入院2日目
「味が薄い……」
「文句を言うんじゃありません。栄養バランスは良いんですから」
病院食の味が薄いのでそう言うと、希愛晶に怒られる翔。
「というか俺ばかりに構ってていいの?」
「問題ありません。他にも優秀な医者は居ますし、何かあれば呼出があります……それよりも調子はどうかしら?」
「熱が下がって楽になったかな……」
「それなら安心ね。今回色々と検査したけど特に異常なしでした。恐らく体調不良にストレスが重なって酷くなったんでしょうね。まぁ貴方の場合、ストレスの原因は分かりきってるけど」
「うぐっ」
勿論、原因と言うのは綺羅莉、リリカ、夢子の事だ。
「そう言えば貴方は彼女達をどう思っているの?」
突然、希愛晶がそう聞いてきた。
「…………」
翔は答えに困っていた。
「あら答えられないの?」
「これがまた難しいんだ。
綺羅莉達はいきなり許嫁になるし、夢子の事は幼い頃とは言え約束したしなぁ」
ーガタッー
「まぁ貴方の場合、状況が特殊だものね……」
希愛晶は物音がした方向を見るとニヤッと笑みを浮かべた。
「好きか嫌いかで言えばどうなのかしら?」
「3人とも? 好きか、嫌いかで言えば、好きの方だ。勿論、恋愛的な意味で」
「あらもっと迷うかと思っていたけど、好きだとはっきり言うのね」
「好きなものは好きと言うよ、どっかの誰かさんみたいに変な意地はって、好きなのに好きと言えないのm……いてててっ!」
希愛晶は顔を真っ赤にし翔の耳を引っ張る。
「全く大人をからかって……それじゃあ1人ずつ答えなさい。まず綺羅莉ちゃんの事はどう思っているの?」
「綺羅莉か……狂気じみた好奇心で人を振り回して楽しむ、自分の興味のあること以外は無関心で視界にすら入れない。その反対に興味のある事はどんな事でもやる。それを成せるだけの資金と権力を持ってるから質が悪い。
一言で言い表すなら『暴君』だな」
ーメシッ、ビシッー
此処まで悪口しか出て来ていない。希愛晶の耳には何やら物が潰れる音が入るが気にしていない様だ。
「まぁ、でも気に入った人間や身内に対しては優しさがある。
厳しくても、時には優しさを見せる。本当に大切な者の為なら金や権力を使って守る。こうやって俺が疲れたり、倒れた時は必死に助けてくれたしね。
その優しさを普段から見せてほしいんだけど……
色々言ったけど、俺からすれば好奇心旺盛の普通の女の子さ」
翔はそう言うと希愛晶は嬉しそうに笑っている。
「それじゃあ、リリカちゃんは?」
「リリカか……リリカは育ってきた環境が環境だから、気が弱くて、控えめで自主性に欠けてる。人前では仮面をつけて沈黙してる、仮面を取ったとしても綺羅莉になりきる事が殆どだ。だから俺や綺羅莉だけの時は、仮面をとってリリカとして、普通の少女として過ごして欲しいと思ってる。
根は真面目で、優しく、困ってる人間は放っておけない質だ。この間も2人で買い物行った時、迷子の子供や重い荷物を持った婆さん助けてたしな」
ーバタッー
「ん? なんか倒れる音した?」
「空耳でしょう……私は何も聞こえなかったわ。それじゃあ、夢子ちゃんは?」
「夢子かぁ……」
翔は少し考え込んでいる。
「美人で気が利いて、料理も美味かったし、ギャンブル狂いを抜けば大和撫子って感じなんだけど……まぁ誰にでも人と違う所があるからね。そこは夢子の個性ということで。まだ短い時間しかいないけど、俺にとっては普通の女の子だ。
ただ、原因は夢子にあるとは言え昔の事を忘れていたのは申し訳ないと思ってる。
まぁ、俺個人としてはあんな美人に言い寄られて嬉しくはある」
ーフフフー
それを聞いて満足気な顔をしている。
「貴方は貴方でしっかりと彼女達を見ているなら嬉しいわ。
叔母としては早く誰か1人に絞りなさいと言いたい所なのだけど……」
「それは難しい。
俺が誰を選んだ所で、大惨事になるに違いないだろう」
「まぁ私としては1人を選んでも、全員選んでも後悔のないようにね」
「そうするよ。ぁ〜腹膨れたら眠くなってきた」
「なら少し眠りなさいな」
希愛晶はそう言うと食事のトレーを持って立ち上がる。
「ぁあ……そうさせて貰うよ」
翔はそう言うと目を閉じ眠ってしまった。
「お休みなさい……さてと」
希愛晶は病室の扉を開ける。
「貴女達の気持ちは分かるけど、病院の備品は壊さないでね」
扉の前には顔を赤くする綺羅莉、満足気な顔で倒れているリリカ、全身でクネクネしてる夢子がいた。
どうやら全部聞いていたらしい。希愛晶は彼女達が居るのを分かった上で翔に質問していた様だ。
「あと、まだあの子は本調子ではないから安静で。それと此処は病院なので弁える様に」
希愛晶はそれだけ言うと仕事に戻ってしまった。3人はゆらりと立ち上がり、翔の側に歩み寄った。
この3人、産まれも、育った環境も、性格も違うが共通しているのは大なり小なり狂っていること、そして何より翔を愛している事だ。
狂っていることに自覚があり、他者とは違うと理解しているからこそ、愛した男から「普通の女の子」として見られる事が何よりの喜びとなっている。
先程の会話を聞いていた彼女達は、既に翔に襲い掛っても可笑しくない状態にあるが、彼が体調不良の為、何とか理性を保っていた。必死に耐えるあまり、無表情になっている。
無表情の少女達に囲まれ眠る少年……端から見たら恐怖だ。途中様子を見に来た看護師がこの状況を見て悲鳴を上げて逃げて行ったのは言うまでもない。
昼前に目を覚ました翔。
「ふぁ〜……ってうおっ!?」
無表情の3人に囲まれ、見下ろされている状況に驚き、ベッドから落ちる翔。
「いってぇ……なにこの状況?」
「……熱は下がったみたいだけど、無理は駄目よ」
「そうだな、学園の方の事は我々で何とかするからゆっくり休め」
「そうですね。偶には休む時間が必要ですね」
3人はそれだけ言うと部屋から出ていった。
「えっ……あっ……何だったんだ?」
状況の分からず置いてけぼりの翔の言葉に答える者はいなかった。
〜帰りの車の中〜
翔から離れても無表情で沈黙する3人。
(((後少し翔(さん)が目を覚ますのが遅かったら拙がったわね(ですね))))
どうやら後少し眠りこけていたら、翔は大変な事になっていたようだ。