以前Twitterに掲載したssと短編のおまけをまとめたものと書き下ろした話合わせて10遍からなる煙と蜜の二次小説の短編集です。
なるべく原作に沿って書いていますが、原作では語られていないことや、捏造、また原作で会話場面がない登場人物同士のやりとりの描写がありますのでご了承ください。
今回は煙と蜜に登場する登場人物達のお話なので文治と姫子の話は少なめです。
また原作の話の合間の話を想像して書いた話もあります。原作未読の方は原作のネタバレもありますので注意です。以上を理解した上でお読みください。
目次
1器量と三つ組み(三つ編み)
2少尉と軍曹
3 医者と倚藉(いしゃ)
4女心と初(うぶ)
5柄リボンと千鳥
6お茶と相好
7チヨコレートと倖せ
8孫と好々爺
9命と名
10みつ豆と優雅な食慾
「ねえ、こま子あなたって好きな人いないの」
唐突に龍子がこま子に聞く。
「そうよ!そうよ!こま子にも好きな人の一人や二人いるはずでしょう教えなさいよ」
月子と星子も身を乗り出してきた。
「おら好きな人なんていねえよ。こんげな器量じゃ、嫁にもろうてくれねえだろうし。龍姐みたいに美人でねえし」
幾分悲しげに眉を下げてこま子は言ったものの
すぐ思い直したかのように
「もしいるとすれば、こんげな器量がのうて身体ばっか大きいおらでも、好きでいてくれる人かな。だどもそんげな人いるわけねえし」
「こま子…器量あるじゃない」
突然、星子が言うと月子もあるわよと言い
「なんで?」と不思議がるこま子。
「だってねえ、器量が無いなら、そんなに綺麗に三つ組みを結えないはずだもの。私達も三つ組みにゆっているけど綺麗に作るの難しいんだから」と星子。
「そうかなあ。三つ組みなんて誰でもできるて思うけど」
こま子はやんわり自分の髪を触りながら、納得できないという声色で言う。すると
「こま子ちゃんは素敵な人と結婚できると思います!」
突然こま子の後ろから姫子が現れて大きな声を出した。気配もさせず突然現れたものだから
皆目を丸くする。
「姫子さま、今日は随分とお早いですね」
「龍ねーね達のお手伝いをしようと思って早起きしました」
リボンもせず少し髪がハネている姫子が一生懸命言う姿に女中達が思わずほっこりする。
「まあ、姫子さまありがとうございます」
「姫子さまは結婚できるって言うども、おら好かれるようないところねえ」
こま子がまた後ろ向きなことを言うと、姫子がそんなことないです!と返して
「だってこま子ちゃんは洗濯も出来るし、薪割りもできます!」
「だども、それは皆できることだし………」
「こま子…」
龍子も星子も月子も一様に、こま子を見るが何も言えなかった。下手に励ましてますます落ち込ませたくなかったからだ。
「私、こま子ちゃんみたいに大きくなりたいんです。こま子ちゃんみたいに大きくなって洗濯も薪割りも上手くできるようになりたい。だってこま子ちゃんは私の憧れですから」
そこまで聞いてふふっと月子が笑う。
「姫子さま、ついでにこま子から三つ組みを教えてもらったらどうです?」
「三つ組み?」
「こま子がいつもしている髪型ですわ。」
「私もできますか?三つ組み」
「上手う教えられるかわからねえども、姫子さまが知りてえなら教えるよ」
少し照れながらこま子が答える。
「こま子の良いところはそういうところじゃないかしら」
「えっ?良いところ」
「姫子さまの為に教えてあげようとする所とても良いところじゃない」
「そうよ、こま子の良いところってそこじゃない」
「ええ」
首を捻って自分の良い所がわからないでいるこま子に龍子達が言った。
「そうか。おらにも良い所あるんだね。それなら出来ることがんばってみよかな」
こま子が頬を上気させて言うと、姫子が駆け寄ってきて髪の結い方を聞いてくる。
「姫子さまが助け舟を出してくれて良かったわ」
「こま子も15ですものね。器量がないなんて言っているけれど本当は、私達の誰よりも頑張っているのだから」
「そうね。だから姫子さまがこま子みたいになりたいと思ってああやって慕ってくれているのだわ」
「それなら、私達も頑張らないとね。月ちゃん」
「そうよ!頑張って、奥さまに帝都へ連れていってもらいましょうね!星ちゃん」
「全く、あなた達ときたら…」
下心丸出しでやる気を出す月子と星子に呆れる龍子。いつものことだと思いながら現実にぐっと引き戻される。
「姫子さまもあと三年でこま子と同じ15。そして、あの男の元へ行ってしまう。」
三年も経てば姫子が自分の元からいなくなると言う現実。それが胸に小骨のように引っかかっている。ふとしたことでその、"小骨"が食い込んで胸が痛むのだ。
(けれど、最近はこうも思う。私がいつまでも姫子さまの側にいると姫子さまがひとり立ちできないんじゃないかと。それなら土屋さまとの結婚は姫子さまにとって成長する良い機会なのかもしれない)
唇を軽く噛んで思案に耽っていると、こま子が声をかけてきた。
「龍姐も三つ組みやってみねえ?」
「私が?」
「龍ねーね三つ組み似合いそうです」
「でも、私、やったことないわ。三つ組み」
「大丈夫!おらが教えるすけ」
「私よりも龍ねーねの方が髪が長いので三つ組みやりやすいと思います。だから一緒にやりましょう」
姫子が目をうるうるとさせながら言うとたまらず
龍子は「わかりました」と答えていた。ここで断れば、姫子が落ち込むのが目に見えてわかったからである。
「やった!龍ねーねとお揃いで髪を結ってもらえます」
ぱああっときらめく笑顔を見せながら姫子。
一方、仕方ないという風な顔をする龍子。それでも内心嬉しくて口元が綻んでいた。
髪を結うのに袖が邪魔にならないよう襷掛けをして
からこま子達は髪を下ろして三つ組みの準備をした。基本は編みたい髪を一つの束にして、その束を更に三つにわけて順繰りに編み込んでいく。それを繰り返すと三つ組みが完成するのだが、編み慣れないとかなり難しい。
「真ん中の毛束が下になるようにして…」
「そうそう、上手いね姫子さま」
ゆっくりながら着実に編んでいく姫子。
「これでいいのかしら?」
「おお!龍姐早い。もう出来たの?」
「やり方さえわかれば、難しくはないものね」
普段は後ろに髪を束ねて結い上げる髪型しかしたことがない龍子であっても、基本を押さえることさえ出来れば三つ組みは難しいものでは無かった。
龍子が先に編んでしまうと、それに遅れて姫子も編み上げ、どうしても出来なくなった部分だけこま子に手伝ってもらってなんとか終わらせた。
「龍姐本当に三つ組みやったことねえの?すごい上手いね!姫子さまも綺麗に出来てる」
「こま子の教え方が上手いからすぐに出来たのよ。ねえ姫子さま」
「はい!こま子ちゃんの教え方とてもわかりやすかったので私も半分だけ自分でできました!ありがとうこま子ちゃん」
「そんげなおらは当たり前にしてること教えただけで大したことはしてねえよ。だどもそう言うてくれて嬉しかったありがとう龍姐、姫子さま」
頬をかいて照れながらこま子が言う。
「やっぱりこま子は器量あるわ」
「教え上手は器量良しですわね」
月子星子もそう言って照れているこま子の話の輪に加わった。姫子は龍子の三つ組みに見惚れ
「龍ねーねは三つ組みにすると可愛いくなるんですねえ」
「かっ可愛いですか私が」
「はい三つ組みの龍ねーねは可愛いです」
「かっ可愛いのは姫子さまですよ。私は可愛いとは縁遠いので」
「龍姐は髪型変えると見た目が変わるねえ
おらも三つ組みの龍姐は可愛いて思うよ」
「もう、こま子までそんなこと。元の髪型に戻します」
「待って龍ねーねもう少しだけ」
姫子がお願いすると、渋々龍子は了解した。
「姫子さまも可愛いです。私などより三つ組みが似合ってます」
「ありがとうございます龍ねーね。でも変じゃないかな。文治さまに見せても笑われないでしょうか」
「大丈夫です。今の姫子さまはとても可憐で愛らしいですから文治さまもきっと気に入ってくれると思いますよ」
「だといいんですが、今度文治さまがいらっしゃる時に三つ組みにしてみます」
顔をほんのり赤らめ袖で顔を隠しながら姫子。
「じゃあその時までに姫子さまが自分ひとりで三つ組みできるようにおら教えるすけ」
「ありがとうこま子ちゃん」
「へへ」
(こんなんしか能がねえけどおらできることやる
。何もできねえすけとか理由つけて何もしねえのは悔しいすけ、おらなりにできることやらんば)
照れ笑いをしつつもこま子は胸中でそう誓った。
姫子より3歳年上の15のこま子。姫子にとっては歳の近い姉のような存在である彼女もまた自分なりにできることを探しながら、花塚家の女中として働き彼女なりの考えで成長していくのであった。
終わり
器量と三つ組みあとがき
こま子の話を書きたくなり、三つ編みについての話を書きました。タイトルの三つ組みは昭和初期までは三つ編みは三つ組みと呼ばれていたそうなので三つ組みです。こま子の新潟訛りを強くすると話してることがわかりにくくなるためそこは調整してます。