魔法少女と黄金の獣   作:クリフォト・バチカル

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推奨BGM:Shade And Darkness(dies irae)


74:起死回生、そして……

【Side 高町まどか】

 

 勝った。

 

 轟音を立てて揺れる城の様子に、私は砕かれた両手の激痛を感じながらも勝利を確信し思わず笑みを浮かべた。

 どうやら、ティアナ達はしっかりと役目を果たしてくれたらしい。

 

「これは……」

 

 ラインハルトは周囲の様子に僅かながらその顔に驚きの表情を見せる。

 驚異的なことに、先程フェイトによって斬り付けられた左腕の傷は一瞬で再生していた。

 

「スワスチカを消したか」

 

 この状況が誰の絵図に拠るものか察したらしく私に向かって問い掛けてくる。

 

「消したと言っても全部じゃないわ、半数の4つだけよ」

 

 そう、私達の持つ戦力は少なく全てのスワスチカを対処することは到底不可能だった。

 しかし、優介の知識がそこに役立った。

 ラインハルトが現界するには7つ、大隊長が現界するには5つのスワスチカが必要だ。

 逆に言えば、8つのスワスチカの内の4つを封じてしまえばラインハルトも大隊長も追い払うことが出来る。

 

「確かに、この『城』をミッドチルダ繋ぎとめておくためには最低5つのスワスチカが要る。

 時間稼ぎは増援を期待したものではなく、このためか?」

「局からの増援に期待していたのは本当のこと。

 ただ、保険の為に二段構えの作戦を採っただけよ」

「成程。しかし解せんな。

 卿らが地上に残した戦力で我がエインフェリア達を4人も倒せるとは思えんが」

 

 そう言うと、ラインハルトはモニタを起動してクラナガンの状況を映し出す。

 彼の言う通り、地上本部の戦力は先のJ・S事件で半壊状態だし、私達の指示で動かせるのは機動六課のメンバー以外には殆ど居ない。

 加えて、戦力をスワスチカの対処に向けたことが知られれば妨害を受ける可能性が高い為、本命であるそちらから目を逸らす意味も込めて隊長陣はこの城への突入に当てた。

 だからこそ、最小限の戦力で対処するために強敵の居る場所は避け、対処可能な場所を選んだ。

 

 1つ目の映像、スワスチカは健在だ。

 リザ・ブレンナーとトバルカインが悠然と立っている。

 既に地上本部の残存要員も退けられた後らしい。

 

 2つ目の映像、スワスチカは健在だ。

 ヴァレリア・トリファが守り続けている。

 

 3つ目の映像、スワスチカは健在だ。

 ヴィルヘルムによって周囲は血の海と化していた。

 

 4つ目の映像、スワスチカは健在だ。

 櫻井螢の起こしたであろう炎が燃え盛っている。

 

 5つ目の映像、スワスチカは消失している。

 ベアトリス・キルヒアイゼンはティアナと何かを話していた。

 特にダメージは無さそうだが、その様子を見る限りでは既に戦意は無い様だ。

 ギンガが倒れ伏しているのが気になるが、ティアナの様子を見る限りでは命に別条は無いのだろう。

 

 6つ目の映像、スワスチカは消失している。

 ルサルカがバインドで拘束されている。

 その横に立つのはクロノだ。

 

「クロノ・ハラオウン?

 海の提督である彼が何故ミッドチルダに居る?」

「先日のJ・S事件でゆりかごを撃墜する時にクラウディアが損傷したからよ。

 艦の修復がある程度済むまで滞在することになったのよ」

「成程、スカリエッティへの支援が裏目に出たか」

 

 7つ目の映像、スワスチカは消失している。

 シュピーネは気絶している。

 エリオとルーテシアは所々怪我をしている様だが、健在な様だ。

 

 8つ目の映像、スワスチカは消失している。

 マテリアルの内、シュテルとレヴィ、ゾーネの3人は倒れディアーチェは膝を付いている。

 ユーリは健在の様だが、既に戦意は無さそうだ。

 その正面で瓦礫を背に座り込んでいるのは──

 

「ゼスト・グランガイツ……だと?

 生きていたのか」

 

 そう、8つ目のスワスチカの対処を頼んだのはゼストだ。

 本来であればJ・S事件の最期に地上本部に特攻を仕掛けて亡くなっている人物だが、彼の目的がレジアス中将を問い質すことだけであることを知っている以上、強硬に対処する必要は無い。

 投降を条件にレジアス中将との面会をセッティングすることを約束したら、あっさり頷いてくれた。

 加えて、その残り少ない命を地上の平和の為に使って欲しいという頼みにも二つ返事で応じてくれた。

 

「スワスチカが過半数無くなれば、貴方も大隊長達も現界出来ない。

 正史通りと思ってこちらの戦力が少ないと油断した、貴方の負けよ」

「…………………………………………」

「ラインハルトさん……」

 

 沈黙し俯くラインハルト。

 敗北がショックだったのだろうか?

 隣に立つフェイトがその様子に気遣わしげな声を上げる。

 しかし、顔を上げた彼の表情にあったのは……憐憫?

 

「取り合えずは見事と称賛しておこう。

 私の計画を撃ち破り、我が城を退けたことは評価に値する」

 

 何だ、何か嫌な予感がする。

 私は何かを見落としている?

 

「確かに私の現界には7つ、シュライバー達の現界は5つのスワスチカが必要だ───私が生身で無ければ(・・・・・・・・・)、だが」

 

 !?

 生身で無ければ(・・・・・・・)

 

「かつてシャンバラにおいては、私は肉体を捨てて永劫回帰の狭間へと旅立っていた為、現界にはスワスチカを要した。

 しかし、この世界に転生して以降、私は一度として肉体を捨てては居ない」

 

 つまり、今目の前に居るラインハルトはスワスチカの力で存在を維持しておらず、生身と言うこと?

 

「虚数空間内に構築した『城』をこちらに繋ぐ為にスワスチカを築いたが、私とエインフェリア達がこの場に来るだけであればスワスチカなど必要ない」

 

 そ、そんな……それじゃあ……。

 

「気付く契機はあったであろう。

 スワスチカ無しでフェイト嬢に会っているのだからな」

 

 言われてみれば……確かに10年前から彼は姿を見せていて、その時には当然スワスチカなんて無かった。

 優介の話に心を取られて現実の情報を疎かにしたのは私の方?

 

「万策尽きた、と言ったところか」

「……………………………………」

「ま、まどか……」

 

 先程とは逆に、私の方が沈黙させられることになった。

 しかし、彼の言う通り既に打つ手がない。

 元々、戦ったら勝てないことは分かり切っているのだ。

 それ故に組み上げた作戦、戦わずに勝つための方法がスワスチカの封印だった。

 それが瓦解した以上、最早私達に勝ち目は無い。

 後はただ、蹂躙され鏖殺されるのを待つしかない。

 

「ふむ、私の身を傷付け、『城』を崩し、その上──」

 

 言いながら、ラインハルトは展開したままだったモニタへと視線を向ける。

 

「──シュライバー達も退けられたか。

 ここまでの奮闘には何か褒美を与えねばなるまいな」

 

 え?

 

「望みを言うがいい。

 卿等の奮闘に見合う範囲であれば、叶えよう」

 

 唐突に訪れた事態に、私は思わず混乱する。

 褒美? このまま私達を殺せば完全勝利の筈なのに彼は何を言っているのだろう?

 いや、気まぐれに対して深く考えても仕方ない、それよりはこの僥倖を何としても掴まなければ。

 何だ、何を願えばいい?

 こちらが勝ったわけでも無くお情けの様なものだ、「死んで欲しい」とか「管理局に降伏しろ」とかは受け入れられないだろう。

 

「私の、私達の望みは……」




(後書き)
 獣殿は誤解していますが、クロノがミッドチルダに居たのは獣殿がスカリエッティに支援したからではありません。

 原因を追っていってみましょう。
 ①クロノがミッドチルダに居たのは何故?⇒クラウディアがゆりかご戦で損傷したため
 ②クラウディアがゆりかご戦で損傷したのは何故?⇒ゆりかごが軌道上に到達したため
 ③ゆりかごが軌道上に到達したのは何故?⇒突入したなのはやヴィータの対処が遅かったせい
 ④なのはやヴィータの対処が遅れたのは何故?⇒内部構造が分からなかったせい
 ⑤内部構造が分からなかったのは何故?⇒内部構造データが発見されなかったせい
 ⑥内部構造データが発見されなかったのは何故?⇒とあるフェレットが無限書庫にいないせい

 まぁ、原作でゆりかごの内部構造の出元は不明ですが、本作ではユーノからの情報であった前提で考えています。

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