セシリア・オルコットと呼ばれた少女を撃退した次の時間。
この時間は真耶ではなく千冬が担当していた。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について――いや、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
――クラス対抗戦?そんなものも有ったのか。面倒臭そうだな。まあ、俺には特
に関係ないだろう。
「なぁ、神夜。代表者って何だ?」
「ん?さしずめ、クラス長、または委員長とも言うな。まあ、やることの大半は事務や雑用だろうな。この様子だと特別な事がない限りは一年間の変更は無いだろう」
「うへぇ、俺は勘弁だな」
「俺だってそうだ。只でさえ忙しいのにこれ以上面倒事を任されては俺の脳が持たん。この時期はいや、今年はさらに忙しいな情報補正やらなにやら・・・・・・」ブツブツ
一夏はあからさまに嫌そうな顔をして神夜もそれに同意してブツブツと小さく文句を紡いでいく。
そんな二人を気にする素振りもなく、一人の少女が高く手を挙げる。
「はいっ!織斑くんを推薦します!」
――おお、一夏。良かったじゃねぇか。お前を推薦してくれたぞ。頑張れよ~。
「はいっ!じゃあ、私は紅君が良いと思います!」
――おう、頑張ってくれ紅君。俺は応援するぜって、えぇ!?
「では候補者は織斑一夏と紅 神夜・・・・・・他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」
「「俺(私ですか)!?」」
神夜と一夏が一緒に立ち上がる。そして視線の一斉射撃。これは振り向かなくても分かる。『彼等ならきっと何とかしてくれる』という無責任勝つ理不尽を込めた眼差しだ。
「織斑、紅。席につけ邪魔だ。さて他にはいないか?いないならこの二人で決めるぞ」
――そうだ、冷静になるんだ紅 神夜。まずは座って冷静になれ。
「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな――」
――他に逃げ道があるはずだ。そうだ考えろ俺!お前はその頭であんな大層なものまで立ち上げたんだぞ!
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟しろ」
――そうだ!これなら!
「い、いやでも「織斑先生」こ、神夜?」
「何だ紅。今も言ったとおり、拒否は受付な「まぁ、そういわずに聞いてください」・・・・・・何だ」
「先生も知っているでしょうが私は諸事情で此処に居ないことが多くなります。そんな人間がクラス代表なんてものになってもクラスがまとまる訳がありません。推薦してくれた方には失礼ですが私は辞退させていただきます」
「・・・・・・良いだろう。辞退を認める」
「ありがとうございます」
「千冬姉!?」
パアンッ!
「織斑先生だ。織斑、お前も事情は知っているだろう?納得しろ。出来なければ出来るまでこれで指導してやる」
と言って、出席簿を構える千冬。それを見て一夏は両手をあげて降参のポーズをとった。
「わ、わかりま「待ってください!納得がいきませんわ!」」
バンッと机を叩いて立ち上がったのは、あのオルコットだった。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このわたくし、セシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
――・・・・・・恥さらし?屈辱?
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからと言う理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
――・・・・・・・・・・・・極東の猿?島国?サーカス?
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては絶えがたい苦痛で――」
――・・・・・・・・・・・・・・・・・・文化として後進的な国?苦痛?
「イギリスだってたいしたお国自慢無いだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
一夏が堪らず言い返す。仮にも生まれ育った国を馬鹿にされたのが気に食わなかったのだろう。
しかし一夏の言葉には一つ間違いがある。
「なっ・・・・・・!?あっ、あ、貴女ねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先にしてきたのはそっちだろう!神夜もなんか言ってやれ!」
――仕方ない、混ざろうか・・・・・・
「いいだろう、言ってやる」
「あら、さっきのさっさと尻尾を振って逃げた負け犬ではないですか」
「・・・・・・お前、許さない」
「士音、挑発に乗るな。といっても、もう俺も限界なんだがな」
「「「「「!!」」」」」
神夜は殺気を常人が気を保てるぎりぎりのラインまで放つ。
「セシリア・オルコット。この馬鹿が君の祖国を侮辱した事、すまなかった。私が代わりに頭を下げましょう」
一夏の頭を掴み一緒に下げた。
これにはさすがのオルコットも面食らったようでキョトンとしている。
「!?こ、神夜!何で頭を下げなきゃいけねぇんだよ!あっちの方が先に――」
「黙れ一夏。いくら本当の事だろうと言って良い事と悪い事がある。それにだな、大英帝国の――イギリスの料理はけして不味い訳ではない」
「そ、そうですわ!我が祖国は美味しいものばか「かといって『美味い』訳でも、『普通』なわけでもない」なんですって!?」
「なぜなら、イギリスの料理には味がないだけなのだからな」
「味が無い?」
「ああ。何故味が無いのか。答えは二つある。一つ目は『味がなくなる料理法』。まずイギリスの料理の基本は『焼く』と『茹でる』だ。問題なのがこの『茹でる』。最近は観光客や貿易などの理由で変わってきたようだが、産業革命以来、野菜は三十分~一時間くらいを平気で煮る。当然そんな事をすれば野菜の味は栄養もろとも鍋の煮汁に流れ出す。さらに盛り付けの際に煮汁は流し台に旨味、栄養もろとも捨てられる」
「うわっ」
「勿体無い・・・・・・」
クラスメイトの口からそんな言葉がちらほらと出てくる。
「二つ目だが『味付けをしない』。分かりやすく言うと、『味付けは料理人の仕事ではない』という信念が料理人の中にあるんだ。料理人の仕事は『しっかり火を通す事』に徹していて、調理はしても調味はしない。同じような料理に『朝鮮冷麺』、『クイッティヤウ』というものがある。どちらの麺なのだが、麺の命ともいえるスープには味がついてなくて、用意された調味料を使って自分で味をつけるんだ。つまり、美味い不味いはまさしく喰い手の『さじ加減』にかかっている。料理人の責任はどのような味がついているか、よりもどれだけ野菜に火が通っているかと言う仕事にあるんだ。イギリスの料理には『下味』というものが無い。全ては調理の完了後、各自で味をつけるんだ。従って料理の最中に塩、胡椒が使われることは無い。味に関しては完全に自分の責任と言うことになっている。産業革命時代からこのやり方なため、料理人は不思議に思う事が無い。ま、例外はあるらしいがな。昔のイギリス人の大半は外の国に出て下味がついているとは知らずに変に調味料を使い、食べる時に変な味になっていて驚くそうだ」
「そうなのか・・・・・・」
「そして見所がないと言うのも偏見だ。『ストーンヘンジ』、『タワーブリッチ』、『ビックベン』、『ロンドンアイ』等の素晴らしい所もたくさんある。それにイギリスというかロンドンは芸術の町といっても良いと思うぞ。音楽界で名を残している著名人はロンドンからの出は多いし、ロンドンは数々の画家によって描かれている。まあ、これらは『ロンドン』の評価であって、『イギリス』全体の評価ではないがな」
「き~~~~~!さっきから聞いてると、やはりわたくしの祖国を侮辱しているではありませんか!決闘ですわ!そこの猿と、そっちの負け犬もですわよ!」
オルコットが一夏と神夜を順番に指差して叫ぶ。
「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう?なんにせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!そちらの方もいいですわよね?」
――俺か・・・・・・
「一つ確認しておきましょう。君は本当にイギリスの代表候補生なんですよね?」
「ええ、もちろんですわ!何ですの?戦わずして逃げるのですか?貴方は本当に臆病者ですのね」
「・・・・・・お前!」
「止めな士音。・・・・・・いえ、逃げるなんてことはしませんよ。ただ確認しておきたくて。成る程。そうですか、代表候補生ですか。では君の言葉は国家、大英帝国、イギリスの言葉として捉えていいのですね?」
「なっ!何故イギリスの話が出てくるのですか!?これはわたくし自身の――」
「貴女はもうそんな事を言える立場ではないのですよ、
「「「「「!!!」」」」」
クラスメイト全員が騒然とする。
「紅グループってあれだよね、全世界の大企業を牛耳ってるっていうあの」
「違う違う。世界の企業の中でも一番世界影響の大きい『COU』っていう会社を創設したグループでしょー?」
「え?私、紅グループは裏から世界を操れるって聞いたよ?」
「そういえば、このIS学園の最大スポンサーって設立当初から紅グループなんだよね?」
「に、日本国は分かりますが何故紅グループの名前が出てくるんですの?この話には関係ないでしょう?」
「いいえ、ありますよ。紅グループの総帥が日本国出身だっていう話し聞いた事くらいはあるでしょう?代表候補生なのだから。それに気付きませんか?私や、士音、カイトの名前で」
そう、俺の名前は
士音は当然ながら
カイトはカイト・
「残念ながら、私たち紅グループの人間なんです」
「・・・・・・しかも兄さんは一番偉い総帥です」
「そんな・・・・・・まさか・・・・・・」
オルコットの顔が真っ青になっていく。絶望の色だ。
「さて、セシリア・オルコット。君は先程俺たち男が恥さらしだといったな?では君はどうだ?相手の力量も碌に見定めず、下に見て、恩ある自国を危機に貶めた君はイギリスの恥さらしではないのか?極東の島国の猿とはサーカスを組めないといったな?ならばその極東の猿が発明した道具の解析もできない君の国の人間はどうなんだ?単細胞生物か?文化として後進的な国にいるのが苦痛?なら君だけ帰ればいい。君が帰ったところでこの学園にもたらされる負担は何一つとしてない。むしろ利益しかないかもしれないな?」
「クッ・・・・・・・・・・・・!」
オルコットの表情がゆがむ。まるで親の仇を見るような眼が神夜を突き刺す。しかし神夜はすでにオルコットへの興味は失せて、千冬に向き直る。
「さて、織斑先生。先程の私の辞退を取り消していただきたいです」
「・・・・・・良いだろう。しかし、やり過ぎだ」
「織斑先生・・・・・・俺は、幼馴染や大切な人、それに思い出の地を馬鹿にされて飄々としてられるほど・・・・・・器用じゃないんですよ・・・・・・!」
神夜は眉間にこれまでに無いほど皺を寄せて千冬を見る。
その顔は、怒りと憎悪が入り混じっている。
「そうか、お前らしいな。で、対戦形式は?」
「はい、対戦形式は三人総当りの勝ち抜き戦と行きましょう。優勝者はクラス代表の決定権を手にするという事で。一夏、オルコット、何か意見、質問は?」
「ない」
「・・・・・・ありませんわ」
「という事なので織斑先生。アリーナの使用予約をお願いします」
「わかった。では、決まり次第連絡しよう。授業を始める」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うう・・・・・・」
放課後、一夏のIS講義をしていると一夏が机にうなだれる。
ちなみに士音はする事がなくて、神夜の腕の中で寝てしまっている。カイトも神夜と同じようにたまに口を挟みながら一夏に個人IS講義をしていた。
「一夏、起きろ。俺とて余り時間がないんだ」
「い、意味わからん・・・・・・。何でこんなにややこしいんだ?」
「ふむ・・・・・・一夏、今の言い方でどれくらい分かった」
「さ、三割程度・・・・・・」
「わかった。ではもう少し噛み砕いて説明し「あ!織斑君、紅・・・・・・さ「君でいいですよ、山田先生。私に敬意を払う必要はありません」紅君。まだ教室にいたんですね。良かったです」」
再び一夏に説明しようと思ったところで真耶がやって来た。
「如何した、山田教諭。・・・・・・少し心拍数が上がっているな。走って来られたか。息切れは大丈夫でござるか?」
「あ、はい。大丈夫です、カイト君。えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って真耶は部屋番号のかかれた紙とキーを一夏に渡した。
「あれ?俺の部屋、決まってないんじゃなかったですか?前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって聞いたんですけど」
「そこはあれだ。俺の
「おい!」
「冗談だ。俺とお前の場合は事情が事情だからな、前に無理矢理部屋割りを変更したんだ。自己防衛手段もないのに誘拐なんてされたら事だからな。何、一ヶ月もしたら俺がまた新しく部屋割りを配置するさ」
「でも俺、荷物持って来てないz「荷物なら私が手配した」行動がお早い事で」
一夏は自分の生活用品がないと抗議するが、真耶の後ろから千冬がボストンバックをいくつか持って出てきた。おそらくその中に着替えなどがあるのだろう。
「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと携帯の充電器があればいいだろう。足りないものがあれば休日にでも取りに行け」
「神夜のh「もう運んである」お前も仕事早ぇな」
「当たり前だ。他者よりも早く、それが俺、COU社長、紅グループ総帥の信念だ」
「なんだそりゃ」
一夏が興味なさげに嘆息する。
すると神夜は何か思いついたようにそう言えばと、呟いた。
「一夏、この学園は国家機関であり女子高だ。外部からの持ち物は検問を通す必要がある。つまり、思春期の男子特有の夜のお供は持ち込めないから覚えておけよ?」
「なぁ!?そ、そんなもんもってねぇよ!」
「お、織斑くん・・・・・・?そ、そうですよね!織斑君だって年頃の男の子ですものね!」
「いや、騙されないでください山田先生!神夜の冗談ですから!」
「確かこの間確認した時は巨乳ポニテものとか姉弟近親相姦ものが多かったような・・・・・・」
「何で知っtいや、持ってねぇから!」
「い、一夏・・・・・・気持ちは嬉しいが、私たちは血の繋がった姉弟で、そういうのは世間的に・・・・・・その、な?」
「千冬姉まで!?だから持ってないってば!」
「そうだな。本当は二重ロックしたパソコンの中だもんな」
「そうそう、時代はデジタルってヤメロ!現物もデータも持ってねぇから!」
「ああ、そうだな。そう、だったよな」
「「織斑くん(一夏)・・・・・・///」」
「そんな意味あり気に引くのもやめろ!俺はホントにもってなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
その声は学園の外にまで轟いたという。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後なんとか真耶と千冬の誤解を解き、寮のことを聞き出す。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど、織斑君と紅君は今のところ使えません。特に織斑君、いいですね!」
「だから誤解ですって山田先生!」
「寂しくなったからと言って私の部屋に来るのもダメだぞ?」
「だから違ぇって!」
「ちなみに俺のベットに入ってくるのはOKだぞ。俺は男も女もどっちもイケるから」
「やめろ、これ以上俺に変な性癖を植え付けるな!」
神夜の発言に教室の外で聞き耳を立てていた女子生徒たちは黄色い声を上げて何処かへ走って行った。夏の新刊がどうのこうの言っていたが、それはまた別の話だ。
「えっと、それじゃあ私達は会議があるので、これで。ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」
「あ、織斑先生」
真耶は念を押すように言って出て行った。千冬も後に続くように出ていく。しかしそれを神夜が止めた。
「何だ」
「夕食の後、会談の場所を設けて頂けませんか?お話したい事があるんです。先生と一夏にとても関係する事で」
「・・・・・・分かった。後で連絡しよう。でわな」
「ありがとう・・・・・・ございます」
千冬が教室から出て行くまで頭を下げる。
――さてこれからどうするか。とりあえず、連絡が来るまで時間があるからな。まず部屋に戻って、一夏の相手でもしてよう