悪夢を見て2週間程が経過した。
「はぁ〜平和だねぇ」
綺羅莉とリリカはこの一週間の間、一族関連の事で居ないので彼は平和に過ごしていた。
他の面子は仕事さえしていれば文句を言ってこないし、無理難題をかけてこないので、彼にとって平穏な時間だ。
「そういや、鈴井君、最近見ないな……風邪でも拗らせたかな?」
この1週間の間、涼太を見てないので心配するが、この学園の生徒が事故にあったや、大きな病にかかったとは彼の耳に入ってないので、そういう時もあるかと思った。
「ん〜……はぁ、眠い……ちょっと寝ようか」
暖かな陽射しと満腹感から眠気が襲ってきた。
幸いにもこの屋上には普段人が入ってくることは殆どない。
「ちょっとしたら……おき……ない……と」
そのまま制服の上着を頭から被って眠ってしまう翔。
ガチャと音をたて、誰かが屋上に入ってきた。
「あらっ? ここが屋上なのですね……」
入ってきたのは黒髪の女子生徒。
「誰か寝ていますね……どちら様でしょうか? この状態では分かりませんねぇ。とは言え折角、気持ちよさそうに寝ているのに起こすのも気が引けます……んっ?」
何かに気付いたのか寝ている翔に近付く。
「すんすん……すんすん……この匂い」
翔の匂いを嗅ぎ始めた女子生徒。そして彼の横に落ちていた生徒手帳を拾い上げる。どうやら、上着のポケットにいれていた物が落ちたようだ。
「やっぱり……フフフ、ウフフフ」
生徒手帳を開き、彼の顔写真を見ると嬉しそうに笑みを浮かべた。
まるで小さな子供がずっと探していた宝物を見つけた時の様な笑顔だ。
「やっと……やっと……見つけました。でもこのまま会ってしまってはムードがありませんね」
何を考えたのかは分からないが、彼の胸元に顔を埋め、深呼吸する。
「はぁう……ずっとこのまま居たいですねぇ。名残り惜しいですが今は我慢です」
彼女はそう言うと、立ち上がる。
「では感動的な再会を楽しみにしていて下さいね、
彼女はそう言うとその場が立ち去ってしまった。
「はっ……むぅ……ふぅ……よく寝たぁ」
翔は目を覚ますと、起き上がる。すると目の前に広がるのはオレンジ色の空と沈みかけた太陽だった。
「ぁ〜〜夕方まで寝ちまった、まぁ1日くらいサボってもいいか」
そして携帯を取り出すと、何処かに電話する。
「よぉ、楓、元気?」
『天姫か、こんな時間まで生徒会に顔を出さずに何をしている、しかも授業をサボりとは何を考えてるんだ?
俺は少なくともお前は真面目な奴だと思っていたんだかな』
どうやら連絡相手は楓の様で、楓は彼が今まで生徒会に顔を出さなかったので、怒っている様だ。
「いやぁ、悪い。昼休みに寝ててそのままサボっちった。
ちょっと寝るつもりが気が付けば夕方でした」
『全く……お前と言う奴は……事故や事件には巻き込まれてないんだな?』
「そりゃ、寝てただけだし。体に問題ないぞ」
『ならいい、今日は仕事も殆どない。そのまま帰っていいぞ、サボりの件に関しても教師にうまく言っておく』
「えっ、けど」
『偶にはいいだろう、何時も会長達に振り回されているからな。
休める時には休んでおけ』
「ありがとう楓。じゃお言葉に甘えて」
『俺も友人に倒れられては困るからな……』
「えっなんて?」
『何でもない、さっさと帰れ』
そのまま電話は切れてしまった。何だかんだと言っても、楓も翔の事を認めている様で、彼は彼なりに翔を心配しているみたいだ。
「何か分からんがさっさと帰ろう! 帰ってゲームの続きか、積みプラでも崩すか」
上機嫌になった翔は直ぐに教室に向かい鞄を取ると帰路へついた。その胸元に爆弾を抱えたまま。
〜翔の自宅〜
「たっだいま〜……って誰もいないけど」
靴を脱いで家に上がり、鞄を置く為にリビングに向かった。
「「おかえりなさい」」
「あれ……なんでいるの?」
扉を上げるとそこには綺羅莉とリリカがおり、料理をしていた。
「一族の件があら方片付いたから、一度戻ってきたのよ」
「とは言え、明日の朝には戻らなければならないがな」
「ならそのまま居れば良かったのに」
「あらっ忙しさにかまけて夫の料理を作れないなんて妻失格だもの」
「少しでも時間が出来たからな、お前の顔も見たかったし」
どうやら、翔に会いたかったらしく、遠いところから帰ってきた様だ。
「えっと……ありがとう」
恥ずかしそうに言う翔。
それを聞いて、嬉しそうに笑みを浮かべる綺羅莉とリリカ。
「さぁ、ご飯を食べましょう」
「そうしよう、ほらっ翔。上着貰うぞ」
「あっ……あぁ」
リリカは翔から上着を受けとると、固まった。
「…………」
「リリカ?」
リリカはある一点を凝視していた。それは翔の胸元、丁度ネクタイの辺りだ。
本来、黒のネクタイの下にはYシャツの白が見えている。しかしリリカは見逃さなかった、白いシャツにつく薄いピンク色と
「翔、どういう事だ? 私達が居ない間に浮気か?」
「えっ、どういうこと?」
翔本人は何がなんやら分かっていない。
綺羅莉がリリカの方に来ると、彼女もシャツに付いた物に気付いた様だ。
「本当に……いい度胸ね、翔」
綺羅莉も怒気を含めてそう言うが、翔は何も分かっていない。綺羅莉もその様子を見て、翔は何もしてないと理解し、怒りが収まった様だ。
「でも……翔の様子をみる限り、本当に知らなそうね。何処かで女にぶつかった?」
「そう言えば、帰りのスーパーでレジ並んでたら、余所見してた女にぶつかったな」
はっと思い出した様にそう言う翔。それを聞いて納得したのか、リリカは息を吐く。
「ぅう……すまない、翔を疑ってしまった」
「いや、気にするな。でもそんなに匂うのか?」
「「えぇ、不快ね(だ)」」
「着替えてきます」
翔は部屋に戻り服を着替える事になった。
~深夜 翔の部屋~
「ふぅ……よいしょ」
翔が寝たのを確認すると、彼のベッドに侵入する綺羅莉とリリカ。因みにちゃんと彼女達の部屋も寝床も用意されている。しかし毎度、こうして翔が寝たら侵入するのが当然の事らしい。
「すぅ……はぁ……落ち着く」
リリカの方は翔に抱き付き、彼を堪能していた。少しすると身体を起こし、綺羅莉を見た。
「綺羅莉、何故、止めた?」
「夕食の時のこと?」
「あぁ」
「翔は本当に知らない顔をしていたでしょう。それにぶつかった事にしても本当のようだもの。
翔は偶に噓は言うけど、女関係に関して噓はつかないもの。それは貴女も理解してるでしょ?」
「それはそうだが……」
「だからよ、あそこで翔を責めても意味がないもの」
「確かにそうだが……だが匂いは2つあった。1つはほのかに香る女物の香水、もう1つは」
「他の女の匂いね。自分から擦り付けないとぁあも濃くは残らないわ……でも翔が知らないなら、翔の知らぬうちにつけられた」
リリカは悔しそうに歯を食いしばる。自分達がいない間に翔に女が触れたと思うと怒りと悔しさが込み上げる。
「まだ翔を狙う女がいるなんて……今まで以上に気をつけないとね」
綺羅莉はそう言うと翔の腕を枕にして寝転んだ。
「今日はとりあえず休みましょう」
「……分かった」
リリカも同じ様に翔の腕を枕にして眠りについた。
次の日の朝、何時もの様に両側から拘束され彼女等が起きるまで起きれず、翔が遅刻したのは言うまでもない。
もうすぐ始まる……翔を巡る