パァン、と音を立てて鬼龍のローキックを静虎がカットした。
「相も変わらず防御一辺倒か」
「お前の攻撃がぬるいからや。霞打ちはどうした?」
「乱用はしない。ついこの間痛い目を見たばかりでな」
言い終わらないうちに鬼龍が間合いを詰めて威力の高い打撃を繰り出そうとする。
しかし、静虎の爪先がそれよりも早く鬼龍の腹に突き刺さっていた。
「ぐうっ」
さらに突き刺した足を蹴り上げて顎を狙うが、一瞬早くスウェーで躱される。
静虎は体勢を立て直す相手を追撃せず、その場で片足立ちになり、左手を丹田の前、右手を目線の高さに伸ばした独特の構えを取った。
「“
灘神影流に伝わる攻防一体の構え。
間合いに入った相手を突き刺し前蹴りで迎撃し、天空への蹴り上げで仕留める。
1対1の戦いではほぼ無敵の防御力を誇り、かつて静虎は熹一との戦いで使用したことがある。
「バカがっ!ここは障害物のないリングではないぞ!」
鬼龍が足元の砂利を蹴飛ばして宙に浮かせ、なんとそれらに向けて霞打ちを放った。
ある石は砕かれ、ある石はそのままの形で、大小さまざまな礫の雨となって静虎に襲い掛かる。
人に対しては堅牢な守りとなる夜叉燕も、飛び道具を防ぐことはできない。
静虎はすぐに構えを解かず目や喉に当たる石だけを的確に両手で弾いたが、それが仇となった。
「はーっ!!」
鬼龍の拳が特大の石を砕き、磨製石器のように尖った石片が顔面を襲う。
弾くことができないためやむなく腕で受け止めたが、突き刺さる石片の痛みが、眼前に踏み込んで来る鬼龍に対する反応を一瞬遅らせた。
ボッ、と音を立てて繰り出された静虎の左足が虚しく空を切り、鬼龍がその下に飛び込むように身をかがめたのが見えた。
「がっ!?」
右足の甲に、鬼龍の右拳がめりこんでいる。
まるで杭を打ち込まれたかのように動けなくなった静虎に対し、鬼龍はめりこませた右手を支点に逆立ちの状態になり、両足でその顎を蹴り上げた。
「“
がちん、と歯がひび割れる音がした。
顎の骨も砕かれただろう。
真下からの攻撃故に脳震盪は避けられたが、とうてい体勢を保つことはできず、右足を地面に釘づけされたまま仰向けに倒されてしまった。
そして蹴りの勢いそのまま、鬼龍が静虎の腹上にまたがってマウント・ポジションを取る。
「生殺与奪権は我にあり」
勝利を確信した際の決め台詞を呟き、とどめの拳を弟の顔面に振り下ろす。
こうなれば通常、腕で受けるか、首をよじって避けるかしかない。
しかし、静虎の対応はそのどちらとも違った。
口をすぼませ、プッ!と音を立てて何かを吐き出す。
「うっ」
尖った石片が鬼龍の鼻の下―――人中に突き刺さった。
先ほどの攻防の際に静虎が歯で受け止め、密かに含み持っていたものだ。
たとえ小さな石でも神経が集中した急所に命中すれば激痛が走り、一瞬の隙を晒さずにはいられない。
「ふんっ」
静虎が足で鬼龍の背中を押し、体の下に滑り込むような形でマウントから脱出する。
(ここしかない――)
眼前には兄の左胸―――先天性の心疾患“バースト・ハート”を抱えた心臓がある。
両手の拳をぴたりと組み合わせ、ひとつの大きな拳を作る。
息を細く吐いて丹田で“気”を練り、それを胸から肩、腕へと伝わらせる。
「灘神影流――“
渾身の一撃が、鬼龍の心臓を捉えた。