『全部俺のせいだってのか。優は交差点を渡ったお前を追いかけてたのに』
『よくそんなことが言えるわね。あなたが目を離してなければ――』
『お前だって千早に気づかなかっただろうが!俺にどうしろってんだ!』
(やめて…)
『言い訳になってないわよ―――――そんな――』
『じゃあどうしろって―――』
『そもそも千早が――』
(嫌だよ……いや……)
身体が動かない。
猛スピードで車が迫ってくる。
そのバンパーには、べったりと血がこびりついていて――
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「うああああああああああああぁぁあッッ!!!」
窓から差し込む光と、自らの悲鳴で目が覚めた。
「はーっ、はーっ、はーっ」
乱暴にカーテンを閉め、急いで台所に駆け込む。
水を飲みたかったが、それより先に蛇口を全開にし、頭をシンクの中に突っ込んだ。
後頭部を伝う水の感触が、まだ半分夢のなかにあった意識を現実に呼び戻す。
「はあ……うっ……くうっ……」
顔をあげ、コップに水を汲んで2口で飲み干す。
胃に滑り落ちる液体と交換で大きく息を吐き、ようやく落ち着くことができた。
(また……あの夢…)
あわや大事故という目に遭ったあの日以来、千早は過去の記憶に悩まされるようになっていた。
言い争う両親――耳を塞いでうずくまる自分――そして思い出したくもない、優が命を落とした事故の瞬間―――。
忘れよう、考えないようにしようとしても、眼前に車が迫ってきた瞬間の恐怖は簡単に消えてくれなかった。
(あの日、優はこんな風に死んだのか)
そんな思いが何度も去来し、心の奥底に沈んでいたはずの記憶を呼び戻し、悪夢にうなされて夜を過ごす。
朝が来る頃には下着が湿気るほどの汗をかいていて、それが肌に貼りつく感触がたまらなく不快だった。
(シャワー…浴びないと……)
よろりとバスルームに向かう千早は、最悪の寝覚めと、これから猛暑のなか事務所に向かわなければいけないことを思い、さらに気が重くなるのだった。
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「千早ちゃん、お客様が来てるわよ」
事務所に入るなり事務員の
「
「いえ、そんな、私は助けて頂いたのに…」
「恥ずかしながら、あの車を運転していた男は私の兄なんです」
「えっ」
言われてみれば、顔つきや体格がどことなく似ているような気がする。
しかしそれでも、あの威圧的な男と目の前の慇懃な男性が兄弟だとは、にわかに信じられなかった。
「あちこちでトラブルを引き起こしてばかりの鼻つまみもので…本当に、すみませんでした」
「そんな、謝るようなことじゃないです。とにかく――」
パァン!
顔を上げてください――と千早が言おうとした瞬間、事務所の奥から爆竹が炸裂するような音が鳴り響き、血相を変えた小鳥が駆け込んできた。
「すいません!ちょっと外に避難しててもらえますか!?」
「なにがあったんです?」
「
ドーーーン。
今度は巨大な風船が割れたような音が聞こえてきた。
「くおらあああああああぁぁあああああああああぁぁぁああああああ!!!!!!」