【悲報】起きたらウマ娘になってたんだが【助けて】 作:らっきー(16代目)
時は流れ、宝塚記念も終わった頃。
季節は夏。場所は海。ならばやる事はただ一つ。
「初めて来る場所だけど、とてもいいね。勿論トレーナーの方が綺麗だけれど」
「はいはい。観光したいんだろうけど、まずは手続きとか荷解きとかからね」
そう、夏合宿である。
基本的に年に一回、トレセン学園の生徒は合宿を行う。それはチーム単位であったり個人単位であったりするが、レースに出るようなウマ娘──つまりトレーナーのついているウマ娘──であればほぼ全員だ。
普段使っているよりも良い設備を使うためであったり、普段と違う環境でトレーニングを行うためであったり、ぶっちゃけ練習詰めの生活の羽目を外すためであったり。
目的はそれぞれではあるが、ともかくフォルティシームとそのトレーナーも晴れて海までトレーニングに来ているわけである。
もっとも、多くのウマ娘を擁している大手のチームほど予算は出ていないため、移動は鈍行列車、宿泊先はやや古めの建物と格差の感じられるものとなってはいるが。
宿泊先への手続きに、海、即ち練習場所に近い好立地のホテル──などは取れなかったため、そこそこの距離があるビジネスホテルとでも言うべき場所へと向かう。
「ごめんね、もっと良い場所がとれれば良かったんだけど……新人トレーナーにはこれが限界でした……」
部屋に着いた第一声がそれ。このホテルのために弁明しておくが、別に悪い部屋という訳では無い。きちんと二人がそれなりに快適に過ごせるくらいのスペースはあるし、部屋のカーテンを開けた時にその辺のビルの壁しか見えないなどということも無い。トレーナーの気にしすぎとも言える……まあ二冠ウマ娘という称号から想像出来るような部屋ではないが。
「気にしなくていいよ。君がいない豪邸で過ごすより、君と一緒にボロ屋に住んだ方が私は幸せさ」
当の本人がこの調子なので別にいいのだろう。トレーナーは未だにこの類の言葉に顔を真っ赤に染めるし、銀のアホ娘は顔の良さで得をしている。要はいつも通りの光景である。
「……ところで、移動も疲れたし。少しだけ休まないかい? ちょっと同じ布団に入るだけでいいからさ」
「えー……フォルティ体温高いからなぁ……じゃなくて! まだ設備使用許可願いとか色々あるから!」
「終わってからならいいのかい?」
揶揄うように、意地の悪そうな顔をしてそんなことを宣う。出会った頃なら大声を出して誤魔化していただろうが今回は。
「……じゃあ、夜は一緒に」
恥ずかしそうに、本当に恥ずかしそうにしながら蚊の鳴くような声でそう答えたあたり、きっと彼女等二人の仲も順調に育まれているのだろう。距離感のバグった接し方をしてくるフォルティシームの罪が大きいだろうが。……フォルティシームによる調教が順調に進んでいるとも言える。
果たしていつか、フォルティシームがトレーナーを落とせる日は来るのか。あまり分の悪い賭けでもないのかもしれない。
身の丈を超えるほどの大きさのタイヤを引き摺って砂浜を走る。根性が身につくというトレセン学園の伝統的なトレーニングである。
不安定な砂浜で行うことでおまけにパワーも身につく優れものでもある。人間の基準で考えると狂気の沙汰と言う他ないが、ウマ娘にとっては一般的なものであったりもする。細身に見える身体のどこからそんなパワーが出ているのかはきっと考えない方がいい事なのだろう。
タイヤを限界まで引き摺っては休み、体力が回復したらまた引き摺る。砂浜の端の方までいったら向きを変えてもう一周。
オンとオフをしっかり切り替え、休む時にはしっかり休むように組まれた練習メニューの、オンの時はそんなバカが考えたような脳筋のトレーニングを行っている。
もちろんトレーナーに嗜虐趣味がある訳でもないし、フォルティシームに被虐趣味がある訳でも……それは、まあ置いておくとして、きちんと理由のあるトレーニングである。
フォルティシームはレース中に考えない。逃げウマ娘故に他のウマ娘達との駆け引きはあまり行わないし、コース取りやペース配分などは全て天性のカンに任せている。彼女にとって一番気持ちよく走れるやり方が、大体の場合において最適解となっているのは神に愛された才能故か、常識外れの幸運故か。
ともかく言えるのは、彼女の走り方はその時々によって変わるということである。その為に彼女に求められるのは、最適解に持っていくまでの速さ──即ち加速力──それに加え体重移動の技術力である。
誰よりも速く、誰よりも巧く最適なコースを走れば誰にも負けない。そんな意図の元にトレーナーが考案したメニューである。……もしかしたら、トレーナーも脳筋なのかもしれない。
余談だが、フォルティシームがそんなトレーニングを延々と行っているのは彼女の克己心と強さへの執念の賜物──などではなく、トレーナーに練習メニューを考えて貰えたことが嬉しいからである。ちなみにこれは坂路の時も同じである。お手製のメニュー……つまりこれは実質手料理と言っていいのでは!? などと思っている。実際は先述した通り伝統的なものであるのだが……まあ本人が喜んでいるのならそれでいいのだろう。どうせトレーナーがいるだけでやる気が絶好調になるのであるし。
タイヤを引き摺り続けて──勿論他のトレーニングは行っているが──しばらく経った頃。
フォルティシームはトレーナーと交渉を行っていた。
「いいじゃないか。仕事仕事じゃ頭も働かなくなるし、気分転換は必要だよ」
「それは……そうかもしれないけど」
内容は至極単純なもので、今夜行われる夏祭りにトレーナーと一緒に行きたいというもの。
いつも通りトレーナーと過ごしたいとアピールするフォルティシームと、一人で楽しんできなよと断るトレーナー。
現在は均衡状態、と言うにはフォルティシームの方に傾きすぎている。押しに弱いトレーナーは、いつも彼女にペースを握られてばかりだ。
結局押し切られて行く事を決めるトレーナー。決まり手は君の愛バより大事な仕事があるのかい? という問いかけと、涙混じりの上目遣い。
自分の顔の良さとトレーナーの性格を理解した、実に効果的な卑しい作戦と言える。ちなみにこれは天然でやっている。トレーナーに断られかけて本当に泣きそうになっていたし、君の愛バより……という言葉は別に駆け引きで言ったのではなく、ただ拗ねていただけである。相も変わらず駆け引きとは無縁なウマ娘である。
トレーニングを早めに切り上げて。この為に持ち物として指示されなかったにも関わらず持ってきていた浴衣に着替えて、ソワソワピコピコと耳を揺らしながらトレーナーを待つフォルティシーム。集合時間の一時間前から待つ念の入れようである。トレーナーちゃんが来てくれた瞬間からずっと見ていたい! という乙女心の賜物である。重い女とも言える。
待つことおよそ30分。フォルティシームの耳が足音を捉える。他の人間の足音など全く分からないが、トレーナーの足音だけは聞き間違えない。
ソワソワと揺れていた耳も本当はブンブン振り回したい尻尾も抑えて、あくまでクールを装ってトレーナーを迎える。
「フォルティ早いね。もしかして結構待たせちゃった……?」
どちらかと言えば、約束より一時間も早く来るバカが悪いのだが。申し訳なさそうにそんな事を言うトレーナーに向かってフォルティシームは優しく微笑みかける。
「心配は要らないよ。私も丁度貴女に会う心の準備が済んだところだから。……と言っても、君の愛らしさはいつでも私の想像を超えてくるのだけれどね。今も、貴女の姿を見ただけで胸が高鳴っている」
無駄に良い顔も、歯の浮くようなセリフも、いつものフォルティシームである。それなのにいつもより魅力的に見えるのは普段と違う服装のせいか、或いはこの後一緒に夏祭りに行く事に年甲斐も無く浮かれているからか。そんな事を考えているトレーナーと、トレーナーちゃんの夏服可愛いなんか良い匂いする抱き締めたい持ち帰って抱き枕カバーにしたいいやいや落ち着け私と暴れ放題な内心が漏れでないように必死で微笑みというポーカーフェイスを作っているフォルティシーム。
つまりは、いつも通りである。
ウマ娘の多くは健啖家、つまりよく食べる。それが何を表すかというと──
「トレーナー、アレは何だい? ……氷を削ってシロップをかける? 安そうだが美味しそうだね。バナナのチョコがけ……甘くて美味しそうだ。ああそれに漂ってくる香りは、粉物かな? タコ焼き……お好み焼き……うん! 目移りしてしまうね!」
初めて見る食べ物達や漂ってくる良い匂いに大興奮のフォルティシームである。彼女の記憶には誰かと祭りに来た事は疎か、祭りに参加した事すら無いのである。少々子供っぽくなるぐらいは、まあ仕方ないだろう。
「ちなみになんだけど、かき氷のシロップって全部同じ味らしいよ。香料が違うだけなんだってさ」
浮かれすぎている担当バにそんな残酷な真実を教える。だがまあ、その程度でフォルティシームの笑顔は崩れない。
「おや、そうなのか。それなら貴女と同じ味を選ぼうかな」
「え、別にいいけど。なんで?」
「うん。どうせどれでも味が同じなら、せっかくなら貴女と同じものを食べるという経験を楽しみたいからね」
子供っぽくなっていても、口調や態度は崩れない。天性の演技家である……が、シロップで舌の色が変わっていたり粉物のソースで口元が少し汚れていたり、少しだけ隙が出来ている。ギャップ萌えでも狙っているつもりなのだろうか?
興味深そうに、楽しそうに視線をさ迷わせながら歩いているフォルティシームと、はしゃぐ仔犬を見るような保護者と化したトレーナー。
いつもペースを握られてばかりだから、たまにはこういうのも面白いかもしれない。
「トレーナー、アレは?」
そう言って指さされた先にあったのは、景品の並ぶ棚と玩具の銃。
「射的? えっと、あの銃で棚の上のおもちゃとかを狙って、倒したら貰える……みたいな?」
面白そうだね、やってみても? はいはいどうぞ。そんなやり取りをして、お金を払って銃を構える。
そこまできて、問題が一つ。物欲というものの薄いフォルティシームにとって景品の希望は特に無く、どれでもいい。つまり、何を狙うか迷っているのである。結局
「トレーナー、何か欲しい物はあるかい?」
全部トレーナーに丸投げすることにした。
「フォルティが欲しい物で……ダメ? じゃあ、あれ」
小さな指が指したのは、現在大人気となっている二冠ウマ娘のぬいぐるみ。つまりは隣にいる銀のウマ娘をデフォルメしたぬいぐるみである。
「……ん、了解」
誰にも──トレーナーにも気づかれないほどほんの僅かに不機嫌さを含ませて、了承の返事を返す。
基本的になんでもこなせるウマ娘である。度重なる挑戦者が敗北してきた二冠ウマ娘をことも無さげに撃ち落としてみせた。
屋台の店主から手渡されたぬいぐるみをトレーナーに差し出して、しかしフォルティシームはいつもの微笑みを浮かべず、頬をふくらませていた。
「フォルティ? どうしたの?」
「……この子、どうするつもりだい?」
「え? せっかくだし、部屋に飾っておくつもりだけど……」
「…………私はまだ貴女の部屋に行った覚えがないのだけれど?」
そこまで言われて、トレーナーもフォルティシームの不機嫌さの理由に勘づいた。ぬいぐるみへの嫉妬である。そもそも彼女は現在進行形でトレーナーと同じ部屋で暮らしているだろうに。バカかな?
「じゃあ今度遊びに来る? って言っても、別に何も無いけど……」
単純な白銀のウマ娘は、そんな一言であっという間に機嫌を戻す。
「約束だよ? 後になって取り消しは効かないからね?」
それまではこの子に行ってもらうよとぬいぐるみを手渡す。最初から素直に貴女の家に遊びに行ってみたいと伝えれば良いのに、それが出来ないあたりキザな言動で誤魔化しているだけで実は奥手なのかもしれない。
大きめの荷物が一つ出来てしまったため人混みにいるのは難しく、一旦帰るか早めに花火が見られる場所へ向かうかの選択を迫られる。ちなみにフォルティシームが短い休憩時間の間に必死で調べた穴場中の穴場である。コミュ障というのは事前準備に余念が無いのである。
そんな執念が通じたのか、フォルティシームの内心での望み通りに早めに向かってのんびり待とうと合意した。大体の場合において、彼女がどちらでもいいよと言った場合は内心でどちらかを熱望している。コミュ障というのは自分の意思を表示できないのである。
他愛の無い会話を交わして花火が上がるまでの時間を潰して。
夜空を大輪の花が彩り始め、よくある言葉を交わす。
綺麗だね。そうだね。貴女の笑顔の前では霞んでしまうけれど。
芝居の様なセリフは幾らでも吐けるのに、ずっと言おうと決めていたほんの一言が言えない。
身体中から勇気を掻き集めて、必死の思いでたった一言。
好きだよ、トレーナー。
文脈も何もあったものでは無いそのひと言は、花火の音と重なり誰の耳にも届かず消える──こと無く、トレーナーの耳にはしっかりと届いた。
「どうしたの? 急に。私も好きだよ、フォルティ」
その言葉を。望み通りのはずのその言葉を聞いて、哀しそうに嗤う。
でも、私の『好き』と貴女の『好き』は違うだろう?
Q こいつ平地の練度のが低くない?
A そうだよ
Q 鈍感すぎてデバフ無効…ヌオーかな?
A どっちかって言うとウパーの方が好き
Q トレーナーへの世間の扱いってどんな感じ?
A 妬まれたり尊敬されたりしてる
Q ミスターシービーの再現しそう
A 展開を当てられましたが悔しいので変えません
Q こいつライブの練習一着しかしてないのでは?
A トレーナーに怒られたのでちゃんとやってる
Q 主人公に反感覚える
A 嫌なら見るな!嫌なら見るな!
男トレ×フォルティシーム
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焼き直し部分はカット
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被りも書く