魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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(お知らせ)
貫咲賢希様よりイラストを頂きました。
後書きに載せてありますので、是非ご覧下さい。

推奨BGM:"Lohengrin"(dies irae)


60:終わりの始まり ■挿絵あり■

【Side 高町なのは】

 

 

 ゆりかごに突入し、途中で動力炉へと向かうヴィータちゃんと分かれて玉座の間へとやってきた。

 扉の前で待ち構えていた戦闘機人を倒して、扉を開け放つ。

 

「おや、来ましたね」

 

 てっきりスカリエッティか戦闘機人が待ち受けていると思っていた玉座の間には、見慣れぬ長身の金髪の神父さんが居た。

 あまりに場違いな姿に思わず、目を瞬かせてしまった。

 

「貴方は?」

「これは失礼。私はヴァレリア・トリファと申します。

 ご覧の通り、しがない神父ですよ」

 

 こんなところに居る人がただの神父のわけがない。

 そう思って睨み付けると

 

「ふふ、流石に納得はして貰えませんか。

 では、改めて名乗りましょう。

 私は聖槍十三騎士団黒円卓第三位ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリン。

 まぁ、聖餐杯と呼ばれることの方が多いのですがね。

 以後、お見知り置きを」

「なっ!?」

 

 聖槍十三騎士団、聞き覚えのある名前に戦慄が走る。

 10年前のP・T事件や闇の書事件で敵対した集団であり、お姉ちゃんや優介君の敵。

 この人がその1人なの?

 

「ここに居るってことは、スカリエッティの仲間ってことですか?」

「仲間と言うよりは、協力者やスポンサーと言った方が正確でしょう。

 彼の反乱に助力せよと命を受け、資金、資材、技術、情報、人材、様々な面で彼を支援していたのです。

 この場所に居るのもその一環ですよ。

 貴女達から奪還出来なかった聖王の器の代替として、このゆりかごを動かすために」

 

 そう言えば、玉座の間に居るのはこの人1人だけ。

 お姉ちゃんはゆりかごは聖王の血筋でないと起動出来ないと言っていた。

 ならば、この人は聖王の血筋なのだろうか。

 

「貴方は聖王の血を引いているってことですか?」

「いえいえ、私には聖王の血など一滴も流れては居ませんよ。

 貴女達は勘違いされているのです。

 確かに聖王の血筋に適合者が出易い様ですが、だからと言って聖王の血筋でなければ適合者が出ないわけではありません」

 

 つまり、お姉ちゃんが間違っていると言うことか。

 少なくとも、こうしてゆりかごが動いている以上は嘘ではないのだろう。

 

「このゆりかごを動かしているのが貴方なら、今すぐ止めて下さい!」

「それは出来ません」

「なんでですか!?」

 

 レイジングハートを突き付けながらゆりかごを止める様に言うが、気負った様子も無く拒絶され私は思わず叫んでしまった。

 

「確かに私はゆりかごを起動させましたが、操縦しているわけではないのですよ。

 故に、止めることは出来ません」

「じゃあ、誰が操縦しているんですか?」

「クアットロと言う女性です。

 まぁ、貴女がそれを聞いても意味がないと思いますが」

 

 ? 意味がない?

 どういうことだろう?

 

「意味がないって……どういうことですか?」

「貴女はここで私が足止めさせて貰います。

 故に、貴女が彼女が居る所まで進むことはありません」

「!!! そうはいきません!

 貴方を倒して、ゆりかごも止めて見せます!」

 

 私はレイジングハートを構えると、射撃魔法を放つ。

 

「ディバイン・シューター!!!」

 

 30発の誘導弾を生み出すと、10メートル程先に立つ神父に向かって5発ずつ波状攻撃を仕掛ける。

 最初の5発が神父の全身に当たって……………………え?

 神父は何事も無かったかのようにゆっくりと私の方に歩いてくる。

 

「な、何で!?」

 

 非殺傷設定とは言え、衝撃は変わらない。

 射撃魔法が直撃すれば時速100kmの鉄球が当たるのと同じくらいにはダメージがあるはず。

 だと言うのに、目の前の神父は身じろぎすらせずに真っ直ぐに歩いてくる。

 

「こ、この!?」

 

 焦りによって、私は待機させていたシューターを次々に叩き付ける……が、それでも神父は止まらない。

 

「………………………………あ」

 

 そのまま私の目の前まで歩いてきた神父の長身を呆然と見上げながら、私は棒立ち状態になってしまう。

 どうしていいか分からないで固まっていた私に、神父は右の掌を叩きつけてきた。

 

「がっ!?」

 

 胸の辺りに直撃した掌底打ちはまるで車に跳ねられたかの様な衝撃で、私は床と平行に後方に吹き飛ばされて先程通ってきた入口の大扉に叩き付けられた。

 何が起こったのか分からないままに受けたダメージに混乱するが、何とかレイジングハートを支えにして立ち上がる。

 

「げほっ……ごほっ……」

 

 あまりの衝撃に肺から空気を全て吐き出してしまっていた私は、咳き込みながら呼吸を整える。

 幸いにしてバリアジャケットのおかげで骨が折れたりはしていないみたいだけど、それが無ければ先程の攻撃だけで死んでいたかもしれない。

 呼吸を整えながら神父を見るが、彼は先程まで私が立っていた辺りに動かずにこちらの様子を見ている。

 正直助かったと思う。

 あのまま追撃されていたら何も出来ずにただ殴られ続け、すぐに殺されてしまっただろう。

 追撃をしてこなかったのは、先程彼が口にした通り「足止め」だからだろう。

 

 そして、先程の攻防だけで真っ向からぶつかったらとても勝てる相手ではないことは痛感した。

 こちらの攻撃は何故か効かないし、神父の攻撃は当たり所が悪ければ即死する威力だ。

 だったら……

 

「ディバイィィィン……」

 

 私はレイジングハートを神父に向けると、魔力を集中しスフィアを形成し始める。

 向こうが積極的に攻めて来ないのであれば、なるべく強い攻撃をするべきだ。

 私が一番得意な砲撃魔法……シューターが効かなくてもこれだったら!

 あからさまな攻撃の姿勢を見せても、神父は動じる様子は無い。

 それならそれで、好都合!

 

「バスターーーーー!!!」

 

 円形のスフィアから桃色の光が放たれ、神父に向かって襲い掛かる。

 直径1メートルを超える砲撃は神父の胴体に直撃し、そのまま彼を後方に吹き飛ばし………………え?

 私はその信じ難い光景に、ディバインバスターを放ちながら硬直する。

 後ろに吹き飛ばされたと思った神父だが、2~3メートル程後ろにずり下がった辺りで留まったのだ。

 

「くっ!?」

 

 私はカートリッジをロードして、魔力を更にバスターに注ぎ込む。

 桃色の光が勢いを増して神父に襲い掛かる……が、彼は吹き飛ばされるどころか、逆にディバインバスターの直撃を受けながらゆっくりと前に歩き出した。

 私はその様に戦慄し、慌てて更にカートリッジをロードし続ける。

 

 終わりはあっけなかった。

 ガチッと言う音と共に供給され続けていた魔力が止まり、既に自分自身が一度にリンカーコアから放てる魔力を使い果たしていた私は砲撃魔法を維持出来ずに霧散させてしまう。

 冷静さを失ってロードし続けた為、カートリッジをあっと言う間に使い切ってしまったのだ。

 そして、押し合っていたディバインバスターが止まったことで何の障害も無くなった神父は私の前へと足を進めてきた。

 再び放たれる掌底は左頬を真横から打ち抜いた。

 

「────────っ!!!」

 

 首がもげるかと思う激痛に声も上げることも出来ずに私は床に崩れ落ちた。

 限界まで魔力を振り絞った上にカートリッジを一度にフルロードなんて無茶をしたおかげで、リンカーコアも限界に達しておりとてもこれ以上は戦えそうになかった。

 

「ここまでの様ですね」

 

 倒れ伏す私を見下ろしながら神父が発した言葉を、私は朦朧とする意識の中で辛うじて聞き取れた。

 左頬の激痛と、それを上回る嘔吐感にコンディションは最悪の状態だ。

 攻撃を受けたのは顔だが、あまりの衝撃に脳震盪を起こしているみたいだ。

 左頬も多分頬骨を折られている……酷い顔になっているだろうから今は鏡を見たくない。

 現実逃避にそんなことを考えている間に、神父は複数のモニタを表示しだす。

 映し出されているのは、ゆりかご内の各所と外の映像だった。

 倒れたまま、映し出された映像に目を向ける。

 

 ヴィータちゃんと一緒にはやてちゃんが映っている、あちこち傷付いているけど取り合えず無事みたいだ。

 彼女達の向こうに崩壊した動力炉も見えた。

 どうやら、あっちは成功したみたい、良かった。

 

 別のモニタに眼鏡を掛けた女性がモニタに向かって操作している姿も見えた。

 彼女がゆりかごを操縦しているというクアットロだろうか。

 何故か鬼気迫る表情で猛烈な勢いでタイピングしている。

 

 3つ目と4つ目の映像を見て、先程の戦闘機人と思しき女性が真剣な表情だった理由が理解出来た。

 3つ目の映像に映っていたのは宇宙空間、そして4つ目の映像には5隻の次元航空艦の姿が見て取れた。

 お姉ちゃんの話では聖王のゆりかごは軌道上で2つの月の魔力を受信することで次元跳躍攻撃すら可能になるらしい。

 宇宙空間が映っている以上、もうその寸前まで近付いているのだろう。

 一方で、本局の艦隊がゆりかごの迎撃のために向かってきている。

 ゆりかごがその真の力を発揮するのとクロノ君達との邂逅は恐らく殆ど同時になりそうだ。

 

 そこまで気付いた時、私は脳震盪による吐き気すら忘れるほどの焦燥に駆られた。

 ゆりかごが軌道上に到達すれば一刻の猶予もない、到着した艦隊は即座にアルカンシェルで抹消に掛かるだろう。

 中に居る私達の脱出を待つ余裕なんてそこには無い。

 ミッドチルダと周辺世界の全住民の命が掛かっているのだから、それは当然だと思うけれど、このままここに居たら確実に私もはやてちゃん達も……。

 

「そろそろ潮時ですね……」

「……え?」

 

 神父はそういうと、私を抱き上げた。

 

「な、何を!?」

 

 男の人に抱き抱えられて、思わず顔を赤くして抵抗する。

 

「このままここに居るとゆりかご諸共消されてしまいますからね、脱出することにします」

 

 そう言うと、神父の足元に金色の魔力光で三角の魔法陣が形成される。

 AMFの影響下で信じられないけれど、転送魔法みたいだ。

 

「な、待って下さい。

 中にはまだヴィータちゃんとはやてちゃんが!」

「一応、彼女達にも念話で逃げる様には伝えてますよ。

 間に合うかどうかは微妙なところですけどね」

 

 一瞬、転送魔法独特の浮遊感を感じたと思ったら、次の瞬間には地上に居た。

 遠くにクラナガンの街が見えるところを見ると、ミッドチルダみたいだ。

 

 地面に下ろされた私は、傍に立つ金髪の神父を見上げた。

 はやてちゃん達のことは気になるけれど、今の私は立ち上がることすら満足に出来ない。

 悔しいけれど、無事に脱出してくれることを祈ることしか出来ない。

 

「どうして、私を助けてくれたんですか?」

 

 殆ど身動き取れなかった私は放置されれば確実に死んでいただろう。

 敵である筈の彼が何故助けてくれたのか気になって質問するが、彼は少し困った様な表情で答えを口にする。

 

「生憎、私はそうする様に命令されただけですので、その質問にはお答えできません」

 

 そう言うと、神父は私を地面に放置したまま立ち去ろうとする。

 私は慌てて彼を制止しようとする。

 

「ま、待って下さい!

 話はまだ……っ!」

 

 しかし、私の制止は受け入れられることはなく、彼の足元に再び魔法陣が形成される。

 今度は短距離転送ではなく長距離次元転送の様だ。

 

「近い内にまたお会いすることになるでしょう。

 尤も、それは貴女達に絶望を齎すことに他なりませんが」

 

 その不吉な宣告と共に、神父は振り返らないままその姿を消した。

 

 

 そしてその数分後、空で光が弾けた。

 

 

【Side out】

 

 

 ヴェヴェルスブルグ城の玉座の間、黄金の獣が眼下を見下ろす。

 そこには黒位の軍服を纏った者達が整列していた。

 偽槍を持った骸が、

 代行である邪なる聖人が、

 白髪の吸血鬼が、

 凛々しき戦乙女とその後継が、

 死に場所を求める黒騎士が、

 幼げな魔女が、

 絶対なる忠誠を誓う赤騎士が、

 紅き蜘蛛が、

 妖艶なる大淫婦が、

 狂気と狂喜に満ちた白騎士が、

 主の言葉を待っていた。

 

「待たせたな、我が爪牙達よ。

 それでは始めるとしよう、怒りの日を」

 

「「「「「「「「「「「ジークハイル!!」」」」」」」」」」」

 

 髑髏の軍勢がその侵攻を開始する。




(後書き)
「Strikers編」改め「嵐の前の静けさ編」は以上で完、次話から終章「黒円卓編」に入ります。
 この作品も終わりが近付いてきました。

 ところで話が変わりますが、「49:集結、機動六課」の後書きで機動六課のメンバーについて原作との差異を挙げたかと思います。
 結局Strikers編の中で誰からも↓のツッコミが無かったことが私は不思議です。
 「ヴァイスも居ないぞ!」ε=ε=ε=(#`・д・)/


貫咲賢希様よりイラストを頂きました。
話の展開とはあまり関係ないですが、ここを逃すと機会が無くなりそうなので、ここで掲載させて頂きます。
グラズヘイムに招かれた2人のその後を想像して下さい。

<リジェ・オペル>

【挿絵表示】

<リジェ&セアト>
多分『城』でイチャイチャしてたら中尉かシュライバーが突っ込んできた状況。

【挿絵表示】

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