~数ヶ月前~
翔は普通の高校での生活を送っていた。クラスメイトとの関係も良好、友人とは仲もよかった。しかし多少周りから浮いていた。
「フフフッ……ぁあ……自由って素晴らしい」
彼が入学して約3ヶ月、毎朝の様にそう言いながらスキップしながらの登校するのであった。晴れの日も、雨の日も、風の日もである。初めの頃はそれを気味悪がっていた周囲だが、彼は学業もそこそこ、運動もそこそこでき、他の勉強を教えたり、不良達の喧嘩の仲裁をし仲良くなっていた。加えて雑用等も進んで手伝ってくれる為、毎朝の奇行を除けば、彼が良い人物なのか理解していた。
そんな彼の心の中はこうである。
(アイツがいないだけでこうも平和なのか……本当に自由って素晴らしい! 毎日、寿命が縮む思いをする事もなく、無理難題をふっかけられない! これこそ俺の求めていたものだ!)
と自由を噛み締めていた。学業に励み、友人と遊び過ごす毎日、彼が求めていたものだ。
だがそんな自由は突然砕かれた。
翔はその日、何時もの様に登校し、窓側にある自分の席で授業が始まるまで笑顔で窓から外を眺めていた。
「いい天気だったのに急に曇ってきたなぁ……」
晴れていた筈の空が突然、暗雲に覆われていたのだが
(まぁいいか! そういう日もあるよね!)
と思っていたのだが
(それにしても周りが何時もより騒がしいな。一体なにが……)
周囲が何時もより騒がしい様子なので、何があったのかと思い視線を教室の中へと向けた。そこにあったのは一面の赤だった。
(ん? 赤? ボタンがあるから……ブレザーかな? でもこの学校のブレザーは紺色だし……誰だ?)
そのまま視線を上げてみると、そこには居る筈のない人物がいた。
銀色の髪、青い瞳、瞳と同じ色のリップを塗っている少女。そしてその後ろには仮面を着けた同じ銀髪の女子がいた。
「アハハハハハ……これは夢だ、きっと悪い夢に違いない」
「あらっ、今が夢だと本当に思っているの翔?」
そう言って少女は翔の頬に触れた。その瞬間から翔は滝の様な汗を掻き始める。
「なななななななっなんで!?」
「何故って貴方を迎えに来たのよ?」
少女は何を当たり前の事を言ってるの? と言わんばかりの顔をしていた。
「はぁ、迎え!?」
「えぇ……私は今、【百花王学園】に通っているのは知ってるでしょう? そして私は、現在そこの生徒会長なの」
「だから! なんで?!」
「やっと私の物となって環境も整ったから迎えに来たのよ」
よく分からないと言う顔の翔だが、少女は更に続ける。
「だって貴方が居ないと詰まらないでしょう?」
「そんな理由で?」
「私にとっては重要よ」
「いっいきなり言われても無理だ!」
「それなら大丈夫よ」
そう言って少女……桃喰綺羅莉は1枚の書類と手紙を取り出した。
「編入……手続き書!? しかも家の印鑑まで!?」
書類は百花王学園の編入書類だった、しかも何故か全て記入済みで印鑑まで押してあった。
「しかもこの字……まっまさか」
直ぐに手紙を開き中身を確認する。
ーやっほー、愛しの息子よ、パパですぅ~。
元気にしてる? パパとママは元気でラブラブです。パパの御仕事で帰れなくてごめんね! 寂しい思いをしてないかな?
パパの御仕事の事は知ってると思いますが、パパは冒険家であり、考古学者ですー
(そんなもん知ってるわ! 寂しくないから二度と帰ってくるな! しかも息子にラブラブしてますとか、何時まで新婚気分なんだよ!?)
ー最近、研究に行き詰まっていて、研究資金も底をつきかけています。義実家には怖い爺がいるので頼れません。
なので綺羅莉ちゃんとリリカちゃんが出資してくれる事になりました。その代わりにお前には百花王学園に編入して貰います。
知っての通り、パパと綺羅莉ちゃん達の父親は同級生で仲良しです。言ってなかったけど、昔、自分達の子供を結婚させようと約束してました。なので丁度いい機会なので、同じ学園に通って絆を深めて下さい。
綺羅莉ちゃんとリリカちゃんどっちも美人だから選ぶの大変だろうけど頑張ってね。
P.S.
2人が美人だからと言って襲っちゃ駄目だぞ? あっでも、我慢出来なかったらしっかりと避n……ビリッー
読み終える前に破り捨てた。
(あの糞親父! 俺を売りやがったぁぁ! なに、結婚の約束ってなに!?
コイツ等が幼馴染から許嫁にランクアップしたってこと?!)
親に売られた事実、幼馴染が実は許嫁でしたと言う事実、それらが彼を絶望に叩き落とした。
(売りやがった親父は半殺し決定として……こっちに関してはどうしよう?)
結婚は人生の墓場と言われることが多い。普通に考えれば、美人で、逆玉の輿、文句はない筈なのだが、これまでの彼の経験からこのままでは本当の墓場になってしまうだろう。
「すぅ~……はぁ」
彼は立ち上がり大きく深呼吸し、編入書類を破り捨てた。
「この話、なかった事に(書類さえなければ)」
「あらっ……無駄よ、そう来ると思って何枚も用意してるもの?」
どうやら無駄に終わった様だ。伊達に幼い頃から幼馴染をしてない。
「チッ!」
「それでなかった事にとはどちらの話だ?」
今まで黙っていた仮面の方の少女が話し始めた。
「まずなんで他校に堂々と来てんの!?」
「だって……貴方のその顔が見たかったんですもの。本当に何度見ても飽きないわね」
と綺羅莉は満面の笑みで答えた。
「リリカ! 止めてよ!」
「無理だ……綺羅莉が一度言い出した事を曲げないのはお前も分かってるだろう?」
「そうでした!」
「それにしても、なんで翔が百花王学園への入学を断ったとき、無理矢理に入れなかったんだと思う? いずれこうなる事が分かっていたからだよ」
リリカがそう言う。そう言えば一度断った時に珍しく綺羅莉が引き下がった事を思い出した。
「……海外に逃げようかな?」
「それだけで逃げれると思ってるの?」
「諦めろ……完全に外堀は埋められてる」
リリカの言葉に完全に終了した翔。どうやら抵抗は無駄だと考えたらしく、抵抗を止めた。
「さぁ……行きましょうか」
彼は綺羅莉とリリカに両脇を抱えられそのまま連行され、百花王学園への編入が(強制的に)決まった。両手に花で羨ましい限りである。
「結婚の事については……なかった事には」
「そうねぇ……」
「…………」
2人はただ沈黙した。綺羅莉はそれに対して笑みで返す。
さて、彼の未来はどうなるのやら……。