『お、男?』
「ええ、よく間違えられますが、私は男です」
『き・・・・・・』
大きな声で騒がれそうな気がしたので、士音の耳に耳栓をつけ、神夜もつける。
この耳栓はさっき、千冬に渡されたものだ。何故持っているのかと聞くと「毎年の事だから」と言われた。毎年、さっきのように騒がれているらしい。
『きゃ~~~~~~~~~~~~~~~!』
――・・・・・・全然大丈夫じゃねぇ・・・・・・すげぇ耳がキーンとする。
あれか、例年は男子がいなかったから千冬さんの耳が大丈夫だったのか。
はたまた、千冬さんは身体が強いだけでなく、耳も強いのか。どっちだ。
出来れば前者であって欲しい。千冬さんはそこまで人間離れしていると思
いたくない。主に俺と一夏の為に。
『男子!二人目の!』
『しかもうちのクラス』
『本格的美形!大人の色気むんむんの!しかも守って欲しい系の!』
『その弟君も可愛い!』
『お兄さんと真逆の守ってあげたい系!それにこっちも美形!』
『おどおどしてる!』
『お兄ちゃん好き!』
『カイト君、カッコイイ!』
『サムライみたい!』
『着物と刀付けて!』
――なんかカイトに期待されても狙ってそんな感じにしたわけじゃない。
ガタタッ
不意に神夜の目の前と窓側の生徒が立つ。
「「神夜!!」」
パパーンッ
「静かにしろ、馬鹿共」
「「っ~~~~~~~~~~~!」」
――千冬さん、アンタどうやってその位置から二人を叩いたんだ。
やっぱアンタ人間離れしてるよ。全然動かないで攻撃なんてゴム人間にで
もならなきゃ出来ねぇよ。
「誰が人間離れしてると?」
「織斑先生です」
一夏と箒に振るわれたものより数段速い速度の出席簿が神夜の後頭部に向けて放たれるが、神夜はそれを頭を少し下げることで避けた。
「なら、これを避けるお前は怪物か?」
「まあ、自覚はありますがね」ボソッ
「うん?何か言ったか?」
「いえ、何でもありません。それより織斑先生。私の席はそこで良いんですか?」
神夜はそう言い、一夏の隣の空いてる席を指差す。
「・・・・・・ああ。そこがお前の席だ」
「ありがとうございます」
そう言って指定された席に座る。
「これでSHRを終わる。諸君にはこれからISの基本知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
なんという鬼教官。
しかしそんなことを言われても動じないクラスメイトは既に洗脳でもされてるのだろうか。
そしてSHRが終わり、千冬と真耶が教室から出て行った瞬間、両脇から視線を受ける。
「箒、一夏。少し付いて来い」
「「・・・・・・」」
二人と士音、カイトは黙りながらもついて来る。
行き先は屋上。この時間帯なら誰も居ないだろう。
廊下には上級生や他クラスの生徒で溢れているが神夜達の進む道を開けてくれる。
さながらモーゼの海渡りのようだ。
「ここらへんでいいかな」
神夜の読み通り屋上はすっからかんだった。
聞き耳を立ててるのも居るが、聞かれて困る話しでも無いから良いだろう。
「お前・・・・・・神夜でいいんだよな?」
「私達の知っている神夜なんだな?」
「ああ、そうだぜ?お前達のよく知っている紅 神夜で、お前達の事をよく知っている紅 神夜だよ。見て分からんか?」
「本当に本当か?」
「本当に本当だ。・・・・・・約束を果たしに来たんだよ、鈍感馬鹿君」
「俺は鈍感でも馬鹿でもねぇ!」
「誰もお前だとは言ってないぞ。一夏」
「謀られた!?」
「お前が勝手に自爆しただけだ。バカモノ」
「箒まで!?」
「クックック・・・・・・」
「笑い事じゃねぇよ、神夜!」
――相変わらず一夏は弄り甲斐があるなぁ。いや、前より弄られ慣れてるな。
「それはそうと、箒は去年、剣道の全国大会で優勝したんだってな。新聞に書いてあったよ」
「ふぇっ!?」
「あ、それ俺も見た。スゲェよな箒。遅れたけどおめでとう」
「な、な、な、何で新聞なんて読んでるんだ!」
「いや、新聞くらい好きに読ませてくれよ」
「俺は職業柄な。ちなみにそん時の新聞は繰り抜いて、ホレ、この通り。いつもロケットにして持ち歩いてる。俺の部屋にはこれを拡大して額縁に入れたものがあるぞ?」
「今すぐ棄てろーーーーー!」
箒は神夜に飛び掛る。
しかし、そんな攻撃に易々と当たる神夜でもなく、飛び掛ってきた勢いを利用し、進路をずらし、自分の後ろに突っ込ませる。そこにいるのは勿論――一夏だ。
「わ、わ、わぁあああああああああ!」
「きゃっ!」
当然二人は倒れる。狙ってやったから。
しかしその構図が予想以上に面白い事になった。普通、今のコースなら一夏が下で箒に押し倒される。と言う構図が出来上がるはずなのだが、箒が一夏の足に自分の足を絡めたのか、はたまた、一夏のラッキースケベの能力が働いたのか、箒が下で一夏が上にいると言う構図が出来上がった。
しかも、一夏の左手は箒の頭の下にあるのにも関わらず、右手は箒の胸を鷲掴みしていた。
――ふむ、これは面白い事になりそうだ。写真でも撮っておこう。
カシャッ!どこからか取り出したカメラでシャッターをきる神夜。その表情はどこか満足げだ。
「うむ、さすが御両人。写真写りが良い。さてもう一枚」
カシャッ!
「「今すぐそれを渡せー!」」
「やなこった。・・・・・・俺、この後これを千冬さんと一緒に見て大笑いするんだ・・・・・・」
「それは死亡フラグだ!俺達の!」
――そりゃそうだ。そのためにやってるんだからな。
おっ、もうこんな時間か。
「じゃ、俺は教室に戻るから。じゃーな」
「「待て!この状況をどうにかしろ!」」
――やだね。今まで弄り倒す相手がいなかったんだこれくらいは許せ。
おっと、忘れる所だった。
「二人とも」
「「あ゛ぁ(何だ)!?」」
「ただいま」
「「・・・・・・お帰り!」」
「あと、もうすぐで鐘なるぞ?」
「「はあ!?」」
時計はすでに八時四十七分を指していた。
「アディオス」
「「まてぇぇぇぇぇぇぇ!」」
待てと言われて待つ人間はいない。
結果、神夜はギリギリ間に合った。しかし神夜でギリギリなのだから二人は遅れる=出席簿でたた――殴られる。
――ご愁傷様。俺の所為だけど。
この時、神夜は思う。本当に戻って来れたんだな、と。