作品を越えてぶつかる以上、各々の強さの見立てについて万人が納得いく形にするのは難しいとは思いますが、出来るだけ違和感のない様に書ければと思います。
余談ですが、以降の推奨BGMはdies iraeオンリーです。
推奨BGM:Gotterdammerung(dies irae)
61:怒りの日
【Side 高町まどか】
J・S事件の収束から3日、私は担ぎ込まれた病院から退院するとその足で機動六課の隊舎へと向かっていた。
散々殴られ蹴られボロボロだったけれど骨や内臓に損傷が無かった為、治癒魔法の効果もあって傷の大きさの割には早く動けるようになった。
ちなみに、一番負傷が酷かったのが私で次がなのは、後のみんなは入院するほどの傷は負っていなかった。
事件は解決したものの、問題は多かった。
何れの戦場にも聖槍十三騎士団の騎士団員が姿を見せ、しかし本格的な戦いには至らずに近い内に動くことを仄めかしながら立ち去った。
また、私と優介が戦っていた相手である2人の転生者は赤騎士に殺された。
軌道上に到達した聖王のゆりかごは2つの月の魔力を受けてその本領を発揮し、最終的にゆりかごは駆け付けた本局の次元航行艦によってアルカンシェルで消滅させられたが、その際に5隻居た内の3隻を道連れにしたそうだ。クロノのクラウディアも撃沈は免れたものの損傷が大きく、ミッドチルダで処置を行っている。
なのはとはやてとヴィータはアルカンシェルによる砲撃の前に何とか脱出出来たが、ゆりかごに居たと言う戦闘機人2人──話を聞く限りはクアットロとディエチ──はゆりかごと共に消滅した。
地上本部の被害は少なく、正史では暗殺されたレジアス中将も事前にシグナムにドゥーエのことを知らせておいたために暗殺を防ぐことが出来、ゼスト・グランガイツとも和解したそうだ。
しかし、レジアス中将とスカリエッティに繋がりがあった事が噂として漏れ出しており、地上本部は少なからず混乱している。
また、最高評議会の3名は正史の通りに暗殺された為、本局側も介入出来る状態ではない。
上層部が後始末に奔走している状況で、部隊長であるはやても傷の手当てもそこそこに走り回っている状況だったが、私の退院を切っ掛けに機動六課の主要メンバー全員を招集した。
集めた理由は聖槍十三騎士団への対策について。
3つの戦場で姿を見せ、動き出したことを明らかにした彼等に対してどうやって対抗するか、話し合うためだ。
私が指定された会議室に着くと、そこには既に他のメンバーが集まっていた。
「まどかちゃんも来たし、予定の時間まで2分あるけど始めよか。
みんなに集まって貰ったのは、スカリエッティの起こした騒動で姿を見せた彼らに対する対策を話し合うためや」
はやてがそう言いながらキーを操作すると、幾つかのモニタが立ち上がり映像を映し出した。
スカリエッティのアジトに姿を見せたと言うルサルカ・シュベーゲリンとヴィルヘルム・エーレンブルグ。
私達と転生者が戦った場所に姿を現し彼等を殺したエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ。
ゆりかごの中で待ち受けていたヴァレリア・トリファと櫻井螢。
「事情を知らん人もおるし、話し合う前にまずは彼らのことについて説明せなあかんな。
まどかちゃん、頼めるか?」
「分かったわ、もう隠す意味もないしね」
10年前からの付き合いである隊長陣やクロノは兎も角、フォワードメンバーには『ラグナロク』の事を話していない。
聖槍十三騎士団について話し合う為には、まずはそこから話す必要があるだろう。
これまでは未来の知識を隠すために必要最小限の相手にしか話して居なかったが、J・S事件が収束した以上は隠す必要もなくなった。
そして私は『ラグナロク』と転生者、そして聖槍十三騎士団のことについて10年前の事件も交えて話した。
「そんなことが……」
流石に初めて聞く人達は信じられない様な表情をしている。
中でも、ギンガやティアナ、ルーテシアの表情は険しい。
結果論とは言え、彼女達からすれば私達は保身のために彼女達の身内を見殺しにしたと思われても仕方ないのだから無理もないかも知れない。
しかし、彼女達は複雑そうな表情をしながらも何も言わなかった。
私は彼女達から、はやての方に目を向ける。
「そう言えば、六課の後見人には何処まで伝わっているの?
クロノは勿論知っているしカリムに対してもこの前説明したけど、もう1人居るんでしょ。
リミッター解除のこととか考えると、味方に引き込んでおいた方が良いかと思うんだけど」
海鳴出張の際のゴタゴタでカリムの持つリミッター解除権限が抹消され、クロノの持つ権限はこの前のスカリエッティとの最終決戦で使用した。
残りは最後の後見人の持つ権限なのだが、名前すら聞いていない。
クロノやカリムと異なり身内ではなく数合わせとして後見人に名を連ねて貰っただけの人物であり、リミッター解除権限も気軽には頼めないと聞いている。
元々リミッター解除権限とは部隊の人員が損なった場合に補充が為されるまでの穴埋めとして使われるものだ。
リミッターを掛けて保有ランク制限を誤魔化し戦闘時に解除等という使い方を想定したものではない為、身内で口裏を合わせられる相手でなければ気軽に頼むことが出来ないのは当然だ。
しかし、このままではただでさえ強力な聖槍十三騎士団とリミッター付きのままで戦う羽目になってしまう。
何とか頼み込むしかないだろう。
「シュピーネ少将には何も話しとらんよ。
正直味方に引き込みたい人やないんやけど……この場合は背に腹は代えられんな」
待って、今はやては何て言った?
「シュピーネ少将?」
「ん? そう言えば名前言っとらんかったか。
ロート・シュピーネ少将、機動六課の3人目の後見人や」
バッと優介の方を振り向く。
優介も唖然としていたけれど、私と目が合って険しい顔で頷いてきた。
はやて達には伝えていなかったけれど、私は優介から聖槍十三騎士団の騎士団員の名前と外見、そして能力を聞いている。きちんと記憶できる様に何度も確認した。
ロート・シュピーネ?
同姓同名の別人でなければそれは……。
「はやて! その人は──」
問い詰めようと声を上げた所で、突然アラートが鳴り始める。
「なんや、何が起こった!?」
みんなが驚愕する中で、いち早くはやてが通信でオペレータに問い合わせる。
モニタに慌てるシャーリーの姿が映り、半ば叫ぶ様な形で報告を始める。
『八神部隊長! クラナガンの各所で突然次元干渉型のロストロギアの反応が発生しました。
反応があるのは全部で7ヶ所。
既に小規模な次元震が発生しています!!』
「ミッドチルダでロストロギア反応やて!?
しかも次元震を引き起こす様なもんが……。
シャーリー、これからそっちに行くからサーチャーを飛ばして発生源の情報集めといてや!」
『了解しました!』
通信を閉じると、はやては険しい表情のまま私達の方に振り返り号令を掛ける。
「悪いけれど、話は後や。
急いで発令所に向かうで。
各分隊はそのまま出動して貰う可能性が高いから、準備を!」
「「「「「「はい!」」」」」
私達は焦燥感と共に会議室から走って発令所に向かった。
「状況は!?」
発令所に入るなり、はやてがオペレータ達に向かって声を発する。
シャーリーを始めとするオペレータ達は凄い速さでキーを叩き、複数のモニタが目まぐるしく立ち上がりは消えていく。
「クラナガンの各所でロストロギア反応が発生しています!
場所は表示している7ヶ所です」
モニタに巨大なクラナガンの地図が表示され、正方形の頂点と中点に一角欠ける形で計7ヶ所の光点が映し出される。
「発生源の情報は!?」
「今、映像出ます!」
はやての問い掛けにシャーリーが答えるのと同時に、7ヶ所の光点のそれぞれに対してウィンドウが開き現場の状況を映し出した。
そこには、映っている人物は異なれど、全く同じ光景があった。
何度も見た黒い軍服のようなバリアジャケットを纏った聖槍十三騎士団の騎士団員達が中空に浮かぶ蒼い宝石に手を翳し、その宝石は映像越しにも分かる程の魔力を放っている。
「何やあれ────えっ?」
「あれは、ジュエルシード!?」
「聖槍十三騎士団……先手を打たれたか!」
「……………………………………姉……さん?」
かつて見たジュエルシードを使って次元震を引き起こしている聖槍十三騎士団の団員達の姿に、みんな驚愕して声を上げる。
しかし、そんな中で違った声を上げた人物が2人。
「なんで……なんでシュピーネ少将が居るんや!?」
はやてが凝視していたのは7つの小ウィンドウの中の1つ、そこには黒髪に細長い手足をした爬虫類の様な男性が居た。
当然のことながら、聖槍十三騎士団の軍服を纏っている。
先程、問い詰めようとしたことはどうやら正しかったようだ。
聖槍十三騎士団の1人、ロート・シュピーネ。
何故機動六課の後見人になっていたのかは知らないが、管理局に潜り込んでスパイをしていたのだろう。
『おや、お久しぶりですね。親愛なるお嬢さん』
「なんで、なんでアンタがそんなところに居るんや!シュピーネ少将!」
『ふむ、この格好は初めてお見せしますし、改めて名乗らせて頂きましょう。
わたくしはシュピーネ、聖槍十三騎士団黒円卓第十位ロート・シュピーネ。
以後、お見知り置きを』
「そんな………………」
こちらのサーチャーに気付いたのか、シュピーネは画面越しにこちらを向いて話し掛けてきた。
はやてはショックで黙り込む。
それにしてもこれは拙い。
先程の話では管理局に潜入していたシュピーネは機動六課の後見人でもあり、私達のリミッター解除の権限を握っている。
勿論、スパイであることが発覚した以上はその権限についても遠からず抹消されるだろうが、権限を他の人間に移す為には手続きが必要だ。
この場ですぐに出来ることではない。
彼が敵であった以上リミッター解除の依頼など出来る筈もなく、このままでは私達はリミッター付きのままで彼等に対抗しなくてはならない。
『もうお気付きかと思いますが、私は陛下の命で管理局に潜入していたのですよ。
貴女達機動六課の後見人になったのも、陛下の指示によるものです』
「何でや、リミッター解除の権限を握る為なんか!?」
機動六課の後見人になる理由、確かに情報かそれくらいしか思い付かない。
事実、私達はそれによって封殺に近い状態に追い遣られている。
最初からこうすることを狙って行動していたのなら、私達はずっと彼らの掌の上で踊っていたことに……。
『成程、そう言えばリミッター解除権限は既に私の持つものしか残っていないのでしたね』
ニタリと言う笑みを浮かべながら納得した様に頷くシュピーネに、はやての顔が盛大に引き攣る。
どの道どうしようも無いこととはいえ、こちらの苦境が相手に知られてしまった。
『私がリミッター解除を行わないと貴女達は非常に困るわけですね。
さて、どうしたものか……』
シュピーネが見ているのはサーチャーでありこちらの様子までは見えていない筈だが、全身を舐め回される様な視線を錯覚し鳥肌が立った。
他の女性陣も同じ様に反応し、身体を庇うように自らの手で抱き締めている。
生理的に受け付けられない気持ちの悪さを感じながら、私は思考を進める。
確かに、リミッターを握られてしまっている以上は何とかして解除させないと戦いにすらならない。
今の様子を見る限りは交渉の余地がないわけでもなさそうだが……何を要求されることか。
はやての方の様子を窺うと同じ結論に至ったのか、嫌悪感と……決意?
まさか……。
「せやったら、リミッター解除の条件に──」
『何をしている、シュピーネ』
待ちなさい!とはやてを止めようとした私の機先を制するように、シュピーネの前にモニタが表示される。
『ザ、ザミエル卿!?』
モニタに映っていたのは、ついこの間会った赤騎士。
エレオノーレに睨みつけられたシュピーネは先程までのふてぶてしい態度からうって変わって情けない程に怯えている。
『……まぁいい。
それよりも御命令だ。
機動六課なる者達のリミッターを完全解除させよ』
『な!?
何故です、わざわざ敵を強くする様なことを……!』
シュピーネも驚愕しているが、サーチャー越しに音声を聞いていた私達も唖然としてしまった。
折角握っている機動六課のリミッター解除と言うカードを捨てる様な所業、一体何を考えているのか想像も付かない。
『貴様が気にするところではない。
命が下った以上、速やかに遂行しろ』
『は、はぃぃぃぃ!!!!』
悲鳴の様な返事をすると、シュピーネは魔法陣を作り出した。
次の瞬間、私の中で何かが外れた様な感覚と共に、抑え付けられていた魔力が噴き出すのを感じた。
本当に、嘘ではなく本当にリミッターを解除したらしい。
『解除しました!』
『ああ、それでいい。
さて、機動六課の者達よ。
これより、我等が首領にして皇帝たる偉大なるハガルの君が降臨される。
伏して出迎えるがいい』
今、彼女は何と言った?
彼女等の首領──ラインハルト・ハイドリヒが降臨?
私の脳裏に唐突にカリムの預言が思い起こされた。
4年前の空港火災、そしてその際に起こったジュエルシードと思しきロストロギアの暴走により跡地には原因不明の魔力汚染が発生し、今でも隔離閉鎖されている。
10年前、奪われたジュエルシードは8つ……空港火災の時に暴走した1つと今回の7つで数は合う。
目の前に大きく映し出されたクラナガンの地図上の7つの光点……先程正方形の頂点と中点に1角足りないと思った。
なら残る1角は……………………やっぱり、あの空港!?
正方形の頂点と中点の8ヶ所、次元干渉型のロストロギア、原因不明の魔力汚染……。
確か、聖槍十三騎士団について優介から説明を受けた時に合わせて聞いた、ラインハルト・ハイドリヒが現世に干渉するための条件。
鉤十字を為す8ヶ所にて大量の人間の魂を吸い発生する魔法陣──
「まさか……そんな方法でスワスチカを!?」
唐突に声を上げた私にみんなの視線が集中する。
唯一それを知る優介はハッと気付いた様な表情をしているが、事情を知らない他の面々は怪訝そうな顔をしている。
しかし、私はそこに構っている余裕は無かった。
私の予想が間違っていなければ、これから大変なことが……。
『
何処からともなく、声が聞こえてきた。
何処までも澄んだ少年の声が。
『
それは呪文の詠唱の様だった。
この世界の魔法は科学の延長線上であり、そういった行為は精神集中のためのものでしかない。
しかし、今行われているのは本当の意味での魔法……奇跡の御業だ。
『
私はこの詠唱の意味が分からない……しかし、最悪の予想しか出来ない。
『
詠唱が……終わる。
その瞬間、世界が悲鳴を上げた。
【Side out】
クラナガンに刻まれた鉤十字の中央、地上本部ビルの正面にそれは唐突に現れた。
この街で最も巨大な建造物である地上本部ビルを遥かに超える巨大な建物。
それは……城だった。
聖槍十三騎士団の居城にして、ラインハルト・ハイドリヒに飲み干された数多の魂で築き上げられた髑髏の城──ヴェヴェルスブルグ城。
この城が姿を現した以上、その玉座に座るのはただ1人。
ガレア帝国皇帝にして聖槍十三騎士団の首領……ラインハルト・ハイドリヒ。
怒りの日が、そして『ラグナロク』の最後の戦いが幕を上げた。
(後書き)
獣殿が黄金錬成で復活するわけではなく、空間に楔を作って虚数空間内の「城」を現界させるだけなので、詠唱は「不死創造する生贄祭壇」ではなく「黄金冠す第五宇宙」にしました。
平団員(+α)はクラナガン地上で疑似スワスチカ(ジュエルシード)を護って防衛線、獣殿と大隊長はクラナガン上空に展開した『城』で待ち構えます。