――・・・・・・これは・・・・・・想像以上にきつい・・・・・・
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」
黒板の前でニッコリ微笑む女性副担任こと山田真耶先生
身長はやや低めで、生徒とあまり変わらない。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
『・・・・・・・・・・・』
同意を求めるが、教室の中は変な緊張感に包まれていて、誰からも反応が無い。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
うろたえる副担が可哀相なのでせめて俺だけでも~と普段なら思う一夏だが、今の彼にはそんな余裕はない。
なぜか。
簡単だ。彼以外のクラスメイトが全員女子だからだ。
今日は高校の入学式。新しい世界の幕開け、その初日。それ自体はいい。むしろ喜ぶべきところだ。
自意識過剰なんかではなく本当にクラス全員から視線を感じる。
しかも席が悪い。
何が悲しくて真ん中&最前列なのだろう。
目立つためにあるような席である。
――この席に俺を置いた神様&まだ見ぬ担任様を恨みたいぞ・・・・・・
一夏はちらりと窓側の席を見る
「・・・・・・・・・・・・」
何かしらの救いを求めた視線を送ったのだが、薄情な事に幼馴染みの篠ノ之箒は苦笑いを返しただけで窓の外に顔を反らした。
「・・・・・・・くん。織斑一夏くんっ」
「は、はいっ!?」
いきなり呼ばれて思わず声が裏返ってしまった。案の定、くすくすと笑い声が聞こえて来て、一夏ははますます落ち着かなくなる。
「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
気がつくと真耶が涙目でぺこぺこと頭を下げていた。
周りからは「織斑くんが先生を泣かした・・・・・・」なんて声も聞こえる
――この人、本当に年上なのか?同い年と言われれば受け入れてしまいそうだ
「いや、あの、そんなに謝らなくても・・・・・・っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「ほ、本当?本当ですか?や、約束ですよ。絶対ですよ!」
がばっと顔を上げ、一夏の手をとって熱心に詰め寄る真耶。
――・・・・・・あの、またすごい注目を浴びてるんですが。
「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
挨拶程度に頭を下げ、上げる。
――・・・・・・おい、ちょっと待て。なんだその『もっと色々喋ってよ』的な視線
は。そしてこの『これで終わりじゃないよね?』的な空気はなんだ。俺は
気の利いたことは言えないぞ!
「以上です」
がたたっ。思わずずっこける女子が数名いた。箒はおおよその想像がついていたのかずっこけることはなく、また苦笑いをしている。
「あ、あのー・・・・・・」
背後からかけられる声。涙声成分が二割増している。
――あ、やっぱダメですか
パアンッ!突如、一夏の後頭部からはじける音がする。
「いっ―――!?」
――こ、この叩き方まさか・・・・・・!
「・・・・・・・・・・・」
おそるおそる振り向く。
黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、良く鍛えたえられているが、けして過肉厚でないボディライン。組んだ腕。狼を彷彿せる鋭い吊り目。
「げえっ、ダース〇イダー!?」
パアンッ!また叩かれる。
ちなみにすごく痛い。
その音があまりにも大きいものだから周りの女子が少し引いている。
「誰が宇宙征服を目論む悪の帝王か、馬鹿者」
トーン低めの声。一夏の脳内には既にテーマ曲が流れていた。
こう、ダン、ダン、ダン、ダンダダーン、ダンダダーンと。
――いやしかし、待て待て待て。なんで千冬姉がここにいるんだ?職業不詳で
月一、二回ほどしか家に帰ってこない俺の実姉は。
「あ、織斑先生。もうご用事は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
――おお、俺の聞いたこともない優しい声だ。ルーク・スカイウォーカーは何
処へ?R2D2とお出かけか?
「い、いえっ。副担任ですからこれくらいの事はしないと・・・・・・」
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になるように育てるのが仕事だ。私の言う事はよく聞き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」
なんという独裁宣言だろうか。一夏はこれは間違いなく自らの姉・織斑千冬だと確信した。
だがしかし、教室には困惑のざわめきでは無く、黄色い声援が響いた
「キャーーーーーーーーーー!千冬様!本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から」
――いや、南半球から来てる人もいるからな?
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
――最後の奴、自分を大切にしろ。
「・・・・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
これがポーズでなく、本当に鬱陶しがっているのが織斑千冬という人間だった。
――千冬姉、人気は買えないんだぜ?もうちょっと優しくしようぜ。
と思う一夏だったが、それが甘かった。アンコ入りの鯛焼きにチョコと生クリーム、砂糖、マシュマロ、イチゴを乗せて食べるくらい甘かった。
「きゃあああああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」
――どうやら俺のクラスメイトはドMの方が多いようだ。
「で?お前は挨拶も満足にできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は――」
パアンッ!本日三度目。脳細胞一万五千個死滅。あといくつあるのだろう。
「織斑先生と呼べ」
「・・・・・・い、Yes,sir」
なんとか声を絞り出せた。あのまま返事しなければもう一度殴――叩かれていたかもしれない。
しかし、このやりとりがまずかったらしく、彼らが姉弟だというのが教室中にバレてしまった。
「え・・・・・・?織斑くんって、あの千冬様の弟・・・・・・?」
「それじゃあ、世界で唯一男で『IS』を使えるのっていうのも、それが関係して・・・・・・」
「ああっ、いいなぁっ。代わってほしいなぁっ」
――いや、最後の。家での千冬姉を見たらそんなこと言えなくなるから。
「静にしろ!」
千冬の一喝で教室が静まる。
「諸事情で入学式に遅れたものを紹介する。入って来い!」
プシュッー
圧縮された空気が開放された音が聞こえ、二人の男子が入ってきた。
そう、
「紅 神夜です。世間では公表されてませんが世界で二人目の男性IS操縦者です。諸事情で遅れてしまい、申し訳ございません。これは弟の士音です。士音、自己紹介だ」
「・・・・・・紅 士音です。兄共々よろしくお願いします。これはAIのカイトといいます」
「我の名はカイト・クレナイ。よろしくお頼み申す」
その男子は一夏のよく知る相手だった。