ルドルフとの麻雀対決に敗れ、シリウス共々出し物の手伝いを命じられてから数週間後。
ついにファン感謝祭当日がやってきた。一年で最もトレセン学園が盛り上がるハレの日である。
府中近隣の住民のみならず、中央に在籍する生徒の親族のほか地方トレセンの関係者、一般のファンまで全国から詰めかけているものだからえらい騒ぎだ。
レース雑誌の出版社から商魂逞しい地元の商工会の方々までもがひっそりと顔を覗かせている。
ふと廊下に目をやると、来客でごった返す合間を縫って腕に生徒会の腕章をつけたウマ娘達縦横無尽に駆け回っているのが見えた。
ルドルフに呼び出しがかからないあたり、実際はただの巡回活動なのだろうが……それにしても忙しいことだ。
「忙しいのは私達も同じです……先程からお客さん、たくさんいらしてますから」
私の頭の中を読み取ったのだろうか。カウンターで珈琲を注ぐカフェが、こちらに目を向けないままそう呟く。
彼女の言葉の通り、ここ執事喫茶『MANHATTAN_Café』は開店早々とんでもなく盛り上がっていた。
他の出し物と比べてもかなり規模が大きい上に、学園でも屈指の知名度を誇るそうそうたる面子が集まっているのだ。
独自のコンセプトはあれどやっていることはオーソドックスな飲食店なので、ある種安牌と思われている部分もあるのかもしれない。誰だって開始早々にハズレを引きたくはないだろう。
「この先もしばらくは人が捌けないだろうね。このまま何事もなくやっていければいいんだけど」
「はい。それに『お友だち』も、おかしなお客さんは追い払ってくれているので……しばらくは大丈夫だと思います……」
忙しいのは間違いないのだが、それでも今のところは目立ったトラブルもなしに運営出来ていた。
これもひとえにエアシャカールとタキオンによる徹底した見積りの賜物だろう。
どこか現実離れしたこの盛況すら彼女達による予測の範疇であり、それに応じた準備を整えていたことからスムーズにやってこれたのだ。
ちなみに肝心のその二人といえば、今はどちらも裏方に引っ込んでいる。
シャカールは先輩と共にキッチンで調理を担当しており、タキオンはキッチンもホールも安心して任せられないのでとりあえず売上確認と在庫管理に回されることとなった。適材適所というものだろう。
「………こちらの珈琲とお菓子、2番のテーブルのお客様にお出しして下さい」
「了解」
カウンター越しに差し出されたそれらを受け取り、慎重に慎重にゆっくりと目的地目指して運んでいく。スマートさの欠片もない、のっそりとした牛歩の歩みで。
釈明させてもらうが、別にこれは私の体幹が弱いからではない。ただひたすらに量が多いのだ。
ラスクにビスケットにパウンドケーキ、クッキーからサンドまで盆に所狭しとぎっしり並べられ、二次元では足りなくなったのかさらに縦にまで積まれている。ポットも通常のものより二回り程大きい上に、限界まで中身が入っているので大変重たい。
その全てを揺らさず運ぶのは最早曲芸の域といっても過言ではないだろう。これはこれで、一つの出し物として披露出来そうな気さえする。
それでもなんとかえっちらおっちらと進んでいると、見かねたルドルフが隣に寄り添ってきた。
「トレーナー君……これまた重そうだね。君もとんでもないものを押し付けられたものだ。こういう時こそ私達に任せてくれれば良いだろうに」
「私の担当だからね。こうまで人が集まってしまうと中々キャストの融通も利かないから」
「とはいえもし転んでしまったら大変だ。その様子では前もよく見えていないだろう。私も手伝わせてもらうよ」
「ああ、助かるよ。ありがとう」
自分の空いた盆に幾つか皿を移し、ついでにポットもひょいと取り上げていくルドルフ。
たったそれだけで、一気に腕にかかる負担も楽になった。カフェはよくこんなものを気軽にカウンター越しに渡してきたものだとつくづく思う。
どこか儚げに見える彼女も、やはりれっきとしたウマ娘の一人ということだろう。
「ほら、トレーナー君。お客さんが私達を見ているよ。はは、君も随分と人気者になったものだ」
「ルドルフが目当てなんじゃないか?正確に言えば私と一緒にいるルドルフか。こっちはあくまで付加価値にすぎないよ」
「それを本気で言っているのだとしたら、君も大概にぶちんだな」
そう言ってルドルフは私越しに視線を流し、そっと微笑んで見せる。その瞬間、ざわついていた女性客の団体が一斉に黄色い声を上げた。
直接声を交わさずとも、その立ち振舞いだけで相手を魅了するのは見事としか言い様がない。とてもじゃないが、見よう見まねで出来るようなものではないだろう。
一通りファンサービスをこなした後、彼女はすいすいと先へ進んでいく。そういえば目的地については説明してなかったような気がするが………まぁ、誰の目から見てもそんなのは一目瞭然か。
私も並んでホールを横切り、入り口近くに設けられた2番テーブルへと辿り着く。
茶菓子の皿が既に目一杯に積み上げられたそのテーブルは、混雑極まる店内においてなお一際存在感を放っていた。というより、皿にのせいで最早座っている者の顔まで隠れてしまっていた。
顔の見えない接客ほどやり辛いものもないが、仕方がないので気持ち大きめに声をかけてやる。
「お嬢様。ご注文の品をお持ち致しました……空いたお皿もお下げ致しましょうか?」
「おん!ほんならお願いするわ。さっきからテーブルが狭くて狭くてやってられへん。なぁオグリ?」
ひょっこりと、皿の横から一人の少女が顔を出す。
丸いポンポンのついた髪飾りとメンコが特徴的な芦毛のウマ娘……タマモクロス。
こちらに負けじとばかりに軽快なダミ声を張り上げているが、その顔がどことなくげんなりして見えるのは気のせいだろうか。
「では、失礼します」
とりあえず許可が出たので皿の山を片付けたいが、そのためには今運んできたものをどうにかしなければならない。
生憎テーブルには置き場の欠片もなかったので、仕方なくルドルフがポットと茶菓子を再び私に預けた後、空になった盆に片っ端から皿を回収していく。
とりあえず乗せられるだけ乗せきった所で、彼女はキッチンの方へそれを運んでいった。
ルドルフが去った後には、だいぶ背の縮んだ山だけが残っている。
あれだけ下げたにも関わらず、まだそれなりに残っている空き皿に囲まれながら、ようやくこちらに気がついたかのようにオグリキャップは私を見上げた。
「む。待っていたぞトレーナー……待っている間にまたお腹が空いてきてしまったな」
「なぁオグリ……ここそういうお店ちゃうねん。菓子だけが目当てでここに来てんのたぶんアンタだけやで。そんなに腹減ってんならそろそろ別の店いこか?」
「しかしタマ、私がたくさん食べればこのお店もいっぱい儲かるのだろう?もうしばらくここにいるべきではないだろうか」
「アホ!アンタのおかげで材料が減ってむしろ困っとるわ!………なぁトレーナー、アンタも関係者やろ?なんとか言うてやったらどうなんや」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てるタマモクロスと、あくまでマイペースに食事に取りかかるオグリキャップ。
らちが明かないと考えたのか、話の矛先が私の方にまで向かってくる。
「私から申し上げることは御座いません。お嬢様方にはこれまで通り、心行くまでお食事をお楽しみ頂ければと」
「せやけどアンタ、こんなペースじゃそろそろ在庫だって底を尽きるんとちゃうか」
「いえ、なにも気を遣われることはありませんよ。予めオグリキャップ様のご来店を見越した上での準備をして参りましたので」
もっとも予想したのは私ではなくあの二人だが。
オグリキャップのためだけに用意しておく材料の数を当初から倍近くまで増やしていたので、むしろ食べて貰わなければ困る。
予想通り彼女がこの店に顔を出した瞬間には、安堵で思わず涙すら出てしまいそうになった程だ。流石に一番乗りしてくることまでは予想出来なかったことも含めて。
なんだかんだ言いつつも、心の片隅では気にかかっていたのだろう。
私の言葉に安心したように頷いたオグリは、早速私の淹れた珈琲に口をつけると、新しいパウンドケーキの皿に指を伸ばす。
その様子を、感心しているのか呆れているのかよく分からない表情で見守るタマモクロス。
「なるほどな、アンタらなりにちゃあんと考えとったわけか。せやけどこの出し物の趣旨からは思いっきりかけ離れとるやないか」
「所詮コンセプトの一つに過ぎませんから。楽しみ方は人それぞれで御座います。タマモお嬢様」
「あとその喋り方気持ち悪いから止めぇや。いつも通りでええねんいつも通りで」
「えぇ…………」
ひどい。この執事喫茶の存在意義を真っ向から否定している。それなら彼女は一体なんのためにこの店を訪れたのだろうか。
ただ……正直なところ、自分でもやってていい加減キツいと思っていたところなので、むしろ丁度良かったかもしれない。
執事らしいキャラ作りも全く求められないし、配膳の難に目を瞑れば彼女達の担当で良かったと思う。
そんな後ろ向きな私の考えを嘲笑うように、背後でわっと爆発するような歓声が響いた。
「うん、なんだ?」
振り向くと、部屋の反対側で優雅に珈琲を淹れるルドルフの姿。その隣で、恭しくシリウスが腰を折っている。
彼女達を取り囲んで悲鳴を上げているのは……恐らくシリウスの取り巻き達だろう。普段は尊大なリーダーとそのライバルが揃って自分達に傅いている現実に思考が追い付いていないらしい。陶然とした表情で声にならない声を上げている。
さらにそれを取り囲むようにして、他の来客も一心不乱に各々のスマホやウマホのフラッシュを炊いている。その中には生徒会の腕章をつけている者までいた。
「ははっ、相変わらずどえらい人気やなルドルフ。それにシリウスもな。見てみいトレーナー。普段あんだけあの二人に突っかかってる連中が骨抜きやで。さながらこの店のエースっちゅうわけか」
「この店にエースなんていないよ。それぞれの魅力を極限まで伸ばしてるようなウマ娘ばかりだからね。その証拠に………ほら」
タマモクロスの後ろを指で示す。
彼女が振り返った先には、同じく給仕に勤しんでいる二人の執事服のウマ娘……フジキセキとシービーの姿がある。
片やエンターテイナー、片や演出家を名乗るだけあって、彼女達の動きはどこか芝居っぽさがある。ただしそれは決して現実から浮いたものではなく、むしろ現実を自分達の色に染め上げているかのようだ。
確かに二人にはそれぞれこういった、自らの動きで場を支配する異才のようなものがあったが………それが相乗するとこうなるのか。まるで舞台の上でスポットライトでも当てられているかのよう。
そんな彼女達をこれまた大勢の客が取り囲んでいるが……それらはルドルフ達の囲いとは反対に、ほんの少しも声を漏らしていない。ただただ無言で食い入るように執事の所作に見惚れている。
冷静に遠くから見れば、いっそ不気味とすら思えるほどの静寂。タマモクロスが見落としたのも無理はないだろう。
「あの…………」
そう外野からスター達の活躍を見守っていたところ、不意に後ろから執事服の裾を引っ張られた。
振り向くと、そこにはウマ娘の少女が三人。
服装を見るにこの学園の生徒ではないのだろう。それぞれウマホを手に提げながら、興味津々といった様子で私の顔を見上げている。
私の担当はこのテーブルとはいえ、彼女達もまた大切なお客様であることには変わりない。
膝を折り、三人と目線を合わせて返事をする。
「はい。私にどのようなご用でしょうか。お嬢様」
「あの!私達ずっとシンボリルドルフさんのトレーナーさんのファンでして……ですので、一緒に写真を撮ってくれませんか!」
「ええ、もちろん構いませんよ。いつも応援ありがとうございます」
「ははは!なんや、トレーナーもモテモテやな!おっかないなオグリ……この面はとんだ人たらしの面やで。アンタもうっかりしとるとガァブッと食われちまうから気ぃつけぇや、な?」
「ん、む?……ふんふん」
ここぞとばかりに背後から飛んでくるタマモクロスの冷やかしと、それを意にも介さず食事に取りかかるオグリキャップ。
一先ずそれらは置いておいて、三人のウマ娘達の中心に収まる形で一つにまとまる。
自撮り棒は携帯していなかったため、画角の都合上どうしても収められる範囲は狭くなる。故に、こうしてある程度密着してしまうのも仕方ないというものだろう。
「……………………………………………」
だからルドルフ。無言で抗議してくるのは止めてくれ。
視線をこちらにやらず、それどころか身体すらこちらに向けず、私にだけ伝わるようプレッシャーをかけるとはなんと高等な技術だろうか。どこで習得したんだ、それ。
どうせ怒られるのならいっそとことんまで突っ切ってしまおう。そう割り切って私は笑顔を作る。
「はいチーズ、321……はい、ありがとうございました~!」
あまり長く拘束するのも悪いと遠慮してくれたのだろうか。
彼女達は一枚だけ写真を撮ったあと、きゃいきゃいと色めきながら自分達の席へと帰っていった。
それを見送ったあと、再び自らの担当へと向き直る。
相変わらずニヤニヤと、まるで友人の告白を覗き見した後のような悪戯な笑みを浮かべているタマモクロス。私と目があった瞬間、より一層その唇の端を吊り上げて見せてくる。
なんとなく分かった気がする。彼女はまさにこういったネタを期待して店に来たのだろう。それでいてなにも言わず、ただただ私を眺めているだけ。
それから目を逸らすのも負けた気がして癪なので、私の方からもなにも喋らず彼女の瞳を睨みつけてやる。
「おかわり」
かたん、とオグリが最後の皿を空にした音だけがテーブルに響いた。
◆
「ありがとうございました」
深々と腰を折り、タマモクロスとオグリキャップが揃って店を後にするのを見送った。
まさしく当初の見積り通り、オグリは彼女以外の全ての客の食事の総量を一人で平らげた。一つ一つは小さな茶菓子とはいえ、明らかに彼女体積を上回っている量の筈だが、それについて考えるのは意味が無さそうなのでやめておく。
タマモクロスは珈琲一杯とラスクを二枚目摘まんだだけだった。ただでさえ少食なうえ、オグリの暴食を目の前で見たことで腹が一杯になったらしい。彼女にしてみれば、私をからかうネタが一つ手に入った時点で満足なのだろう。
さて、客は彼女達だけではない。
早く次のテーブルに向かわなければ。
そう気持ちを切り替え、入り口からホールを見渡す。
そこでようやっと、私は店の中で起きている異変に気がついた。
「多いな………」
……客が、多い。多すぎる。
余裕をもって寛げる空間にしたいというカフェの意向に沿って、私達は基本的に客同士が隣り合わないように案内している。
それぞれ座っているテーブルの間に一つ、空のテーブルが挟まる形だ。
勿論、来客の人数によってはその限りではない。混雑してきた場合にはやむを得ず隣り合わせて座らせるマニュアルにはなっている。
しかし、だからといって空いてるテーブルが一つもないなんてことはあり得るのだろうか?既に客が溢れ、タキオンが整理券を発行している始末。
開店から数時間経っており、本来なら一段落ついてる筈の頃合いなのに。
「おい。すまないが、一つ頼まれてくれないか」
呆気に取られて見渡していると、不意に先輩に肩を叩かれる。
困ったように、申し訳なさそうに眉を下げて私の顔を覗き込んできた。本来キッチン担当でホールには出ないと宣言していた彼がわざわざ顔を見せるあたり、猛烈にイヤな予感しかしない。
「なんですか、先輩。ここはキッチンじゃありませんよ」
「分かってる。そう嫌な顔をするな………いや、いくらでもしてもいいからある客を体よくさっさと追い出して欲しいんだ。つい先程来たばかりの客だ」
「そんな厄介な客ですか?そういった連中はカフェの『お友だち』が追い払ってくれる筈ですが」
「心配いらない。別に暴れているわけでもなく普通さ………今のところは。ただ厄介なのは間違いない。なにせ『お友だち』でも対処できないんだから」
「いや、そんな化け物私だって歯が立ちませんって!先輩のチームの店なんだからそっちで対処して下さい!」
「俺達が向かった所で却って火に油注ぐだけだ。去年のがあるからな。お前が一番穏便に対処出来るだろう………頼んだぞ!商品は全部タダにしていい。程々に満足させて早々に帰らせろ。あとこれを持っていけ」
「分かりましたよ………テーブル番号は?」
「7だ。といっても、見れば一発で分かるだろう」
無理やりインカムと珈琲のポットを持たせられ、グイグイと背中を押されながら追いたてられる。
先程オグリへ提供したものよりもさらに大きめのポット。これが尽きるまでに帰らせろというメッセージだろう。
インカムを耳につけ、ポットを手で抱えながら目的のテーブルを目指す。
この店の一桁番号のテーブルは、全て壁沿いに配置されている。7番は確か部屋の最奥……開口窓を出た先のテラスにあったはずだ。そう頭の中で整理しながら、私はホールを真っ直ぐ通過する。
その途中、客の退いたテーブルを拭いているシービーとかち合った。
「あ、トレーナー。暇ならこっち手伝ってくれないかな?」
「ごめんシービー。ちょっと別の客の対応を押し付けられることになった。どうしても人手が必要ならタキオンを呼んでくれ」
「いや、流石にそれは………保健所が来ちゃうって。それはそうと、念のためセキュリティでも呼んでおこうか?」
「まだそこまでする必要はない………と思う。一応こっちにもウマ娘は揃っているわけだし、時間稼ぎぐらいなら出来るだろう。もし何かあったらインカムで呼び出す」
「分かった。一応ルドルフにも伝えとくね」
拭き終わると、そのまま空いたばかりのテーブルに客を誘導するため入口へと向かっていくシービー。
その背中を見送った後、私は開口窓をくぐってテラスへと出た。
そこには誰もいない。
テラスは広く、十を越える数のテーブルが余裕を持って並んでいる。しかし誰も座っていない空きテーブルだ。
なるほど、ここに客を案内しなかったからホールがあそこまで詰まっていたのか。だとしても何故。
「…………ん?」
いや、違う。
この開口窓から一番遠いテーブル……7番。テラスの隅っこに据え置かれたその席に、一人だけ誰かが座っている。
だらんと椅子の背もたれにもたれ掛かり、体重で傾けて二本足で立たせている。その両足は無造作にテーブルの上に投げ出されていた。
ほとんど水平に近い格好であったために、対面であるこちらからは見えなかったのだろう。
なるべく相手を刺激しないように、なるべく動きを小さくしつつ真正面から接近する。
テラスを半分ほど横切ったあたりで、私の存在に気づいたらしく足を下ろして身を起こす。そのまま今度は体を横に傾けると、不遜な態度で両足を組み頬杖をついてこちらを見上げてきた。
近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてくる。
マンハッタンカフェに酷似した容姿。ただしその流星だけは先輩に似て、まるでミルクを溢したかのように青鹿毛の上で踊っている。
身長は低く、長い髪を腰まで流していた。前髪も同様に長く垂らされており、その間から爛々とした金色の瞳が舐めるようにこちらを覗く。
裂けるように吊り上がった唇の間から鋭く白い歯が姿を現しており、満月のような瞳孔と相まって凄まじい凶相と化していた。
彼女は頭頂部に一対の耳を生やし、尻尾を携えるウマ娘と呼ばれる生き物。
しかしその姿はどこか大鴉を彷彿とさせた。それも何千年と生きることで、この世あらざるものへと変性した魔物。
………ついでに、昨年のタキオンの出し物を壊滅させた張本人でもある。
今年も来るとは予想していたけれど、その結果についてはまるで予測出来なかった。オグリの食事量を完璧に弾き出したあのシャカールとタキオンですら。
今年こそは台無しするわけにはいかない。とりあえず、こういう時は手っ取り早く誰かを槍玉に上げるのが鉄板だろう。
「自分の母親を厄介客扱いして隔離したうえに、その後始末を弟分にやらせる度し難いトレーナーがこの学園にはいるみたいですよ。どう思います………お嬢様?」
これでもかと不服を込めた切り出しに、ほんの少しだけその口角が吊り上がった。
ちらちらと、まるで暖炉の火が踊るように金色の瞳が揺らめく。
「気持ち悪い呼び方してんじゃねぇよクソガキ。俺のことはこう呼べっつってんだろうが………"サンデーサイレンス様"ってな」
誇らしげに自らの名をそう歌い上げて。
くつくつと、彼女は私を嘲るように笑った。