ベルカ世界の崩壊と共に、主要国家はそれぞれの植民世界へ遷都を敢行し、そこを主世界として複数の世界を統べるといった形態を採った。
唐突な移転は当然ながら各国家に大きな混乱を齎したが、皮肉にもその混乱故に国家間や世界間の戦争が行われることはなく、一時的とは言え次元世界規模で言えば平和な時が訪れていた。
各国家が安定するまでの間、最も警戒されたのは当然の如くベルカ世界崩壊の元凶であるガレア帝国だった。
自身が原因である故に、最も混乱少なく遷都を終えたガレア帝国。各国の混乱が収まらない内に彼の国が侵攻を開始すれば、然したる苦も無く次元世界は統一が果たされていただろう。
しかし、各国の予想を裏切る形でガレア帝国は大規模な侵攻を行うことなく、沈黙を保っていた。
時折、聖槍十三騎士団の内の数人が周辺世界に散発的な攻撃を仕掛けることはあったが国家として対外的な行動を一切しないその様に、各国は不気味さを感じるとともに態勢を整えることを急いだ。
そして、10年程が経過するとそれぞれの世界も安定し、余所へと目を向ける余裕が出て来る。
新たな火種が生まれたのはそんな時。切っ掛けが何であったかは最早不明だが、2つの世界間で始まった戦争は他の世界にあっという間に広まり、一時停止していた戦乱の時が再びその針を進め始めた。
再び始まった戦乱は以前のそれと異なり世界を跨いだものとなっていた。
各国がそれぞれ別の世界に拠点を構えているのだから、それも当然と言えよう。
本来であれば別の世界で生きる者達なのだから争う理由は無い筈だが、人の欲と憎悪は次元を隔てても抑えることが出来なかった。
戦場の規模が段違いに肥大化した戦乱は終焉を迎える気配も無く、長きに渡って続いた。
戦乱が収まらない要因は幾つかあったが、その1つに件の国──ガレア帝国の影があった。
2国が争うに当たって全くの互角ということは稀であり当然ながら優劣は現れる。
ガレア帝国はその内の不利な方に対し、資金、資源、武器、兵器、それらの提供から相手国への聖槍十三騎士団の襲撃まで様々な支援を行ったのだ。
弱きを助け強きを挫く、と言えば聞こえは良いが各国の有識者はその行動に途方もない悪意を感じていた。
つまりは、戦乱の長期化を狙ってのバランス調整であると。
それが真実であるか否かは誰にも分からなかったが。
数百年に渡って延々と続く戦乱。
国家と言う個人の意志が届かぬそれによって続けられるそれを忌むものも数多く、戦乱に終焉を齎すために様々な者達がその力や知識を以ってそれを試みた。
それは強い力や兵器で敵国を壊滅させることによって戦乱を終わらせるというものであったが、多くの場合において逆に戦乱をより激化させる要素になっていた。
繰り返される愚行の中、争う各国の間でも抜きん出た国である聖王連合は1つの決断を下す。
聖王のゆりかご。
それは聖王連合に伝わる切り札であり、次元空間内ですら戦闘を可能とする巨大な次元航行艦である。
強大な戦闘力を有しているがその使用条件は厳しく、魔力の強い適合者を玉座の王として半ば生贄に等しい状態にするという非人道的なシステムとなっている。
しかし、延々と続く戦乱の中ではそれを否と言う倫理は容易く撥ね退けられ、聖王連合はゆりかごの起動を決定する。
玉座の王として選ばれたのは生まれた当初は魔力値が基準に達していないとして隣接国家へと留学と言う名の人質として出されていた王女だった。
玉座の王となったものはゆりかごの玉座で自我もなくゆりかごを操縦する鍵となる。
死んだも同然の状態になることを求められても、その王女──オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはそれが戦乱の終焉に繋がるのであればと自主的にそれを受け入れる。
止めようとする幼馴染と訣別し、自身の生まれた場所でもあるゆりかごへと立ち戻ったオリヴィエだが、玉座の間へと入ると同時に背後から強打され意識を失った。
【Side オリヴィエ】
「………………………………ん……」
黒く染まっていた意識が覚醒する。
目を醒ましたらいつも通り侍女を呼び、就寝中は外している義手を付けて貰わなければならない。
そう思って目を開けようとした時、頬に触れるものの硬さに大きな違和感を感じた。
そこにはお気に入りの柔らかい枕に載せている感覚はなく、ただ硬さのみを感じる。いや、顔だけではなく身体全体が普段寝ているベッドではなくまるで床に直接突っ伏している様な……!?
そこまで考えて、唐突に意識が覚醒する。
そうだ、私はゆりかごの玉座の王としてこの身を捧げる為に本国に戻りゆりかごへと帰還した筈。
しかし、ゆりかご内の玉座の間に入った直後、背後からの衝撃に意識を失った。
一体何が……?
そう思い、目を開けてうつ伏せの状態から身体を起こそうとして義手が無いことに気付く。
玉座の間に入った時には確かに身に付けていた筈の義手が無いことに猛烈な危機感を感じつつ、仕方がないので身体の反動で身を起そうと背筋に力を込めて跳ね起きようとする。
が、首を後ろから強打され、顔面から床に叩き付けられる。
「うぶ!?」
腕が無いせいで受け身も取れずに叩きつけられたため、鼻に激痛を感じる。出血もしてしまっているようだ。
背後には何の気配も感じなかった筈なのに一体誰が……。
そう思って身体を捩って背後を確認しようとした時、視界に鎖が映った。
その鎖は床に刺さっている杭から私の首まで伸びている。
見ることが出来ないが私の首には首輪が付けられ、鎖はその首輪に繋がっている様だ。
先程身を起こそうとした際には背後から首を強打されたと思ったが、実際はこの戒めによるものであったようだ。
鎖は短く、立ち上がることどころか身を起こすことも出来そうにない。
犬の様に突っ伏した姿勢を強制されるこの状況に屈辱を感じるが、現状どうにもならない。
「目を醒ましたか」
状況を確認している私に、前方の壇上に据え付けられた玉座から声が掛けられる。
起き上がることが出来ないため、首だけを起こしてそちらへと目を向ける。
そこには黄金が居た。
長い黄金の髪に金色の眼、白い軍服に黒の外套を羽織ったその男は玉座に片肘を付き、鷹揚にこちらを見据えていた。
性別を超えてこれまで会った誰よりも美しい容姿、しかし私はその男を見た瞬間背筋が凍った。
別に何をされたわけでもない。ただ、絶対に敵わない相手に本能が委縮してしまった。
恐怖に心を塗り潰されそうになり、それに抵抗すべく声を張り上げる。
「誰です!? 私を聖王家に連なる者と知っての狼藉ですか!?」
腕も無く、鎖に繋がれ、鼻血を流しているこの有り様では滑稽でしかないかも知れないが、気持ちで負けては終わりと虚勢を張る。
何よりも、このような真似をされて怒りを覚えないほど温厚というわけでもない。
しかし、魔力を高めての威圧もまるで意に介さず、目の前の黄金は静かに微笑んでいる。
「2つ目の問いから先に答えよう。
無論知っているとも、聖王女オリヴィエよ」
ここがゆりかごの玉座の間である以上は私の素性を知らない筈もなく、予想通りの答えが返される。
「王族にこのような仕打ち、許されると思っているのですか?
今なら不問にしますから、この鎖を外して下さい」
大人しくここで態度を改めるのであれば大事にならないようにすることは吝かではない。
元より、私はゆりかごの生贄になるために戻ってきたのだから、今更権威などというものを気にする必要がない。
しかし、そう説得しつつも、これで戒めを解いてくれるようなら最初からこのようなことは起こす筈もなく、無碍に断られると推測していた。
「ふむ、良かろう」
男はあっさりとそう言うと、私に向かって手をかざす。
玉座から立ち上がりもせずに何をしているのかと思いながら見ていると、かざされた手から途方もない魔力が放出される。
魔力スフィアもなく弾丸も見えなかったが確かに何かが放出されるのを感じた次の瞬間、鎖は中点から千切れ飛んだ。
首輪は嵌まったままだったが、鎖が無くなることで取り合えず身を起こすことが出来る様になった。
私は男から目を離さない様にして警戒しながら、先程行おうとしたように跳ね起きて立ち上がった。
「何を考えているのですか?」
「ん?」
拘束が解かれることは予想していなかったため、解放されたことに戸惑う。
自由を取り戻したものの、相手の意図が読めないことに不安感は逆に増した。
「わざわざ拘束しておきながらあっさり解放して、一体どういうつもりですか?」
「元々、鎖で繋いだのは部下の独断に過ぎん。
繋いでおく必要も特に感じないのだから、解放しても問題あるまい」
淡々と返された答えに苛立ちを感じるが、努めて怒りを抑える。
「……もういいです、分かりました。
それで、私の義手は何処ですか?」
目の前の男を倒すにしてもここから脱出するにしても、エレミアの腕がないと困難だ。
勿論、鎖を解いてもらえたとは言えど、武装と言っていい義手を返してもらえるとは思わないが、在り処さえ分かれば隙を見て取り返すことが……。
「義手なら、そこに転がっている」
……もういいです。
警戒している私が間抜けに思えるくらい目の前の男は無頓着で、気力が大きく削がれる。
男の視線の先に確かに私の義手が無造作に転がっているのを確認し、魔力で操作して自分の元へと引き寄せ装着する。
普段であればこのような乱暴な付け方はしないが、この場には付けてくれる人が居ないため仕方ない。
先程からの様子であれば頼めば目の前の男は付けてくれたかも知れないが、これ以上気力を削がれたくなかったため止めておいた。
いずれにせよ、義手があれば戦うことが出来る。
幾多の戦場を駆け巡ってきた私の経験が目の前の黄金とは戦うなと最大級の危険信号を鳴らしているが、現状で戦闘を避けることは難しいだろう。
警戒しながら嵌まっていた首輪を圧し折って外す私に男はどこからか大きな布を取り出し、こちらへと投げ渡す。
何かの攻撃でしょうか?
そう思って身構えるが、どうみてもただの布であり危険は全く感じられない。
「使うがいい」
使う?何に?……と思いましたが、そう言えば鼻血を出したままでした。
私は鼻から血を流しながら先程のような会話をしていたのですか。
恥ずかしさに顔が紅潮するのを感じながら慌てて貰った布で顔を拭う。
それにしても、渡された布はバスタオル位の大きさで少し拭きにくい。
鼻血を拭うためだけならもっと小さな布を渡してくれれば良いのに……。
かなり強く打ち付けてしまったせいか、拭っても新たな血が垂れてくる。
仕方なく、拭うのではなく鼻を押さえる様にして出血が止まるまで待つ。
暫く待って血が止まったことを感じる。
汚してしまった布の扱いに迷うが、男が手を振ると布は男の手元に引き寄せられ、取り出された時と同じように何処かへと消えた。
「その、一応感謝しますが、最初の質問に未だ答えて頂いてませんよ。
貴方は何者ですか?」
先程この男は部下と言った。
つまり個人ではなく集団が動いていることになる。
しかし、聖王連合内でこのような行動を起こすものは居ない筈だ。
勿論、聖王連合も決して一枚岩とは言えないが、私がゆりかごの聖王になることを妨害することで得をするものは国内には居ない。
損得抜きで私の身を案じて妨害しようとする人達がいる可能性もないこともないが、そんな人達であれば私を鎖で繋いだりは決してしないであろう。
そもそも、目の前の黄金の男が聖王連合内に居れば絶対に噂が私の耳に入る筈だ。
ならば可能性としては国外の者か。
「ああ、そう言えばまだ名乗っていなかったな。
私はラインハルト。聖槍十三騎士団黒円卓第1位破壊公ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。
卿にはガレア帝国皇帝と言った方が分かり易いかも知れんがな」
……今、この男は何と言った?
がれあていこくこうてい?
耳に入った筈の言葉が理解出来るまで迂闊にも数秒の時を要してしまう。
ガレア帝国皇帝?
脳がそれを認識した瞬間、親切を受けて多少なりとも下がっていた警戒心が限界まで振り切れる。
ガレア帝国皇帝!
ベルカ世界崩壊の元凶であり、その後の戦乱を背後から操る黒幕とも言うべき国、ガレア帝国。
目の前の黄金の男が決して表舞台に出てくることのなかった彼の国の皇帝だと言うのか。
しかも、彼の口にした名はガレア帝国の初代皇帝の名、歴史の教科書にすら載っている名前だ。
数百年前の人物だ、まさか本人の筈がない。
初代皇帝の名を受け継いでいるのだろうか?王家であればそれほど可笑しいことではないが……。
そこまで考えた所で、ガレア帝国の恐怖の象徴である聖槍十三騎士団のことを思い出す。
ベルカの崩壊から今に至るまで度々各国を襲ったその集団は、常に同じ容姿をしていることでも知られている。
不老不死の怪物達、その長に当たる人物であれば、歳を取っていなくても不思議ではないのかも知れない。
「どうやって……いえ、何故ここに!? わ、私をどうするつもりですか!?」
声が震えるが、仕方ない。
ガレア帝国が行動を起こすたび、世界には様々な災厄が振り撒かれてきた。
目の前の男がその首魁であるなら、こうして表に出てきたことは最大の災厄の前兆とも言える。
加えて、彼自身の威圧感も世界を覆い尽くす様にさえ感じられる。
この男が自分と同じ人間だということが信じられない。いや、信じたくない。
「どうもせんよ。 用があるのは卿ではなく、このゆりかごだ」
「な!?」
最悪の答えだ。
私自身が目的ならば、元よりゆりかごに捧げるつもりのこの身、どうされようと覚悟は出来ていた。
例え凌辱され殺されたとしても、国に与える損害は殆どない。
しかし、ゆりかごの奪取が目的となると最悪の場合国を滅ぼされる恐れすらある。
そして、現時点でゆりかごは既に奪取されつつある……ここに彼が居ること自体がその証明だ。
ゆりかご内部は既に制圧され、外部はそれに気付いていないかあるいは気付いていても奪還の手が打てていないのだろう。
「ゆりかごを奪い、聖王連合を攻めるつもりですか!?」
「否、私は単に卿のやろうとしていたことを代わりにするだけのこと。
この後の筋書きはこうだ。
ベルカ世界崩壊後数百年に渡って続いた戦乱、それに幕を下ろすために聖王連合はゆりかごの起動を決断する。
復活したゆりかごの力は凄まじく、1年と経たぬうちに次元世界の大半を平定する。
圧倒的な力を振るうゆりかごだが、その代償は大きく制圧を半ばに聖王はその力を失ってしまう。
しかし、その力が再び振るわれることを警戒したガレア帝国は聖王連合と和議を結び、戦乱は終結する」
「ッ!?…………………………ぁ…………ぅ…………」
声が出ない。
目の前の男の言っていることが理解出来ない。
「な、何なんですか!?
一体何を言っているんですか!?」
「聖王家にはガレアを除く次元世界を統一して戦乱を終結して貰わねばならん。
しかし、『ガレアを除いて』という部分が問題でな。
そのように結果を調整するためには多少なりとも茶番が必要になる。
ゆりかごを手中に収めたのはそのためだ。
操縦も一定以上の魔力があれば聖王家の血筋でなくても使用可能であることは分かっている」
言い含める様に説明されるが、理屈は分かっても理由は分からない。
そんなことをして何のメリットがあると言うのだろうか。
自国が統一すると言うのなら兎も角、他国に統一させて何の得がある。
「そんな訳の分からないことのためにこんなことを起こしたと言うのですか?」
「卿に理解は求めんよ。
卿はただ戦乱が終わるまでこのゆりかごで大人しくしていればいい。
望むなら、その後は死んだことにして別の人生を用意しよう」
「……お断りです!
貴方が何故そのようなことをしようとするのか分かりませんが、それが善意によるものでないことだけは分かります。
だから止めます、今ここで! 力尽くでも!!」
構えを取り、戦闘態勢を整える。
しかし、皇帝は玉座に悠然と腰掛けたまま、構えを取るどころか立ち上がろうとすらしない。
見下されていることに腹が立つが、そちらがそのつもりなら寧ろ好都合。
騎士としてはあるまじきことだが、目の前の巨悪を討つためなら無防備なところに攻撃を加えることも厭わない。
魔力を高め拳を引く……奴はまだ動かない。
床を全力で蹴り、真っ直ぐに飛びかかる……まだ動かない。
奴の目の前で渾身の力を籠めて拳を振り下ろす……まだ動かない。
「ハッ!!!」
そしてそのまま、彼の顔面に叩き付けた。
私の全力の拳は大岩でも砕けるだけの威力がある。
人間の顔を殴れば、首から上が吹き飛んでも不思議ではない。
だと言うのに、目の前の男はそんな私の拳をまともに受けて小揺るぎすらしていない。
血を流すどころか、皮膚を凹ませることすら出来ていない。
その結果に驚愕するとと同時に心の何処かで納得する。
相手は如何なる攻撃も通じないと伝えられる聖槍十三騎士団の長、この程度で倒せる筈がない。
おそらくは私の聖王の鎧と同じフィールド系の防御、であるならその防御力を超える攻撃ならばダメージを与えられる筈。
一撃で通じないなら通じるまで何度でも叩き込むまで!
「ハァァァーーーー!!!」
左右の鉄腕を振るい、ラインハルトの頭部や胸、肩へと連撃を叩き込む。
最初の一撃と異なり助走を付けることは出来ないが、代わりに推進に使っていた魔力も全て拳に籠めて振るう。
10、20、30と打ち込むが、防いだり避けるどころか身じろぎすらせずに全ての攻撃が受けられる。
「矢張り40程度ではダメージを貰うことも出来んか。
予想通りとは言え、詰まらぬゲームになりそうだな」
全力全開の攻撃を全く意に介さずにその金色の眼で真っ直ぐに見詰めるラインハルト。
間近で見たそこにあるのは怒りや嘲りではなく、愛しさと憐憫。
幼子に向ける様な微笑みを向けられ、その不可解さに背筋が凍り顔が青褪める。
「イヤァァァーーーーー!!!」
半ば恐慌状態となり、更なる連撃を叩き込む。
40、50、60……。
ひとたび攻撃を止めてしまえば恐怖で二度と拳を向けられなくなると感じ必死で拳を振るい続ける。
70、80、90……。
全力で攻撃し続けているために体内の魔力が湯水の様に減っていく。
喉がカラカラに乾き、止め処なく汗が流れる。全力稼働のリンカーコアと聖王核は過熱し、痛みを感じる。
3桁を超えた辺りで魔力も体力も完全に尽き立っていることも出来ずに、そのまま斜めに倒れ伏してしまう。
「気は済んだかね?」
私の全てを受け切って眉1つ動かさなかった怪物が間近に倒れ伏した私を見降ろしながら問うて来る。
気が済んだか? 済む筈がない。 私はまだ何も為せていない。
しかし、もはや指一本を動かす力すら残っていない。
身を起こすことも出来ないが、視線だけでも怨敵に向け一言呟く。
「……化け物」
「よく言われるよ。悪魔と呼ばれることもあるがね」
そんな言葉を聞きながら、私の意識は混濁しそのまま途絶えた。
【Side out】
ベルカ古代史より。
復活したゆりかごの力は凄まじく、1年と経たぬうちに次元世界の大半を平定する。
圧倒的な力を振るうゆりかごだが、その代償は大きく制圧を半ばにゆりかごはその力を失ってしまう。
しかし、その力が再び振るわれることを警戒したガレア帝国は聖王連合と和議を結び、戦乱は終結した。
ゆりかごを起動し動かしたとされる聖王女、いや最後の聖王オリヴィエは戦乱終結を待たずに表舞台から去り、ゆりかごはその役目を終え、とある世界へと封印処理を受ける。
ゆりかごが役目を終えると共に、その運用を担っていた聖王家は衰退していった。
ゆりかごの玉座に聖王以外の人物が座っていた事実は誰も知らない。
(後書き)
オリヴィエさん、南無……。
しかし、周囲の認識ではガレア帝国と互角に渡り合ったことに。
マッチポンプ要素が強くなってきました。