4月24日土曜日、東京競馬場。
なんと中岡先生のお陰で、12レースすべてで騎乗することになった。熱中症に気を付けなければ…
今日のレースには重賞競走が無く、すべてのレースにおいてまだ9勝の私にも騎乗資格がある。問題があるとすれば特別競走が含まれるため、若手減量の恩恵を受けられないことだ。しかしそんなことに甘えていてはダービーはおろか青葉賞にも騎乗できないかもしれない。まずは重賞競走騎乗資格の20勝が目標だが、目指すのは32勝。G1騎乗資格を得るのだ。…今日11勝すれば青葉賞は大丈夫じゃん。頑張ろう。
昨日の厩舎出発前、私は中岡先生にこんなことを言われている。
「正直に言って、お前が青葉賞までに20勝できるか不安しかない。」
だが、こうも言われた。
「だが、お前が勝ち数が足りず悔しがる姿よりヘリオスに乗って府中の坂を駆け上がってくる様子の方がが簡単に想像できる。」
その府中の坂を駆け上がるレースが青葉賞かダービーかは知らないが、私はだいぶ期待されていることを実感した。
で、今、第一レース前。ダート1400メートルの四歳限定未勝利戦で、トウカイテイオー産駒の牝馬、ミヨノエルフに騎乗するのだが、前検量で問題が起きた。
本競走の斤量であるが、まずハンディキャップではないので牡馬55kg、牝馬2kg減。一般競走なのでそこに見習い騎手減量制度が適用されて、私はまだ9勝なので3kg減。よって負担重量が50.0kgとなったのだ。
そして今日の私の体重を見てみよう。メートルグラム法に則り、市販の巨大電子天秤(要は体重計)の値は48.2kgである。
そしてミヨノエルフは中型馬。鞍は競馬学校卒業の時に栄養士さんからプレゼントされたMサイズの鞍である。
検量の結果は…
「50.5kgです。」
500gオーバーである。
更衣室に戻って、勝負服の下に着ているシャツを脱ぐ。そしてパンツの要らんところをハサミで切る。ついでに肌着も腹の部分を切る。よし、これで大丈夫だろう。体感としてはだいぶ減ったぞ。
「50.3kgです。」
まだ斤量オーバーである。
「くそっ!これ以上何を脱げばいいんだ!」
「ゴーグル外せばいいじゃないですか。」
「斜行して免停になれと?」
「では靴下は?」
「負けろと?」
「パンツは?」
「社会的に死ねと?」
「朝ごはん吐けば?」
「…もうそれしかない。」
すぐさま便所に行って以下略。
再検量。
「49.9kgです。」
「…重りつけるか」
「そうしましょう。」
朝ごはん…おかわりしなきゃよかった…
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『ミヨノエルフ一着!さすがはテイオーの娘!』
勝った。だいぶ圧勝した。実況の言う通り、とても力強い走りだった。たぶん芝に来れば秋華賞辺りでセンリノヒメの強敵になるだろう。…走り方があまりにも力任せだから、もし芝を走ったならば芝が耕されてしまうだろうが。
続いて第2レース、4歳未勝利戦、ダート1600メートル。私の騎乗馬はソヴィエトスター産駒の牡馬、セタノスター。
この馬の騎乗契約であるが、今日乗る馬の中で唯一私が契約をとってきた馬である。その輝く馬体、可動域の広い脚、それを美浦トレセンの南調教馬場で見てから一度は乗ってみたいと思っていた。どうしてもレースで乗ってみたいと思った私は、同馬を管理する志摩田調教師に頼み込んでこのレースに限り騎乗できることになったのだ。
…決してヘリオスやヒメから浮気したわけではない。
ちなみにこのレース、出馬表のジョッキーの欄を見ると錚々たるメンバーが並んでいる。
レジェンド岡辺さん、憧れのヒットマン的馬さん、勘違いガッツポーズの海老名さん、メジロパーマーやトウショウファルコの田面気騎手、ポツンポツンのトリックスター横矢間騎手、東のユタカこと芳田豊騎手、シリウスシンボリでの活躍が記憶に残る加糖騎手、競馬学校一期生の天才芝田騎手。
どうやって勝てと?
いや勝ち方はいくらでもあるんだ。いくらでもあるんだけど私の勝ち方の持ち合わせのどれを試しても、それぞれの作戦でやられたら不味いことを得意とする騎手が揃ってしまっている。作戦面でのアドバンテージはほとんど無いに等しい。こちらにあるアドバンテージは、セタノスターの身体能力だけ。
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『鞍上飼葉は叩かない!ノンステッキで駆け抜ける!セタノスター圧勝!今日の飼葉は調子がいいぞ!』
…私はリュックか背負子だろうか。セタノスターが強すぎてなんだか不安になってきたぞ。
私はそのままの調子で勝ったり、ハナ差負けたりを繰り返し、平地5勝、障害1勝をあげて、通算勝利数を平地28戦14勝、障害2戦2勝となった。
振り返ってみると障害競走に限れば無敗である。中山大障害を飛ぶ日も来るのではないかと思いつつも、まずは青葉賞を目指して勝利を重ねようと誓うのだった。
なお余談であるが、今日騎乗した馬が全部美浦所属なのをいいことに後日厩舎にいき状態の確認と騎乗させていただいたことへのお礼、負けた馬に関しては謝罪をしてきた。
特に負けた馬の謝罪では謝る度にゴール板にハナ差届かない強烈な記憶がフラッシュバックして涙がぼろぼろでてきた。
次は勝とう、そう心に刻んだ。