりゆりかごが起動されることを示唆していた筈。
それが変わっているということは、この世界ではゆりかごは起動されないと言うこと?
いや、それならその後の節が変わっていないのは何故?
「鉤の十字」と言うのは心当たりがあるが、「墓の城」とは何なのだろう。
「何か気になることが?」
真剣に預言を見ていた私に、いつの間にかその場に居る全員の視線が集中していた。
問い掛けてきたのは、預言を行った本人である女性──カリム・グラシアだ。
レアスキル「預言者の著書」を保持する聖王教会の重鎮にして管理局の少将。
「ええ、この詩文の第二節だけ全く意味が分からなかったので悩んでいたんです」
「確かに第二節は最も解釈が難航してますが……あの、逆にそれ以外の文章については意味がお分かりなのですか?」
何処か期待交じりのカリムの質問に少し悩む。
私は別に古代ベルカ語に造詣が深いわけでもなんでもなく、正史の知識で正答を知っているだけだ。
これを説明しようとすれば、必然的に『ラグナロク』と正史の知識について知っていることが前提になるが、そもそもカリムはそのことを知っているのだろうか。
そう持ってカリムの左隣に座っているはやてに視線を向ける。
「はやて?」
「あ~、カリムには未だ話しとらんよ。
まどかちゃんの許可無く話せる話でもないしな」
私の意図を察したのか、はやてが聞きたかったことを答えてくれる。
そのやり取りに怪訝そうな顔をしているカリムを見ながら、私はカリムに話した場合のメリットとデメリットを考える。
メリットは彼女からより密に支援を受けられること、一方デメリットは聖王教会に情報が流れる可能性があることだろう。
しかし、正史の知識を伏せておきたかったのは乖離を防いで対応が出来る様にすることと、未来知識に近い記憶の悪用を狙われない様にするためだ。
どちらにおいても、事ここに至っては既に伏せておく必要性は殆ど無くなっている。
もともと日程の近付いてきた公開意見陳述会で正史とは異なる方向で進めることを狙っていたから乖離についてはもう気にする必要は無いし、そこで結末を変えるつもりである以上は未来知識など白紙も同然だからだ。
ならば、ここで彼女にも事情を説明して協力を仰いだ方が良いだろう。
いや、はやてやクロノ達にも伏せていたJ・S事件の詳細についても話してしまおう。
「…………………………………………」
一通りの話をした後のカリムは無言となって目を瞑り、紅茶を啜っていた。
「流石に信じられないかしら?」
敬語が面倒になったので口調を素に戻して問い掛ける。
これまでは年上でもあり上官でもあったために丁寧な言葉で話していたが、ここまで話した以上は気にする必要はないだろう。
「いえ、信じます。
極秘だった筈の聖骸布の盗難まで知られている以上は信じないわけにはいきません」
「そう、それは良かったわ。
それで、協力して貰えると思っていいのかしら?」
「ええ、私の権限で可能なことであれば支援させて頂きます」
微笑んで頷いてくるカリムに安堵し、改めてこの場に集まったみんなに対して宣言する。
「先程も言った通り、今後の最優先事項はヴィヴィオを守りきることよ。
それさえ出来ればゆりかごは起動出来ないし、ゆりかごさえ無ければスカリエッティの戦力は普通に制圧可能な筈。
対転生者という意味でも、戦力を残して居れば対処が出来る。
その為には、迫ってきた公開意見陳述会でどう立ち回るかに掛かっているわ」
正史では地上本部の襲撃を囮にして機動六課が狙われた。
しかし、既に相手の狙いが分かっている以上、対策を取ることは可能だ。
「彼女の身柄を本局に移すと言うのはどうだ?」
クロノが提案してくるが、それは拙い。
「ダメね、さっき言った通りスカリエッティは最高評議会と繋がってるから、
地上本部に渡しても本局に渡しても、スカリエッティに差し出すのと変わらないわ」
公開意見陳述会への襲撃で決定的に反旗を翻すまでは、スカリエッティは管理局上層部と繋がったままだ。
事前に本局に預けたりしたら、公開意見陳述会での襲撃を先送りにして裏から手を回してヴィヴィオを確保することを優先するかも知れない。
「聖王教会でお預かりすると言うのはどうですか?
聖王陛下の血を引く御方であれば騎士団の忠誠を捧げるべき方、裏切って管理局やスカリエッティに差し出す様な者は居ません」
「選択肢としては考えたけれど、それをするとヴィヴィオが祭り上げられることになりかねないから最終手段ね。
彼女が大人になってそれを望むなら兎も角、何も分からない子供の時に人生を決めてしまうのは正直賛成したくないの」
「……そうですね。
聖王教会の立場で言えば少し頷き難いですが、私も彼女を不幸にしたいわけではありません」
そう言いながらも、あから様に残念そうにしているカリム。
信仰の対象であり旗頭とすれば聖王教会の隆盛も見込めるため無理もないが、その様子から見ても一度渡したら戻って来ない可能性が高い。
「ほんなら、やっぱり機動六課で守るしかないな」
「でもはやてちゃん、公開意見陳述会には私達も警備の任務が来ることになってるんでしょ?」
「そうだよ、ヴィヴィオを守るのは勿論だけど、地上本部だって放っておけないよ」
はやての言う通り、預け先が存在しない以上は機動六課で守るしかない。
地球に避難させておくことも考えたけれど、万が一察知されたら守る余地もなく拉致されてしまうだろう。
「はやて、公開意見陳述会の時に機動六課に戦力を残すとして、どれくらいまでならいける?」
「う~ん……一応可能な限りの人員を警備に当てる様に言われとるからなぁ。
なるべく交渉してみるけれど、せいぜい分隊1つが限界やと思う」
予想はしていたけれど、まぁ確かにそれくらいが限度だろう。
「そう……じゃあスターズとライトニングは地上本部に、ブレードは機動六課に配置する方向でお願い」
「分かった、やってみるわ」
「それと、公開意見陳述会はデバイス持込み禁止よね?
あれ、何とかならないかしら。
正直、起きることが分かっていると間抜けにも程があるとしか思えないんだけど」
あの決まりさえ無ければ、正史でもギンガは拉致されずに済んで、公開意見陳述会の段階で数人くらいは戦闘機人も捕縛出来たんじゃないだろうか。
テロ防止のための決まりだと思うが、そのせいで外部からのテロを防げなかったら意味がない。
地上本部が襲撃される様なことはないと言う思い込みを前提にした決まりだ。
「そっちは多分許可は貰えんと思うわ。
責任者はレジアス中将やけど、あのおっさんはカリムの預言も信じてなければ私達のことも嫌っとるし……」
「………………………………そう、そうよね」
「あとは処罰覚悟で持ち込むか、やな。
違反は違反やけど、実際に襲撃があれば文句付けられる奴もおらんやろ」
過激なことを言うはやてだけど、一理はある。
「そうだね、襲撃があることを考えれば降格くらい覚悟してでも万全にしておいた方がいいよ」
「うん、私も同感」
なのはやフェイトもはやての意見に同意している。
「それじゃあ、その方向で行きましょう。
公開意見陳述会が被害を減らせる大きな分岐点、それぞれの場所で全力で守り抜きましょう」
【Side out】
「宜しかったのですか、預言をそのまま見せてしまって」
管理局の面々が立ち去った後、部屋に残ったカリムは呟いた。
「ああ、構わないとも。
軽く手掛かりの1つも与えなければ興醒めな展開になりかねないのでね。
故に、これは必要なことなのだよ」
他に誰も居ない部屋にも関わらず、答えが返ってくる。
しかし、カリムは驚く様子を見せず、その人物の前に跪く。
彼女が跪いた相手はローブを着た影絵の様な男だ。
「聖下」
「ああ、畏まる必要はないよ、普通にしていてもらいたい。
便宜上教皇などと言う地位にあるが、本来私はそんな器ではないのでね」
「ご冗談を」
許しを得て立ち上がると、カリムは男をテーブルへと誘い、紅茶を注ぐ。
「それで、その……」
ゆっくりと紅茶を味わう男に、おずおずと話し掛けるカリム。
「フフフ、心配なら要らないとも。
例のモノなら用意しているよ、この通り」
そう言うと、男はローブの内から数枚の写真を取り出し、反対側へと座るカリムへと滑らす様に渡す。
その瞬間、カリムの表情が歓びに溢れ、顔を紅潮させながら跳び付く様に写真へと手を伸ばした。
「嗚呼……ラインハルト様」
「相も変わらず、我が友人は罪作りな御方だ」
写真に付いた指紋を丹念に拭き取り丁重にアルバム保存していくカリムを見ながら、男は苦笑する。
「それで、予定の方は順調かな」
「はい、全て順調です。
表の方の布教は勿論、騎士団内での思想統一も概ね済んでいます。
ああ、勿論聖下から教えて頂いたあの子は対象外ですが」
カリムは報告をしながらも、思い出した様に1人の人物に触れた。
それは、自らの従者であるシャッハの直弟子に当たる人物で、カリム自身も妹の様に接していた相手だったが、カリムの声色は酷く冷たかった。
「例の娘、あそこに派遣したのだったかな」
「ええ、あの子にとっては青天の霹靂だったみたいですね。
告げた時は呆然として居ましたよ」
その時の様子を思い出しながら、カリムはクスリと嗤う。
「ラインハルト様の敵対者でなければ、相応の地位と役割を与えたのですが。
目を掛けて居ただけに残念です」
(後書き)
カリムさんは宗教も相俟って、本作狂信者トップ3の内の1人です。
(残り2人が誰かは言うまでもないため割愛します)
原作ではどうか分かりませんが、本作聖王教会の教皇位は前教皇による指名制ですが、世間的には殆ど世襲制と認識されています。
ちなみに、現在の教皇はトリスメギストスⅧ世です。