煙と蜜短編集 千代紙と自鳴琴(オルゴール)   作:ユンカース

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天道少尉が六藤大尉と寿中尉と和気藹々と話しているイメージの話。
文治も登場します*会話には参加しません。
Twitterに掲載したssです。


女心と初(うぶ)

秋もすっかり暮れた大正5年の名古屋。これから冬支度という頃、帝国陸軍第三師団歩兵第六連隊ではこんな会話が交わされていた。

 

「土屋少佐が許嫁の為に、髪を伸ばすことを自分は納得できません。女の為に髪を伸ばすなどやはり帝国陸軍の名に恥じる行為ではないですか!」

 

唾を飛ばしながら、力説する天道。生真面目で自分や他人にも厳しい彼には文治が姫子を想っての髪を伸ばすという行為が未だ理解できないでいた。

「女心を理解ってないな天道は…」

「なっ?!女心などわからずとも言うことを聞くように押さえつけてしまえば良い!」

 

「そう言う強引なやり方では女から嫌われるだけだぞ」

 

天道よりも背の高い寿中尉が言うとムッとした表情になる天道。

「嫌われるも何も女の意見などアテになりません。第一そんな軟弱な考え…」

 

「女であるから…と言う決めつけが、まかり通るという考えは古いぞ。自由恋愛が謳われる今なら女の言うことをしっかり聞いてやる。これがもてる男の嗜みだ」

「ぐっ…ですが、そんな考えでは、いずれ男が女のわがままを聞かねばいけないと言う風になるのではないですか?寿中尉」

 

「いいじゃねぇか!!尻に敷かれる男ってのもよ!ま、俺は御免だがな」

ふらっと現れたのは、無精髭を生やし軍服の着こなしも緩い体の六藤大尉。六藤に気づきさっと敬礼する寿と天道。六藤も形だけ真面目に敬礼を返すと。

「しっかし、相変わらず糞がつくほど真面目だなあ天道はよ」

 

「む、六藤大尉まで、私はあくまでも女に対して真摯に向き合いたいと思っているだけです」

口をへの字にして答える天道。それを見てにやりとしたのは寿だった。

「ははあ!なるほどなあ天道おまえ本当に女と付き合ったことがないのか、なら話もまともにしたことないな」

 

「そっそれは…」

「そうかそうか!いいか天道、女はいいぞ!こんな男所帯のむさ苦しい所よりかな!!甘い声で話してくれて触り心地も最高だ」

「からかうのは止めてください六藤大尉…。遊びで女と付き合うなど考えられません!!」

顔がみるみる赤くなり更には汗まで吹きだすほどになった天道はいたたまれなくなって両手で顔を覆ってしまう。

そんな天道の反応に寿は驚く。

「天道おまえ、まさか女遊びもしたことないのか?」

「女遊びにうつつを抜かすなど愚かなことではありませんか」

「そうか…悪かった。お前がそんなに女を知らないとはな」

「私は、夫婦(めおと)になる女(ひと)とは生涯連れ添う気持ちでおります」

きっぱり言い切る天道に六藤はにっと笑い。

「そういうのを初って言うんだよっ!」

ばしっと天道の背中を叩いた。

よろめいて不満そうな顔をする天道と涼し気な表情の寿達。その様子をずっと後方で、感慨深そうに見ている男が一人。歩兵第六連隊の隊長、土屋文治であった。

 

その目は無感動に冷たい光を放っていたが、ふと一瞬童(わらわ)が見せる好奇心の輝きが宿る。が、それもまたすぐ冷たい目に戻ってしまった。文治はしばらく立ち尽くした後踵を返すとその場を後にする。背中に注いだ秋の弱々しい陽光は侘びしい心を照らしているかのように見えた。

 

終わり




髪と軍紀のあとの話
六藤大尉と寿中尉、天道少尉の3人が話していたらこんか感じになるのではと書いたもの。
この時点で六藤大尉が寡だというのが明かされていなかったので少し六藤大尉の女性に対する考えが原作とずれているかもです。
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