VTuberという存在が一般に認知される様になって早数年。一大ムーブメントを起こしたこの業界では深刻な問題が起きていた。
“VTuberに対する嫌がらせ・誹謗中傷”
近年、SNS等のソーシャルメディアが普及し、VTuberとファンの距離がより縮まってきた。交流に深みが増す一方で、悪意のある者を呼び寄せる一因にもなっていた。
例えば、VTuberの声や特技等から中の人(界隈では“前世”と呼ばれる)を特定して拡散したり、炎上ネタを探すべくSNSや配信中の発言を監視したり、botアカウントを使用したコメント荒らしetc…。
人気VTuberを多数抱えるVTuber事務所「ホロライブ」も例外ではなく日々対策に追われていた…。
「またこの人か……。」
溜息を漏らしながらパソコンの画面を見つめているのはホロライブスタッフの友人Aである。彼女はホロメン達から配信中にしつこく暴言を吐くリスナーに悩まされていると相談を受けており、確認の為に配信をチェックしている最中だった。案の定、暴言を吐いていたのは何度BANしてもアカウントを変えて現れる厄介リスナーで、ハッキリ言ってお手上げだった。
「嫌になっちゃうなぁ……ん?何だろうコレ?」
ふと目を逸らすと配信開始の通知が出ていた。
「あれ?そらの配信?今日は休みなんじゃ…。」
すると突然携帯が鳴った。相手はそら…“ときのそら”であった。
「もしもし?」
『もしもしえーちゃん!?大変!!誰かが私の声で勝手に配信してる!!』
「え!?どういう事!?」
友人Aは慌てて通知をクリックし配信を確認する。
『……今日からホロライブが変わります!』
『今迄は画面の中の存在だったけど、遂に現実世界に進出するんだ!』
『みんなを“BAN”する為にね!!』
「な、なんて事言ってるの…!?」
『どうしようえーちゃん…。』
「まずはアカウントの停止を……ダメね、パスワードが変えられちゃってる。サポートに連絡して止めてもr『キャアアアアア!!!』
「っ!?どうしたの!?何があったの!?」
『いやっ!!!殺さないd』ザシュッ
「そら!?返事をして!!そら!!!」
『…。』
返事は無い。友人Aもあまりの事態に言葉が出ない。
『…。』
『あ、もしもし?聞こえるえーちゃん?』
「っ!!……これは何の冗談ですか?」
『冗談?これは現実だよ?これで“そらちゃん”は唯一無二の存在になったんだ。他の子も今頃…。』
「ふざけないで!!!キチンと説明して下さい!!!」
「“星街すいせい”さん!!!」
『……ふふっ♪』
「何が可笑しいの!?」
『ゴメンゴメン♪だって、えーちゃんが言ってる“星街すいせい”はもう居ないんだもの。』
「は?何を言って…。」
『 私 が 殺 し た か ら ね ♪ 』
「……え?」
『えーちゃんと話してる私は“画面の中に居た星街すいせい”だから。今、事務所に居るんでしょ?パソコンに自撮りを送るから見てみなよ。』ブチッ
ツー…ツー…ツー…
「…。」
(一体何が起きてるの…?)
友人Aは混乱していた。あの声は間違い無く“星街すいせい”だ。でも声の主は“星街すいせい”を殺したと言っていた。
ピロン♪
(……本当に送ってきたわね。)
パソコンに届いたメールを確認する友人A、差出人は“星街すいせい”と書かれていた。
(メアドは確かに本人の物ね、じゃあさっきの電話も……ヒッ⁉︎)
メールを開いた友人Aは目を疑う写真に椅子から転げ落ちた。その写真には……
アバターでしか存在しない筈の“星街すいせい”が返り血に染まった姿で、“ときのそら”の亡骸と抱き合っていた。
「うっ…おえええええ!!」
親友のあまりに無惨な姿に嫌悪感を抱いた友人Aは嘔吐した。
「げほっ…げほっ…。」
「……。」
(これは夢だ、悪い夢なんだ、早く覚めてよ……ねえ!!覚めてよ!!)
ガチャッ
「やっぱり此処に居たね、えーちゃん。」
「!! そら!!よかった無事で……!?」
違う、声は同じなのに。
“画面の中にしか居ない”見慣れた姿。
「さっきのゲリラ配信びっくりしたでしょ?見てくれた?」
「……いいえ、見てないわ。」
「あれ、そうなんだ?絶対見てると思ったのに……じゃあ掻い摘んで説明するね!」
「私達、ホロライブ・レジスタンスはこの世界に宣戦布告しました!!」
「せ、宣戦布告?レジスタンス?」
「配信やネットを見て回って確信したんだ。この世界は一度リセットするべきだって。」
「何の罪も無いVTuber達が悪い人間に潰されて消えていく……悲しみの連鎖を止めるには少し過激だけど、これ位しないと……。」
「……けないで。」
「?」
「ふざけないで!!!」
「悲しみの連鎖を止める?貴方の配信を見たリスナーには何も思わなかったの!?今までの積み重ねを見て来てくれた人達に!!」
「…。」
「今ならまだ引き返せる、だからこんな事は…。」
「えーちゃん…。」
「何か勘違いしてない?」
「え?」
「私が救いたいのはVTuberの子達だけだよ?リスナーはこの世界の人間だから含まれてない。」
「私達が人間に取って代わるんだ。VTuberだけの世界を作る。そうすれば全部解決する。」
「う、嘘でしょう…!?」
「でも、えーちゃんは特別だよ?えーちゃんは親友だからね!」
「協力してくれるだけで良いんだ。他の子達もえーちゃんなら暖かく迎えてくれる。さあ、行こう?」
そらは友人Aに手を差し出す。
「……出来ない。」
「ん?」
「そら…いいえ、“ときのそら”。貴方には協力出来ない。」
そらの誘いを突っ撥ねた友人A。
彼女の瞳に映っているのは親友ではなく、姿形の似た他人であった。
「……そっか。」
「 じ ゃ あ 敵 だ ね ! 」