トレセン学園の購買は、ちょっとしたコンビニ程度の規模がある。いや、品揃えという点では凌駕すらしているかもしれない。
外出に制限のかかる生徒達を慮ってのことだ。日頃から生徒の出入りがあるためともすれば忘れてしまいそうにもなるが、学園の外に一人で出掛けるときは、予め事務室に申請書を届け出なければならない。基本的に敷地内で寮生活を送るものであり、また芸能活動を行う以上一般の学生にはない危険も抱えているからだ。居場所は管理できないとしても、せめて学園の中にいるのかどうかは把握しておく必要がある。
もっとも、届け出といっても精々学年と名前、毛色、外出目的を記入する程度の簡易なものではあるが。記載内容に明らかな間違いや空白でもない限り、認められないことはまずない。とはいえそれすら面倒くさいと考え引きこもりたがる子もいるにはいるし、届け出が許可されずいつまでも学園から出られないといったケースも理論上はあり得るので、こうして学園内部まで物資を調達してくる必要に迫られるのである。
食糧、衣類、化粧品から小物に生理用品といった生活必需品だけでなく、菓子をはじめとした嗜好品まで。簡単なカードゲームとかボードゲームまで揃えていたりもする。
それだけでなく、地方出身者も多いことから定期的にご当地フェアなんかも行われていたりするし。またそれぞれの季節や特別な日に合わせた商品を販売することもある。あるいは店員の気まぐれなんかでも。
「うわっ……また凄いことになってるな……」
15時を過ぎた頃、珍しく午後の業務があらかた片付いた私は、校舎一回にある購買へと足を運んでいた。この後生徒会に顔を出すつもりであり、その時にルドルフ達に差し入れでも持っていこうと考えたからである。
購買の敷地内に足を踏み入れた瞬間、視界いっぱいに埋め尽くされるポッキーの箱、箱、箱……。数だけでなく、よく見ればその種類も凄まじい。通常見かけるようなバリエーション違いは当たり前のように揃っているし、それだけでなく全く見たことがない……恐らく地域限定ものの商品まで。さながら資料館か博物館のような様子を呈している。ここはポッキーの生産工場の中の購買かなにかだろうか。私も実際に行ったことはないのでよく分からないが。
「圧巻だろ?これでもだいぶ減った方なんだよ」
「うわぁ……こんにちは先輩」
ポッキーの山を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、アグネスタキオンのトレーナーが膝から上までピンクに輝いている。この人もまた凄いことになっているな。
細身で背が高く足の長い彼がそうして光っている様は、まさに目の前にあるイチゴ味のパッケージを彷彿とさせた。この購買の様子に感化されたのだろうか。成る程、あの内向的なマッドサイエンティストにも意外とミーハーなところがあるらしい。
「なにがうわぁだ。俺が好き好んでこんな姿してると思ってんの?」
「いえ、思っていませんが……というかだいぶ減った方ってなんですか?これで?どう見ても発注ミスとしか思えませんが」
「なら値段の方を見てみろよ。な?」
「………あぁ、本当だ」
そこらのコンビニの値段と全く同じ。これだけの量を前に投げ売りをするでもなくこの価格とは、かなり挑戦的だと言う他ない。
「去年はあっという間に枯渇したからな。だから今日の朝なんてこれの倍以上の量があった」
「ウチの生徒、二千人しかいませんよね?」
「トレーナーコースの実習生なんかを入れたらもっと増えるだろ。それに、買ってくのは別に生徒だけじゃないからな。一人一箱ってわけでもない」
「確かに……だとしても、なんでよりにもよって今日こんな大量に」
「いやいや……お前、今日がなんの日か分かってないのか?日付だよ日付」
「日付?……あぁ、言われてみればそうでしたね」
今日は11月11日。世間では所謂『ポッキーの日』などと称される日付であり、それになぞらえてポッキーゲームとかいう遊びが流行る日だ。流行りに敏感な年頃の少女達が集まる学園なだけあって、それはもう飛ぶように売れるのだろう。
「言われてみればって……ポッキーの日以外になにかあったっけか。それともお前にとって特別な意味でもあるのか?」
「私にとってというより、私とルドルフにとってですね。菊花賞です」
「……あぁ、そういえばそうだったな。にしてもポッキーの日より先に出てくるとは、トレーナーの鑑だな」
そりゃ、部外者からしてみればそうかもしれないが。私達二人にとっては忘れたくても忘れられない日付である。これで真っ先にポッキーの日が出てくるようでは、ルドルフにはっ倒された所で文句は言えない。
まぁ……それでも、流行りに乗っかってみるのも悪くないだろう。タキオンのことをミーハーだとか言っておいてなんだが、私もこういったお祭りの雰囲気は好きなんだ。
とりあえず普通のチョコ味を三つとってカゴに入れておく。あの三人の菓子の好みについてはよく分からないが、一般的なものであれば間違いはない筈だ。
「あ、先輩。この後私とも一発やりません?」
「やだよ。男とイチャつく趣味なんてないし。それにお前とそういうことするとタキオンが怒る」
「………男なのに?」
「だって見た目がなぁ……うん、誤解を招くでしょやっぱ。いくら大人同士と言ってもな。ああ、タダでくれるってんなら貰っとくよ?勿論お前の支払いでな。あとゲームはやんない」
「ですよね……私だってやりたくありませんし。先輩に近寄ると眩しくて目が潰れますから」
「なに、拗ねてんの?」
「拗ねてませんよ。ただ、ここまでばっさりいかれるとは思わなかっただけです」
「面倒くささならタキオンとタメ張れるよ、お前」
そういう余計な一言が巡り巡ってタキオンのミミに届くから酷い目に会うんですよ、先輩。
……なんて言える筈もなく、私はさっさと会計を済ませるためにレジへと向かった。先程の言葉は嘘ではない。本当に、彼の近くで会話を続けたことで頭の奥がクラクラしてきている。次からは、もう少し目にマシな光……柔らかい緑色にでもしたら良いと、タキオンに進言でもしておこう。
◆
コンコンと軽くノックをした後、私は生徒会室のドアを開ける。
中に入ってすぐ目の前には、机を挟んで対面に据え置かれた高級そうなソファがあるが、そこにいつもの三人が腰かけていた。私から見て右手にルドルフ、左手にエアグルーヴとブライアンといった配置。机の上には資料とノートパソコンが広げられ、奥の方には購買の袋が転がっている。
「失礼する。三人とも、根詰め過ぎてはいないだろうね」
ルドルフは言わずもがな、エアグルーヴも放っておくとかなり無理をしてしまうタイプだ。ブライアンはそのあたりの調節が上手だが、一方で必ずしもストッパーになるとは限らないため、こうして度々様子を見に来る必要がある。
「……ああ、トレーナーか。もうこんな時間だったとはな」
私の声かけからやや遅れる形で、エアグルーヴが返事をくれる。二、三度目をしばたかせ、目頭を軽く押さえているあたりやはり疲労が溜まっているらしい。
とはいえ、そのことは他でもないエアグルーヴ本人が一番良く分かっているらしく、どうやら休憩をとることに決めたようだ。
「会長、編集は一旦切り上げましょう。三時間毎に休憩をとると今朝約束したばかりでしょう」
身を乗りだし、キーボードを叩くルドルフの肩を揺さぶるエアグルーヴ。流石副会長なだけあって、会長の無理を見越した約束を取り付けていたらしいが、しかし肝心のルドルフは従おうとしない。
「ん………分かったエアグルーヴ。あと少し、あともう少しだから……」
「なにも分かっていないじゃないですか。会長!!………ルドルフ!!」
「ん、んんぅ…………」
………駄目だ、これは。完全に自分の世界に入ってしまっている。エアグルーヴは頭を抱えてしまい、ブライアンに至っては初めから無理だと決めつけているのか二人の方を見向きもしない。
もともと、二人が加わる以前は一人で生徒会を切り盛りしていた彼女のこと。『あの頃と比べれば』という考えが頭の片隅にあるのだろうか。エアグルーヴや他の生徒会の生徒との交流の結果、自らを酷使する働き方もだいぶ改善されてきたように思うが、それでも時々こうして入れ込んでしまうことがある。
単純に人手が増えた以上、負担が減ったのは間違いないだろうが……そのぶん休憩を削ってしまうようでは元の木阿弥。エアグルーヴの助けを求める視線に従って、私はルドルフの隣に腰掛ける。
「ルドルフ。もう午後の三時だよ……きっちり休む時は休む。エアグルーヴと約束してたんだろう?守らないと」
「うん……トレーナー君。でもあと少し、あともう少しだから……」
………親にテレビゲームを止めろと叱られた小学生かな?しかし彼女の場合はそんな甘いものではない。職業病と言ってしまえばそれまでだが、実際この悪癖のせいで寝不足でトレーニングに支障をきたした前科もあるわけだし。ここはトレーナーとしても見過ごせない。
しかしどう止めたものか。とりあえず、膝の上でゆらゆらと揺れる尻尾を掴んでしごいてみる。
「………………………………」
おぉ、凄い。普通、ウマ娘はこうして尻尾を弄られると悲鳴を上げるものだが。ルドルフは悲鳴どころか眉一つ動かさない。大した精神力ではあるが、あまり褒めてばかりもいられないだろう。
「ほら、ルドルフ。差し入れも持ってきたから皆で食べようか」
「ん……トレーナー君、君が食べさせてくれないか」
試しに食べ物で釣ってみようと購買の袋を掲げて見せたものの、返ってきたのはこの返事。強情な奴め。
作業を中断するまでお預けとしてやっても良いが、そうしたところで彼女が態度を翻すこともないだろう。ならいっそ、お望み通りにしてやってもいいかもしれない。それでなにかが変わるというのであれば。
ピッと袋の口を破り、中からポッキーを一本取り出す。それを横からルドルフの口の中へ、ゆっくりゆっくりと差し込んでいった。
ポリポリとそれを削っていくルドルフ。口に送りこんだ時点で私の役目はおしまいなのか、咥えたポッキーを一人で噛み砕きつつ口に含んでいく。しばらく頬を膨らませてモゴモゴとさせた後、ごくんと彼女の喉が上下するのが分かった。
「…………………………」
私は無言で袋から二本目のポッキーを取り出し、再度ルドルフの口に差し込んでやる。全く先程と同じ動きでそれを咥えこみ、咀嚼し飲み込んでいくルドルフ。
彼女の表情は微動だにもしない。感想を述べることもなければ、続きを催促してくるようなこともない。ここで私が食べさせるのを切り上げたところで、きっと彼女は文句すら言わないだろう。そもそもその事にすら気付かないかもしれない。
たまたまそこにあったから食べた。なにか差し出してきたから咥えた。そんな彼女の様子は、不謹慎にもどこか可愛げがあった。
「ふふ……………」
「おい、貴様。まさか楽しんでいるわけではあるまいな?」
「ソ、ソンナコトナイヨ……!?」
まるで学園で飼育しているウサギに似ているなぁだとか、そういえばあのウサギも葉っぱをやるとこうしてモゴモゴ食べていたなぁだとか、そういう不埒なことを考えていたわけではありません、副会長。
しかしなんというか、こうして手渡しで食べ物を与えられる様が妙に堂に入っているというか……ひょっとしたら、前世のルドルフは牧場か何処かで飼われている動物だったのかもしれない。もしそうだとしたら、きっと沢山の人に愛されていたんだろうな。
「……なら、どうして先程からそんなにニヤついている?」
「え?」
指摘されて、口の周りをペタペタと探ってみる……本当だ。自分でも気付かないうちに、邪な内心が顔に出てしまっていたらしい。やはり滅多なことを考えるものではない。
しかし、どうして……か。ひょっとしたら、これを上手く使えばルドルフの集中力を切り崩せるかも。
「いや……なんでもない。少し、この間のことを思い出してしまってね」
「それは一体なんのことだ?以前にも会長とこういったことをした経験があるのか?」
「あるけど、今言っているのはそのことじゃなくてね……実は、前に休みを使って樫本さんと二人で牧場に行ったことがある」
「…………ほぅ」
すぅっと、細められるエアグルーヴの眼差し。場の温度がやや下がった気もするが、どうやら興味津々らしい。
樫本理事長代理……もとい今は樫本トレーナーだったか。元URA幹部かつ現中央ベテラントレーナーという、つまり私から見てとても偉い人のことである。なんでそんな人とわざわざ牧場になんて行ったんだったか……確か、割引券の消化だったな。牧場にも割引券があるというのは中々意外に感じた記憶がある。
「そこで、何頭か牛を見て回ってね……それから飼育員さんに勧められて餌をあげたんだ。餌といっても乾草とか稲とかだけど……こうやって口元に差し出してやるとムシャムシャ食べてて可愛かったんだよ」
「ほぉ………つまり貴様は、会長が牧場の牛と同じに見えると?」
「別にルドルフが牛だと言いたいわけじゃないけどね。ただ、そういう連想が出来ると思ったことを言ったまでだよ」
さぁ、どうだ。ルドルフに秘密で樫本さんと二人きりで牧場で遊び、おまけに彼女と家畜の牛が似ているなんていう私の暴言。いつもの彼女であればかなり堪に障るに違いないが。
「……………駄目か」
全く。こちらに見向きもしてくれない。ウマミミや尻尾にすらなんの反応も顕れていなかった。怒る怒らない以前に、そもそも会話の内容が頭に入っていなかったらしい。
それよりも先程からエアグルーヴがやけに不機嫌なのが気にかかる。やはりいくらトレーナーとはいえ、敬愛するルドルフを牛呼ばわりするのは不味かったか。
「そうかそうか。私達がチームファーストとの決戦に備えて一丸となって練習に励んでいる最中……トレーナーであるはずの貴様は、こともあろうに相手の首魁とデートに興じていたとはな。失望したぞ」
「いや、デートというか……そもそも首魁じゃなくてただのトレーナーだし。理事長代理だからただのじゃないか。それに私は君たちを信じてたよ。シービーとルドルフ、エアグルーヴとブライアン、マルゼンと……それにオグリ。まぁ、勝てるよね」
「このたわけ!!勝ち負けの問題ではない!!そもそも貴様には、チームのトレーナーとしてあるべき姿がだな……」
「……おい、トレーナーと副会長。そんな下らんこと言い合ってる場合なのか」
いきり立つエアグルーヴに横槍を入れる形で、ブライアンが脇から口を挟む。ソファの背中に腕を回し、ぐでっと顔を反らしながら咥えた葉っぱで時計を指し示した。
「三時半だ……トレーナーが来てからもう三十分経っている。休憩させたいならさっさとルドルフを起こしてやれ」
「ブライアン。貴様も見てないで少しは手伝ったらどうだ。この状態の会長がテコでも動かないことは知っているはずだ」
「知っているから動けないんだろう。私にはどうすることもできん……どうにかできるのはトレーナーだけだ」
なぁトレーナーと、瞳だけ動かして私を睨んでくるブライアン。心なしか彼女も機嫌が悪そうだな。
しかしまぁ、ブライアンの言うとおりこのままでは埒があかない。ルドルフのことだ。休憩時間を経過してしまえば作業を中断させることはほぼ不可能だろう。
「………仕方がない。気は進まないが、"奥の手"を使うことにする。二人は先に食べていてくれ」
「そうか。分かった」
「いや、私は待つことにする」
促されるまま差し入れのポッキーに手をつけるブライアンと、とりあえず私達を待つエアグルーヴ。こういったところでも、二人の性格の違いが如実になるのは面白い。
とりあえず、私は袋から残りのポッキーを全て取り出し一つにまとめる。先程とは比べ物にならないほど太く大きくなったそれを、おもむろにルドルフの口へとあてがった。
「ほらルドルフ。あ~ん」
「……………あ~」
「それっ!!食えっ!!!」
「むごっ??!!」
突然想像以上の太さの物体を突っ込まれ、目を白黒させるルドルフ。頭の理解が追いついていないのか、反射的にムシャムシャと食べ進めていく。
ポッキーの束のうち、チョコの部分が半分近く削られたところで……私はルドルフの口からそれを無理やり引き抜き、今度は自分の口に放り込んで見せる。
「え……な、ぇ……トレーナー、君……!?」
「もごもご」
呆然とし、次いで顔を朱くするルドルフの目の前でゆっくりとそれを咀嚼し飲み込んだ。クッキーの欠片がかなりパサパサしていてキツイ。自分からやっておいてなんだが、よくルドルフはそんなあっという間に飲み込めたものだ。やはりウマ娘なだけあって、飲み込む力も人間を凌駕しているのだろうか。
「トレーナー君……そ、それは私の食べかけだぞ……!?それを君が口にするだなんて……」
「ポッキーゲーム」
「……………は?」
「だから、ポッキーゲームだよ。ルドルフ」
まぁ、ポッキーゲームはこんな遊びじゃないわけだが。とはいえポッキーを使ってドキドキさせるのだから、そう間違っているものでもないだろう。たぶん。
ルドルフは暫くの間、唖然とした様子で私の方を見つめていたが……やがて目を反らし、パタンとノートパソコンを閉じた。
「あ、ルドルフ。やっと休憩する気になったのか」
「ああ。すまなかった……約束したにも関わらず、ついつい熱が入ってしまったよ。だから、そのお詫びとして………」
私の手元から菓子の箱をかっさらい、もう一つの袋を開封する。中からポッキーをごっそり取り出すと、私の顎をがっちり摘まんだ。
「………私が君に、本物のポッキーゲームについて教えてあげよう!!」
「や、約束したのはエアグルーヴなんだから、お詫びなら彼女の方に……」
「はい、トレーナー君。あ~ん」
「無理無理、そんな太いの入らなっ……むごっ??!!」
頭をがっしりと押さえ込まれ、口の中に先程のものよりさらに太いものが捩じ込まれる。私に突っ込まれたのはチョコのかけられた側。反対側の、クッキーの剥き出しになった部分に口を近づけていくルドルフ。
「会長。ポッキーゲームとはそのような遊びではなかったと記憶していますが……」
「ポッキーの端と端を男女が咥えこみ、お互いに両方から食べ進めていく……まさにこのことだろう?さぁトレーナー君。一年ぶり三回目の菊花賞といこうか」
「え……まさか会長とトレーナーは、これを毎年やっておられるのですか……?」
「むぁう、むーむ!!」
ドン引きした顔のエアグルーヴと、我関せずとポッキーを齧るブライアン。
違う、そんなわけあるか!!去年も一昨年も、ちゃんと本来のやり方でやっていたのに!!
「さて、それでは……始めようか。トレーナー君」
「むむひへ!!うおうふ」
「ふふっ!!……無駄だよ……」
私の抵抗なんて歯牙にもかけず、もう一方の端を咥えて食べ進めてくるルドルフ。うわっ、思っていた三倍ぐらい食べるのが速い。口いっぱいのクッキーに悪戦苦闘している間に、既にお互いの前髪が触れあう程にまで顔が接近している。
情緒もへったくれもないポッキーゲーム。二つの意味で胸がドキドキしている。たまらず棒を折って難を逃れようと試みるが、太さが太さ故に中々噛みきることすらできない。
「むぐぅ……!!?」
結局、あっという間に私達の唇は触れ合って……大半を、ルドルフに食べられてしまう結果に終わった。
「はい、私の勝ち。これで三年連続で私の勝利だな……ご馳走さま、トレーナー君。お味はどうだったかな?」
「あ、甘かったです……」
「ふふ、そうだろうね」
勝ち……そういえば、ポッキーゲームに勝ち負けのルールなんてあったっけ……?どうにもルドルフは、より多くのポッキーを食べた方が勝ちだと認識しているらしいが。
「さて、それじゃあトレーナー君。三回戦を始めようか……そんな顔しなくても、次こそはちゃんとまっとう・・・・にやるさ」
「だけど、私が持ってきたのはこれで全部だよ……」
「問題ない。君だって、あの購買の様子は目にしただろう?私達がアレを買い求めていないというのはおかしな話じゃないか。お菓子なだけにね」
ふふっと笑いながらルドルフは机の奥にある袋に手を伸ばすと、その中身を取り出して見せる。色とりどりの箱。言うまでもなく、それらの中身は全てポッキー。
そのうち一つを開封して、ルドルフはゆっくりと私をソファに押し倒した。
「さ、トレーナー君。今度は君の未勝利戦を始めようか」
「………………はい」
「……おい、私達はあと三十分も目の前でコレを見せられ続けるのか?」
「三十分ではない。一時間だ……会長は、休憩は毎回一時間とると約束されていたからな」