魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Dies irae "Mephistopheles"(dies irae)


64:修羅道至高天

「……ごめん、まどか」

「フェイト!?」

 

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは黄金の獣を選んだ。

 制止しようとするまどかの声を背に段上へと足を進め、ラインハルトの目の前に立ち、彼の顔を正面から見据える。

 

「貴方は私を愛してくれますか?」

「勿論だとも──」

 

 その言葉に微笑むと差し出された彼の左手に手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私は総てを愛している」

「………………………………え?」

 

 

 

 

 フェイトがポツリと疑問の声を上げたのは彼の言葉に対してか、それとも自身の胸に突き刺さった槍を見てか。

 ラインハルトの右手にいつの間にか握られていた黄金の聖槍はフェイトの心臓を貫いていた。

 

「!? フェイト!」

 

 フェイトは一言も発することなく絶命し、力を失ったその身体は前へと倒れ込む。

 ラインハルトはフェイトの身体を優しく受け止め片腕で抱き抱えた。

 

「我が内にて家族と共に永遠を歩むがいい」

「っ!! あああああぁぁぁーーー!!!

 ライジングソウル!!」

 

 その言葉に、まどかは絶叫しライジングソウルをバスタードモードに変化させると、わき目も振らずにラインハルトへと切り掛かった。

 ガキッという音と共に、全身の体重を乗せて放たれた袈裟切りは聖槍にあっけなく受け止められる。

 

「時間稼ぎはもう終わりかね?

 ふむ、あちらも概ね片が付いたようだ。約定も済んだと見做してよいな」

「がっ!?」

 

 そう言うと、ラインハルトは軽々と右腕を振るった。

 全力で鍔迫り合いをしていたまどかは、まるでボールの様に跳ね飛ばされ床に叩き付けられる。

 

「痛……え? きゃあああぁぁぁぁぁーーーー!?」

 

 床に叩き付けられたまどかに対して、その全身に無数の骸骨が纏わりつく。

 まどかは悲鳴を上げながら、魔力を放出し纏わりついた髑髏の軍勢を吹き飛ばし、飛行魔法で宙へと避難する。

 このヴェヴェルスブルグ城はラインハルト・ハイドリヒに喰われた死者で築かれた屍の城。

 知識としては知っていても、それを実感する恐怖は凄まじい。

 加えて、状況も不利だ。

 圧倒的に格上の相手に一対一の上、壁も床も全てが敵。

 いわば、ラインハルトの体内に居る様な状態だ。

 

 追い打ちを警戒してラインハルトを見るが、彼は右手に展開したモニタを注視していた。

 彼への警戒はそのままにモニタを横目で見たまどかは、そこに映る映像に驚愕する。

 

「なのは!?」

 

 1つ目のモニタには大火傷を負って倒れ伏すなのはの姿があった。

 今は息がある様だが、あれだけの傷を負ってはその命も時間の問題であるのは明らかだった。

 一緒に居る筈の優介の姿は見えず、勝者である赤騎士が瀕死のなのはを少し離れた場所から見下ろしていた。

 

「はやて!!」

 

 2つ目のモニタには襤褸雑巾の様に引き裂かれたはやてを抱えるリインフォースと、それを庇う様に立つ血塗れのザフィーラが映っていた。

 リインフォースは必死にはやてに治癒魔法を使うが、元々得意でない分野の魔法であることもあり血を止めることも出来ていない。

 その間にも盾となって2人を庇うザフィーラは次々と傷を負っていき、立っているのがやっとの状態だ。

 3人の命は尽きようとしていた。

 

「シグナム達まで!!」

 

 3つ目のモニタを見た時には、勝敗は既に決していた。

 黒騎士の幕引きの一撃がシグナムに突き刺さり、プログラム体である彼女は死体を残すことなく消滅した。

 ヴィータの姿は映っていない……おそらく既に消滅させられたのだろう。

 残るのはシャマルだけだが、後衛である彼女1人で対抗出来るわけもない。

 

「ここまでの様だな。

 少々興醒めな結末であったが、幕を引くとしよう」

 

 そう言うと、ラインハルトは座ったまま右手に持った聖槍を宙に浮いているまどかへと投げ付ける。

 聖槍は一直線にまどかへと飛び、反射的に盾にしたデバイスを一瞬で砕くとその胸へと突き刺さった。

 意識が一瞬で消し飛び、まどかの身体はその勢いのまま壁面へと叩き付けられる。

 叩き付けられた周囲の壁から骸骨の手が彼女の身体を覆い尽くす。

 一瞬にして彼女の姿は白骨に覆われて見えなくなり、やがてそれらの手も元の壁面へと戻っていく。

 壁面が元通りになった時にはまどかの姿は無く、ただ聖槍だけがそこに突き刺さっていた。

 

「さあ、始めるとしよう」

 

 その様子を見届けることもなく、ラインハルトは玉座から立ち上がると段を下り部屋の中央に立つ。

 先程まで壁面に突き刺さっていた聖槍はいつの間にかラインハルトの手の中に戻り、彼は槍を横に構えると朗々と詠い上げる。

 

 

 

 

 怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し(Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla.)

 ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る(Teste David cum Sybilla.)

 

 たとえどれほどの戦慄が(Quantus tremor est futurus,)待ち受けようとも(Quando judex)審判者が来たり(est venturus,)

 厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える(Cuncta stricte discussurus.)

 

 我が総軍に響き渡れ(Tube, mirum spargens sonum) 妙なる調べ 開戦の号砲よ(Per sepulcra regionum,)

 皆すべからく 玉座の下に集うべし(Coget omnes ante thronum.)

 

 彼の日 涙と罪の裁きを(Lacrimosa dies illa,) 卿ら 灰より蘇らん(Qua resurget ex favilla)

 されば天主よ その時彼らを許したまえ(Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus.)

 慈悲深き者よ 今永遠の死を与える(Pie Jesu Domine, dona eis requiem.) エィメン(Amen.)

 

 流出(Atziluth──)

 混沌より溢れよ怒りの日(Du-sollst──Dies irae)

 

 

 

 

 

 

 

 嘗ての世界のベルリンで飲み込まれた死者が──

 

 

 

 

 

 

 

 座を巡る戦いで傘下に加わった死者が──

 

 

 

 

 

 

 

 この世界のベルカを始めとする戦場で喰い尽くされた死者が──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──溢れ出した。

 ミッドチルダで溢れ出した死者の軍勢は生者を襲い、軍勢へと加えていく。

 無限に広がるレギオンは次元の壁すら超え、管理世界も管理外世界も関係なく等しく黄金の獣の支配下とする。

 たった数日で数多ある世界の総てがラインハルト・ハイドリヒの内に囚われた時、彼は自然と「座」に座っていた。

 

「お見事、獣殿」

「カールか。こんなところまで来られるとは、流石だな」

 

「座」に座る黄金の獣に対して、メルクリウスがいつもの様に背後から話し掛ける。

 

「座には本来複数の者は居れないがね、今の私は獣殿の一部と言う扱いだ。

 それでも、他の者ではこの場所で個を保つことは難しいだろうがね」

「かつて長きに渡り座に居た卿ならばこそか。

 それで、何か用か?」

「いや、目的を果たした獣殿はこれからどうするつもりなのかと気になってね」

 

 友の言葉に、ラインハルトは微笑みながら答える。

 

「これまでのヴェヴェルスブルグ城と何も変わらん。

 私のグラズヘイムでエインフェリア達は戦い殺し合い、死してなお蘇りまた永劫の闘争を繰り返す。

 来たる真なるラグナロクに向けて」

「挑むつもりかね、彼等に」

「無論だ。

 私の愛は破壊である。ゆえにそれしか知らぬし、それしか出来ぬ。そしてそれこそ我が覇道なり。

 土台戦争──単体では成立せぬ概念よ。ならばこそ敵を 求めるゆえに部下を 愛し、率いて、壊すのみ」

「お供しよう、何処までも」

 

 

 

 

 

 

 Good End 「修羅道至高天」

 




(後書きに代えて「教えてカリオストロ」)

黄昏「ねぇ、カリオストロ」
水銀「何かな、マルグリット」
黄昏「どうして……貴方がここに居るの?」
水銀「無論、君が居るからだよ。
   君が居る所なら私は何処からでも推参しよう」
黄昏「……来なくていいのに」

黄昏「来ちゃったのは仕方ないから、せめてちゃんと役割を果たして」
水銀「ふむ、君に言われてしまっては仕方ない。
   ならば説明役の責務を果たすとしよう。
   何なりと聞いてくれたまえ、私の女神よ」
黄昏「じゃあ、最初の質問。
   どうして、これがGood Endなの?」
水銀「ふむ、この物語は獣殿が主人公だからだよ。
   我が友の視点から見ればこれは紛れもなくGood Endと言えよう。
   まぁ、Happy Endとは言えないかも知れんがね」

黄昏「次の質問、どうしてこうなっちゃったの?」
水銀「運命の少女が彼の手を取ってしまったことだね。
   あの時点でこの結末が確定したと言えよう」
黄昏「手を取っちゃダメなの?」
水銀「獣殿は総てを平等に愛しているがね、同時にその性質から敵対者の気概こそを好むのだよ。
   彼にとって特別になりたいのなら彼の手を安易に取ってはいけない。
   それでは、そこらの有象無象と同じ扱いだ」

黄昏「これで終わりなの?」
水銀「真逆(まさか)、それでは誰も納得出来まい。
   無論、私もまた同じ。
   こんな結末は認めない、やり直したい」
黄昏「だったら……」
水銀「そうだとも、やり直させて貰おう。
   尤も、やり直した先はBad Endだがね」
黄昏「え?」

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