こちらもTwitterに掲載したssです。
「これが、チヨコレートですか。」
板チヨコをまじまじと姫子が見ながら言うと、文治はそうですと言って包み紙を剥いてチヨコを取り出す。
「食べてみます?」
「いいんですか!」
「どうぞ、お口に合うと良いですが」
文治が、ぱきりとチヨコを割って姫子の手にひとつ乗せてあげると姫子はそれを恐る恐る口に含んだ。口の中でふわと甘い香りが広がる。
赤味噌と似た色をした異国の菓子は口の中で溶けてあっという間になくなった。
「あ、甘くて美味しい…。チヨコレートって珈琲のような色をしてるのにとてもいい香りで甘いんですね!」
「喜んでもらえたようで良かった。」にこと笑ってみせる文治。
「文治さまは食べないんですか?」
「私は甘いものはあまり食べないですから、残りは姫子さんがどうぞ」
「勿体ないです。こんなに美味しいのに」
上目遣いでじ、と文治を見つめる姫子に文治は耐えられくなり、では一つだけと言ってチヨコを一欠片口にしてみせた。
「どうです、お味は?」
「とても甘い。でもたまには甘いお菓子も悪くないかもしれませんね」
「へっ?」
「姫子さんと一緒に同じ物を食べる瞬間が私にとって、この上なく倖せなのだなと」
「私もです。文治さまと一緒に過ごす何気ない日々が愛おしくてしあわせ、なんです」
「そう言っていただけるとは光栄です。」
「いつも煙草ばかり吸っていらっしゃるから、チヨコは食べないんじゃないかって思ってました」
「そんなことは無いですよ、私も時々甘味が欲しくて口寂しくなることがあります」
そう言ってまた、チヨコを割ると一口食べて文治は、その甘さを堪能する。
「でも、チヨコは不思議な甘さですよね。文治さま、飴とも餡子とも似てないですし、キャラメルともまた違う甘さ」
「これだけチヨコが甘いのは作っている人の思いがこもっているからかもしれません」
「作っている人の思いですか」
「ええ、料理と同じで菓子も思いを込めただけ、美味しくなるチヨコなら甘くなるんじゃないでしょうか」
「そうかもしれないですね。チヨコが甘い理由は思いが込められているからなんて素敵な理由でしょう」
キラキラとした目で文治を見る姫子。
「もう一つ食べますか?」
「はい、いただきます!」
すぐに答えてまた一欠片チヨコを貰うと大切そうに手の平に乗せてから口へと入れた。口の中でとろける甘やかなチヨコは姫子をどきどきとてきめかせる。嬉しさと興奮とはち切れんばかりの希望が混ざり合ったような飽きない味。その味は、倖せな味。
終わり
大正7年ころ
板チヨコレートをたべている姫子が書きたくて書いた話ですが、板チヨコが日本で生産されるようになったのは大正7年ころ。少し時期が未来になってしまうので、もしかしたら文治が持ってきた板チヨコレートはアメリカからの輸入品かもしれません(苦しい言い訳)
書いていてかなり恥ずかしかった話でもあります。