孫が可愛くて仕方ないお爺さん。
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「ほお、これはまた随分、変わったの!」
敬次郎が感嘆の声を上げ、椅子から立ち上がる。視線の先には歳12の孫娘が着飾った姿で佇んでいた。
白椿の着物が姫子をほんの少し大人びた雰囲気に見せているが、頬を赤らめもじもじしている姿はやはり年相応か、それ以下の子供といった風である。
「この格好で、文治さま達の前に出るのですか?お爺さま」
「うむ!よく似合っとる姫子
立派でかわええ。帝国陸軍の皆の前で見せても恥はかくまい」
満足気にうなづく敬次郎。それに反して姫子は、人差し指同士をくっつけたり離したりを繰り返す。
「でも、私は恥ずかしいですッ!」
「なんじゃ姫子、恥ずかしいも何もせっかくの晴れ着。堂々としていりゃええ」
「堂々と…できるかな。それに先日、文治さまに失礼な態度を取ってしまったので、文治さま、私を見てくれないかもしれません」
しゅんと項垂れ、すっかり自信をなくした孫娘を見て敬次郎も意気消沈しかけるが、
「何を言っておる姫子!!お前はわしの自慢の孫娘。恥ずかしかろうが、顔を合わせにくかろが関係ない。(それにあやつも、姫子のことを気に言っていると言っていた。綺麗に着飾った姫子を見れば機嫌が悪くなることはあるまいて)」
敬次郎はおもむろに、小さな机の上にあった手鏡を取り、ほれと、手鏡で姫子を映してみせる。
向けられた鏡を直視できず思わず手で顔を覆ってしまう姫子だが、恐る恐る鏡の中の自分を見てはっとした。
髪型を少し変えて、リボンの位置を変えただけなのに違う雰囲気の自分がそこにいる。不思議な感覚。
自分の身の丈に合っていないと着せられていた時に感じていた振袖も姫子の魅力を引き立たせるようにしっくりと馴染んでいる。
「ともかく、恥ずかしくても挨拶だけはせなあかん。いくら可愛い孫娘とはいえ人としての礼儀はしっかりとな」
口髭を触りながらぶっきらぼうに敬次郎は言う。
「わかりました。頑張って挨拶だけはしてみます」
自信が出てきたのか少しだけ、口角をあげて姫子は答えた。敬次郎も安堵したのかようやく笑顔を見せる。
(土屋のせがれと、その部下達が姫子を見て驚く姿が目に浮かぶわい
なにより姫子は本当に可愛い。目に入れても痛くないほどにな)
「文治さまと上手く話すにはどうしたらいいかだけ不安です」
「なにいざとなったら女中の誰かに話しかけるきっかけを作ってもらえばいい。きっかけさえできれば、どうにでもなる」
「そうですね。どうしても無理だったら龍ねーねに頼んでみます。ありがとうお爺さま!」
「大したことは言っとらんがもう平気じゃな」
晴れ着姿の姫子を見て柔らかく笑う敬次郎の顔はまさしく好好爺そのものだった。
終わり
29話の間
姫子と敬次郎が話す場面が原作では少ないので書いてみた話。なんだかんだ敬次郎は姫子に甘いお爺さんというイメージがあります。
姫子も敬次郎好きなんじゃないかなと。