一夏とは分かれて神夜は自分の部屋にいた。
もちろんこの後一夏が来てまたIS講義をする予定だ。
しかし、部屋に入ってすぐに問題を見つけた。
「広すぎだろう・・・・・・」
そう、この部屋、広すぎるのだ。具体的には普通の部屋四部屋くらいぶち抜いた位のスペースがある。学園長が直々に用意した部屋だと言われたが、流石にこの設備はやり過ぎだ。
まず、業務用冷蔵庫付きの超本格的なキッチン。この時点でもう他の部屋とは違う。もうワンルームの高級マンションさながらである。
バスルームはシャワーだけだがいくらなんでもこれは一人で使うには広い。開放感を通り過ぎて脱力感しか感じない。
次にトイレ。これは普通だった。他の部屋にはないということを除けば。
そしてなぜか書斎。仕事の関係で気を使ったのかもしれないが、こんな規模はいらない。一部屋半以上の書斎なんて要らない。
後ベット。何故にキングスサイズ。それも四つ。絶対に要らない。経費の無駄遣いだ。
「ん?手紙?」
一通り見て周って窓側のベットに士音を寝かせ、その隣のベットに腰掛けると手紙のようなものに触れた。
『拝啓 紅 神夜殿
貴方様は普通の部屋で良いと仰りましたが、それでは私共の気がすみませんので、有難迷惑だとも知りながら、改築させていただきました。まだ足りないと思われたなら、いつでもお申し付けください。最高の仕事をさせていたきます
学園長職 轡木 十蔵
同 はつ子
敬具』
「これより上があるのか・・・・・・。どんだけだIS学園」
淡々と改めて自分の影響力を思い知った神夜であったが、ため息一つ吐く前にドアが強く叩かれる音がした。
――ん?一夏か?早いな、もう来たのか。にしても過激なノックだな、五月蝿い。士音が起きたらどうするんだ。
「一夏か?はy「スマン神夜!かくまってくれ!」は?」
鍵を開けると、なだれ込むように一夏が飛び込んできた。
「ハアハアハアハアハア・・・・・・」
「ゴメン、織斑君。俺達に近寄んないでくれる?」
「何でそんな他人行儀なんだよ!」
「いえ、私、男を見て興奮する同性に知り合いはいませんから。さっきの話はお世辞ですから」
「本格的に他人行儀なったな!違ぇよ!興奮してるんじゃねえよ!此処まで走ってきたから息切れしてんだよ!」
「あっそ。頼むからあんま騒がないでくれ。士音が起きる」
「・・・・・・スマン」
散々捲し立てた後、突如冷静になる神夜に多々怒りを覚えながらも素直に謝罪する一夏。これくらい我慢できなければ神夜の幼馴染などやっていられないということだろう。
そんな一夏の反応に少々不満気ながらも神夜は一夏を自室に招き入れた。
「で?どうしたんだ?匿ってくれって言うほどならなんかあったんだろ?何だ?殺人鬼にでも会ったか?」
「ああ、ある意味正解かも」
「ああ?」
勿論、IS学園のセキュリティは万全であり、ただの殺人鬼程度では校門前で捕獲されることは必須である。
「にしても広いなこの部屋」
「ああ、学園長の御意向だそうだ。全く、普通の部屋で良いって言ったのにな・・・・・・こんなにスペースあっても使わねぇのに」
「あははは・・・・・・」
「で、あからさまに話題をそらしてまで隠し通したい理由はなんだ?」
「・・・・・・実は」
一夏曰く、どうやら一夏と箒は同室であり、互いにそのことを知らなかったため、箒はシャワーを浴びた後、バスタオル一枚で浴室から出てきた。そこに運良―――悪く一夏とエンカウント。箒としては恥ずかしさからの咄嗟の行動だろうが、一夏からしたら弁明の余地もなく木刀を振りかぶられ、その行動を中止させようと手を伸ばした結果、何をどう間違えたのかその手は箒の豊満なその胸へ伸び、勢い余って押し倒す形になった。
そして頭が真っ白になった末、最後の砦こと神夜の部屋に逃げ込んできたらしい。
「一夏」
「な、なんだよ・・・・・・」
「いい警察紹介してやるから大人しく捕まって来い」
「良い警察ってなんだ!?まるで悪い警察がいるみたいじゃないか!っていうか助ける気0かよ!」
「当たりまえだ。俺には幼馴染としてお前に真っ当な道を歩かせるという義務がある。それで?どうするんだ?お前の性格上今すぐ帰んのは出来ねぇだろ?」
「あ、ああ。そう、だな。はい、出来ません」
「はぁ・・・・・この純真君は・・・・・・。で?好きな人の
「あ、ああ。凄く綺麗で柔らかくてってそうじゃなくて!なんで俺の好きな人が箒だって決まってるんだよ!」
「なんだ、嫌いなのか?」
「いや、そうじゃねぇけど・・・・・・」
「では好きと」
「まぁ、好きだけどさ・・・・・・お前が言うとなんか変な風に聞こえるんだよ」
「なんだ、そんな関係に成りたくないのか?昔はあんなに箒、箒、言ってたクセに?」
「う・・・・・・箒や千冬姉には内緒だぞ」
「安心しろ俺は職業柄、口は固い・・・・・・かもしれないし、そうでないかもしれない」
「全然安心できねぇ!」
「まぁ、その話は置といて、どうせ後で迎えが来るだろうからな。それまで此処にいろよ。ただし、待ってる間お前には勉強してもらうからな」
「え~~」
「そうか、嫌か。だったら俺はもう教えない。勝手に自分で覚えろ。俺は仕事に専念する」
「申し訳ございませんでした。これからも何とぞ宜しくお願い致します」
土下座で許しを乞う一夏。
それを仁王立ちで見下げる神夜。
そんな
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
それから二十分後、箒が一夏を迎えに来た。
その来訪は急で、ノックは一切なくバンッと叩きつけるように開かれた。
神夜としては事前にメールを送っていたので特に問題はない。
「一夏!帰るぞ!」
「うわぁ!箒!?」
「静にしろ、士音が起きる。一夏、お前の嫁が迎えに来たんだ早く帰って直ぐ謝って夫婦仲良くいちゃこらしてろ」
「ふ、夫婦!?//////」
「まだそんなんじゃねえっての!」
――ほう、
『兄さん、メールです。兄さん、メールです』
「こ、神夜?」
「その着信音どうした?」
「あ?士音の声の録音だけど?」
「「コイツ、ブラコンだぁぁぁぁぁ!」」
――失礼な、ブラコンのなにが悪い。カワイイだろ?士音。
「ちなみに一夏からの着信音は蚊の羽音だ」
「通りで電話に出る時ウザったそうに出る訳だ!」
「あぁ、千冬さんからか。一夏、お前の嫁といちゃこらするのはもう少し先延ばししそうだ。寮長室に行くぞ」
「だからまだそんなんじゃねぇって!えーっと、寮長室だっけ?なんでさ」
「いいから来い。お前にはかなり大事な話だ」
「あ、ああ。分かった」
「私も・・・・・・!」
「いや、すまないが箒。これは織斑家と紅家、両家の問題なんだ。嫌な言い方だがお前には関係ない。スマンな、士音が起きたら相手をしてやってくれ」
「・・・・・・!・・・・・・分かった」
「すまない。行くぞ一夏」
「あ、ああ・・・・・・ゴメンな箒」
そう言って神夜は一夏と共に部屋を出た。
「神夜、あの言い方はねぇだろ」
「だから、すまないと言っただろ。俺だってあんな風に言いたくなかった・・・・・・。だが、アイツはいい意味でも悪い意味でも頑固だからな、ああでも言わんと引き下がらない。こんな言い方は嫌いだが・・・・・・仕方なかったんだ。今回の話をアイツが聞いたところで何にも出来ない。過去の出来事は・・・・・・誰にも・・・・・・どうすることも・・・・・・出来ないんだ。そう・・・・・・誰にも出来ないんだ・・・・・・!こんな怪物と同等の力を持ってしても変えることなんて・・・・・・出来やしないんだ・・・・・・!」
「神夜・・・・・・?」
神夜は拳から血が滲むほど握り絞める。
一夏は神夜の言動の意味が分からず、当惑する。
「む。着いたか。さあ、入ろうか」
寮長室の中に入るとそこは――
ゴミ屋敷でした。
「神夜。これはゴミじゃない、私の戦歴だ」
「戦うより前に休養して欲しいですがね。貴女に倒れられたらたまったもんじゃない。一夏は何を仕出かすか分からんし、山田先生はオロオロして仕事が手に付きそうにないだろうし、何より貴女の胃より先に俺の胃に穴があきますよ?」
――とりあえずこの部屋は掃除が必要だな。気になっておちおち話もしてられん。
「一夏、とりあえずこの大量の缶を片付けるぞ。最低でも座る所を確保する」
「あ、ああ!」
「スマンな。任せたぞ」
「「アンタも手伝え!」」
それから五分ほどしてようやく床が見えた。
「まぁ、これでいいだろう。・・・・・・やっと本題に入れる・・・・・・」
「で、神夜。わざわざ他人に聞かれないようにしてまで俺たちを集めた理由って何だよ」
「・・・・・・まずはこれを御拝見ください」
今までのように巫山戯て出来る話ではなく、神夜は口調を仕事モードに切り替える。そして、懐からある物を取り出した。
「これは・・・・・・手紙?」
取り出したのは手紙の入った古い封筒。差出人の名前はなく、ただ裏に『織斑千冬様、一夏様へ』と書いてあるだけだった。
「この手紙の差出人は?」
千冬は険しい目付きで神夜を覗く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・中身を読んで頂ければ、分かります」
「むう・・・・・・」
特に警戒する事もないと判断したのであろう。千冬と一夏は顔を見合わせて、それから封筒から二通の手紙を取り出した。
「これは・・・・・・!」
「くっ・・・・・・!何で今さら・・・・・・!こんな物が!」
中に入っていた二通の手紙。その内、一通はミミズが波打っているようで、とても字とは呼べないもの。もう一通にはこう書かれていた。
『拝啓 織斑 千冬、一夏様へ
いきなり、こんな手紙を出してすみません。突然で在り来たりですがあなた達がこの手紙を読むときには私達はこの世には居ないでしょう。
こんな事、言っても許されるとは思いませんが、12年前のあの日。貴方達を捨ててしまってごめんなさい。言い訳にしかならないだろうけどあの時は、ああするしか方法が無かったの。
私達は、生まれた頃から治癒能力、身体能力に長けていてドイツのとある研究所に目を付けられていたの。
それまでは、何とか逃げ来れていたんだけど。奴ら、何処からか貴方達のデータを持ってきて、「お前らがこのまま逃げつづけるんだったら、お前らの子どもを実験台にする」と脅してきたわ。
それで仕方なく、貴女達を捨て、奴等に捕まった。
仕方の無いことだったとしても、親として情けないことをしたわよね。
面倒見の良い千冬の事だから自分のことを放って一夏に負担が掛からないように頑張ったんじゃない?でも、負けず嫌いで、優しい一夏だから、千冬の負担が和らぐように頑張ったんでしょう?二人は、似た者同士だから良い姉弟になったんでしょうね。
今、私達は研究所から抜け出して、貴方達と幼馴染だって言う、紅さんて言う人の家に匿って貰っているわ。だけど、私たちは実験で体中を弄繰り回されて、脳みそまで掻き混ぜられてしまった。だからもう一ヶ月有るか無いかでこの世を去ってしまうと思う。
心残りなのは、千冬のウエディングドレス姿が見れなかった事。一夏のタキシード姿が見たかったという事。そして何より、もっと二人と楽しく、元気に、生活したかった。一緒に笑いあいたかった、泣きあいたかった、ケンカしたり、抱き合ったり、苦しみあったり、遊びたかった。悔しくて悔しくて堪らない・・・・・・。もっと、もっと一緒に居たい。今すぐ会いたい。でも、私達は、もうすぐこの世を去ります。人間、死期が近いと分かるというけど、本当なのね。
貴方達のことはそこに居ると思われる、紅一家の方達に任せててあります。これからどうするかは貴方達、二人次第です。二人で仲良く決めてください。それでは、さようなら。
織斑 春香より
追伸 何も残せないでごめんなさい
敬具』
「これは・・・・・・今から四年前に書かれたものです。これを書いた半月後に御二方は・・・・・・長い地獄の日々から・・・・・・開放されました。今読んで頂いた物は貴女方の御母上、春香様のものですが、もう一方は御父上、秋人様が書かれた物です」
「何故だ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「何故!何故、直ぐに私達に連絡しなかった!お前ならいくらでも手段はあっただろう!連絡先も教えておいた!なの「千冬姉。少し黙っててくれ」一夏!」
「良いから。千冬姉の悪いところは熱くなるとそうやって誰にでも当り散らす所だぜ?そんな風に聞いたら、慣れていようと誰でも萎縮しちまう」
「む・・・・・・」
まるでいつもと立場が逆である。
一夏が優しく、頼れる兄で、千冬が人間関係を余り得意とせず、我が侭な妹。という感じだ。
「だが神夜、俺も千冬姉と意見は同じだ。どうして直ぐに連絡をくれなかったんだ?何か事情があったんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・いくつか理由はあります。一つ目、御二人の安全の確保。いきなり正体の知れぬ人間を御二人に会わせる訳には行かなかった。例えば、御二人の命を狙うどこかの国のスパイかもしれない。そういうことを考えてあらゆる方面の情報を使い、彼等の正体を探りました」
「だったら、俺でなくても千冬姉に顔を見せればよかったんじゃないか?千冬姉なら顔くらいは覚えてるだろう?」
「・・・・・・ああ。一日たりとも忘れた事などない」
「・・・・・・ええ、普通ならそうするべきでしょうね。
神夜は『普通』の部分を強調する。
「ですが、彼等・・・・・・秋人様と春香様は普通ではなかったんです。肉は削がれ、皮膚は所々で剥がれ落ち、もう、『ヒト』とは呼べないほど無残な姿でした。しかし、春香様は体の治癒能力が元々高かったので言葉は悪いですが、その程度ですみました。ですが、秋人様は別です。手足を切断され、眼球、声帯、臓器は取り出され、春香様と同じように、肉は削がれていました。それが二つ目、とても見るに絶えられない姿だった、です」
「・・・・・・」
「・・・・・・ならば、その「三つ目、春香様と秋人様の私に対する遺言」っ!」
神夜は千冬の言うであろう事をなんとなく察し、先手を取る。
「春香様は自分達の無残な姿を見せたくなかった。できるだけ永く、そして御二人が自分で自分の身を護れるほどになるまで、自分達の存在を隠して欲しいと亡くなる間際に私に遺言を残されました。春香様、そして、秋人様は最後の最後まで、貴女方御二人の事を自分の最愛の子供として扱い、最高の親として貴女方お二人の幸せを願っていました。私はその意思を尊重し、今日この日まで黙っていました。・・・・・・申し訳ありません」
「・・・・・・神夜」
今まで黙って聞いていた一夏が再び口を開いた。
「・・・・・・はい、なんでしょう」
「・・・・・・葬式はどうなった・・・・・・」
「誠に勝手ながらこちらで取り仕切り、密やかにしかし厳かに挙げさせて頂きました」
「・・・・・・そうか」
「・・・・・・・・・・・・・・神夜、私からもいいか?」
「はい」
「・・・・・・父さんと母さんは幸せだったか?」
「・・・・・・それは・・・・・・私の答えられる事ではありません」
「・・・・・・そう、だな「しかし」神夜?」
「御二人の事を話す春香様と秋人様は終始笑顔でした」
「・・・・・・そう・・・・・・か」
そのまま千冬と一夏は俯いたまま喋らなくなった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙の時間が続く。
しかし、その沈黙を破るのは意外な人物だった。
「神夜」
一夏だ。
てっきり神夜は千冬が沈黙を破ると思ったのだが意外にも一夏だった。
「・・・・・・はい」
「ありがとう」
「!?」
その言葉こそ本当に意外だった。
何故何も言わずに葬式等を進めてしまったのか等と罵られると覚悟はしていたのだが、感謝されるとは夢にも思わなかった。
「お前は俺達の事もお袋と親父の事も最大限に考えてくれて、辛い決断をしてくれた。その後も俺達のために精一杯働いてくれたんだろう?だけど俺達はその大変さを知らない。それにお前のお陰で俺達はお袋や親父に対して抱いていた誤解が解けた。だから、ありがとう。そして、ゴメン。お前に四年間も重荷を背負わせて来た。ゴメン」
―― 一夏は俺なんかの事をこんなに理解してくれていた。
こんな俺の事を・・・・・・亡くしてはいけない人を救えなかった俺の事をこんなにも・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どう・・・・・・いたしまして・・・・・・・・・!」
気付いた時には神夜の目にはもう涙が溜まっていた。
それは神夜だけではなく、千冬も一夏もそうだった。
それから寮長室で三人で泣いた。声を殺して。お互いに気付かれないように。気付いたとしても、それには触れずに、三人で泣いた。最後に泣き終えたのは千冬だったが神夜も一夏もそれをじっと待った。この中で一番親を誤解していた月日が長かった分、今まで溜まっていた何かが今になって一気に出て来たのだろう。
千冬はひとしきり泣いた後糸が切れた様に眠りに着いた。
「千冬姉?」
「大丈夫、ただ泣き疲れただけだろう。子供のように」
「はぁ?だけどもう二十歳過ぎてるんだぜ、千冬姉」
「泣き疲れに年齢なんて関係ない。悲しみが深いほど沢山泣き、それに比例して疲れも溜まる。千冬さんは俺達よりも数年長く生きている分、春香さんや秋人さんに対する誤解が深かったんだ。それにその手紙に書いてあるようにお前に負担のかからないように頑張ったんだろ?その疲れが出たんだ。寝かせておいてやろう」
「ああ」
神夜は床に転がっている千冬を抱き上げる。
「俺は千冬さんを寝かせてから行くからお前は早く嫁の所に行ってきな。どうせまだ俺の部屋に居るんだろうから」
「だからまだそんなんじゃねぇって!・・・・・・お前も千冬姉に変な事すんじゃねえぞ!」
「言ってろ」
一夏はそんな事を言って、寮長室を出た。
「さてと、これからが大変だ」
何せこの足の踏み場のない部屋を千冬を抱えながら移動しなければならない。
「先ず片付けてから抱き上げれば良かったか・・・・・・」
――ま、このまま行くか。ここで降ろして、片付けてからまた抱き上げると千冬さんが起きるかもしれないからな。
「おっと」
抱きにくくなった千冬を持ち直す。
しかし、この行動で千冬を起こしてしまった。
「んっ・・・・・・んん・・・・・・・・・・・・ん?ここは・・・・・・・・・・・・?」
「あ、千冬さん。起きてしまいましたか?」
「神・・・・・・夜・・・・・・・・・・・・?神夜!?」
「はい。貴女の幼馴染みの紅神夜ですよっと」
千冬は神夜の顔を見るなり飛び起きて体制を崩し、神夜はそれを支え、持ち直す。
「な、な、な、何をやっている!?」
「なにって・・・・・・・・・・・・」
今の格好をふりかえる。
「お姫様抱っこ?」
「そういう事じゃない!何でこういう事になっているのかと聞いてるんだ!//////」
「なんでって、覚えてないんですか?」
神夜はさっきまでの事を話した。
「なるほど、それで泣き疲れた私をお前が運んでいると言う事か。まったく、私は子供か」
「一夏にも言いましたけど、泣き疲れに年齢なんて関係ないです。貴女は頑張りすぎた。もう少し一夏や俺を頼ってくれていいんです。貴女は一人じゃないんですから」
「むう・・・・・・分かった。・・・・・・そろそろ降ろしてくれないか?//////」
「ダメですよ。頼ってくれって言いましたよね?それにもう少しでベットですし」
「いや、でも重いだろう」
「いえ、軽いですよ?本当に三食きちんと摂っているのか不安になる位で――千冬さん。貴女まさか夕食を酒とツマミで済ましてます?」
「!(ギクッ!)」
「はあ、やっぱりですか。貴女の夕食と朝食の摂り方は知っていますが、もう少し量を増やした方がいいですよ?」
「む……善処する」
「そうしてください。何なら俺が作りましょうか?」
「!本当か!?」
「ええ、良いですよ?ああ、でも俺の部屋で良いですか?そこならキッチンもありますし、広いですよ?」
「ああ!お前の作る飯は美味いからな!」
「ありがとうございます。さ、降ろしますよ」
「う、うむ」
神夜は千冬をベットに降ろし、その場から離れようとした。
「では、俺はこれで」
「あ、こ、神夜!」
「はい?」
「その・・・・・・だな、二人だけの時だけで良いんだ、その・・・・・・『千冬』と呼んでくれないか?さん付けではなく呼び捨てで、敬語ではなくタメ口で・・・・・・。その、嫌なら良いんだ。ただお前が良ければという話しで・・・・・・」
その時の千冬の姿は正に恋する乙女という感じで少し、口元が緩む。
「んー、ですけど俺、殆ど士音と一緒に居るんで難しいと思いますよ?」
「そ、そうだな、そうだよな。思えば私も仕事で忙しいからな。悪いな、忘れてくれ。考えて見ればこんなの私のキャラではないしな」
「そうですか、では俺は失礼します。――
「!ああ、お休み!」
それだけ言って神夜は寮長室を出た。
しかし扉の外に人の影が見える。
「神夜」
外にいたのは一夏。待っていた感じがない所を見ると、一度部屋に戻ってからまた来たのだろう。
「何だ?嫁とイチャイチャしてるんじゃなかったのか?」
「だから・・・・・・ああ、もういいやそれで」
「そうか、認めるか。ならば今から新聞部部長の「止めてください、本当に」冗談だ」
「お前がそんなこと言うと本当になりそうで怖いんだよ」
「有言実行、不言実行が俺、COU社長、紅グループ総帥の信念だ」
「前と言ってることが違う」
「信念が一つだと誰が言った。で?わざわざ嫁とのラブラブTIMEを消費してまで俺に聞きたかったことって何だ?ま、正直予想は出来てるが。――手紙に書いてあった『紅一家の方達に任せててあります』だろ?」
「ああ。その通りだ」
「意味はその通り、俺がお前ら二人を養う。だが手紙にもあったようにこれはお前達二人の問題だ、俺が口出しして良い事じゃない。二人で話し合って決めてくれ、返事はいつでも良い。ただ、これだけは言っておく、俺達はお前等を歓迎するし、様々なメリットもある。・・・・・・一応、この手紙はお前等が持っていろ。数少ない親子という証拠、なんだろ?」
「ああ。そうする」
「じゃ、俺は戻るわ。また明日な」
「ああ」
そして神夜は部屋に帰――らなかった。
「そうそう、一夏。この寮、全部屋防音だから多少の事ヤってもばれねえぜ」
「ヤらねぇよ!」
「無理矢理はダメだぞ~?」
「ヤらねぇって!」
「じゃあな~」
「人の話しを・・・・・・・・・・・・聞けーーーーーーーーー!」
一夏を弄り倒し、今度こそ本当に部屋に戻った。