シンボリルドルフに逆らえないトレーナー君の話   作:くまも

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シーシュポスの岩

 

びゅうっと、地下駐車場の中を一陣の風が抜けた。

 

出入口から吹き込んだものだろうか。ぶわりと、目の前に佇むシービーのコートを膨れ上がらせる。

やや冷たさを孕んだ卯月の夜風。彼女にとっては少々肌寒かったのだろう。ぶるぶると、その全身を激しく震わせる。

同時にさらさらと流れるように揺らめいた艶やかな長髪と尻尾が、天井から降り注ぐ蛍光色の灯りに照らされて幻想的に輝いた。それは同性の私から見ても、思わず息を呑む程に蠱惑的で優雅な美しさだった。

 

「シービー……どうして君がここに」

 

私を抱き寄せていた手を離し、さらに数歩こちらから距離をとって彼女に声をかけるトレーナー君。

平静を装ってこそいるが、内心動揺しているのは明らかだった。先の話し合いのことも念頭にあるのだろう。ここで私とシービーのどちらかが、あるいはどちらも掛かってしまうことを警戒しているのか。

 

いくら私たちとはいえど、流石にこのような公共の場で暴れまわるような考えなしではないのだが。

事実、シービーと共に彼の寮部屋に宿を借りてから既に一週間になるが、あの部屋で事件を巻き起こしたことは一度たりともない。そもそも美浦の寮部屋を破壊したことについても、双方ともに意図的ではなく不運に不運が重なったアクシデントだったのだから。

まぁ、アクシデントとはいえ結果としてあのような惨事に至った以上、最初から言い訳を許される立場でないことは理解しているのだけれども。

 

「いやー、あわよくばアタシもタダ飯にありつけたらなって……なんて、言い訳する必要もなさそうかな。あの子がいないみたいだし」

 

「ビゼンニシキのことか」

 

「うん。経緯は知らないけど、ここにキミたち二人だけってことはバレちゃったんだね」

 

残念だったなー、なんて嘆息とともに呟くシービー。

白々しい。ビゼンニシキの正体が露見するのも最初から折り込み済みだったから、わざわざここまで自ら足を運んだのだろうに。

バッグを肩から提げつつ、後ろに手を組んでゆらゆらと左右に身体を揺らすその姿からは、計略が破綻した焦りのようなものは微塵たりとも感じられない。

しかしそれは、まだ他にも手があるからこその余裕ではなく、最早なにもかも面倒になったが故の投げやりの仕草であるように思えた。

 

「あまり彼女を怒らないであげて欲しい。そもそもそれを見抜いたのは、私ではなくトレーナー君だったのだから」

 

「言われなくとも。むしろしょっぱなから個人的な仕事を任せてこっちが申し訳なく思ってるぐらいだし」

 

それでもビゼンニシキの方は、その仕事にえらく乗り気だったような気もするが。

顔合わせ初日からやたらノリが良かったのもそのせいか。やはり、彼女に対する認識と対応を大きく改めねばなるまい。

 

「まぁ、あのこの子とはひとまず置いといてさ。アタシもキミと少しだけお話ししたいことがあるんだよね」

 

身体を揺らすのをやめ、震えた際にズレた帽子の位置を整えながら、シービーは真っ直ぐ私を見つめてそう切り出した。

この状況で、私に対して切れる手札というのは自ずと限られてくる。彼女の誘いに応じるのは構わないが、そのためにはまずトレーナー君をどこかにやらなければ。

 

「トレーナー君。私は彼女と二人きりで話がしたい。すまないが先に帰っていてくれ」

 

「そうなると、ここから君たちはどうやって帰るつもりなんだ」

 

「電車なりタクシーなりを使うことにするよ。ああ、決して一人で帰ることはしないから安心して欲しい」

 

いざとなれば、ここからなら徒歩で学園まで戻るのも可能なのだが。

ただ、シービーはともかく今の私の格好は到底走るには向いていない。それに彼の性格からして、私たちが夜道を一人で行くのは間違いなく反対するだろうから、こう答えておくのがベストかな。

 

「……分かった。なら、車で待ってるから二人とも早く終わらせて戻ってこい」

 

ああ、そう来るか。

本当に心配性なことだ。肉体的な強度でいえば、私たちよりもトレーナー君の方がはるかに危険が多いというのに。

彼に限らず、ヒトという生き物はなにかと自身の肉体的基準を無意識にウマ娘にも当てはめがちだ。もっともこれは逆についても成り立つので、異なる種族における感覚の違いの問題だろう。

 

「了解。んじゃ行こうかルドルフ。ここだとなんだから、もう一度建物の中へ」

 

「ああ」

 

私たちに背を向けて去っていくトレーナー君を見送ったあと、シービーに先導されて再びホテルのエントランスを進んでいく。

フロントの前方はだだっ広いホールとなっており、中央の噴水を囲うようにしていくつものソファが配置されている。その中から適当なものを選んで私たちは腰かけた。

 

中等部のウマ娘が二人きり、しかもそのうち片方はあのトレセン学園の制服を身に付けているとなれば、この光景は少しばかり人目につきすぎるか。いくら待ち合わせの場所とはいえ、そもそも本来は子供が気軽に足を運べる場所ではない。遠征であっても普通このランクのホテルには泊まらないし、そもそもここら一帯は学園から通える範疇である。

トレーナー君はそういうつもりで言ったのではないだろうが、やはりあまりここに長居しすぎるべきではない。

 

「それで、話とは一体なんだシービー。学園に戻ってからでは駄目なものなのか」

 

「別にアタシはそれでもいいけど、キミにとっては困るんじゃない?だから、わざわざトレーナーに席を外させたんでしょ?」

 

逸る私とはうって変わって、のんびりと頬杖をつきながらつま先をくるくるさせている。

本気で居心地の悪さを感じていないのか、あるいはこちらの冷静さを削ろうという魂胆なのか。

 

「言っている意味がよく分からないな」

 

「そっか。それならはっきりと形にして見せてあげるよ」

 

頬杖をやめ、パンパンとかしわ手を打って合図を送るシービー。直後、私の背後から何者かが歩み寄ってくる気配があった。

 

振り返るとそこにいたのは、首から大きなカメラを提げた壮年の男性。

薄っぺらい長袖のセーターと、これまた薄いジーンズで全身をすっぽりと覆っている。ひどくくたびれたような、血の気のない土気色の顔をしたその男は、おずおずとこちらに向かって頭を下げてきた。

 

「名前……はいいや、別に。とある出版社に勤めている、レースを専門に扱っている記者だよ。彼に見覚えは?」

 

「ない。生憎だが、デビュー前なのでそういう方面には疎くてね」

 

嘘だ。この男のことはよく知っていた。

 

かつてはそれなりに大きな新聞社で働いていたらしいが、功名心に駆られて無茶な取材を繰り返した結果、古巣から追放された番記者。

その後、たまたま在職中に縁のあったシンボリ家に泣きついてきたことで、今の職場と肩書きを与えられたという。それ故に私たちには逆らえない、都合のいい駒だった。

 

大手で経験を積んでいたこともあって、調査能力については優れている部分もある。最初は半信半疑だったが、「昨晩トレーナー君が駿川たづなと帰宅した」という私からの前情報だけで早々に彼の居場所を割り出したあたり、それについては真実なのだろう。

真面目に職務に取り組めば、今よりはマシな環境に身を置けるだろうに。三つ子の魂百までというべきか、この期に及んで尚も過激な取材と記事の執筆が止められないあたり救い用がない。そんなだから、こうやって目をつけられて傀儡にされるのだ。

 

「この記事の執筆者としての名義貸しだよ。これについては知らないとは言わせない」

 

男を脇に立たせたまま、シービーは鞄から一部の雑誌を取り出し、付箋を貼り付けたページを開いて見せつけてきた。

それはまさしく先程の会食で話に上がった、彼女の特別移籍について批評する記事。

 

「名義貸しとは?」

 

「そのままの意味だけど。彼はあくまで自分の名前を貸しただけで、本文を書いた人物はまた別にいた。それがキミだったんでしょ。ねぇ、シンボリルドルフ」

 

「……」

 

当然だろう。こんな記者に一から記事を書かせるなんてとんでもない。

私が欲しかったのは手っ取り早く世間へと発信する方法であり、過激で偏った論評ではないのだから。

今回の推薦移籍の特異性と、それによって予想され得るリスクについて正確な情報を衆目に晒すだけで良かった。それだけでトレーナー君は揺らいでくれた。

トレーナー君やシービーへの誹謗中傷は私の望むところではなく、それを回避するどころかむしろ煽り立てるようなこの男の文章に用はなかった。適切な配慮を指示したところで、バランス感覚のある記事など作れやしないだろう。そもそも、それが出来る記者なら最初からこんな状況には陥っていない。

 

「そこまで言い切るには、なにかしら根拠はあるんだろうな」

 

「あるよ。一つは彼の自白だね。取材許可剥奪からさらに一段階上の処分を提示したとたん、あっさり吐いてくれたよ」

 

まったく……この記者に求めたのはトレーナー君への探りと警告、それから名義貸しと秘密の保持。たったそれだけだというのに。

まぁ、彼の立場で真っ先に自己保身に走るのは当然の話なのかもしれないが。

 

「他には?それだけか?」

 

「それからもう一つは、キミが提出してくれた総代宣誓の草稿だよ。本当に、小学生の文章とは思えないほど良くできていたよね。そのまま雑誌に記事としてのっけても許されるぐらいには」

 

シービーは雑誌を鞄へと戻し、代わりに中から数枚の原稿用紙を取り出した。

それは確かに、私が入学前に学園へと送った下書きだった。誕生日パーティーの時点で薄々そんな気はしていたが、やはり見破られていたか。

 

シービーは何度かぺらぺらと捲って見せたあと、それもすぐに鞄の中へとしまう。

そのまま手早くチャックを閉めて、ソファの下へと放り投げた。

 

「文章の癖ってさ、意外と分かりやすいものなんだよ。特にルドルフの場合だと、四字熟語や技巧的な言い回しを好む傾向がある。どちらもあの記事と完全に一致している」

 

「たまたまだろう。あるいはそこの彼が、私の宣誓を聞いて参考にでもしたか」

 

「あのゴシップ雑誌に、なにかを参考にするだけの気概があるとは到底思えないけどね」

 

私が彼とシービーの間で成立する移籍の存在を知ったのは、まさしく4月1日の新任式でのこと。とにかく時間がなかった。

さらに最悪なことに、彼女と同室になったことで私生活での行動の幅も制限されてしまう。結果として、記者への指示出しと記事の作成及び送付については、その全てを入学式が終わってから入寮までの半日でこなさなければならない。

持ち得る知識を総動員し、なんとか体裁こそ繕えたものの、文章の個性を誤魔化すといった細工までには手が回らなかったのだ。それが仇となったか。

 

かといって、そのすぐ後からは昼間もビゼンニシキが絶えず側にいたわけだし。

ゆっくりと、シービーの目がない日中に動くことだって……いや……

 

「シービー。君がビゼンニシキを生徒会に取り立てたのは……」

 

「うん。彼が接触してきた、あのお出かけの直後。やたら私たちの関係に首突っ込んできていたから、ちょっと嫌な予感がしてね。一応記者は出禁にしたけど、それだけだと足りないと思って」

 

「学園に戻ってきてから、トレーナー君の部屋まで来る間に……?」

 

「そそ。なのに帰ったらキミがトレーナーを押し倒してたからもうビックリしちゃって」

 

そうか、となると私の堪え性のなさこそが最大の原因か。あまりにも行動を焦りすぎた。

かといって、シービーの機嫌を窺いながら地道にやっていても埒が明かなかっただろうし。今さらあれこれ後悔したり思い悩んだりしたところで仕方ないけれども。

 

用済みといわんばかりに、シービーは記者を退席させる。

彼がそそくさとホテルの正面玄関から出ていって、ホールの待ち合いは再び私たち二人の空間となった。ここから通路を挟んだソファには、ハンチングを被った人影が一つあるが、幸いこちらに接触してくる兆候はない。

 

「……ま、認めないなら認めないでいいけどね。アタシの中ではこれが真実だって確証が既にあるわけだから」

 

「なら、どうしてわざわざ私に話した」

 

「これでお互い企みが露見したわけだしさ。ここらで一つ、交渉でもしようかと」

 

ソファの背もたれに両腕をかけながら、シービーは腰を深く台座へと沈める。

ややあって、その長く美しい足を優雅に組むとこちらに上目遣いの目線を投げてきた。

 

「ねぇルドルフ、このまま大人しく退いてくれないかな。そうすればこの事はトレーナーに黙っていてあげるよ」

 

「私がそれに従うメリットは?」

 

「"次"の機会がある。今は無理でも、トレーナーがチームの設立を許可された時にね。移籍してくればいい。キミにとっては悪い結果となるけど、最悪の結果ではない」

 

「話にならないな。いいとも、勝手にトレーナー君にそれを告げてみればいい」

 

「いいの?確実に心証は悪くなるけど。キミの立場だと、ここで失点を犯すのは痛いでしょ」

 

それはその通りだ。

開始時点で既に追い込まれた状況にあり、そこからなんとか逆転の目を狙っている状況なのだから。

 

逆にシービーは優位な立ち位置にあり、この交渉からもその余裕が見てとれる。

記者の処分やビゼンニシキへの処遇など、生徒会長としての権限を用いてかなり際どい振る舞いをとっているのは彼女とて同じこと。しかしそれらが白日の下となってもなお、自身の優位は揺らがないと判断したのだろう。

 

なら、ここで誤魔化したところで意味はないか。

 

「それでも構わないと言っている。そもそもあの記事の内容自体、私の嘘偽りない本音だ。当然だろう。私が書いたのだから」

 

「おっ認めるんだ。てっきり最後まで粘るかと思っていたけど」

 

「君相手にそれも時間の無駄だと思ってね。まぁ、不誠実な手段を講じたのは事実だが。しかしあの文章そのものについて責められるべき謂れはない」

 

「……トレーナーはどう思うだろうね」

 

「認めるだろうさ。この移籍が双方にとって益にならない、歪なものなのは事実だろう。それが間違いだというならば、どうしてトレーナー君はそのように反論しない」

 

先程同じ事を問い詰めた際にも、彼から納得のいく答えは聞けなかった。

私的な感情はともかくとして、理屈の上では移籍に無理があると分かっているのだろう。トレーナー君がビゼンニシキに語っていた通り、今回起こったのは本来であれば制度的にまずあり得ない、まさしく珍事というほかない事象。誰よりも不安を抱いているのは他ならぬトレーナー自身なのだから。

 

それこそが私にとって、唯一与えられた責め手である。ここを切り崩せない限り、最早私には逆転の目がないのだ。

 

事実は事実にしても、いささか悲観的に過ぎるという自覚もある。

彼は経験こそない新人ではあるが、決してトレーナーとしての資質に乏しいわけではない。身内の贔屓目を抜きにしても、むしろかなり恵まれている部類だろう。故に、このままシービーの担当となっても彼女に三冠をとらせる余地は見込める。だからこそ、姉も彼にシービーを託したのだろうし。

 

だけど、それは茨の道だ。

 

二人に対する世間の知名度や評価の具合からして、勝てばシービーの実力のおかげ、負ければトレーナー君の落ち度となるのは目に見えている。

無敗の三冠、グランドスラム、凱旋門……前人未踏の功績を、果たしてどれだけ積み上げれば彼は認められるのだろう。ゴールなどないのかもしれない。結局どこまで行っても、途中から乗り変わったという彼への風評はついて回るのだから。

それはもう、当事者二人ではどうしようもない理不尽でしかなく。然しものシービーといえども努力でどうこうなるものではない。

 

「君は強すぎたんだよシービー。そして人気者になりすぎた。それもトレーナー君のためだったのかな」

 

「……よく分かってるね。皮肉なことでしょ。でも、アタシにはまだ手がある。記事の話が作用するのは、なにもトレーナーに対してだけじゃない」

 

「つまり?」

 

「録音してあるんだよ。鞄に入れてあるICレコーダーでね。それを使えば、学園の規則違反と関連づけられるかな」

 

そっと、床に放られた鞄に視線を落とす。

しっかりとチャックが閉められており、その中身について探ることは出来ない。

とはいえ、雑誌や原稿を見せた時も鞄だけはしっかりと保持していたあたり……口から出任せというわけでもないのか。

 

「ルドルフ、権力と人気があればそのぶん切れる手札も増えるんだよ。アタシはハイセイコーからそれを学んだの」

 

「君が生徒会長なんて、似つかわしくないことをしているのもそのためか」

 

「そう。いつかこういう日が訪れる時に備えての保険のつもりだった。実際、それは正しかったみたいだね」

 

なるほど、それもまた私とシービーとの間にある差か。

トレセン学園における生徒会の権力は、一般の中高に設けられた生徒会のそれとは比べ物にならない。なんの地位もない私のような新入生が逆らえる組織ではないのだ。

彼女が本気でその力を振るったなら、確かに私ではどうにもならないかもしれない。

 

しかし、そうだとしても。

 

「君にそんなことは出来ないさ。もしそうなら私はとっくに学園から姿を消している」

 

「なにそれ。アタシにご立派な規範意識があるとでも?」

 

「違う。そうやって無理矢理にでも私を排除するだけの、トレーナー君とのこれからについての自信となるものが君にはないんだ」

 

「………」

 

私があの記事で語ったこと。

そんなことは、誰よりもシービーが一番よく分かっているだろうに。だから私のように突き抜けることも出来ず、こんなどこまでも回りくどい手をとっているのだ。

 

故に、私が彼女にかける言葉はたった一つ。

 

「ここは手を引いてくれシービー。トレーナー君にチームの設立が許されたその時に、姉さんの下から移籍してくればいい。なに、私と彼ならそれもあっという間だとも」

 

「そんなセリフで、はいそうですかなんて頷くほど……アタシの一年間は安くないよ」

 

気丈に私を睨み付けてくるシービー。

トレーナー君と共に積み上げてきた時間。それが水泡に帰すことを、そう簡単に認められないのだろう。たとえその先に地獄が待っているとしても。

それを、たかが一年間などとは言うまい。あの一週間に縛られている私と五十歩百歩といったところか。

 

結局、どれだけ策を巡らせたとしても。

肝心の私たちがこれだから、最後はどん詰まりなのだ。後に残るのはどうしようもない徒労感。

 

ああきっと、トレーナー君もこれを抱いたからこそあのパーティーを開いたのだろう。

どろどろに煮詰まった現状の打破を狙って。惜しいところまでいったのだが、決着まではつかなかった。振り切れた私には決め手がなく、決め手のあるシービーはどうにも振り切れない。

 

にっちもさっちもいかず、お互い視線を戦わせている中で。

不意に、私たちの間に誰かが割り入った。それは先程まで、通路の向こうで俯いていた人影。

 

「まったく。先程から聞いていればあれこれと詮無きことを。ウマ娘同士なら、決着の手段なんて一つしかないでしょう」

 

目深に下ろしていたハンチング帽をくいと上げて、その素顔を私たちに見せつける。

この格調高いレストランに相応しい、落ち着いたジャケパンスタイル。普段とまるで違う格好だが、鮮やかな翡翠の瞳に艶やかな鹿毛を流したその姿はまさしく―――

 

「たづなさん…………!?」

 

 

「走れば良いんです走れば。古来より、ウマ娘とはそういうものなのですから」

 

 

 

 

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