君と明日へ往く   作:蒼穹の命

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プロローグ

 あの日の事は、今でも思い出せる。みんな離れていって1人になってた私に声をかけてくれた彼との出会いを……

 

 

 

 ある休日の昼間、誰もいない小さな公園で紫色の少女が1人ベンチに座ってゲームをしていた。

 

 手慣れたボタンと十字キーの操作でキャラを巧みに動かし、モンスターを完膚なきまでに打ち倒し、達成画面が現れたが、それを見ても、少女の顔には笑顔は浮かばなかった。

 本当なら他の子たちと一緒にやる筈だったマルチ用クエストをやるつもりだった。だがみんな、自分から離れていった。

 

 強すぎる。あなただけ生き残ってる。つまらない。

 

 バトルに負けたり、クエストがクリア出来なかった時以上に、みんなにそう言われて離れていかれたのが1番辛かった。

 

ただ楽しくゲームで遊びたかっただけなのに。

 

 だからこうして今日も1人でゲームをしていた。

 

『ねえ』

 

 彼に声をかけられるまでは。

 

『それ、この間出たばっかりの新作でしょ? 僕もやってるけどすっごく楽しいよね! 良かったら一緒にやらない? まだ僕1人用でしかプレイしてないから、誰ともやれてないんだ』

 

 と、声をかけてきた少年は、背負ってたバッグからゲーム機を取り出しながら少女を遊びに誘った。

 思わぬところから誘いが舞い込んできてつい嬉しくなった少女はいいよと答えようとしたが、離れていった子たちの事を思い出して顔が歪ませ、口から出かかっていた言葉を飲み込んだ。

 

『いい。君もゲームつまんなくなるよ』

 

『なんで?』

 

 断られると思わなかったのか、少年は首を傾げる。一方少女は、今のうちに言っておいた方が良いと判断して、理由を言う。

 

『みんな、私が強すぎてつまらないって言って、いなくなった。あなたも多分私と一緒にやったらゲームつまらなくなるよ』

 

 なんとか言い切れた。あんな思いをしたくない、させたくない。そのために言いたくない事を無理矢理口から言葉を絞り出せた。だが、

 

『そんなのやってみないとわからないし、君と一緒に遊ぶゲームがつまらないかどうかは僕が決めることだよ。ほら、まずは一回やってみようよ、ね?』

 

 少年はそれを受け入れず、まずは試しにやってみようと提案してきた。こうなった以上一度だけ付き合って、どういう事か教えなければならない。

 そうして、マルチ用のクエストをうけ、少年を招いた。

 自分のプレイヤー名が載っている欄に一つの名前が追加されたネームを見る。

 

『Kaito……カイト?』

 

『うん、そうだよ。そっちはMito……ミト、だね。よろしくね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、私と彼の最初のゲーム。

 

 彼と一緒にやることになったクエストだが、結果だけ言えばクリアは出来なかった。ただ、あの時は早く1人になりたい一心でダメージ被弾を無視してプレイ続けていたのもあって、らしくないミスを連発して先落ちしてしまった。だが1人になっても倒れないよう気をつけながらも双剣でモンスターの弱点部位を狙って削り続けている、本気を出しながらも全力で遊んでいる彼を見て、どうでもよくなった。

 確かに私の周りから一緒にゲームを遊んでくれる人はいなくなって悲しかった。でも、だからといっていい加減なプレイをしていい理由にはならなかった。そこから先は本気の装備に切り替えて再び戦場に参戦して、彼と一緒にモンスターを狩りにいった。その最中にそこは違うだの避けろだのと思わず口を出しあい、しまいにはモンスターの最大攻撃を共に受け、2人揃って落ちてしまい、クエスト失敗となってしまった。

 でも、不思議と悔しい気分ではなかった。むしろ心地よい気分。こんな風に誰かと掛け合いしながら一緒にゲームをするのは、私にとっては新鮮で楽しかった。ふと、プレイする前に私の隣に腰掛けた彼の方を見ると、

 

『あー! 後少しだったのに!! ねえ、もう一回! もう一回やらない!?』

 

 と、悔しいという思いをこれでもかってくらいに手足をバタつかせ出しながら、私にもう一回と誘ってきた。こうして誰かに一緒に遊ぼうと誘われるのがこんなに嬉しい事なんだなと実感しながら、私は

 

『うん! 一緒にやろ!』

 

 心からの笑顔を見せながらその誘いを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからほぼ毎日は、公園に来ては彼と一緒に遊ぶ約束が当たり前になっていった。

 1番の驚きと楽しかった事をあげるなら、ある日彼の家に招かれた時に遊んだ昔のゲームたちだろう。

 最初に触ったのは最新の据え置き型よりも細い、黒い板のようにも見えるゲーム機。コードをつけてテレビに接続し、電源をいれて画面を見ると始めて見る起動画面からのオープニングとゲームタイトル。私も知ってる某有名なRPGシリーズ。ドット絵のキャラやモンスターたち、ボタンとスティックが配置されているコントローラーの感触。キャラやモンスターがぬるぬる動いたり、綺麗なグラフィックとはまた違った昔ながらの仕様と操作は、あの時の私には何もかも新鮮で、ワクワクしながら遊んでいた。

 帰ってから少し調べたら、既にリメイク版も出ていた事から私たちがプレイしていたのはリメイク前のオリジナルだったのが判明して驚いた。

 後日そのことを話すと、「なら今日はそっちやってみる?」とリメイク版のソフトと対応する持ち運びできる結構前の折りたたみ型ゲーム機をちゃっかり持ってきてくれていた。得意げな顔をしながら出したのを見ると、自分が昨日やったゲームについて調べてくるのを予想していたのかもしれない。

 実際どうなのかは今でもわかってないが、あの時の私はそちらもプレイしてみたくてうずうずして仕方がなかった。

 そうしてプレイしてみると、オリジナルよりもだいぶ遊びやすくなっていた。特にオリジナルの方は最初の遺跡のギミックが難易度が高かったので、その部分が簡略化されていたかもという事らしい。2人で必死に知恵を絞って仕掛けをクリアしたのを考えるとなんだがちょっと残念だった。

 他にも色んなソフトやディスクに、リメイク版を遊んだ奴よりも小さい折りたたみ型のゲーム機など、まるでゲームのバーゲンセールのようにも感じた。

 次は何をするんだろう? 昔の奴? 少し前の? それとも今ある奴? 何が来るかわからず、それでいてワクワクする気持ちは無くなるどころか、寧ろ燃え続けていた。

 そんなある日、彼から贈り物を貰った。それは彼の家に初めて招かれた時に遊んだゲーム機のメモリーカード。なんで私にこれを? と聞いてみたら

 

「それにはミトが遊んだ記録がたくさん入った奴だから、君が持ってる方がいいって僕が思ったんだ。もちろん、父さんにもちゃんと許可は貰ったから大丈夫!」

 

 私が遊んだ記録、それは同時に彼と一緒に遊んだ記録でもある。それがたくさん詰まっていると考えると、何故か胸が高鳴って、顔もなんだか熱くなった気がして、幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも

 

 ある日突然、彼は公園に来なくなった。

 

 最初は何かあったと思い待っていたが、陽が落ちるまでの時が過ぎても来なかった。それから1週間、1か月と……どんなに待っても彼は来なかった。

 

 わたしにとって、彼と一緒に過ごした時間はほんとうに楽しかったし、嬉しかった。

 

 だから、あの時以上に悲しかった事は泣いた事はこれまでなかったと思う。

 

 探そうにも彼の家に行った時は、彼の親には殆ど会わなかったから顔はよく覚えてないし、家の前にあった表札なんて全然見てなかった。何よりも私自身がどうすればいいのか分からなくなっていた。

 

 彼が私に黙って別れるなんてないと思ってる。けどそれは、単にそう信じたいだけじゃないかって不安もある。

 

 今でもゲームやゲーセンで遊んでいる時、彼の名を、Kaitoのプレイヤーネームがないか探してしまう。

 

 約束の印であり、一緒にいた証であるメモリーカードを、肌身離さず持ち歩きながら。

 

 数年が経ってもなお、私の中にぽっかりと出来た穴は完全に埋まる事がない。

 

 たまに嬉しくなったり、笑う事はあっても、あの日々を過ごしていた時程ではなかった。

 

 彼が来なかったあの日から、私の時間は止まっていた。

 

 カイト、今あなたはどうしてるの? 

 

 まだゲームは続けてる? それともやめた? 

 

 もう会えなくても、元気でいるなら、それで……

 

 いや、嘘。

 

 会いたい。すごく会いたい。

 

 1人だった私に沢山の幸せとハジメテをくれた君に、また会いたい、話したい……

 

 そう思い焦がれていた私の、兎沢深澄の中で停止した時計の針が動き出すきっかけが訪れた。

 

 フルダイブ技術による、初のVRMMORPG『ソードアート・オンライン』

 

 そのベータテストに応募したのは、誰よりも早く遊びたいだけでなく、彼に会えるかもしれないと思ったから。確かな根拠とは言えないけど、彼とやった昔のゲームソフトの中でのお気に入りの作品だったのが、架空のネットワークゲームを舞台に、そこで起こった異変に巻き込まれていくプレイヤーを、ゲームとリアルの両面から描いた物語、というかなり変わったものだった。特に短剣2本を得物とした双剣士のPCと作品の現実側でそれを操作している主人公が今でも好きでいるのならもしかしたら……と思ったが、結局それらしいPCとは遭遇しなかった。そして今日はそのテスト最終日。

 

 10層攻略のラストチャンスである以上、彼を探す暇はない。だから、正式サービスの時に改めて探そうと決意し、私はナーヴギアを装着し、仮想世界へとダイブした。

 

 

 

 

「リンクスタート!」

 

 

 

 

 

 この時の私は、SAOが開発者によって大勢の人々が閉じ込められるデスゲームと変貌した仮想世界になるとは思いもしなかった。

 

 そんな明日もわからない電子の中の鋼鉄の城で、私は彼とまた巡り合うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、彼女が彼らと共に往く前日談の断片(フラグメント)

 

 

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