〜翔の自宅〜
「はぁ……疲れた。何だか身体が怠い……調子崩したか?」
生徒会室の仕事に加えて、女の戦いに挟まれる日々により精神的に肉体的に疲れていた。帰宅した彼はそのまま倒れ込む様にソファに腰をかける。
「綺羅莉、リリカ、夢子……3人に惚れられるとは……しかも愛の重いヤンデレって……どうすりゃいいんだよぉ」
ソファに座りそう呟く翔。彼は現在、1人で家にいるので、その呟きに答える者はいなかった。
彼なりに迷い、悩んでいる様だ。それだけ彼女達をおもt「取りあえず置いとこう。綺羅莉とリリカもいない、学校じゃないから夢子も居ない、こんな時は嫌な事は忘れよう!」
疲れの溜まっていた彼は考えを止めた。
「後々考えよう。そうだ、今日は誰もいないから飯にしないと」
そう言って冷蔵庫を開けようとするとピンポーンとチャイムが鳴った。
「誰だ?」
チャイムが鳴ったはいいが、以前、父親達が帰ってきた時に壊したままにしていたのでモニターが映らない。なので玄関まで行くことにした。しかし彼は後悔するだろう……【インターホン直しておけば良かった】と。
「新聞とか訪問販売はお断り……」
と言いながら扉を開けると玄関前には夢子が立っていた。
「…………お疲れ様でした〜」
そのまま扉を閉め、鍵、チェーンをかけた。
「ふぅ……疲れてるな、早めに寝よ」
『翔さーん、開けて下さい〜。貴方の夢子が来ましたよ!』
「ないない、知ってる訳がない。教えてないし……」
家を教えてもないのに来れる訳がないと考え、あの夢子は日々の疲れからくる幻覚、幻聴の類だと思うことにした翔。
外から開けて下さい〜と聞こえているが聞こえない振りをしていた。
『私の初めて(キス)を捧げたのに私を捨てるんですかぁ?』
と大声で叫ぶ夢子。
「ストーップ、夢子、ストップ! 俺のご近所での評判が死ぬ!」
堪らずに扉を開けて夢子の口を防ぐ翔。そして、そのまま家の中に引き込んだ。
「はぁはぁ……お前なぁ、なんて爆弾発言をしてるんだよ!?」
「だって翔さんが私を閉め出すからですよ」
「くっ……唯でさえ親父がチャランポランで嫁に養われてるとか、綺羅莉やリリカが出入りしてるから変に噂されるのに、これ以上は勘弁してくれ」
「大丈夫です! 私はどんな評判でも貴方を愛してますから!」
「俺が困るの! と言うか、何で家の場所知ってるんだ?」
「先生から聞きました」
「先生? ……個人情報を? ……いや、待て……もしかして」
「はい、お考えの通りです」
翔の脳裏には此方が困ってるのを見て笑っている叔母・希愛晶の姿を浮かんだ。
「あの……ババア、後で仕返ししてやる。ふぅ……それで何の用だ?」
その言葉に夢子は持っていた手提げ袋を翔に見せる。
「翔さんの夕食を作りに来ました」
「えっ?」
間の抜けた声を出す翔を他所に「お台所お借りしますね」と台所へと向かった夢子。
「ちょっと待った! 綺羅莉とリリカが居たらどうしてたの?」
「翔さんが1人なのは知ってましたし、この機会に距離を詰めるチャンスかと思いまして」
「何で知ってるの!? アイツ等が用で出掛けたのは放課後だぞ?」
「愛です!」
「えっ……あっ……そうですか……」
それ以上は聞くのが怖くなって聞かないことにした。
台所に立ち料理を始めた夢子。翔はソファに腰掛けため息を吐く。
「♪ 〜♪ 〜」
鼻歌とトンットンッと包丁の音が聞こえてくる。
翔は夢子の方を見た。
心の底から楽しそうな顔で調理をしている夢子。
「なぁ、夢子」
「はい、なんですか?」
「変な話だが、何で俺なんかを好きになったんだ?」
その言葉を聞いてピタッと音が止まる。
「正直、昔の事も、俺の事も忘れて、あt『バスっ』……えっ?」
気が付くと夢子が自分を押し倒しており、音のした方向に向くと顔の横に包丁が刺さっていた。
状況を理解し、視線を夢子に戻すと、彼女の顔が目の前に迫っていた。
俺なんかなんて言わないで下さい。貴方は誰かの為に怒り、悲しみ、動くことの出来る素晴らしい人です。貴方を貶める様な事は聞きたくありません。例え貴方の自身の言葉でも
全部忘れる? そんなの無理に決まってるじゃないですか! 貴方は私をあの女の手から解放し、お姉ちゃんと叔母様を救った。そして私の心も救った。あの時、貴方は私の心を奪ったんです。だから貴方は私と結婚する義務があります
何でそうなると言いたかった翔だが、狂気の宿った夢子の瞳に釘付けになる。
そして私と家庭を築きましょ? 子供は3人は欲しいです。でも翔さんが望むなら何人でも良いですよ。翔さんに似た男の子、私に似た女の子、逆パターンもありですね。名前も幾つも考えてノートに纏めてるのでお父さんが決めてくださいね。
(……やっべぇ〜、綺羅莉とリリカとは別ベクトルで怖い!)
今、別の女の事を考えましたか? 貴方の前にいるのは私です、私の事だけ見て、私の声だけを聞いて、私の温もりだけを感じて、私の事だけを考えてください
夢子の手に掴まれ顔を動かす事は出来ない翔。体調を崩していたからか、力があまり出ない様だ。
(どうする?! どうすればいい!?)
翔は必死に頭を回転させる。
【選択肢】
①諦めて夢子を受け入れる。
②逃げる為に夢子を押し返す……包丁あるし無理、諦める。
③もう諦めて若さを爆発させようぜ。
「(無理だ! 碌な考えが浮かばん!)ゆめ……あれ? なんだか視界がまわ……る……?」
突如、翔の視界が歪み、気を失う。
「かっ翔さん? 翔さん! しっかりして下さい!」
〜翔の部屋〜
「ぅう……ここは? 俺の部屋?」
翔は目を覚ますと見慣れた天井が見える。どうやら自分の部屋のベッドの上の様だ。
「確か……夢子に押し倒されて」
翔は気を失う前の事を思い出しながら体を起こすと、頭から何かが落ちた。それを手に取ると濡れたタオルだった。そして横を見ると夢子がベッドの横で座ったまま寝ている。
どうやら夢子が此処まで翔を運び看病してくれていた様だ。
「……ぅ……まだ頭痛い」
まだ熱が下がっていないのか、そのまま横になる。窓を見てみると外は真っ暗だ。
「もう夜か……こんなに調子を崩したのは何年ぶりか」
「大丈夫ですか?」
その声の方を向くと夢子が起きていた。
「看病してくれてありがとう」
「いぇ妻として当然です……熱は……むっまだありそうですね」
夢子は翔の額に手を当て熱を確認する。翔はまだ調子が悪く何時もの突っ込みがない。
「みたいだな……またねむく……」
どうやら翔はそのまま寝てしまった様だ。
「フフフ……お休みなさい」
夢子は翔を愛おしそうに見つめていた。そして顔を彼の顔に近付けた。
そして2人の影は重なり合う、それを知るのは夜空に輝く月だけだった。
〜翌日〜
「……」
目を覚ました翔が目にしたのは、優越感に浸った顔で自身を抱き締めている夢子。
そして、その向かいには冷たい目をした綺羅莉とリリカだった。
こんな事ならさっさとインターホン直して居留守しておけば良かったなどと思う翔であったが、後の祭である。