【Side カリム・グラシア】
私は聖王教会の重鎮であるグラシア家の1人娘としてこの世に生を受けました。
生まれた時から、聖王教会の教徒として生きることを義務付けられていたと言っても過言ではありません。
勿論、それを忌んでいるわけではありません……むしろ逆です。
この様な幸福に恵まれたことを
聖王教会は表向き、古代ベルカの戦いの歴史を終わらせた聖王家の偉業とベルカの文化を継承することをその使命としています。
実際、それは間違いの無い事実なのですが、その教典においては「古代ベルカの戦いの歴史を終わらせた聖王家と
勿論、ガレア帝国については一般には知られていない為、その名を明示しているわけではありませんが。
そして、上層部には秘典としてガレア本国で普及していると言う本来門外不出の教典の閲覧が認められる。
私がそれを読んだのは確か……10歳になるかならないかくらいだったと思います。
そこに記されていたのは、遠きガレアの地に降臨された不滅にして偉大なる黄金の君の偉業の数々。
幼かった私は夢中になり、毎日の様にその書物を読み耽っていました。
そんな私がある時出会った1人の男性。
禁書保管庫に入り浸る私に声を掛けてきたのはローブを羽織った髪の長い影絵の様な人でした。
「そこに記されてる方に興味があるのかね」
突然話掛けられて緊張した私は書物を取られない様にと抱き締めながら、コクコクと頷きました。
「それは重畳、ならばこれを進呈しよう」
そう言ってその男性が私に向かって差し出したのは一枚の写真。
そこに映っていたのは黄金の髪と瞳を持ったこの世のものとは思えぬ美貌の男性。
一目見た瞬間全身に落雷が走った様な衝撃を受け、そして直感しました。
この人だ、と。
先程まで私が読んでいた秘典に記された黄金の君に間違いない。
私は興奮してそれを尋ねようと写真をくれた男性に話掛けようとしましたが、いつの間にか男性は姿を消していました。
その影絵の様な男性が当代の教皇聖下だと知ったのは、しばらくしてからのことでした。
それから数年、正式に騎士として所属した私は様々なことを知りました。
偉大なるガレア帝国とその皇帝のこと、管理局が隠蔽する過去の愚かな所業、そして聖王教会の真の役目。
聖下は私に目を掛けてくれたのか、それらのことを教えてくれました。
聖王教会はガレア帝国の下部組織、来たる解放の時のために管理世界の隅々に撒かれた種子。
その理念に基づいて、私は自らを団長に据えて騎士団を掌握し準備を重ねてきました。
一般教徒にもかつてのベルカの威光に憧憬を抱く様に誘導し、騎士団員にはガレア帝国の偉業を秘密裏に流布。
そして、騎士団上層部にはラインハルト様に絶対を忠誠を誓う者だけを配置しました。
そして今、とうとうその時がやってきたのです。
ガレア帝国への侵攻計画に端を発したと言う、帝国の逆侵攻。
それに先立って、聖王教会は各管理世界の管理局拠点に対して攻撃を仕掛ける。
聖下の勅命により、全次元世界のベルカ自治区に駐留している騎士団員が招集されている。
勿論彼等は一ヶ所に集まったわけではなく、各世界の拠点に集結し、通信越しに私に注目している。
大聖堂の教壇に立ち、私は居並ぶ騎士達と通信越しに見詰める者達へと演説を始める。
「聖王教会騎士団の皆さん、騎士団長のカリム・グラシアです」
全ての騎士達の視線が私に集中する。
「ご存知の通り、聖王教会は古代ベルカの戦乱を終結させた聖王家とガレア帝国の偉業を称え、散逸するベルカ文化を保護することをその使命とした組織です。
その使命においてロストロギアの保護・管理を行う関係上、時空管理局とは蜜月の関係にありました」
「──しかし、管理局は我々を裏切りました」
緊張感のある静寂が、聖堂内を、そして各拠点の騎士達の間を支配する。
「彼等は愚かにも再びガレア帝国に牙を剥きました。
これにより、ガレア帝国は管理世界に対して逆侵攻を仕掛けます。
これまでの2度とは違い、本局と地上本部を陥落させる本格的な侵攻です」
流石に、騎士達の間でどよめきが上がる。
全次元世界を左右する戦争の開始です、無理もありません。
「これを受け、教皇聖下より勅命が下りました。
我等聖王教会はあるべき姿に戻り、ガレア帝国に助勢、管理局を攻めます!
耐え忍ぶ時は終わりました。
ミッドチルダの台頭により失われたベルカの威光が復活する時が来たのです!」
私が声を張り上げると、騎士達の気勢も上がるのが肌で感じられた。
各々の目に力が籠り、真っ直ぐに私を見据えている。
「恐れることはありません、手を伸ばしなさい!
祓いを及ぼし、穢れを流し、溶かし解放して尊きものへ、至高の黄金として輝かせるのです!」
そう言って両手を広げた瞬間、私の両手と脇腹から血が噴き出した。
激痛が走り目の前が真っ赤になるが、私は逆に歓喜に打ち震えていた。
これは
私は幸福の絶頂へと達しながら、どよめく騎士達に向かって叫ぶ。
「見なさい、この
彼の御方は私を見守って下さっています!」
故にもう、私は何も怖くない。
「さぁ、騎士達よ!
既に神々の黄昏は始まりました。
罪人にその苦悩もろとも止めを刺しましょう。
さすれば、至高の光は私達の上に照り輝いて降りて下さるのです!」
滴る血を払う様に、私は右手を振り下ろした。
「聖王教会騎士団、出陣です。
全ては黄金の君の御心のままに!」
【Side out】
「純朴な憧れは狂信と変わり、世界に毒を撒き散らす。
筋書きとして書けば在り来たりだが、実際に目にすると甘美な未知と言えよう。
御覧になられているかな、獣殿。
また、貴方の鬣が増えた。
微細な者達なれど、貴方を求めるその心は爪牙にも劣りますまい。
さあ、引続き今宵の